新・浪漫@kaido kanata

三浦春馬氏出演番組のレポ、感想。三浦春馬氏イメージの小説、SS、ポエムなど。
普通の文学も書きます。電子書籍新刊案内。

三浦春馬氏イメージ小説「姥捨て山伝説」 第十、十一章(終)

2020-05-01 10:19:25 | イメージ小説
  第 十 章

「馬作……」
ばあちゃんが側に来て涙ぐんだ。
暖かな囲炉裏の焔でばあちゃんの顔も橙色に染まっている。
「たまたま、山で拾った林檎が井戸の中で
こんなに増えてしまうなんて」
村の者にも林檎が行き渡り、一段落したところで
馬作の村あばら家の前に一台の輿が到着した。



降り立ったのは姫りんご姫である。
村の者も煌びやかな輿に気が付き、何事かとわさわさ集まってきた。
「なんてえ天女みてえな姫さまじゃ」
「あのクマみてえなご領主の姫さまかね?」
「これ、お前さん、聞こえるよ、お付きの女中さまや
若い衆が見張っている」
「それにしてもヨカおなごじゃのう」
「これは姫様、こんなきたねえところへ」
馬作とばあちゃんは走り出て地面に膝をついた。
「おふたりとも顔をお上げください。
今日は改めてお礼を申し上げるつもりで参りました。
父も後日、参る所存でございます」
「ひぇっ!!」
「あ、あばら家ですが、とにかくお上がりくだせえまし」
姫は馬作の小さな小屋のようなあばら家の
囲炉裏の前に座った。
「馬作、そなたのおかげで村の者たちは餓えから救われ 
わらわの命も救ってくれました。
なんとお礼を申してよいかわかりません」
「たまたま起ったことを、もったいないお言葉です」
「いいえ、そなたはこの村に続いた姥捨てという良くない
慣わしを断ち切ってくれました。
そのこともお礼申し上げなければなりません」
「そりゃ、オラもばあちゃんとずっと一緒に暮らせる
ことになって、こんなに嬉しいことはごぜえませんよ」
馬作とばあちゃんはにっこり笑って向き合った。

***********************************

  第 十一 章

さて、井戸から湧き出た林檎の大群は十日ほどして
ようやく尽きたようだ。
後日、メリケンご一行が林檎をすべて井戸から
取り除きもう一度、調べに入った。
どうやら、井戸の底には植物の栄養源の
鉱物が眠っていたらしい。
一行の求めるものだったので、さっそく領主に
買いたいと申し出た。
これで領主もこの鉱物を使って林檎の栽培を
始めることにする。
**************************
何度春が来て、何度,
林檎の実る秋が過ぎたことか。



林の畑はすっかり林檎の樹で埋め尽くされている。
ある春の麗らかな陽射しの中、林檎の白い花が
咲き乱れ、ミツバチの飛翔が聞こえる日。
畑で梯子(はしご)をかついでいた馬作が 
ふと手を止め立ち上がった。
白い衣の仙女が立っていた。
頭(こうべ)には金色のかんむり、
変わったカタチの透けるような打ち掛け、
ぬばたまの黒髪は華のように華麗に結い上げられてある。
言葉も失った馬作。



「わらわの見込んだ通り、よくぞ村を救った。誉めてとらすぞ」
神々しい声が響いた。
一陣の風が吹き、馬作は思わず目を覆った。
白い花がゴウ、と渦巻く。
次に目を向けた時、仙女の白い打ち掛けが 
風に煽られて蒼穹に舞い上がるのが見えた。

****************************
後ろに立っていたのはあどけない顔立ちの領主の姫、
姫りんご姫だ。
「馬作、息災でおりましたか」
少女の声に戻っている。
「は、はい、姫さまも大きゅうなられて」
「村が平和になり嬉しゅう思います」
「オラもばあちゃんと一緒にいられて安心じゃ、
いや安心でございます」
「ほほほ。おばあ様孝行でおられますのう。
おばあ様は息災でおられますか?」
ちょうどその時、何本もの林檎の樹の向こうからばあちゃんが手を振った。
「お~~い、そろそろ、メシにすっか」
「両親の代わりにオラを育ててくれたばあちゃん、
ずっと見守ってやりたいと思いますで」
「ずっと?」姫がいたずらっぽく笑った。
「おばあ様は不死のお方ですよ。
永久に見守るということですか?」
「不死?」
「おばあ様ご自身は存じておられるかどうか 
わかりませんが林檎の花の精でいらっしゃいます。
その力のためもあって、あんなに井戸から林檎が湧いたのです」
「何じゃと、いや、何ですとっ!?なんで姫さまがそんなことを」
「さあ、なにゆえでしょう」
背伸びして林檎の花を一輪つまむと
そのまま馬作の元に近づき、唇を重ねた。
ほのかに甘い花の蜜が、馬作を蕩けさせた。

