とね日記

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なっとくする複素関数:小野寺嘉孝

2016年03月19日 18時00分39秒 | 物理学、数学
なっとくする複素関数:小野寺嘉孝

内容紹介:
「ジャングルに迷いこんだような」とされる複素関数論を徹底的に平易明快にする。高校生にもわかる複素関数論の「筋道」とその「目的」。

複素関数論──複素変数zの関数f(z)の理論──は、ひとつの大きな流れを持っている。うねりと言ってもよいかも知れない。この流れをつかまないと、その真の姿は見えてこない。教科書の「定義・定理・証明」という構造の中に埋もれて、とかく見失いがちなこの流れを、応用のために学ぶという立場に立って、なるべく捉えやすい形で示すことにより、複素関数論を納得しようというのが、本書の目的である。
2000年刊行、160ページ。

著者について:
小野寺嘉孝(おのでらよしたか)
1964年、東京大学工学部物理工学科卒業、1969年、東京大学大学院博士課程修了、理学博士。専門は物性物理学理論。明治大学理工学部教授。(経歴のページ

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理数系書籍のレビュー記事は本書で298冊目。

今回は4月から大学2、3年に進級して複素関数論を履修する学生を意識した記事である。物理学を学ぶためにはもちろん必要になるし、理学部、工学部の学生のほとんどが履修することになる「ほぼ必修科目」と言ってよいだろう。

僕は大学生の頃に学んでいたから、あらためて学ぶ必要はないのだが、本書のアマゾンの読者レビュー評価がすこぶるよいので「そんなにこの本はいいの?」と気になっていた。いわゆる「意味を理解させるための本」、「計算できるようになるための本」という位置付けなので、授業でどのようなことを学ぶのかを知っておけば落ちこぼれることもないし、難しく考えすぎて時間を浪費することもない。安心して授業を受けられる。

数学専攻の学生をはじめ、厳密な証明を重ねてきっちり学びたいのならば「複素解析:小平邦彦」や「定本 解析概論:高木貞治」などを読むべきなのだが、これらの本格的な教科書へ入門するための助走として本書を利用するのがよいだろう。けれども「意味を理解して計算できるようになればよい。」というのなら本書でじゅうぶんだ。


複素関数論は複素解析と呼ばれたり、関数論と省略して呼ばれたりもする。複素数を変数とする関数やその微分、積分に成り立つ法則を学ぶ。高校数学までの実数関数やその微積分には見られない強力な定理、一見不思議で美しい法則が花開いているのが複素関数論の世界だ。特に留数一致の定理解析接続リーマン面などは実数関数の世界には存在しない概念である。

留数定理(EMANの物理数学)
http://eman-physics.net/math/imaginary11.html

一致の定理、解析接続(EMANの物理数学)
http://eman-physics.net/math/imaginary07.html


余談:複素関数論は主にコーシーの業績であるが、彼がこの研究をしていたのは24歳だった1825年頃のことである。そして留数の定義は1826年に発表された。(参考ページ

1980年代半ば「大学の数学を学んでいるんだなぁ。」と僕が初めて実感したのも複素関数論だった。複素関数の特異点にしても、ブラックホールの特異点のイメージと重なるから初めて学ぶ人にとってはワクワクする概念なのだろう。


本書の章立ては次のとおり。

第1章:複素関数──何のために学ぶか
第2章:複素数の世界
第3章:正則な関数の世界
第4章:ベキ級数、テイラー展開
第5章:特異点、留数
第6章:応用、定積分の計算
第7章:主値積分
第8章:分岐点をもつ関数
第9章:解析接続へ
第10章:リーマン面


大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」には弦理論の空間の次元数が25であることを導くために

1+2+3+ …… = ー1/12

という不思議な無限和が紹介され、高校数学を使った(少し厳密性を欠いた)証明がされている。そして厳密な証明は「解析接続」を理解しないとできないと書かれている。これを読んだとき悔しい思いをした人もいることだろう。そのような方はぜひ本書を読んで解析接続を学んでほしい。たかだか160ページの本なので高校数学を理解している人ならば読み通せるはずだ。

ゼータ関数と解析接続
http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/346_zeta.htm

1+2+3+・・・・ = -1/12!?
ゼータ関数の解析接続による演算簡易解説
http://samidare.halfmoon.jp/mathematics/ZetaAnalyticContinuation/

「1+2+3+4+…=-1/12」をわかったつもりになる
http://nakaken88.com/2014/12/08/080818

リーマンのゼータ関数で遊び倒そう (Ruby編)
http://tsujimotter.hatenablog.com/entry/riemann-zeta-function


