とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

有限群村の冒険 - あなたは数学の妖精を見たことがありますか?

2007年04月07日 01時21分41秒 | 物理学、数学
素粒子の「対称性」や超ひも理論の「超対称性」を理解するためには群論の知識が欠かせない。

「電磁および弱い相互作用はSU(2)×U(1)ゲージ群に基づくワインバーグ=サラム理論で記述される。」と説明されてもSU(2)群とかU(1)群などのイメージがわかなければ話にならない。

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2014年9月に追記:リー群という表記には2つの意味があるので注意。リー群(Ree group)はリー型の有限単純群であって1960年に発見されたもの。素粒子物理で使うリー群(Lie group)とは別物だ。もっと正確にいうとRee群はLieタイプの群のうちの1つ。そして弦理論や超重力理論との結びつきが示されたE8というタイプは例外型のLie群だ。例外型のLie群にはE6、E7、E8、F4、G2の5つがある。Ree群はB2、G2、F4の3タイプだ。実に紛らわしい。

有限単純群の分類
http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/582_ms.htm

単純リー(Lie)群の分類
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_simple_Lie_groups
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この「有限群村の冒険 - あなたは数学の妖精を見たことがありますか?」は3ヶ月ほど前に書店で見かけてからずっと気になっていた。群論の入門書のようだが表紙はまるでゲーム攻略本だ。帯にはこのように書いてある。

めざせモンスター 
数学者が書いた数学ファンタジー 
「有限群」村に出かけたサトシ君の冒険旅行。
群論の知恵で困難を乗り越え有限群の最高峰
紋星山(モンスター)をめざす。

大学生向けの「群と表現」で本格的に勉強する前に、この本で群論に楽しく入門しようと思ったわけ。ぱらぱらとページをめくると挿絵も可愛らしいマンガばかり。でてくる数式や図表もそれほど難しくなさそうだ。

このブログで絶賛するつもりで買ったのだが、まったくあてが外れてしまった。。。

著者は宮本雅彦さんという筑波大学教授で、この「有限群」という分野の第一人者だ。群を妖精に、群の要素を呪文にたとえたファンタジー小説でさまざまな有限群を紹介している。群の要素はクリスタルの組み合わせで表わしているのがなかなか良い感じだ。章立ては次のとおり。

第1話:有限群村と妖精達
第2話:ガロアの店
第3話:ラグランジュの巻物
第4話:シローの玉手箱
第5話:結晶の谷
第6話:表現眼鏡
第7話:鏡映の池
第8話:射影妖精
第9話:摩愁の庭
第10話:リーチ牧場
第11話:紋星(モンスター)の箱舟

数学科の大学生「宮元智志」と彼のアパートの家主の「横田老人」がひと足先に有限群村に行ってしまった横田老人の孫娘「綾乃」を探しに行くという設定だ。綾乃がいる紋星山(モンスター山)にたどり着くまで、いろいろな「群妖精」の呪文の謎を解いていくというスタイル。

第1話から第3話まではなんなく読めた。第5話あたりで「異変」に気づきはじめた。はたしてこれは入門書なのだろうか。。。

第7話からかなり厳しくなり第8話からは、僕が理解できる本ではないということを悟った。第11話と第12話は僕の理解を100倍以上超えている内容としか言いようがない。物語の部分が多いのでなんとか我慢して最後まで読み切ったが。

うーむ、これは。。。。。絶句。

前半は平易だが後半からあれよあれよという間に難しくなる。それでも最後までファンタジー小説のスタイルを保ちながら高度な理論を数学的に正確に伝えようとしている。著者の専門分野である「有限単純群」の最先端に至る道のりを小説の形式で紹介した本のようだ。どのようなレベルのことが書かれているか、本の中のキーワードと対応する数学用語をならべれば想像できるかと思う。数学用語のほうにリンクを張っておいた。

