一期一会・

宇宙と仏法のあり方についての洞察。人間の成仏。

メチタの海、第3章の始まり(三)缶ビール

2014-09-26 | web

戦後、日本は食料品の大半をアメリカ軍からの配給物資で食糧難を補っていた。配給の多くは函詰の類で中にビールもあった。

中学1年生の一郎は空腹と好奇心とで缶ビールの底を大工の次兄の大工道具箱を開けて金槌を取り出し、5寸釘を缶の底にあてがって叩いてみた。釘はすっぽりと缶の中に刺さった。その瞬間じわじわと音と共に泡が噴き出てきた。一郎はとっさに吹き出てきたビールの泡を口元に運んだ。苦いが何か今まで味わったことのない不思議な味がした。一郎はついでにもう一個穴をあけてみた。泡が収まった。空気穴が二か所になったので収まったのだろうと思った。一郎は差し込んだ5寸釘を抜くと、縁側に座り込んで函の中のビールを少しずつ口に含んでいった。お腹に染み渡った。

何とも言えない不思議な夢を見いているような感じがした。一郎は、美味しいと思った。母は夕食の買い物に外に出ていたので、一郎はゆっくりと始めてた体験するビールというものの味を確かめていた。大人はいつもこんなものを喜んで飲んでいたのか。大人はずるいや。と思った。母が買い物から帰ってくる前に一郎は缶ビール1缶を殆どのみ終わっていた。

 

一郎の父も大酒のみ飲みであった。親の血を一郎も受けていたのだろうか。からんコロンという下駄の音がしてぎしぎし言う玄関の戸が開く音がしたので一郎は慌てて立ち上がると神棚の下に走り踏み台の上に駆け上がると今飲んでしまった缶ビールを神棚に戻した。そうだ、帰宅した親父に見つかるとえらいことだ、今神棚に戻した缶を穴の開いた部分を下にして逆さに置き直した。こんな工作しても無駄だと後でえらい目にあったのだ。


メチタの海、第3章の始まり(二)チョコレート、チュウインガム

2014-09-19 | web

 

 一郎の父は、終戦とともに需要が無くなたレンガ工場を閉鎖して、雇っていた女工さん達全員を解雇した。父は、収入見込みが途絶えたので以前からレンガを納入していた味の素の鶴見工場に運搬員として就職した。工場内では色々な荷を馬車馬で運んでいた。そんな時代である。

 アメリカ軍の兵隊は、連日列車で各地から運ばれてきた。列車が来ると、沿線の子供達は競って線路際の草むらの上に並んで列車のアメリカ兵を見上げていた。アメリカ兵は、大きな声で「ヘーイ!ボーイ!」と薄汚れて栄養失調寸前の敗戦の犠牲となった子たちに向かって、まるで野良犬に餌でも投げ与えるように競ってチョコレート!チュウインガム!など言って投げてきた。

 子たち

はゆっくりと走っていく列車の後をチョコレート!チュウインガム!と叫びながら追った。沿線の草むらや砂利石に投げられたチョコレートやチュウインガムを仲間の友達の間で奪い合うように拾って走った。転んで沿線の茂みの沿ってある池に嵌って泣く子もいた。