そもそも複素関数で微分したり積分したりするってどういうこと?直観的に理解したいのだけど。。。という方には「物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎」の第8章「複素関数、複素積分」をお勧めする。今回紹介した「なっとくする複素関数:小野寺嘉孝」と合わせてお読みになるとよいだろう。


今回この本を読んでみて、よくできているなと感心させられた。物理学に複素関数論はどのように役立っているかという説明を冒頭に置き、本編では読者の好奇心が持続するように教師と生徒の対話形式で話が進む。わかりにくい箇所は生徒からの質問として取り上げられ、教師が丁寧に説明してくれる形式だ。専門的な教科書では行間に隠れてしまう、このような「よくある質問」の部分は初学者にはとてもありがたい。

大学生のときにこういう本があったら、その後の勉強が効率的になっただろうに。。。よい本にめぐり会うたびにこのような「後の祭り」が繰り返されるのが社会人になってからの勉強で多くの人が経験することなのだ。


余談:今回の記事を書くにあたって調べていたところ、複素関数論のとてもユニークで革新的な名著「ヴィジュアル複素解析」の英語の原書のPDFが公開されていることに気が付いた。日本語版は絶版でとても手に入れにくい状況が続いている。この本は500点あまりにもおよぶ図版を見ているだけで楽しくなる。

Visual Complex Analysis:
http://umv.science.upjs.sk/hutnik/NeedhamVCA.pdf

英語版の紹介ページ:
http://usf.usfca.edu/vca/


関連記事:

高校生からわかる複素解析: 涌井良幸
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3fcb2512013832cedb96da38b5325a99

物理数学の直観的方法〈普及版〉 (ブルーバックス):長沼伸一郎
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab9396e295687179ac3a71553b8165a1

複素関数論:保江邦夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/eb84b112bbabf05be98f2207ab9867c5

ヴィジュアル複素解析
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2f47e7b748d4ca7022dc53305388a00b

基礎数学のおさらい:複素関数
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/de895908dc5ec348ed677346fa37e840

定本 解析概論:高木貞治
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cf579e91cb873cda1126e70a6bd3def2

複素解析: 小平邦彦
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f2d66f57d8e7e4bc971fedc5b204f5e9

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

なっとくする偏微分方程式:斎藤恭一
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/16d054ebc14ad1c4336f2b9f997eb00c


関連ページ:

複素関数論入門(横田壽)
http://www.geil.co.jp/MULTIMEDIA/complex/complex.html

複素関数論(ときわ台学)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/12cmplx/000cmplx.html

複素関数の基礎のキソ
http://www.math.titech.ac.jp/~kawahira/courses/kansuron.pdf


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なっとくする複素関数:小野寺嘉孝



まえがき
本書の構成

第1章:複素関数──何のために学ぶか
- 何のために
- 物理では、どんなときに複素数を使うか
- 定積分の計算
- 解析接続
- 玲瓏なる境地
- 割り込みチャイム

第2章:複素数の世界
- 複素平面
- 共役複素数
- 初等関数
- 指数関数
- 三角関数
-- 指数関数の計算間違い
- オイラーの公式
- オイラーの公式の美しさ
- アインシュタインの相対性理論の美しさ
- 複素数を使って強制振動の微分方程
- cosの代わりに sin の場合式を解く
- 特解を求める
- 一般解と特解
- 斉次方程式の解を求める
- 一般解を求める
- 特解の物理的な意味
- 「定常」とは
- 複素数を極形式で表す
- 偏角の範囲
- 偏角は変な角?
- 1のn乗根を求める
- 偏角という言葉の意味
- 偏角とコンピュータ
- 無限遠点 ∞、+∞、-∞
- 線形と1次は同じ?
- 線形な微分方程式

第3章:正則な関数の世界
- 微分可能──実関数の場合
- 「微分可能」を言い換える
- 微分可能──複素関数の場合
- 小さな違いが大きな違い
- ここでも「微分可能」を言い換える
- コーシー・リーマン方程式
- コーシー・リーマン方程式を導く
- 正則な関数
- 特異点
- 正則な関数はノッペラボー
- 複素積分
- 混線に注意
- コーシーの積分定理
- 積分路を変形する
- 流れ図
- 経路に依存する複素積分の例
- 偏角にご用心
- 複素積分と不定積分
- 思い違い

