まだ明けきらない空に、薄く筆を走らせたような雲が幾筋も流れている。
早朝の、凛としたこの空気が、とても好きだ。
昼の日射しよりも優しい朝日を浴びて、人も車もビルも、なんとなく輪郭がぼやけてる。
行き交う人もまだ少ない。
僕はビルの天辺から、地上を見下ろす。
目の前に広がる街並み…
いったいどれだけの人がこの地上で暮らしているのかな…
その人々を見守って、もうどれ程の時が経ったのだろう…
「…早いな、ミンソク…」
その声に振り向くと、
「…昨夜あれだけ飲んだのに…ザルかよ…」
しかめっ面をしながらこちらにやって来るスホが見えた。
「あはは、まぁ、そうだね。さ、もう行かなくちゃ。みんなもう集まってるよ」
今朝は月に一度、僕らのチームが集まって行う会議がある。
会議といっても、現状報告し合う定例会のようなものだ。
自分が見守ってる人間が、手に余るようなことがあれば意見交換をしたり、もしくは担当を変わるよう上の者に申し出る手筈をしたり。
僕らが出向くと既にみな揃っていた。
チームリーダーであるスホが、最近変わったことや困ってることはないか、と皆に呼びかける。
特にないようなので、一人一人近況報告をしてもらう。
みなそれぞれ、がんばってるようだなぁ…仕事に愛情と愛着を持っていどんでるなぁ、と頼もしく思いながら耳を傾ける。
人間の寿命は驚くほど短い。
その限られた中で、いかに幸福に、いかにその人らしく生きることができるか…僕らは傍らで見守るしかできない。
それがもどかしい…
もっと何か、直接手助けできたらいいのに…
若い頃はそんなふうにも考えたのだが、今は、見守る、ということの重要さに気づいてきた。
その人の可能性とか、その人の持ってる力とか、そんなものを信じて、ただ見守ることの重要さを。
ただ、若い弟たちは、まだ、葛藤があるようで、たまに人間に姿を見られて(見せて)しまっているようなのだが…
『ミンソクはどう思う?』
生真面目なスホは、それがどうも許せないらしい。
『規則は規則だよな、守るためにあるんだよな?』
昨夜、久しぶりに(というか、初めてかもしれない)二人で酒を飲みながらそんな話した。
『僕は…その人の人生に寄り添う気持ちの強さが、まだうまくコントロールできないだけで、あいつらの気持ちはよくわかるよ』
僕がそう答えると、不満そうに口を尖らせ、『そりゃわかるけど…規則は規則なんだから…』とブツブツ言うスホが、少しいじらしかった。
気持ちと、現状と、規則は、必ずしも一致しない。
だからと言って、感情に流されてばかりでは成り立たないものもある。
僕らは、この手の指からこぼれ落ちるものを救うためにいるはずなのに。
何も出来ずただ黙って見ているだけしかできないもどかしさを一番に感じているのは、スホだ。
『大天使なんて、名前だけの役職だな』
そんなふうに自嘲気味に笑うと、普段は決して度を越すことはしないはずの酒をあおる。
そんなスホを僕は黙って見ていた。
そんな夜からの、今朝なのだ。
「…ミンソク、他に何かある?」
急に話を振られて我に返る。
「あ、いや…特に…僕からは何もないよ」
慌てて返事をすると、
「なんだよ、いつも俺ばかりで…たまには何か言えよ、お前も。計らずも天使長なんだから」
…こいつ、妙に絡むな、二日酔いか…?
「スホ兄さん、お酒臭い」
臭いに敏感な末っ子のセフンがボソッと呟いた。
「え、あ〜…実は、昨夜、ミンソクと遅くまで飲みながら話をして…」
弟たちはみな驚いたようにスホを見る。
そりゃそうだ。
普段はめったにそんなことないんだから。
澄ました顔で弁解めいたことを言うスホを見ていたら、急に僕は可笑しくなった。そして、急に、困らせてやりたくなった。
「そうなんだ。実は、僕たち、一緒に飲んで、そして初めてそのまま一緒に寝たんだ!」
「えっ、寝たの?!一緒に?まじで?!」
一瞬にしてその場が騒がしくなり、驚嘆からくる笑い声が響いた。
「ね!?寝た…?え、あー、」
スホは顔を真っ赤にして、弁解しようとして、そして諦めたらしく、自分も一緒に笑ってる。
僕はなぜだか、とても気分が良くなった。
そうさ。
説明しきれないことばかりだろ、僕たち。
説明しきれないことで成り立ってるんだ、世界は。
だから、面白い。
この世界も。人も。
楽しもうぜ、限られた範囲の、与えられた使命を。
「おい、ミンソク、なんとかしろよ、お前が言い出したんだろ、収拾つかないよ、こんな…」
スホが笑いながら僕を振り返る。
僕は笑いながら答える。
「また飲もうな!ジュンミョン!」
弟たちの冷やかしや笑い声に、訳もなく嬉しさや安堵が含まれている、と感じながら。
早朝の、凛としたこの空気が、とても好きだ。
昼の日射しよりも優しい朝日を浴びて、人も車もビルも、なんとなく輪郭がぼやけてる。
行き交う人もまだ少ない。
僕はビルの天辺から、地上を見下ろす。
