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50人のハーバート・フーバー by Paul Krugman 2008.12.28

2009年01月02日 16時43分35秒 | ポールクルーグマン

50人のハーバート・フーバー by Paul Krugman 2008.12.28

アメリカの大統領で1932年の財政上のまちがいをくりかえすものはいない。1932年に連邦政府は厳しい不況のさなかだというのに、財政バランスをとろうとしたのだ。オバマ政権も経済危機とたたかっている間は、財政赤字のことはしばらくおいておくしかない。

しかしワシントンの官僚でさえ経済をすくいだそうとしているのに、この国では50人のハーバートフーバーの行動でゆらいでいる。州知事たちが、不況にさいして支出をきりつめ、もっとも価値のあるものや国の経済の未来を犠牲にまでしているのだ。

こうした州レベルでの小さいレベルでは残酷な行為といえるものから規模が大きければパニックといっていいような削減は、南カリフォルニアの青少年司法プログラムの廃止、少年院から刑務所へと若年犯罪者を移すようなものから、カリフォルニア州の支出をつかさどる委員会が、半年のすべての建築への支出をストップさせる決定にまで及んでいる。

州知事がばかだといっているわけではない(すくなくとも全員が)。必要があるので削減しているわけだ。州知事は財政上のわなにかかってしまっている。ただここはしばらく一歩はなれてみて、どんなに今公共サービスや公共投資を削減することが国家的な視点から見てばかげているか、よくかんがえてみるといい。

考えてみよう。州政府でなく、アメリカ国家としてのアメリカが一、二年前と比べて問題のある青少年や、家族への医療や、壊れた道路や橋を直すことができなくなっているだろうか? あきらかに答えはノーだ。われわれの能力が落ちているわけではない。労働者のスキルがないわけでもない。技術上のノウハウだって損なわれたわけじゃない。なんだっていままでどおりのことを続けられないんだ?

経済が現在縮小しているのは事実だ。でもそれは民間支出での不況の原因によるもので、公共支出での削減もおこなって問題を大きくするのはばかげている。

事実、政府プログラムの実質コストは、特に公共投資においては、好況のときよりはるかに安く上がる。経済が好況のときには公共投資は民間部門と少ないリソースを競い合わなければならない。熟練労働者や資本なんかをだ。でもいまでは、インフラでやとっている多くの労働者は、そこでやとわれなければ失業するだけだ。そしてこうしたプロジェクトに借りているお金は、そこで借りなければ遊んでいるだけになる。

そしてより多くのアメリカ人がセーフティネットを必要としているときにそれをズタズタにするのは、残酷というだけではない行為だ。経済をより下降させる重要なファクターのひとつである不安感をあおることになる。

だからなんでこんなことを一体全体してるんだ?

もちろんその答えは、州や地方政府の歳入は経済とともに急に落ち込んだからだ。そして連邦政府とは異なって、地方政府は借金でこの危機をのりきることはできない。その理由の一部は連邦政府とはちがって、均衡予算のルールに従わなければならないからでもある。ただそれにしたがわなくても、一時的な赤字をうまくやっていくことはきわめて難しい。というのも投資家たちは、恐怖にかられて、連邦債権以外を買うことを拒否するだろうし、そうした州はお金を借りようとしたら懲罰的に高い利率を払う必要があるからだ。

知事たちはこうした苦しい立場に責任があるものだろうか? ある程度はあるだろう。とくにアーノルド・シュワルツネッガーは批判に値すると思う。かれがはじめて州知事に当選したのは、前の州知事の予算上の問題に対して有権者が怒ったためだ。でもかれは、州の財政上の未来を守るために何もしなかった。そしてグレイ・デービスが直面しているより、はるかに突出した赤字に直面している。

でもうまくやってきた州でさえ、深刻なトラブルに直面している。どちらにせよわれわれは、数名の地域の政治家たちをいじめるために市民や経済を罰したりするべきではない。

なにかできることはあるか? オハイオ州知事のテッド・ストリックランドは、連邦政府の州への助けを3つの方面にふりわけている。最も助けが必要な人たちへは、食料配給券とメディケイド(低所得者向けの医療扶助制度)の形でお金を出している。それから州、地域レベルのインフラプロジェクトへ連邦政府のお金をつぎこんでいる。最後には、連邦政府の助けを教育へとむけている。これは正しいことで、もしストリックランドのやっていることが数限りなく多かったら、それが危機になる。

いったん危機がせまってきたら、主要な公共サービスへの支払いを考え直さなければならない。

国としては、われわれ市民が基本的なヘルスケアなしではやっていけないことがわかっている。でもなぜメディケイドにより多くのお金をだしているのが州からやってきていて、その州はもっとも助けが必要なまさにそのときにプログラムへのお金を削減しようとしているのか?

教育のある市民は、国の重要なリソースだ。それなのになぜ地方政府による基本教育への主要な支払いが、経済が難局になるたびに次世代を無視するようになってしまうのか?

インフラは何十年と役にたってくれるにもかかわらず、なぜインフラへの投資は短期的な予算の変動の犠牲になってしまうのか?

そうしたことは後回しでもいい。現在、最優先にしなければならないことは、50人のハーバート・フーバーの攻撃と戦うことだ。そして州の財政上の問題は危機を悪化させないことをはっきりさせることだ。

クルーグマン ミクロ経済学




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