油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

エイプリル・フール

2021-04-01 23:36:16 | 随筆
 コロナ禍の世の中。
 「三密」回避の大号令が大手をふってま
かりとおる。
 マスコミは、日々の感染状況を、こと細
かに知らせる。
 人々は、ますます恐怖をつのらせ、彼ら
の行動が萎縮するばかりだ。
 まさに新型ウイルスとの戦いのさなかで
ある。
 外出するのに、気を遣う。あわてている
時はなおさらである。
 マスクを着用しているかどうか気になっ
て、思わず、口のあたりを指でまさぐった
りする。
 この日の夕刻のこと。
 「お父さん、マスク忘れちゃった」
 家内の言いつけで、夕食のコロッケを買
い求めに行こうと走り出した車内で、助手
席に乗った息子が言った。
 何かとんでもないことをしたというよう
な顔で、目を丸くする。
 「そうか。それなら仕方ない」
 わたしは真剣な表情で答え、五、六十メ
ートル、車を慎重にバックし、家の玄関か
ら彼が現れるのを待った。
 どうやら、マスクなしでいるときに、息
子は誰かにそのことを指摘されたことがあっ
たらしい。
 よほど叱られたか、それとも……。
 わたしも曲がりなりにも親。息子の苦渋
が見て取れた。
 さて、エイプリルフール。
 今日は、四月馬鹿である。
 昔は、互いに罪のない嘘をつき、友人同
士互いの親交をふかめあうきっかけになっ
たりしたものだ。
 しかし昨今では、わたしたちが若かった
ころほど、若者の間で人気がない。
 もともと、これは、外国から来た風習。
 日本へは、大正時代に伝わった。
 だが、その意味内容がまったく違った。
 「不義理の日」だった。
 ふだん、義理を欠いている人に、手紙な
どで挨拶して、ご無沙汰をわびたという。
 フランスでは、新年を四月一日として祭
りを開催していたが、1564年にフラン
ス王シャルル9世によって、一月一日を新
年とするグレゴリオ暦が採用された。それ
に反発した人々が、四月一日を「嘘の新年」
としてバカ騒ぎするようになり、エイプリ
ルフールの風習となった。
 (インターネット調べ)
 興味のある方は、スマホで調べられると
いい。
 いま一度、わが家の夕刻にもどる。
 ほんの少し前、マスクの不着用などまっ
たく問題にならないし、その値段が急に天
井知らずにあがるなんてことは考えられも
しなかった。
 「マスク?どうしてつけるんだい。風邪
でもひいたのか。咳がコンコンでてるんな
らしょうがないけど、むりしてにつけなくっ
たって、わざわざ家まで引っ返すこともな
いだろが……。それともお父さんこと、か
ついでるのかい。確かきょうはエイプリル
フールだったね」
 そう言って、息子をなぐさめてやること
ができた。
 そんな日が、つくづく懐かしいと思う。
 
 
コメント (2)
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