目の前に広がる街並み…
いったいどれだけの人がこの地上で暮らしているのかな…
その人々を見守って、もうどれ程の時が経ったのだろう…
「…早いな、ミンソク…」
その声に振り向くと、
「…昨夜あれだけ飲んだのに…ザルかよ…」
しかめっ面をしながらこちらにやって来るスホが見えた。
「あはは、まぁ、そうだね。さ、もう行かなくちゃ。みんなもう集まってるよ」
今朝は月に一度、僕らのチームが集まって行う会議がある。
会議といっても、現状報告し合う定例会のようなものだ。
自分が見守ってる人間が、手に余るようなことがあれば意見交換をしたり、もしくは担当を変わるよう上の者に申し出る手筈をしたり。
僕らが出向くと既にみな揃っていた。
チームリーダーであるスホが、最近変わったことや困ってることはないか、と皆に呼びかける。
特にないようなので、一人一人近況報告をしてもらう。
みなそれぞれ、がんばってるようだなぁ…仕事に愛情と愛着を持っていどんでるなぁ、と頼もしく思いながら耳を傾ける。
人間の寿命は驚くほど短い。
その限られた中で、いかに幸福に、いかにその人らしく生きることができるか…僕らは傍らで見守るしかできない。
それがもどかしい…
もっと何か、直接手助けできたらいいのに…
若い頃はそんなふうにも考えたのだが、今は、見守る、ということの重要さに気づいてきた。
その人の可能性とか、その人の持ってる力とか、そんなものを信じて、ただ見守ることの重要さを。
ただ、若い弟たちは、まだ、葛藤があるようで、たまに人間に姿を見られて(見せて)しまっているようなのだが…
『ミンソクはどう思う?』
生真面目なスホは、それがどうも許せないらしい。
『規則は規則だよな、守るためにあるんだよな?』
昨夜、久しぶりに(というか、初めてかもしれない)二人で酒を飲みながらそんな話した。
『僕は…その人の人生に寄り添う気持ちの強さが、まだうまくコントロールできないだけで、あいつらの気持ちはよくわかるよ』
僕がそう答えると、不満そうに口を尖らせ、『そりゃわかるけど…規則は規則なんだから…』とブツブツ言うスホが、少しいじらしかった。
気持ちと、現状と、規則は、必ずしも一致しない。
だからと言って、感情に流されてばかりでは成り立たないものもある。
僕らは、この手の指からこぼれ落ちるものを救うためにいるはずなのに。
何も出来ずただ黙って見ているだけしかできないもどかしさを一番に感じているのは、スホだ。
『大天使なんて、名前だけの役職だな』
そんなふうに自嘲気味に笑うと、普段は決して度を越すことはしないはずの酒をあおる。
そんなスホを僕は黙って見ていた。
そんな夜からの、今朝なのだ。
「…ミンソク、他に何かある?」
急に話を振られて我に返る。
「あ、いや…特に…僕からは何もないよ」
慌てて返事をすると、
「なんだよ、いつも俺ばかりで…たまには何か言えよ、お前も。計らずも天使長なんだから」
…こいつ、妙に絡むな、二日酔いか…?
「スホ兄さん、お酒臭い」
臭いに敏感な末っ子のセフンがボソッと呟いた。
「え、あ〜…実は、昨夜、ミンソクと遅くまで飲みながら話をして…」
弟たちはみな驚いたようにスホを見る。
そりゃそうだ。
普段はめったにそんなことないんだから。
澄ました顔で弁解めいたことを言うスホを見ていたら、急に僕は可笑しくなった。そして、急に、困らせてやりたくなった。
「そうなんだ。実は、僕たち、一緒に飲んで、そして初めてそのまま一緒に寝たんだ!」
「えっ、寝たの?!一緒に?まじで?!」
一瞬にしてその場が騒がしくなり、驚嘆からくる笑い声が響いた。
「ね!?寝た…?え、あー、」
スホは顔を真っ赤にして、弁解しようとして、そして諦めたらしく、自分も一緒に笑ってる。
僕はなぜだか、とても気分が良くなった。
そうさ。
説明しきれないことばかりだろ、僕たち。
説明しきれないことで成り立ってるんだ、世界は。
だから、面白い。
この世界も。人も。
楽しもうぜ、限られた範囲の、与えられた使命を。
「おい、ミンソク、なんとかしろよ、お前が言い出したんだろ、収拾つかないよ、こんな…」
スホが笑いながら僕を振り返る。
僕は笑いながら答える。
「また飲もうな!ジュンミョン!」
弟たちの冷やかしや笑い声に、訳もなく嬉しさや安堵が含まれている、と感じながら。
おはようございます♪
最近、ほとんどTALKばかりでお話を書いておらず…なんのブログだかわからなくなってきてますが、また時々更新しますので読んでやってください〜(^人^)
ふふ、そんな風に言っていただけて…ありがとうございます…☆
やっと 1日ゆっくりできる日の朝にステキな物語を読ませてもらいました。
Kokoちゃんの本はどこに行ったら買えるの⁉
本気で思ってます。
Kokoちゃんの物語 ちゃんと読みに行ってきます。