<キャストイメージ>
馬作  ―――――三浦春馬
ばあちゃん――――草笛光子
姫りんご姫――― 幼い頃、 橋本環奈
         大人になってから 石橋杏奈

★最後までご愛読くださいました読者さまに 
厚く御礼申し上げます。
              海道 遠

三浦春馬氏イメージ小説「姥捨て山伝説」 第九章(全十一章)

2020-04-30 08:52:13 | イメージ小説
第 九 章 (全十一章)


「林檎だと??」
領主の家来が首をかしげて釣瓶(つるべ)を
上げようとした時、
井戸から溢れてくる林檎がどんどん飛び出してきた。
「なんだこりゃ。姫さまたちが見えなくなったぞ」
「重くて釣瓶がビクともせん!!」
騒ぐ村人たちをかき分けて領主が駆けつけてきた。
「姫、姫りんご姫や、どこにおるのじゃ、この林檎の山は何じゃ!!
生きているのか、皆の者、早う、姫を引きあげよっ!」
家来が十人くらい井戸の釣瓶に取りつき、
ひっぱり上げようとする。
その間にも井戸からどんどん林檎があふれてきて
その辺りに転がり始める。
 馬作と姫の姿は林檎に覆われて完全に見えない。
「姫~~~!!生きていてくれっ!!」
「馬作ぅ!!」
ばあちゃんも井戸へ向かって叫んだ。
家来どもが真っ赤な顔をして「せぇ~~の!!」で 
釣瓶を引上げ…… 、
やっと青林檎の中から馬作と姫のおでこが見えた。
「姫様、地上に上がれました。大丈夫か!?」
「は、はい」
ふたりは家来の手で井戸の外へ引き上げられ、地面に転がった。
全身びしょびしょだ。




「ちち……父上さまっ!!」
「倒れていた姫が侍女に助け起こされながら領主に叫んだ。

「この林檎たちは神様からのお恵みです。
一刻も早う、飢えている村の者たちに分け与えてくださいませっ!!
これだけあれば飢えているものの命を救うことができまするっ!」
「お~~~~~~!!」
一同、そろって姫りんご姫に目をやった。
馬作もギョッとして傍らの姫を改めて見つめる。


「そうじゃ!!そうじゃねえか!!
この林檎で腹が減りまくってる皆を満腹させることがで
きるじゃねえだか!!」
思いがけず、ヤマで拾った林檎を神社の井戸に
投げ込んだことが幸いして、村の窮地を救うことができる。
 たちまち有り余るほどの林檎が山から山へ選ばれた。







餓えに餓えていた農民たちは瑞々しい林檎の山に目を見開き、
老若男女は飛びついて、まず、丸かじりした。
「何日ぶりの食べ物じゃろう」
「むむ、歯ごたえがあって美味えのう」
「生き返る思いじゃ」
「五臓六腑に沁み渡るとはこのことじゃ!!」
 皆、生き生きとして大人は子どもにも与えてやっている。
農民だけでなく領主たちも皆、飢えているところを、
この林檎の山で潤った。
井戸からはまだまだ林檎が湧き続けて止まらない。

三浦春馬氏イメージ小説「姥捨て山伝説」青リンゴ 第八章

2020-04-29 08:30:38 | イメージ小説
     第 八 章(全十一話)

幾尺、下っただろう。
見上げる井戸の上の光が小さく見える。
「姫様、大事ございませんか?」
「はい」
「苦しゅうないケ? あ、苦しゅうございませんか?」
「はい」姫は 馬作の背中でクスッと笑って 




「それより 先ほどからそなたのマゲがわらわの鼻をくすぐって 
くしゃみが……くしゃみが……」
クシュンッと、姫の小さなくさめが井戸の中で何重にも響いた。
ふたりは笑いあって、さらに井戸の下へ下へと降りていった。
そこへ突然、馬作は足首を冷たいもので掴まれた。
「ひぇっ!!」
見下ろすと、井戸の底の暗闇から青白い手がにょっきり出てきて
足首を握っている。
手は二本、三本と 増えてくる。
「きゃ~~~~っ!!」
数十本までも増えた手は姫の足首やスネまで掴みはじめた。
馬作の腰や背中にも何本ものウデがまとわりつく。




