京都の闇に魅せられて(新館)

特別編・龍谷ミュージアム「水木しげる・魂の原画展」にて @ 京都妖怪探訪(580)





(記事中の写真はクリックで拡大します。プライバシー保護等の為、人の顔部分に修正を加えていることがあります)


 どうも、こんにちは。
 今回は特別編。
 京都の特定の妖怪スポット(伝承地や心霊スポット等)ではなく、京都市内で開催されている妖怪関連イベントの記事です。
 昭和から平成時代の日本から「妖怪の神様」みたいな存在として、今や日本の妖怪文化を代表する偉人となった漫画家・妖怪研究家の水木しげる先生。
 その水木先生の遺された原画などを展示し、その軌跡を辿るイベントです。
 今年(平成30年、2018年)9月から11月まで、京都市内の龍谷ミュージアムで開催されています。
 『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』、そして日本や世界の妖怪に関する多くの著作など、私も子供の頃から水木先生の作品に親しみ続けてきました。
 それがあったからこそ、今の私が、また『京都妖怪探訪』シリーズがあるのです。
 実は、この記事を書いている10月中旬時点で既に2回訪れています。
 そこで感じたことは……故・水木先生はやはり偉大な天才だったということです。

(注:翌10月20日に誤字や文章的におかしな部分を何カ所か修正し、その上に加筆しました)






 では、天才とは。その特徴とは何か。
 それは以下の4つ。
 
①早くから抜きんでた才能を顕す。
②質と共に大量の作品を遺す情熱とバイタリティを持つ。
③ひとつの分野だけで無く、あらゆる分野や物事に興味関心を持つ。
④自らの専門・得意分野だけなく社会や人生、人間にも関心を持ち、深い考察をする。

 以上、4つの観点からこの展覧会を観てきました。






①早くから抜きんでた才能を顕す

 天才とは何か。
 まず、早くから抜きんでた才能を現すものである。
 「大器晩成」という人も居ないわけではありませんが、多くの場合は、早い段階からその才能の鱗片でも見せるものである、と私は考えます。
 水木しげる先生は大正11年(1922年)3月8日に大阪市住吉区に生まれ、鳥取県境港で育ちましたが、高等小学校の頃、二科展の審査員もしていたという教頭先生にその才能を見出され、何と個展を開催させてもらったというのです。
 当時の新聞には「天才少年画家あらわる!!」と書かれたそうです。
 さすがに展示されている現物は撮影させてもらえないので、以下に会場で借った図録から。





 鉛筆によるスケッチから、静物や風景画、昆虫画、人体解剖図など。
 さらには、白雪姫やグリム童話など絵本なども作られていました。
 展示されていた当時の作品はいずれも、とても10代の少年の作品とは思えないほどのクオリティを誇っているのが、美術は素人の私にもわかるほどで、ただただ驚愕するばかりでした。
 子供の頃から既にそこまでの作品をいくつも作り上げた水木先生は、同じ10代の頃大したことを何もしていない私のような凡人とは違い、やはり天才だったのです。






②質と共に大量の作品を遺す情熱とバイタリティを持つ

 天才とは何か。
 仕事の質だけでなく、量でも他を圧倒するものである。
 人並み外れた情熱やこだわりを持ち、それによってクオリティ(質)に優れた作品を生み出すことは勿論、膨大な量の作品を生みだし、遺していくものである。
 京都文化博物館『西尾維新大辞展』の時に観た西尾維新氏もそうであったように、デビュー時から膨大な量の作品を作り続けてきました。
 水木先生も、紙芝居から貸本漫画の世界に入り、最も得意な妖怪漫画だけでなく、戦記ものや歴史・伝記漫画から、少女漫画まで、実にいくつものジャンルで多くの作品を遺されていました。

 勿論、質の面でも抜きんでたものを作り続けています。
 漫画でも妖怪画でも、水木作品の特徴のひとつとして、あのおそろしく精緻な背景描写があります。何故、あのような精緻な背景描写が出来るのかというのも、今回の展示会で初めて知りました。普段から多くの背景画を描き溜めて、それを必要な時にとりだして、人物・キャラクター画を切り貼りして組み合わせていたそうですが。
 いやいや、それでも。あのような精緻な風景画を普段から大量に描き溜めていたというだけでも、凄すぎです。

 常人にはなかなか出来そうにもないほどの質と量をこなすだけの能力と、情熱と、バイタリティを持ち続けている。
 これもまた、天才の証明なのでしょう。






③ひとつの分野だけで無く、あらゆる分野や物事に興味関心を持つ

 天才とは何か。
 得意分野、専門分野だけではなく、あらゆる分野のあらゆる物事にも興味関心を持つ。それが自分の仕事や作品、得意・専門分野にも活かしている。
 勿論、本業、もしくは得意・専門分野でも並々ならぬ技量と情熱を持っている。

