
ファインマン先生のオンライン講義を受けるアイザック・ニュートン
先日「ニュートンの『プリンキピア』がブルーバックスで復刊!」という記事で、アイザック・ニュートンによる歴史的な名著が42年ぶりに講談社ブルーバックスから復刊されていることを紹介した。
この著作でニュートンはケプラーの法則を数学的に証明したとされているが、注意しなければならないことがある。たしかにニュートンは惑星の楕円運動から万有引力の法則を微積分を使わずにユークリッド幾何学、つまり作図による方法で導いたのだが、その逆のことは導けていないのだ。
惑星の楕円運動から万有引力の法則を導くことを「順問題」と呼んでいる。そして「万有引力の法則(逆2乗則)の力が働いていて、軌道が閉じているとき、軌道は楕円になる」ことを導くのを「逆問題」と呼んでいる。ニュートンは逆問題のほうを解けていなかったのだ。運動から力を求めるのが順問題で、力から運動を求めるのが逆問題である。(逆問題のほうが順問題よりも難しい。)
歴史上、順問題を初めて解いたのは、もちろんニュートンなのだが、微積分を使って初めて解いたのはピエール・ヴァリニョンである。(参考記事:「古典力学の形成: 山本義隆―続きの話」)
Pierre Varignon(ピエール・ヴァリニョン): 1654-1722
- 運動の法則を微分学を使って記述することへの貢献
- 力を受けて速度変化をする1次元運動の研究
- 中心力を受けて速度変化する2次元運動の研究
- 2次元調和振動の研究
- ケプラー運動と万有引力の導出
そして歴史上、逆問題を初めて解いたのはヤコブ・ヘルマンとヨハン・ベルヌーイである。
Jakob Hermann(ヤコブ・ヘルマン): 1678-1733
- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を初めて実行して逆問題を解いた
Johan Bernoulli(ヨハン・ベルヌーイ): 1667-1748
- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を極座標の方程式により逆問題を解いた
- ケプラーの法則と万有引力の導出(極座標)
- 惑星の運動が円錐曲線(楕円、放物線、双曲線)になることを導出
今回の記事では、順問題の解き方と逆問題の解き方を知るための情報をまとめておくことにした。
順問題の解法
惑星の楕円運動から万有引力の法則を導くのが順問題である。現代的な解法は、このページに書かれている。
順問題の解法:
http://wakariyasui.sakura.ne.jp/p/mech/bannyuu/bannyuu.html
順問題の解法は『プリンキピア』に書かれているほか、ニュートンによるユークリッド幾何を用いた解法が次の本の146ページから詳しく解説されている。
「プリンキピアを読む―ニュートンはいかにして「万有引力」を証明したのか? 」(Kindle版)

逆問題の解法(小島徹也さんの解法)
万有引力の法則(逆2乗則)の力が働いていて、軌道が閉じているとき、軌道は楕円になることを導くのが逆問題である。現代的な微積分を使った解法は、このページに書かれている。
逆問題の解法(英語ページ):
http://galileo.phys.virginia.edu/classes/152.mf1i.spring02/KeplersLaws.htm
万有引力の法則からケプラーの法則へ
https://ocw.nagoya-u.jp/files/926/11.pdf
ツイッターで相互フォローさせていただいている小島徹也さん(@coJJyMAN)が、ニュートンにも解けなかった逆問題を微積分を使わず幾何学を使う流儀で解法を得ることに成功した。すばらしいことだと思う。小島さんの了解を得たうえで、ここに紹介させていただこう。
万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を幾何学的に証明してみた
ケプラーの第1法則(楕円軌道)から、万有引力(逆自乗)の法則を導くことを「順問題」と呼び、万有引力の法則からケプラーの第1法則を導くことを「逆問題」と呼びます。
逆問題は微積を使った証明が一般的で、当のプリンキピアのように、幾何学の言葉で書かれた証明は少ないので、まとめてみました。
ここからお読みください。
https://togetter.com/li/1372970
逆問題の解法(ファインマン先生の解法)
ヤコブ・ヘルマンやヨハン・ベルヌーイが逆問題を初めて解いたわけだが、彼らは微積分を使った解析的な解法だった。ニュートンが『プリンキピア』で採用したユークリッド幾何(作図)を用いた解法に、史上初めて成功したのはおそらくリチャード・ファインマンだと思われる。ニュートンが解けなかった問題を、277年後の1964年にファインマン先生が解決してくれたのだ。しかもそれは中学生、高校生でもわかるレベルの幾何学を使っての解法なのである。(参考記事:「ファインマン先生の自伝本と講演本」、「ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。」)
