どこで見たのか知らない、
わたしは遠い旅でそれを見た。
寒ざらしの風が地をドツと吹いて行く。
低い雲は野天を覆つてゐる。
その時火のつく様な赤ん坊の泣き声が聞え、
ざんばら髪の女が窓から顔を出した。
ああ眼を真赤に泣きはらしたその形相、
手にぶらさげたその赤児、
赤児は寒い風に吹きつけられて、
ひいひい泣く。
女は金切り声をふりあげて、ぴしゃぴしゃ尻をひつ叩く。
死んでしまへとひつ叩く。
風に露かれて裸の赤児は、
身も世も消えよとよよと泣く。
福士幸次郎の詩である。二連あるが前半のみ掲載した。
貧しさが人間の骨を洗うような時代があった。
貧家での子育てにはむごいものがあったろう。
寒い国で見た、人間の地獄のひとこまを、作者は心を叩きつけるように書いている。
生れ来しことは罪かと親にとふ子のまなこにぞ否とこたふる 揺之