めざめ3
人生が通り過ぎてしまう前に(部分)
きみはもう、そんなつまらない顔しないよね?
だってきみは、もう、人生がやり直しのきくものだって知ってるものね?
だってきみは、もう、自分の人生をどうやり直したらいいか、知ってるものね?
だってきみは、自分が何をやりたかったかって覚えているでしょう?
忘れちゃったの?
ホントかなァ?
きみは、覚えてると思うよ。
きっと覚えてるサ。だってきみのしたことだもの。
思い出せるよ。
目をつぶるんだよ。
夢だって見るでしょう?
覚えてるんだよ。
だからね、思い出すんだよ。きっときみは覚えてるから。
思い出しながら、きくんだよ。きっときみが何をやりたかったか、覚えてるものがいるからね。
そいつの言うことに耳を傾けるんだ。そいつはきっと教えてくれるサ。
いいかい、もしもきみが、そこを通り過ぎていった時間達に出会ったら、「覚えてないか」ってきくんだよ。
黙って耳を傾けるんだよ。
やつらはなんでも知っているから、やつらに聞けばきっと分るサ。
ホントだよ。
サア、目をとじてごらん。
ホラ、いろんなものが見えて来るから。
見えて来たら、今度はチャンと探すんだよ。
探して、見つかったら、もう絶対に手を離しちゃいけないよ。
だってそいつは、きみが一番出会いたかったものなんだからね。
キチンと見つけるんだよ。まだ時間は、たっぷりあるからね。
でも、いつまでも目を閉じっ放しにしちゃァだめだよ。
だって人生はいくらでもやり直すことは出来るけど、でも人生は、きみが目をつむっていたら、いつだって簡単に通り抜けるんだからね。
もういやだよね?
きみだって、現実の中にいるんだものね。だから、きみだって、もうそろそろ、自分の人生を生きはじめたっていいんだよ。
じゃァね。
早くしないと、きみの人生が通り過ぎてっちゃうよ。
『シンデレラボーイ・シンデレラガール』 ― 橋本治 ―(1981・北宋社)