ファインマン先生は逆問題の解法をテーマにして1964年3月13日に特別講義を行なった。(参照:「Feynman's Lost Lecture」)この講義を書籍化したのが次の本である。この2冊の内容は同じだ。
「ファインマンの特別講義―惑星運動を語る (岩波現代文庫) 」- 2017年刊行
「ファインマンさん,力学を語る」- 1996年刊行


読者へのメッセージ
まえがき
序章
1 コペルニクスからニュートンまで
2 ファインマン―1つの回想
3 楕円の法則のファインマンの証明(1964年3月13日の講義)
4 太陽のまわりの惑星の運動
終章
参考文献
翻訳のもとになった原書は1996年に刊行された。ファインマン先生のこの幻の講義の記録資料は、長い間埋もれたままになっていたのだがが、先生の死から4年経った1992年に発見され、見つかった資料と講義の音声テープから著者らが努力の末に講義を再現、再構成したものなのだ。そしてこの本のもとになったファインマン先生の講義の音声をネットで聞くことができる。原書を読みながら再生するとよいだろう。講義の部分は「4. "The Motion of Planets Around the Sun" (March 13, 1964) 」の章に対応している。(講義音声を再生)
「Feynman's Lost Lecture: The Motion of Planets Around the Sun (Hardcover)」(Paperback)(Kindle Edition)

Preface
Introduction
1. From Copernicus to Newton
2. Feynman: A Reminiscence
3. Feynman's Proof of the Law of Ellipses
4. "The Motion of Planets Around the Sun" (March 13, 1964)
Epilogue
Feynman's Lecture Notes
Bibliography
Index
ファインマン先生が教鞭をとられていたカリフォルニア工科大学のサイトで、本書の紹介がPDFファイルで公開されている。(PDFファイルを開く)
また、ファインマン先生のこの講義を解説する動画がYouTubeにアップロードされている。
Feynman's Lost Lecture (ft. 3Blue1Brown) 英語字幕付き
Orbital Dynamics Part 41 -- Feynman's Lost Lecture: YouTubeで再生
Feynman's Lost Lectures (8 videos):再生リスト
関連記事:
ニュートンの『プリンキピア』がブルーバックスで復刊!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a85d47fe8132a97c7180c444a816b196
日本語版「プリンキピア」が背負った不幸
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bff5ce90fca6b8b13d263d0ce6fc134e
Kindle版で復刊: 日本語版プリンキピア(自然哲学の数学的原理):アイザック・ニュートン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5ce0252019a5d9b63c20200f019e199
[世界を変えた書物]展(上野の森美術館)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/67cec3d33c33810b91d0f7591bfbc2ee
古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e808487b7e9d668967f703396e32d80a
力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39015937594a6282316377ae34a6a240
ニュートン著『プリンキピア』: eBayで買った?そんなわけないだろ。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b78b1019f73b4105359862e954496b66
英国王立協会、ニュートンが4次元時空の着想を得ていたことを発表
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bcf405938c7ab3cfee8f06f14c2e4a1
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ケプラーの法則と万有引力の法則を双方向に導くには等価原理が必要ではないでしょうか?
