新・浪漫@kaido kanata

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三浦春馬氏イメージ小説「姥捨て山伝説」青リンゴ 第八章

2020-04-29 08:30:38 | イメージ小説
     第 八 章(全十一話)

幾尺、下っただろう。
見上げる井戸の上の光が小さく見える。
「姫様、大事ございませんか?」
「はい」
「苦しゅうないケ? あ、苦しゅうございませんか?」
「はい」姫は 馬作の背中でクスッと笑って 




「それより 先ほどからそなたのマゲがわらわの鼻をくすぐって 
くしゃみが……くしゃみが……」
クシュンッと、姫の小さなくさめが井戸の中で何重にも響いた。
ふたりは笑いあって、さらに井戸の下へ下へと降りていった。
そこへ突然、馬作は足首を冷たいもので掴まれた。
「ひぇっ!!」
見下ろすと、井戸の底の暗闇から青白い手がにょっきり出てきて
足首を握っている。
手は二本、三本と 増えてくる。
「きゃ~~~~っ!!」
数十本までも増えた手は姫の足首やスネまで掴みはじめた。
馬作の腰や背中にも何本ものウデがまとわりつく。




ついにひとつの手が肩にかかり、濡れた黒髪、
白い額が肩越しに見えた時、
「ばあちゃん、助けてくれ~~~~!!」
 馬作の叫びに井戸を覗きこんだばあちゃんは

「これは……!餓えや寒さに耐えられず、
身投げした年寄の怨霊……」
ばあちゃんの眼光が異様な光を帯び、
「地獄へ去ぬ(いぬ)がよい。怨霊ども。
お前たちには気の毒と思うが、太陽の下に生きている若者たちを
地獄へ引きずり込む権利はお前たちには無い」
ばあちゃんの一喝に、馬作の肩にかかっていた 
白い手が力を緩めたと思うと、
次々と他のウデも力を失くして消えていった。
「ほう~~~~」
馬作と姫は心底、安堵したため息をついた。
姫の小さな胸からどきどきしているのを背中に感じる。
「もう、あの手はいなくなったど。姫様。
ばあちゃんが追っ払ってくれたらしい」
そして再び気を奮い立たせてそろりそろりと下っていく。





「あれは?」
 姫の声に下を見下ろすとようやく井戸の底に見えた、
どろんと黒い水面に鮮やかな薄みどり色の丸いものが 
ポコリと浮いている。
上からのかすかな光を受けて輝いている、
それは―――目を凝らすと林檎だ!!
たちまち漆黒の水面に黄緑色の林檎が
ポカリポカリと浮いてきて、
水面が見えなくなったと思うと 
どんどん増えて高く積み上げられていく。




★第九章に続く