とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

群論への30講:志賀浩二著

2010年02月07日 19時27分21秒 | 物理学、数学
群論への30講:志賀浩二著

今日も地元のエクセルシオールカフェでお勉強。この本を読み終えた。

群論に対する苦手意識を取り払うには、この本をおいて他にないだろう。アマゾンのレビューでも知られているように志賀先生の「数学30講シリーズ」は大学レベルの数学を(理系の)高校生や社会人にも理解できるほど身近かなものにしてくれる。自分で証明したり問題が解けるようになるわけではないが「(数学の)概念を理解したい」という要望にこれほど応えてくれる本はめずらしい。はしがきにも書いてあるように通勤電車で読める数学書なのだ。読み物風の教科書といった感じである。センス豊かな数学の感性を生き生きと伝えているシリーズなのだ。

かくいう僕も大学時代に群論を学んだ一人だが、残念ながら全く興味がもてなかった。群論は物理法則や「この世界のあり様」の根底に組み込まれている「対称性」と深く結びついている。それは形や位置の対称性はもとより運動やモノの存在自体の対称性、回転や無限の繰り返しというような対称性をも含んでいる。昨今は素粒子物理学における「対称性」や「超対称性」を理解するために必要不可欠な数学理論として知られている。

けれども僕が大学の専攻を選んだ1980年代前半は、続々と新素粒子が発見されていた時代で「素粒子や物理法則の対称性の重要性」は一般の人にはまだ認知されていなかったと思う。ましてそれが群論と関係しているのだということは大学受験に挑んでいた頃の自分には想像だにできていなかった。

群論を発展させたガロア理論によって5次以上の代数方程式を解くことができないということは知っていたが、僕の興味の対象ではなかった。微積分や微分方程式、解析学のほうが楽しいと思っていた。当時は今のようにわかりやすい群論の教科書はなく、定理の証明にただ苦心惨憺し、無理やり理解して頭に詰め込んだのが僕にとっての群論だった。面白いはずがなかった。インターネットはもちろんなく、群論を何のために勉強しているのか先輩や同級生に聞いても「そんなことも分からないのかよ~。」とか言われてはぐらかされるばかり。面白いかどうかはそもそも個人の主観の問題で、数学はそれとは関係なく進化していくものだからと自分自身を納得させ、楽しむことをあきらめて勉強していた。

大学時代にこの「群論への30講:志賀浩二著」に出会えていたらどんなによかったかと思う。僕が卒業してから2年後に出版されたのでそれは無理な話だが。5年前から物理学を勉強しはじめ、群論が物理学の理解にも大切なことがやっとわかってきた。

この本を読めば少なくとも以下のような群論のキーワードの意味は理解できるようになるはずだ。そもそも群論は高校までの数学には全く登場しないので難しく感じるのは無理はない。勉強したことのない者にとっては難解な用語の羅列だが、この本1冊読むだけですむのだからハードルは想像しているよりずっと低いところにある。理解できてしまえば何のことはない。ぜひ(気楽に)挑戦してみてほしい。

この本で学べる群論の概念:有限群と無限群、可換群と非可換群、置換群、対称群、群の同型、交代群、部分群、巡回群、群の位数、加群、乗法群、連続群、直交群、特殊直交群、準同型、群の表現、群の中心、群の直積、共役類、中心化群、正規部分群、商群、単純群、準同型定理、群の核、アーベル群、シロー群、ホモトピー類、ホモトピー群、生成元、自由群、交換子群、位相群、不変測度、群環、コンパクト群、既約性、可約性

もちろんこの本が理解できたからといって群論を制覇したなどと過信してはならない。あくまで入門書である。以下のページをご覧いただければわかるように群論の研究は現在もなお続いている。

有限単純群:
http://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~kitazume/simple.html

僕はこの本を読んで志賀先生のファンになったので、あと2冊ほど先生の本を読んでみることにした。(集合位相の2冊)

群論についてのお勧めリンクを3つ紹介しておこう。1つめは僕のお気に入りの「悪魔の妄想」というブログのrikunoraさんによるものだ。

Gの夢 ~ 解けない方程式の謎を解く
http://galois.motion.ne.jp/
なぜ、5次方程式は代数的に解くことができないのか?
現代科学を支える「群論」って何だろう?
悲劇の天才が生んだ美しい数学理論を、物語仕立で分かりやすく解説します。

