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不誠実な経済 By PAUL KRUGMAN 2009.1.25

2009年01月28日 22時14分23秒 | ポールクルーグマン
不誠実な経済 By PAUL KRUGMAN 2009.1.25

オバマ大統領の経済刺激プランをめぐる議論が行われて、ひとつ明らかになったことがある。敵対候補のプランの多くが誠実に議論されていなかったということだ。保守派は、心の底から、第二のニューディールを見たくなかったというわけで、政府がきちんと活動できることが立証されるのをみたくなかったというわけだ。手当たりしだい、政府の支出をふやす提案をうちまかせる魔法の杖に手をのばしたのだ。

そうした議論のいくつかは、明らかにだましうちといってもいい。下院の少数党院内総務のジョン・バウナーはそのひとつでニュースのネタになっている。インフラを立て直し、基本的なサービスその他を支えるのに8250億ドルをつかうプランをみて、メディケイドの家族計画指導を拡張するささやかな条項をあざけって、そのプランを「何百万ドルを避妊につかう」ものだと言ったのだ。

しかしあきらかなだまし討ちは、おなじくらいいかさまなのに、経済や数字に詳しくないものには一見もっともらしくみえる議論や断言ほどにはオバマ政権のプランを成立させようとする努力に危険なものではない。公共サービスとして、すでにそのいくつかはそこが割れているが、反刺激プランの議論のいくつかが誤りであることを説明しよう。

誰かがこういった議論の一つを話すのをきいたときには、そんなのは不正直な宣伝だと見切りをつけてしまっていい。

第一に、オバマのプランが一つの仕事を作り出すのに27万5千ドルをかけるのだと間違った指摘をしているものがある。なぜこれが間違っているか? その議論は何年にもわたり、毎年何百万もの仕事を作り出す計画にもかかわらず、そのうちのたった一年で創出される仕事で割り算をしているからだ。

それはこのようなものと考えてもいい。相手方の学校のランチプランが以降5年のコストを見込んでいるのに、それを一年のランチの数で割るようなものだと。そしてそのプランが壮大な無駄遣いと論じるわけだ。なんといっても一回のランチあたり13ドルがかかるからと(じっさいには、学校のランチをタダにするには2.57ドルしかかからない)

オバマのプランの一つあたりの仕事を創出するコストは、たぶん27万5000ドルよりは10万ドルに近い数字だろう。経済が復興して、税収も増えることを考え合わせれば、純粋にかかる金額は6万ドルほどだと思われる。

次に、政府の支出を増やすよりは減税をするほうがつねに正しいんだと断言するやつらをやっつけよう。その根拠は、官僚より納税者がどうやってお金をつかうかはよく知っているからだというものだ。

この議論についてどう考えればいいのか。航空管制システムをとめればいいといっているようなものだ。結局、そのシステムは航空運賃で賄われている。飛行機に乗る人たちは、そのお金を政府の役人にわたすより自分で持っていた方がいいことになる。そのおかげで空中衝突が起こったとしても、それはなるようになったというわけだ。

ポイントは、常に減税の一ドルの方が公共支出の一ドルよりいいと信じているものは誰もいないことだ。その一方で、経済の刺激に関しては、減税よりも公共支出が見合うだけの価値があるということは明らかだし、(さきほどのだまし討ちの議論をみても)一つの仕事を作り出すコストは公共支出の方が安く上がる。なぜならどんな減税でも大部分は貯蓄にまわってしまうからだ。

これがどんな刺激プランでも減税より公共支出が中核になっている理由だ。ただこの前提を受け入れるより、保守派は概して公共支出に反対する意味のない議論に安堵を見出している。

最後に、新政権の経済アドバイザーの中核メンバーが過去に不況への対策として財政政策より金融政策を好んでいたという事実をとりあげようとする輩は無視しよう。不況への通常の対抗手段が連邦銀行の金利切り下げであって、政府の支出でないことは事実だ。今でも可能なら金利切り下げが最善の手段だろうが、1930年代以来の未曽有の事態なので、それが当てはまらないだけだ。連邦銀行がコントロールできる金利は実効上ゼロになってしまっている。

これがわれわれが大規模な財政支出を論じている理由だ。連邦銀行が行き詰っていて、武器庫に残っているのがこれしかないわけだ。それにふれずに財政支出に反対する昔ながらの議論をくりかえすのは、この議論について大して知識がないだけ、つまりこの議論に重きを置いてないだけではなく、わざと頭が悪いふりでもしているのだろう。

ここにあげたのは、経済刺激プランに反対の根本的にいかさまの議論のいくつかだ。基本的に、保守派は、オバマのプランに反対できるのに思いついたものはなんにでも、なにかけちがつけられないかと、難癖をつけてくる。

ただこれが事実だ。ほとんどのアメリカ人は耳を傾けていない。最近耳にした中で一番励まされたのは、オバマが政府支出が中心の経済プランに対する共和党の反論に対してコメントした言葉、つまり「私は勝利した」だ。実際そうなのだから、オバマは負けた者がぶつぶつ言っているのは無視すべきだ。


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