昭和20年5月29日、空襲警報が鳴り響くとやがて大きな黒いトンボが群れを成して海の方から飛翔して5月の空一面覆い尽くしていた。アメリカのB29という爆撃機の編隊である。
その空からきらきら光るテープのような物が落ちてくる。部屋の片隅に置いた古いラジオから流れる空襲避難を呼びかける音声が途切れ途切れに聞こえてくる。電波を妨害する金属製のテープである。
僕の家は父が経営するレンガ工場と住まいが一緒であった。自社で製造していたレンガは天日で干して加工する黒色レンガである。石炭や火力は線時中は使えないのであった。コークスと何か粘土のようなものを混ぜたものを大きなプレスの機械で型状に抜くというもので、女工さんが手作業でそれを取り出しては工場の敷地に天日に晒して作るのにである。
そんなことから当時の我が家の防空壕は近所では一番大きな防空壕で父母と姉と中学生になっばかりの僕と妹2人の合計6人が余裕をもって小さな茶箪笥を持ち込んで入れる広さだった。
空からカランカランという音ときらきら光る銀色のテープが珍しく、防空壕から抜け出して、工場の敷地に落ちてくるその物体を拾って集めていると、防空壕の中から母の鋭い声が飛んできた。
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「一郎!駄目だよそんなもの拾っては!死ぬよ!早く壕に戻りな!」の悲痛な声をかき消すかのようにB29爆撃機の爆音はさらに激しくなっていた。(続)
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