群論入門:
http://www.nurs.or.jp/~lionfan/ironna_05.html

有限群の広場:
http://sci.kj.yamagata-u.ac.jp/~waki/jpn/gap.html


関連記事(とね日記内)

有限群村の冒険 - あなたは数学の妖精を見たことがありますか?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0095b0117e2a01b09426ad56519e8211


群論への30講:志賀浩二著


目次:

第1講:シンメトリー
第2講:シンメトリーと群
第3講:群の定義
第4講:群に関する基本的な概念
第5講:対称性と正6面体群
第6講:対称群と交代群
第7講:正多面体
第8講:部分群による類別
第9講:巡回群
第10講:整数と群
第11講:整数の剰余類のつくる乗法群
第12講:群と変換
第13講:軌道
第14講:軌道(つづき)
第15講:位数の低い群
第16講:共役類
第17講:共役な部分群と正規部分群
第18講:正規部分群
第19講:準同型定理
第20講:有限生成的なアーベル群
第21講:アーベル群の基本定理の証明
第22講:基本群
第23講:生成元と関係
第24講:自由群
第25講:有限的に表示される群
第26講:位相群
第27講:位相群の様相
第28講:不変測度
第29講:群環
第30講:表現


応援クリックをお願いします!このブログのランキングもこれらのサイトで確認できます。
にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ人気ブログランキングへ


コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« バイクのバッテリーの救世主? | トップ | 新型プリウスのリコールで思... »

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
なんか似てる (rikunora)
2010-02-09 13:23:39
ページを紹介していただいて、ありがとうございます!
この日記を見ていると、とねさんのたどった経緯にとても親近感を覚えます。なんか似てる。
私も最初は群論なんて、さっぱりわからなかったし、おもしろくもありませんでした。
もしこの「群論への30講」が無かったら、きっと群論には一生縁がなかっただろうと思います。
この30講に方程式の話はありませんが、同じ先生の書かれた本に
「数学が育っていく物語 (第5週) - 方程式」というものがあります。
私はこの本で5次方程式の話を知りました。
難解な理論の敷居をここまで下げた功績は大きいと思います。
返信する
rikunoraさん (とね)
2010-02-09 13:48:28
コメントありがとうございます。
rikunoraさんも群論には手こずった時期があったのですね。そう思うと「Gの夢」のようなサイトが書けるようになるまで理解を深められたというのは立派だと思います。
この「群論30講」や「Gの夢」で、少しでも多くの学習者が救われるといいですね。
返信する
値段が、 (T_NAKA)
2010-02-09 17:41:10
3,570 円というのは、ちょっと厳しいですね。
一番知りたいのが、この本の最後に書いてある「表現」なので、、
でも読んでみる価値はあると思うので、今度本屋で実物を見てみます。
ご紹介ありがとうございました。
5次方程式の件では、こんな記事を書いてました。
http://teenaka.at.webry.info/200608/article_20.html
返信する
T_NAKAさんへ (とね)
2010-02-09 19:39:35
確かに高いですね。僕は明倫館書店で2500円で買いました。
この本については中身をご覧になったことがなかったのですね。
5次方程式についての記事を読ませていただきました。この本ではガロア理論については触れておらず、これはもっと勉強を積まないと理解できないようです。

僕は「臨時別冊・数理科学」の「ガロア理論」を持っていますが、読むにはまだ基礎力不足のようです。
返信する
『ガロアの生涯─神々のめでし人』 (271828)
2010-02-10 19:22:03
とねさん こんばんわ

志賀さんのこの本は持っていませんが、対数に関する『数の大航海』は好きな本です。

でも私たちの世代では『ガロアの生涯』が青春の書です。アインシュタインの共同研究者インフェルトの思い入れもたっぷりです。良く出来た数学小説です。一気に読めます。

またフェリックス・クラインの『正20面体と5次方程式』は買ったままで手付かずです。
返信する
271828さんへ (とね)
2010-02-10 19:43:35
たびたびコメントいただきありがとうございます。

志賀先生は良い本を本当にたくさん世に送り出してきているのですね。先ほども書店で「大人のための数学」シリーズを立ち読みしていました。

『ガロアの生涯』:うぁ~、懐かしい本ですよね。僕もこの本のことはよく覚えています。271828さんがお読みになったのは1979年版だと思いますが、その後装丁を変えて1996年と2008年に出版されているようです。

明日と明後日、また寒くなるようですので暖かくしてお過ごしください。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

物理学、数学」カテゴリの最新記事