今こそヘルスケアを By PAUL KRUGMAN 2009.1.29
全世界が不況に陥っている。ただ世界中の豊かな国の中でアメリカだけが、経済の破綻がイコールヘルスケアの破綻になっている。何百万もの人々が仕事と同時に健康保険をうしない、必要不可欠な手当てさえ見てもらえなくなる。
ここで疑問がわきあがる。なぜオバマ政権は少なくともこれまでのところ、昨年の大統領キャンペーンの公約の一つに触れないのだろう? すべてのアメリカ人にヘルスケアをもたらすという公約についてだ。
さしせまっているヘルスケアがもたらす被害の大きさについて話しておこう。
オバマ政権のものもふくめてすべての経済の見通しは、非常に高い失業率が長い間続くだろうとしている。高い失業率は、健康保険をなくすアメリカ人の数が急増することを意味している。
経済がこの10年のはじめに不況になっていらい、500万人が保険なしの人々の仲間入りをした。これは失業率がたった6.3%でのできごとだ。今回は、オバマ政権はその経済刺激策をもってしても、失業率は8%に達するだろうし、2012年までは6%以上になるとしている。多くの独自の見通しはそれよりもっと悲観的だ。
それなら、なんだってわれわれは医療がちゃんと受けられるように保障することについてもっと耳にしないのだろう?
この問題に関心があるものなら、政権が何も語らないことについて多くを読み取ることができるが、オバマがヘルスケアに積極的ではないらしいという3つの議論を論じて、なぜそれが間違っているかを説明しよう。
第一に、だれもが医療をうけられるように大幅な拡張を行うことは、今現時点では高くつきすぎるというものがいる。経済を救うために大金をつぎこまなければならないのにというわけだ。
コモンウェルスファンドによる調査が示しているところによれば、オバマのキャンペーンが提案したのと同じくらいすべての人をカバーしようとするとするのには、「たった」2010年の連邦支出で1040億ドルほどしかかからないとのこと。もちろん少額とはいえないが、たとえばオバマの経済刺激策の減税と比べればそう大きいとはいえない。
全国民が医療を受けられるようにするコストが、将来までずっと続いていく支出であることは確かだ。ただそれはいつでも確かなことだし、オバマはいつも彼のヘルスケアプログラムは手ごろなものだと主張している。経済刺激計画の一時的な支出がその計算を狂わせることはないだろう。
二つ目に、オバマに近い人々には、ヘルスケア改革の優先度は、経済危機に瀕しては決して高くないと論じるものもいる。
全国民が保険を受けられる一環として、家計が健康保険を買うのを助けることは、少なくとも経済を上向かせるには、およそ経済刺激策の三分の一を占める減税と同じくらい効果的と言えるだろう。それはまた、危機を乗り切ろうとする家計を直接助けるという追加の便益ももたらすし、アメリカの家計の現在の不安の大きな要素の一つをなくすことができる。
最後に、私が思うにはこれが政権がヘルスケアについて言及しない本当の理由ではないかと思っているが、今はヘルスケアの根本改革を推し進めるにはいいタイミングではないという政治的な議論がある。その理由としては、国民の注意が経済危機にむけられているからだと。ただ歴史がなんらかの助けになるとしたら、この議論はまったく間違っている。
別に僕の言ってることを信じろって言ってるわけじゃない。首席補佐官のラーム・エマニュエルはこう言っている「全てが台無しになる深刻な危機を望むものはいない」。とくにフランクリンルーズベルトは、大恐慌が社会のセーフティネットの必要性を高めたことが理由の一部で、社会保障を法制化することができた。そして現在の危機は、セーフティネットに空いている大きな穴、とくにヘルスケアのそれを修復するいい機会が訪れているともいえるだろう。
とくにオバマは、ビルクリントンの失敗を繰り返したくないと心底思っているだろう。そのヘルスケアの推進が失敗した理由の一部は、あまりに歩みがのろかったせいでもある。その政権が法制化しようとしたときには、経済はすでに回復しており、緊急度合いはなくなってしまっていた。
もうひとつ理由がある。この国には一般大衆の怒りが蔓延している。アメリカ人は普通の人々が苦しんでいる横で、銀行に大量のお金がつぎこまれるのをみてきた。
僕は、こうした大規模な金融の救済策が必要だという政権の担当者には賛成だ(もちろん細部に異論はあるが)。でも下院金融サービス委員会の委員長のバーニー・フランクのいうこともわかる。彼は、社会的な正義と同様に政治的な必要性があることとして、銀行を助けることとセーフティネットを強化することはともにやられるべきだと、それがアメリカ人にとっては政府が豊かで権力があるものだけでなく、全員を救うことを意味すると言っている。
したがって結論としては、ヘルスケアを保証するキャンペーンの約束をひそかに忘れている場合ではないということだ。とくに今こそ国民皆保険について中心課題としてとりくむべきだ。今こそヘルスケアを。
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