ついにひとつの手が肩にかかり、濡れた黒髪、
白い額が肩越しに見えた時、
「ばあちゃん、助けてくれ~~~~!!」
 馬作の叫びに井戸を覗きこんだばあちゃんは

「これは……!餓えや寒さに耐えられず、
身投げした年寄の怨霊……」
ばあちゃんの眼光が異様な光を帯び、
「地獄へ去ぬ(いぬ)がよい。怨霊ども。
お前たちには気の毒と思うが、太陽の下に生きている若者たちを
地獄へ引きずり込む権利はお前たちには無い」
ばあちゃんの一喝に、馬作の肩にかかっていた 
白い手が力を緩めたと思うと、
次々と他のウデも力を失くして消えていった。
「ほう~~~~」
馬作と姫は心底、安堵したため息をついた。
姫の小さな胸からどきどきしているのを背中に感じる。
「もう、あの手はいなくなったど。姫様。
ばあちゃんが追っ払ってくれたらしい」
そして再び気を奮い立たせてそろりそろりと下っていく。





「あれは?」
 姫の声に下を見下ろすとようやく井戸の底に見えた、
どろんと黒い水面に鮮やかな薄みどり色の丸いものが 
ポコリと浮いている。
上からのかすかな光を受けて輝いている、
それは―――目を凝らすと林檎だ!!
たちまち漆黒の水面に黄緑色の林檎が
ポカリポカリと浮いてきて、
水面が見えなくなったと思うと 
どんどん増えて高く積み上げられていく。




★第九章に続く




三浦春馬氏 イメージ小説「姥捨て山伝説」 青リンゴ 第七章(全十一章)

2020-04-28 13:09:14 | イメージ小説
思えば、少し前に我がばあちゃんを背負って
姥捨て山に登ったこと、
こうして姫を背負うこと、どっちもその命を
あずかってのことなのだが、因果応報を感じる。




ばあちゃんを捨てなければならなかったのは姫の領主の命令。
姫を背負うのは井戸のナゾを暴いてばあちゃんを家に戻すため。
馬作は領主の家来、数人に釣瓶(つるべ)を下してもらい、
積み石に囲まれた丸い井戸の中へ降りていった。
その年、村はかつてない飢饉に見舞われていた。
昨秋の野分(のわき・台風)による河川の氾濫で田畑は 
ほとんど水害を受け、粟も稗(ひえ)も、
麦も収穫できない有様だった。
冬から春にかけては雨が降らず、畑の種まき、
田植えの時期になっても水不足でままならない。
農民たちは、いつもに増して飢えていた。
領主も頭を抱えていた。
いつ、農一揆がおこっても不思議はない。
ようやく姫の身体が回復したのは、そんな時だった。




井戸を下っていく馬作と姫を見守りながら、
ややマシな着物を借りて着替えたばあちゃんが 
領主の前に進み出て膝を折った。
「オラ、いえ、私はただの村の老女でございますが、
ふと思い当たる節がございまして」
「何じゃ?申してみよ」
「古井戸にある何かというのは村に繁栄を
もたらすものかもしれねえし、
また災厄をもたらすものかもしれねえ、
という気がするのですじゃ」
「なに?繁栄か災厄とな?正反対のものではないか」
領主は老女をじろりと見て、唇をひん曲げた。
「きっと賢しい姫様はお気づきなのでしょう。
それをどうにかしなければ村の運命を 
左右するものでございましょうから」
メリケン一行も、老女の持つ雰囲気から
神妙な顔つきで取り巻いて見守っている。
「老女、そこへなおれいっ!!」
領主の怒号が飛んだ。家来が持っていた刀を鞘から抜く。
(ちと、カッコよすぎ)
「ご無礼の段は 重々承知の上でございます。
こんな年寄をお斬りになってもお刀を穢すだけ」
「うむむ……」
「姫さまはきっとナゾの一端をつかんで
お戻りになられるですじゃ。
マゴの馬作は貧しい育ちでも正義感強う育ててございます。
命に代えましても姫様を守り地上へ帰り着くと信じております」



伏せられながらも、老女の目は爛々と輝いて 
マゴの青年を信じている。まるで神社の巫女か仙女のようだ。
領主を始めとして、一同は圧倒されてひと言も返せないという 
気迫が老女からあふれていた。

三浦春馬氏イメージ「姥捨て山伝説」 青リンゴ 第三、四章

2020-04-26 09:12:15 | イメージ小説
      第 三 章 (全十一章)

 秋が来た。
 やっと涼しい風が吹く頃、馬作が育てている林檎の樹に実が成った。
 黄緑色の美しい林檎だ。
 ばあちゃんにかつて持たせたちょっと珍しい青い林檎だ。

 一本の樹にかなり実がなり、喜びいさんだ馬作は
真っ先にばあちゃんのところへ持って行った。
ふたりでそろって丸かじりする。
ばあちゃんはまだ歯も丈夫だ。
「うんうん、こんなに瑞々しくてうまい林檎は初めてだ」



 そんな時、遠くの港町にアメリカという国とやらからの一行が
到着したらしい。
こちらの村に向かっているとか。
なんでも、村の領主の病の床にいる娘の
見舞いに来ることになったとやら。