 展示会の一角には、水木先生のこんな言葉も紹介されていました。

「少女漫画や普通の漫画はダメなんです。元気が出なくて描けない。妖怪に関して情熱を発揮するわけです」

 水木先生の妖怪に対する情熱をよく表している台詞ですが、これには多少の謙遜も混じっているのではないかな、という気が私にはします。
 というのは、②のところでも触れましたが、戦記ものや歴史・伝記漫画から、少女漫画まで、実に多様なジャンルの漫画作品を水木先生は描いておられます。
 また、既に才能を顕していた学生時代には、休日には昆虫観察などの他、宝塚歌劇などにも熱心に通っておられたそうです。
 いろんな物事に興味関心を持ち、またそれを実行するだけの行動力にあふれた人物でもあったということが、わかります。

 私は水木先生のような天才とは違う、ただの凡人でしかないのですが……。
 それでも、こうしてブログ記事など文章を書いたり、テーブルトークRPG(プレイヤーだけでなく、ゲームマスターやオリジナルのシナリオ作成等)等の創作活動をしているから少しわかるのですが。
 ひとつの分野だけではない。異なる分野での知識や経験が、他の分野での思わぬ発想・アイデアにつながったりすることも、実は結構多いのです。
 否、むしろそうでなければアイデアを出し続けることは難しい、と言ってもいいでしょう。








 水木先生の場合は、独特の視点で独裁者アドルフ・ヒットラーの生涯を描いた『劇画ヒットラー』や、近藤勇を描いた『星をつまみそこねる男』、南方熊楠を描いた『猫楠』など、歴史・伝記作品もいくつも手がけておられました。
 これだけのものを、特に歴史・伝記作品を描くには、相当な調査や研究・勉強を要するはずですが、水木先生はそれらもやってのけたという……。
 この点もまた、畏怖とか驚嘆を感じずにはおられないことです。



④自らの専門・得意分野だけなく社会や人生、人間にも関心を持ち、深い考察をする

 天才とは何か。
 これは③とも関わるのですが。
 得意分野、専門分野だけではなく、自らの専門・得意分野だけなく社会や人生、人間にも関心を持ち、深い考察をする。
 才能や情熱、バイタリティにあふれる人物は、それが他分野にまで及んだりする。それが、自分たちの活きる社会や、人生などにも関心や洞察が及ぶ。
 漫画家の例では、手塚治虫や藤子不二雄など、優れた社会派作品や、ブラックな、シュールな風刺を効かせた作品もいくつも描いています。
 先述の通り、水木先生は多くの歴史・伝記作品も描いておられます。
 南方の激戦地で片腕を失い、生死の境を彷徨ったというすさまじい戦争体験をも持つこともあって、『総員玉砕せよ!』などの戦記漫画を描き、晩年には『わたしの日々』というエッセイ漫画でも戦争体験に基づいた話をされていました。
 そこには戦記もの作品に多い、指揮官や英雄豪傑などの視点では無く。そのほとんどが、名も無い、力も無い一兵卒や一般人の視点で描かれている。
 有名な中沢啓治『はだしのゲン』のようなストレートなメッセージではないものの、何と言ったらいいのか、淡々として、それでいてぐっと迫るような、静かに染み込んでくるようなメッセージ性が、水木しげる作品にはあったような気がします。

 また激動の時代と波瀾万丈の人生を生き抜き、多くの物事に触れてこられた水木先生独特の哲学や人生観には、学び、考えさせられることも多い。
 「なまけ者になりなさい」や「金はほしがれば逃げる」などと有名な言葉を遺されています。
 こちらの方でも(勿論、この私自身も含めて)多くのファンや支持者・共感者が居ることも有名です。






 今回の展覧会で、結局直接お目にかかることは一度もなかったものの、「わが心の師」ともいうべき偉大な天才の軌跡を、そのほんの一部でも辿ることが出来たのをうれしく思います。






 今回はここまで。
 また次回。




*龍谷ミュージアムへのアクセス・周辺地図についてはこちらを参照。




*みずきしげる・魂の原画展のHP
https://www.nhk-p.co.jp/event/detail.php?id=700




*龍谷ミュージアムのHP
http://museum.ryukoku.ac.jp/




*『京都妖怪探訪』シリーズまとめページ
http://moon.ap.teacup.com/komichi/html/kyoutoyokai.htm




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