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黒猫 後編

2008年09月27日 00時23分12秒 | その他翻訳
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黒猫 by エドガー・アラン・ポー(後編)

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次は、この惨劇のそもそもの原因となったあの猫を探すことだった。かならず殺してやると心にきめていた。見つけられたら、その瞬間に運命は決まっていただろう。ただあのずるがしこい猫は、僕の怒りを察知したのだろう、姿をみせなかった。あの嫌でたまらない猫がいないことが、僕に与えた心の底からほっとした深い安堵感は言葉では言い表せないし、あなたには想像もできないだろう。夜も姿を見せず、その猫を家につれてきて以来、初めて一晩を心安らかにぐっすり眠った。あぁ、人を殺した重荷を魂に背負いながら、僕はぐっすり寝たのだ。

二日目、三日目とすぎたが、僕を苦しめる猫は姿をあらわさなかった。ふたたび僕は自由の身になった気がした。あの怪物は恐怖におののき、この家からでていったのだ。もう二度と姿を目にしなくていい。僕は幸せの絶頂だった。犯した重大な罪は、ほとんど気にならなかった。尋問もうけたが、造作なく答えられるようなものだった。家宅捜索もあったが、むろん、なにもみつかるはずもない。僕の将来は確実にかがやいているように思われた。

殺人から四日後に、まったくの不意をつかれて、警官の一群が家にやってきて、再び家を徹底的に調べていった。でも僕の隠し場所はわかりっこないので、なにも動揺することはなかった。警官は僕も捜索に同行させ、隅から隅までくまなく調べ上げた。とうとう三度目か四度目になるが、地下室にもおりていったが、僕は微動だにしなかった。心臓も無罪の人さながらに、まったくどきどきすることはなかった。僕は地下室を端から端まで歩き、腕をくみ、あちこちをうろついた。警官は捜索にすっかり満足し、ひきあげようとした。僕の喜びはおさえられないくらい強くなり、なにか一言勝利のしるしを口にだし、僕の無罪をはっきりさせたいと思った。

「みなさん」警官が階段を上ろうとしているとき、ついに僕は口を開いた。「疑いが晴れたようでうれしいです。みなさんの健康と、あとはもう少しばかり礼儀正しくしていただけるとうれしいんですけどね。それはそうと、みなさん、この家はいい造りじゃないですか」(なにかをとにかく言いたくてたまらなかったため、自分でも何を言ってるのか分からなくなっていた)「僕は、とてつもなくすばらしい造りだといいたいですね。この壁は、行っちゃうんですか? みなさん、この壁はしっかりしてますよ」そして、僕は熱狂のあまり、手に持っていた杖で、塗りこめられている僕の妻の胸の部分にあたるあたりを強くたたいたのだった。

あぁ、神よ、魔王の牙から僕をしっかり守りたまえ。僕の壁をたたいた音が静寂の中を反響するやいなや、墓の中から声が聞こえてきた。叫び声が、最初ははっきりせず子供の泣き声のようにとぎれとぎれだったが、急に長く大きな叫び声に変わった。奇妙な声で人間のものとは思えないようなうなり声で、半分恐怖におびえ、半分勝ち誇ったようなけたたましい金切り声だった。地獄に落ちて苦しむものの喉から搾り出される声と、地獄に落ちたことで喜ぶ悪魔の声がまざりあったときのような声だった。

僕の気持ちは言うまでもない。気が遠くなり、反対側の壁によろよろともたれかかった。一瞬のあいだ、階段の一段も恐怖と気味の悪さで足がすくんでいたが、次の瞬間には力強い腕が壁を壊していた。壁ははがれおち、ひどく腐敗して血まみれの死体がみなの目の前に現れた。その頭の上には、赤い口を大きく開け、火のような片目の、あの呪われた獣が座っていた。この獣の仕業が僕を殺人へとおいやり、その声が僕を絞首台へと向かわせた。僕は墓場に、猫も塗りこめてしまったのだ。


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1 コメント

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はじめまして (kazuchan)
2014-02-17 09:02:23
趣味で英語の勉強中の者です。(資格もなにもない初心者です。)
実は私も黒猫を訳して自分のブログにアップしていました。アクセス解析の検索アドレスからこちらのページにお邪魔しました。

私も、なんとかわかりやすい現代の日本語で訳したいなあと思って取り組んだのですが、結局わけのわからない訳になってしまったところがたくさんあり、あらためて翻訳のむずかしさを実感しました。
主様の翻訳を読ませていただき、「あ~~~」と目からうろこが落ちた気分です。
これこそ私がしたかった訳だ!と感激しました(笑)

こちらのブログの更新は止まっているようですが、もうコメントも見ていただけないかな、と思いつつ、書かせていただきました。

また時間のある時に過去記事を読ませていただきます。
すばらしい翻訳を公開していただきありがとうございました。
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