 山のばあちゃんは、 
「姫さまが誰よりも苦しんでいる。このリンゴをお見舞いに献上しなさい」と、
馬作に命じた。
 城へ行くため、しぶしぶ馬作は、庄屋の息子から
一張羅(いっちょうら)を借りた。
金ぴかの羽織袴で、気後れするにもホドがあるが、
いつもの野良着よりはマシだろう。


(そこまでいじくりまわさくてもよかんべ)と思いながら
悪い気がしなくなってきた。
 しかし、鄙(ひな)には稀な美貌にこのセンスの
無いいでたちは誰の目から見ても悲壮感さえ 
感じられるのだが、本人はとにかく領主に失礼に当たらないよう、
だんだん思い直し、正装した気分でいる。
てか、すっかり「なるしすと」気分。




 領主の家は大きな屋敷だが、ご一新前は小さな大名だった。
姫様には会えずとも、屋敷内へ入れてもらえ、奥女中に
持参した林檎を渡すことが出来た。

 時も時、アメリカ一行が領主の屋敷に到着し、
馬作はその現場を目撃した。
 黒いカッチリした制服、眩しい金魚の髪の毛、
目は空のような青、お酒で酔ったような真っ赤な顔。
見上げる高い鼻、鷲鼻。

 そんな男たちが三十人ほどやってきたので、
屋敷の奉公人たちまで 固まってしまった。
「姫様がご病気と伺い、お見舞いにやってまいりました」
~~と、アメリカ人一行の言葉をお付きの日本語係が言う。

 急いで領主が大広間へやってきて平伏した。
 馬作が襖の隙間からのぞき見していると、アメリカ人の大将らしき男が
馬作の持ってきた林檎に気がついた。
「これは!私が子どもの時、グランマがパイを焼いてくれて、
高熱が下がった時の林檎だ!!」

「なんですとっ!では我が姫の病もこの林檎で治るやもっ!」
領主が叫んだ。
「すぐに船から調理人を呼びましょう。
姫様にお元気になってもらわなければ」と、大将が言う。
 たちまち慌ただしくなり、屋敷の台所にアメリカの調理人が呼ばれ、
林檎も運び込まれた。

*******************************
     第 四 章

 年寄を山に捨てる慣わしを、馬作の林檎から
小耳にはさんだアメリカ大使が、
「何ですと?この村ではそんなヤバンなことをさせているのですか?」
 領主は真っ青になった。
 ここでアメリカ人に嫌われては村の繁栄はパーになる。
しかし、貧村が生き延びるために戦国時代から
続いてきた慣わしなのである。

「いや、何かの間違いです!
この若造はきっと酔っぱらっているのでしょう」
「誰が酔っぱらって!酒なんぞ買う余裕もねえのにっ」

 領主は慌てて馬作を向こうに連れて行かせ、縄で縛った。
 アメリカ人一行を奥座敷に閉じ込めてから領主は、 
再び縛られた馬作のところへやってきた。
「よけいな口を聞くでない。本当ならムチ打ちの刑だぞ」
「いえ、申し直しましょう」
馬作は両手を後ろで動かしながら地面に座りなおした。
「お願いいたしますだ。領主さま。年寄を山に捨てる慣わし、
取りやめていただきたいです。
村の衆も皆、切にそう思っているはず」

「じゃから、この貧しい村を裕福にしようと、
アメリカ様ご一行に来ていただいたのじゃ」
「えっ!?では…」
「おぬしの持参した林檎が姫の病に効いて、もし治るのなら 
年寄山捨ての慣わしは廃止しよう」
 でっぷりとした領主はヒゲをいじり、ふんぞりかえって言った。
「ほ、本当でございますかっ!!」
<これでばあちゃんも村に帰ってこれる!!>
 馬作の顔が耀き「ぶいさいん」が出た!!



「ととさま……」
 その時、障子の隙間から小さな白い顔が覗いた。
「おおっ、姫ではないか!おとなしゅう寝ていなければいかん!」
「その若者は、わらわのために青い林檎を
持ってきてくれたのでしょう。異人さんのお話では
焼きリンゴの お菓子をいただけば病に効くらしいではないですか。
乳母から聞きました。どうぞ、その縄をほどいて
自由にしてやって下さい」

コホンコホンと咳をして、顔が青ざめている。
「わ、わかった、わかったから無理せんでくれ。姫」
市松人形のような漆黒の髪、熱のせいだろうか、潤んだ瞳。
ぱっちりとした濃いまつ毛。紅い頬。
 人間と思えないような美しい女の子だ。
(村で走り回るガキ共に混じっている女の子とは全然違う)
 馬作が、ボウッと見惚れていると、縄は解かれた。


★第五章に続く