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~masaru.shibata/2014.10.01.pdf
ひゃまの持論では、光の運動量の等価原理になります。
スケールファクターγ=c/w=mi/mg
一般相対性理論によると重力の作用は厳密には逆2乗とはならない。例えばシュヴァルツシルト解では距離の逆4乗に比例した付加的な引力が働く。この効果により近点移動が起きる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/近点移動
柴田先生がお書きになったPDFファイルを紹介いただき、ありがとうございました。でも、等価原理は一般相対論に至るプロセスの中ででてくるので、ケプラーの法則と万有引力の法則を双方向に導くときに必要だとは思えないのです。しかし重力質量と慣性質量が等しいという意味での等価原理であれば、必要になると思います。
> 例えばシュヴァルツシルト解では距離の逆4乗に比例した付加的な引力が働く。この効果により近点移動が起きる。
おお!そうなのですね!
ところでツイッターによると、小島徹也さんが逆ニュートン問題に挑戦し別解をお求めになったようです。
https://twitter.com/coJJyMAN/status/1145333659416682496
弱い等価原理 (Weak equivalence principle, WEP) は、自由落下の一般性 (the universality of free fall) としても知られている。
自由落下する物体の軌道は、初期の位置と速度にのみ依存し、物体の種類によらない。
または、
与えられた重力場において、時空のある一点で発生する加速度は、物体の種類によらず一定である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/等価原理
おっしゃるとおりですね。理解できました。
ありがとうございます。
その弱い等価原理と質量の等価原理は両方必要でケプラー則と万有引力が結びつくのでしょう。
マッハの原理は、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論により体系化された。一般相対性理論によれば、万有引力も慣性の力も等価(等価原理)であり、共に、時空の歪みによる測地線の変化である。ただ、万有引力と慣性の力とでは歪みの原因が異なるにすぎない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/重力
しかし厳密には逆4乗の法則が働くので、近似なんでしょうが、しかしこれはスケールによって、力の働きも変わらないと、人間がウルトラマンサイズになっても、元のスケールのように力がでなくなります。
では物体の大きさが小さくなったとき,この慣性力はどうなるでしょうか? 図1は物体の大きさが1/100になったとき,体積がどう変化するかを表しています.体積は寸法の3乗に比例して小さくなるので,体積および重さは1/1000000になります.したがって,重さにに比例する慣性力はグッと小さくなることが解ります.
http://micro-tribology.com/lab/Lecture.html
古典力学といっても侮れないですねぇ。すごく面白いです。
このあたりのこと、もっと学んで解説記事や本の紹介記事を書いてみたいものです。
僕の物理観に、またひとつ新しい世界が加わった気がします。
実はうまくいかない理由はある程度わかっています。これは質量を持つ物体の「大きさ」が一般相対論と量子力学で反対の振舞いをすることに関係しています。一般相対論によるとブラックホールの大きさは質量に比例します。一方,量子力学によると物体は波のように振舞い,その波長はその物体の質量に反比例します。つまり,物体の大きさの目安となる長さは,重力では質量に比例し,量子論では質量に反比例する,という具合に完全に反対になっていて,これが重力と量子論を一緒に考えることが難しい原因なのです。
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/science/quest/sp/research/---1.php
要はフェルミオン間に働く真の重力というか慣性力は、万有引力ではないと考えていて、本当は陽子ー電子間でも異常磁気程度の誤差があるのですけど、陽子ーミューオンでは、無視できないのが、陽子荷電半径問題になってると考えてます。
等価原理って深いですねぇ。
> 重力では質量に比例し,量子論では質量に反比例する,という具合に完全に反対になっていて,これが重力と量子論を一緒に考えることが難しい原因なのです。
このあたりの謎の解決を生きているうちに知ることができるかどうか。。。期待しながら待つことにします。
らしいのですが、万有引力と光の運動量の関係の本とか見当たらないんですよね。
また、そういう本があれば紹介してください。
僕もそのような本は、これまで見たことがありません。光の慣性質量や運動量と万有引力のスケールがあまりにもかけ離れているからではないでしようか。