近年、日本では子どもの教育格差を問題視する報道を耳にする機会が増えたように感じます。
以前はこうして情報が表に出てこなかっただけで、今も昔も学びたいのに学べない子どもは存在し続けてると思います。
ある程度教育を受けないと安定した収入を得られる仕事に就くことすら難しいのが現実。また、具体的に学びたいことがある人にとって、適切な時期に教育を受けられるかどうかはその後の人生に大きく影響してしまいます。
私は家庭の事情で、高校2年生から奨学金を借りることになりました。当時美大進学を目指していたので諦めきれず、大学も奨学金を借りて進学するか迷いましたが、美大に奨学生として通った人から、やりたかったはずの作品制作もままならず何のために美大に行ったのか分からない日々だった、と聞き断念しました。
高校卒業後は少しでも美術に関係する仕事がしたくて地元の窯元に職人として就職しましたが、一人暮らしもできない低賃金、転職せざるを得なくなりました。転職して何とか一人暮らしはできるようになったものの、奨学金の返済もあり余裕のない生活。学びたいことを学べなかった現実と、進学した同級生たちと自分の違いを受け入れられないまま数年が経ちました。
20代半ばで、このままの人生でいいのかと悩み、何か手に職を身につけようと思い立ちました。
子どもの頃から興味があった東洋医学を学んで仕事にしたいと調べたところ、国家資格を取得するための学費が500万円前後かかることを知りました。
転職したとはいえ、高卒の賃金は大卒に比べて安く、自転車操業の日々。苦肉の策でギリギリ払える学費だった整体学校に通ってみましたが、私が希望することを十分に学べませんでした。
その後縁があった鍼灸整骨院で働いている時に鍼灸治療の素晴らしさに触れ、やっぱり国家資格を取得しようと決意。
学費以外にも書籍代や道具代等もかかるし、生活費もかかります。完済できるか不安はありましたが、学校に行かないままの状況では経済的な困難から抜け出せる見込みはなかっため、どうせ苦労するなら奨学金を借りてでも挑戦してみようという思いでした。
在学中は、奨学金を借りていても学費が足りなくなる事態を迎えそうになったこともありましたが、何とか乗り切りました。
とある勉強会に参加した際に、指導者から「苦学生では十分に学べないから鍼灸師にはなれない」と言われたこともありました。その方は親に学費を出してもらった経験しかない訳で、私の置かれた状況の何が分かるのだろう?という悔しい気持ちもあったけれど、そのおかげで「絶対なってみせる」と奮起できました。
確かに学業に専念できる学生のように治療院見学に行ったり研修に行ったりする機会はほぼありませんでしたが、接客業のバイトで学べたことも意外と多く、経験したこと全てが糧となっていることを今でも実感しています。むしろ、社会で生きていく厳しさを知ることができたので、かえって良かったかもしれません。
そして先日、奨学金を完済しました。無利子の奨学金を借りられたため、返済期限の14年で少しずつ返済できたのはありがたかったです。
私の場合は結果として資格を活かした仕事に就けたので結果オーライですが、もしもっと金銭的に余裕があったら、と思ったことは数知れず。
お金がなくて学べないというのは、子どもにとって残酷です。それを自己責任とする今の日本の状況が少しでも変わっていくことを、これから自分の進路を選択して歩もうとする子どもに等しく学びの機会が与えられることを、切に願います。