本の中のキーワード -> 数学用語

第1話:有限群村と妖精達
有限群村 -> 有限群
対称妖精 -> 対称群
リー型妖精 -> リー群
置換妖精 -> 置換群
A5妖精 -> 5次の交代群

第2話:ガロアの店
部分妖精 -> 部分群
巡回妖精 -> 巡回群

第3話:ラグランジュの巻物
正規部分妖精 -> 正規部分群
可解妖精 -> 可解群
ラグランジュの定理 -> ラグランジュの定理

第4話:シローの玉手箱
シローの玉手箱 -> シローの定理
可移置換 -> 可移置換群

第7話:鏡映の池
鏡映 -> 鏡映群

第8話:射影妖精
ワイル妖精 -> ワイル群

第9話:摩愁の庭
摩愁妖精 -> マシュー群

第10話:リーチ牧場
リーチ格子 -> リーチ格子
根上妖精 -> コンウェイ群

第11話:紋星(モンスター)の箱舟
紋星妖精 -> モンスター群

ちなみに最終到達地点のモンスター群は196,883次元の群で、その要素の数(位数)は808,017,424,794,512,875,886,459,904,961,710,757,005,754,368,000,000,000である。これは54桁の数値で、説明はこちら。千葉大学にはこの恐ろしく大きな「モンスターの位数」を記したモニュメントがある。

第10話にでてくる「リーチ格子」は24次元で、超ひもが存在するのではとされる次元数とも関連があるようだ。つまりこのように24次元球の充填問題のもつ代数構造と超ひも理論は深いところでつながっていそうだ。

またこのページの一番最後に次のように書かれているのを読むと、リーチ格子のような純粋数学も現実の生活に役立つのだということがよくわかる。

『1965年,リーチは群論と深く結びついた今日リーチ格子Λ24(Leech格子)として知られるようになったものに基づいて、24次元空間の格子状詰め込みを構成したのですが、この詰め込みにおいては、なんと1つの超球に196560個もの超球が接触しています.そして、τ24の196560個の点はリーチ格子の原点から一番近い点の集合として得られることが知られています。球の最密パッキングの研究は,2次形式の数論、ルート系,誤り訂正符号(応用代数学)、有限単純群などの理論と関係し、最大の信頼性と最小の電力で伝送できる効率的な通信システムの設計に応用されています。とくに、24次元リーチ格子:Λ24の発見により、データ転送における誤り訂正符号の発見に大革新がもたらされましたが、通信技術への応用は球の詰め込み問題の四次元以上への一般化の結果としてなされたものであり、純粋数学の期待せざる応用の一例といってもよいでしょう。』


これが入門書だと思って買ってしまった本だ。ちなみに僕は大学で数学を専攻していた。この本で数学がわからない人の気持ちがよくわかった。

このページで著者の研究内容を読むとあらためてうなづける。


著者の宮本先生は2008年に「シンメトリーとモンスター 数学の美を求めて:マーク ロナン」という本を翻訳されている。今回紹介した本の内容を詳しく解説した本だ。

翻訳の元になった英語版は「Symmetry and the Monster: One of the greatest quests of mathematics: Mark Ronan」(Kindle版)だ。


また、有限単純群の分類をテーマにした本では「モンスター―群のひろがり:原田耕一郎」という本が中古で高値をつけている。


「数学は人間による発明なのか?それとも発見なのか?」

これは昔から問われている謎だが、群のシンプルな定義から例外型のリー群やモンスター群に至る散在群の深淵な世界が現れてくるのを見ると、数学は人間による発明ではなく、もともと目に見えない存在している数学の定理や構造を発見していくプロセスなのだと僕には思えてくるのだ。


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関連ページ:

数理物理と代数幾何学 24次元の不思議を探る(PDFファイルの8ページ目)
http://www.sci.nagoya-u.ac.jp/images/kouhou/07.pdf

上記広報誌のバックナンバーのトップページ
http://www.sci.nagoya-u.ac.jp/kouhou/backnumber.html

有限群の広場
http://sci.kj.yamagata-u.ac.jp/~waki/jpn/gap.html
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2 コメント

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私も騙された?! (rikunora)
2010-02-09 13:34:25
うーん、これほど見かけと内容がかけ離れている本も珍しいような。。。
軽い気持ちで手にしたら、中身は思い切り高度だった。
羊の皮を被った狼とは、このことだ。
返信する
rikunoraさんへ (とね)
2010-02-09 13:50:27
rikunoraさんも騙されてしまったお一人でしたか。(笑)

この本の功績としては「群論っていうのは甘くないんだぞ!」ということを世に知らしめたということでしょうか??
返信する

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