第4章:ベキ級数、テイラー展開
- ベキ級数
- テイラー展開
- 実関数のテイラー展開とどう違う
- テイラー展開は面倒くさい

第5章:特異点、留数
- 特異点
- 孤立特異点の分類
- ローラン展開
- 留数定理
- 留数定理の感想
- 留数を求める

第6章:応用、定積分の計算
- 三角関数を含む定積分
- 有理関数の定積分
- 積分路の選択
- フーリエ変換型の定積分
- ひとまず卒業

第7章:主値積分
- 主値積分
- 主値積分を求める

第8章:分岐点をもつ関数
- 分岐点
- 多価関数への対処法
- 切断
- 分岐点をもつ関数の定積分
- 多価関数
- 指数関数の定義は
- ベキ乗関数の定義は

第9章:解析接続へ
- 流れ図
- ふたたび始まる物語
- et tu, Brute!
- コーシーの積分公式
- グルサの公式
- テイラー展開
- 一致の定理
- 一致の定理が意味すること
- 「一致」とは
- 解析接続の補助定理
- 解析接続
- いくつかの例
- 解析接続は「開け、胡麻!」
- ガンマ関数
- ガンマ関数は階乗の解析接続?

第10章:リーマン面
- 切り紙細工
- ふたたび分岐点
- z^(1/2) を1価関数に
- 切り紙細工をもういちど
- z^(1/2) を含む関数の積分
- どっちがどっち?
- またまた切り紙細工
- リーマン面と偏角
- どっちのシートを取るべきか
- 振動数が複素数とは
- これでおしまい

演習問題解答
あとがき
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複素関数のイメージ (やす)
2016-03-20 12:48:18
とねさん

私が学生時代から就職後の一時期まで、実験室で材料開発をやっていた時は、物性物理、量子力学や量子化学の果実を感覚的に理解し応用するといった感じで、それらの分野を厳密に勉強するだけの数学的な基礎や能力も無ければ、早く成果を求められる現場ではじっくりと勉強する時間も有りませんでした。数学や物理の得意な人と役割分担していたことも、自分で勉強する機会を失っていました。

材料をとことん触って得た経験と、物性物理の果実を自分の肌感覚として身につけることを優先させ、得一通りの教科書は読むが、細かいことはさておき、できるだけ全体を俯瞰することを優先していたので、??な部分が山ほど積み残した状態です。

最近、とねさんの影響で、よく勉強して来なかった数学を、つまみ食い風に少しづつ勉強していて、それにはゼータ関数や複素関数、ガロア群などがあります。

大抵の半導体の教科書の最初の部分に出てくる、結晶の対称性の話があります。そこで対称性にギリシャ文字やアルファベットや数字が当てられていて(ΛやΓなど...)、それがガロア群由来のものだということを最近知り、改めて勉強してみると、なるほどそういうことか...と...なにか世界が広がったような、とてもうれしい気分になりました。

フーリエ解析、素数、リーマン予想なども、並行してつまみ食い的に勉強していますが、並行することで、複素関数という基礎的な部分が共通していて、分かった気に簡単にならない効果があることに気付きました。

私は、そもそも分子や電子分布の変化や動きを、頭の中の仮想アニメで理解するようなタイプなので、1次元の実数から2次元の複素数、場合によっては2次元の実数から3次元の複素数というイメージの拡張を、頭の中でやっている自分に最近気付いています。

...ということで、複素関数の話題にコメントさせてもらいました。

昨日よりも今日の方が、ちょっぴり賢くなった実感が、なんとも気分の良いものですね(^_^)/
返信する
Re: 複素関数のイメージ (とね)
2016-03-20 13:19:27
やすさん

こんにちは。ご説明いただきありがとうございます。
僕は数学専攻でしたから、物理はおろか現実世界と無縁な形で数学を学んできましたのでやすさんのご経験と対極にありますね。

やっと物理学の世界から物理数学との関わり合い方が理解できたところです。僕にとって物理学科のうち素粒子物理に至る基礎物理を専攻している人や工学部の電子工学科、機械工学科あたりの学生や研究者がどのような範囲の数学を学んできたかは想像できますが、その他の分野の理工系学科の方の数学との関わり合い方は理解できていません。その意味でやすさんのお話は参考になりました。

大学に在籍している期間、そして就職をしてから勉強に与えられる時間は限られているから、自分が身を置く分野で優先される事柄はおのづと決まってしまい、基礎的な数学の勉強はおろそかになりがちですね。

複素関数論がもとになっている数学の分野はとても豊かだと思います。そして現実世界とのつながりがあるのかしらと思える留数定理や特異点(極)でさえ、粒子や反粒子に対応していることを知ったとき僕は感動しました。

相対論的な伝播関数
http://members3.jcom.home.ne.jp/nososnd/qed/greenq3.pdf
返信する
昨日より (アルキメデス)
2016-03-24 00:38:34
昨日より今日の方が賢くなった実感

賛成で~す

五十過ぎのおっさんでも日々感じます
返信する
Re: 昨日より (とね)
2016-03-24 00:46:50
アルキメデスさん

僕も賛成で~す!
明日もまた少し賢くなりましょう。
返信する

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