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泥沼に足をとられて By PAUL KRUGMAN 2009.1.22

2009年01月25日 12時57分32秒 | ポールクルーグマン
泥沼に足をとられて By PAUL KRUGMAN 2009.1.22

ビジネスや金融に関心がある人みなと同じように、ぼくも経済にものすごく不安をいだいている。前途に明るい希望を持つ人みなと同じように、僕もオバマ大統領の就任演説が、安心をあたえてくれて、少なくとも新しい政権がこのことについて何かは言ってくれるだろうと希望していた。

でもそうはならなかった。僕はこの火曜日の夜の時点で、朝のときよりずっと経済政策の方向性についての自信をうしなっている。

はっきりしているのは、演説にあきらかな誤りがあったわけではないということだ。オバマが国民介護保険への道のりを示してくれるという希望をもっていたものにとっては、健康保険のコスト高を指摘したにとどまって、保健がない人たちや一部しか保健がない人たちの苦境にはまったくふれなかったのは残念というほかない。

そして、「責任の時代」を求めるよりもっとぴんとくるようなことをスピーチライターが思いついてくれることも希望していた。べつにけちをつけようってわけじゃないが、前大統領のジョージ・W・ブッシュが8年間言ってたことと同じじゃないか。

でも僕がこの演説で本当に問題だと思ったのは、経済に関してのことが、従来の慣例の延長線上にとどまっていたことだ。いまだかつてない経済危機なのに、もっと正確に言えば、大恐慌以来の本当の危機に対応するのに、オバマはワシントンの人たちが深刻に見せたいときにするようなことをしたにとどまっている。オバマの話し方は、まぁいってみれば、特別な問題に厳しい選択をして耐える必要がありますと話しただけだ。

それだけじゃ十分じゃないし、事実をいえば、それは正しくもない。

演説で、オバマは経済危機の理由の一部が「新しい時代の国家への厳しい選択や準備をみなが怠った」ことにあるとした。でも僕にはオバマが何のことを言ってるのかさっぱりわからない。これは、なによりもまず、暴走した金融機関が引き起こした危機といっていい。そういった金融機関を管理するのを怠ったのなら、それは「アメリカ人みな」が厳しい選択をしなかったことにその理由があるわけではないだろう。アメリカの大衆には何が起きているのかわかってなかったし、何が起きてるのかわかっていた人たちもほとんどみな、規制緩和はいい考えだと思っていたんだから。

オバマの演説のこの部分を考えてみよう「労働者は、危機がはじまったときより生産性が落ちている。やる気もうしなっているし、財やサービスに対する需要も、先週、先月、昨年よりあきらかに落ちている。われわれの能力が衰えたわけではない。でも昔からのやり方を変えないことや、一部の特定の利益を守ったり、いやな決断を先送りしたりする時期は明らかに終わった」と。

この文章の最初の部分は、ジョン・メイナード・ケインズが大恐慌に陥った世界を書いた言葉とほとんど同じといっていい。条件反射的に政府の存在を否定するような時代のあとでは、新しい大統領が、ケインズに敬意をしめすのを聞くのはすごくほっとすることだ。ケインズはこう書いている「自然や人間の機械のリソースは、昔とかわらず、潤沢だし、生産的だ。生活の物質的な問題を解決しようとする進め具合もべつにかわっていない。全員に豊かな生活を送れるようにするだけの十分な能力がある。でも今はみなが大きな泥沼にはまってしまっている。どうやって動くのかよくわかっていないデリケートな仕組みにとらわれてまごついている」

ただケインズから言葉をもってくるときに、オバマは失敗してしまっている。オバマもケインズも、現存の経済能力を活用することに失敗していると考えているところまではいい。でもケインズの洞察は、みんながよく言うように、われわれみなが間違っていたとか、もっと自分自身に厳しくしなければといった決まり文句ではなく、われわれは修復することができる「泥沼」にはまっている、ということを見抜いた点にある。

思い出してみよう。ハーバート・フーバーは好まない決断をしないなんてことはなかった。大不況下で、勇気をもって、強固な意志で支出を削減し増税した。不幸にも事態はもっと悪くなるだけだった。

もちろん、演説はただの演説に過ぎない。オバマの経済チームのメンバーはわれわれがはまっている泥沼のおどろくべき性質についてよくわかっている。ただ、火曜日の演説の論調は、オバマ政権の将来の政策についてなにも重要なことは示さなかったということだ。

その一方で、オバマは前任者が言ったように、決めなければならない。近々に大きな決断をしなければならないだろう。特に、金融システムを支える姿勢においてどれくらい確固たる姿勢を示さなければならないか決めなくてはいけない。経済の行方は急速に悪化して、驚くべき数のエコノミストが、別に全員がリベラルではないが、危機を解決するにはいくつかの大銀行を一時的に国有化する必要があると論じるだろう。

オバマにはその準備ができているだろうか? それとも就任演説の決まり文句は、事態の動向をつかもうといままでの見方にとらわれて待ちの姿勢をとることを示しているのだろうか? もしそうなら、オバマ政権は危険なほど後手後手にまわってしまうことになるだろう。

われわれが新しいチームに期待しているのはそうではない。経済危機は、週ごとに悪化の一途をたどっていて、解決するのも日々だんだん難しくなる。もしすぐに断固たる手段をとらなければ、かなり長い間、泥沼にはまったままになってしまうだろう。



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2 コメント

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些細な誤記の指摘ですが… (774)
2009-01-27 13:52:02
達意な翻訳に感謝しつつ。

×:オバマはワシントンのhとたちが
○:オバマはワシントンのひとたちが
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ありがとうございます (kkt_2008)
2009-02-01 14:58:36
非常に助かります。
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