ロス:タイム:ライフ
~第3節 スキヤキ編~
今回、
鈴井貴之さんが監督ということと、
森崎博之さんが出演、そして
安田顕さんが声の出演ということで、楽しみにしていました
予告とか公式サイトなんかである程度の内容は解っていたのですが・・・
今回、開始10秒で滝涙でした。
いわゆる主婦ならではの感覚かもしれませんが、あのナレーションの一言で最初からけっこうきました。
ナレーションが終わり、ドラマ本編に入ってからは、肉の特売に向かうシーンなどけっこうコメディータッチに描かれていたので、幾分立て直したのですが・・・
今回の作品では、ごくありふれた家族の様子を鈴井さんならではのデフォルメ手法で、
節約、特売、スキヤキという、言ってみればちょっと昭和の香りがするキーワードに凝縮して表現されていたと思います。
風呂の湯の量から植物の水やりの水に至るまで節約し、家族からはケチと言われている主婦。(井原淑子:友近)
そして家族はそんな母親にいろんな面で気がつかないうちに依存している。
家計の事を考えず成人式の振袖をねだり、味噌汁もろくに作れない娘。
買い物を頼まれても買い忘れ、宅配便が来ても自分で出ようとせずトイレの中の母親を呼ぶ息子。
風呂上がりにパンツの場所もわからない父親。
そしてその事に対して、今まで特段不満を持つわけでもなく、自分の役目としてそれらをフォローしてきた母親。
おそらくどこにでも普通に存在する家族の構図だと思います。
しかし、特売に向かう途中で事故に逢い、死んでしまうことになった母親。
死ぬまでに残された人生のロスタイムは2時間29分。
その間に母親はどうするのか・・・
もし自分の人生に残された時間があと2時間あまりだとしたら、私ならどうするでしょう・・・
大好きな友達と、大好きなDVDを見ながらおいしいものを食べて過ごすか・・・
自分が死んだあとで見つかったら困るようなものを徹底的に処分するか・・・
それとも・・・
残り時間があと2時間29分となった井原淑子は、最後の時間を家族でスキヤキを食べることのために費やします。
特売では肉を買うことができず、最後だから・・・と思いきって特売コーナーの横にある高級牛肉を買う。
この
牛肉のスキヤキという、一見ごく普通のことのような、そんなに大したことでもないようなことが、
最後の時間を家族と大切に過ごすということを凝縮していたように思います。
頼んでいた卵を買い忘れて帰った息子に対し、井原淑子は妥協することなく買いに行かせます。
それは、卵のある完璧なスキヤキを最後にみんなで食べたい・・・ということだけでなく、今まで母親に依存し、家族の一員としての責任を果たしてこなかった息子にその責任を果たさせると同時に、今まで全て自分で片付けてしまって息子にその責任を自覚させてこなかった母親としての責任も自分でとることにしたのでしょう。
いずれ自分はいなくなる。
そうなることは既に明白なことであって、そうなってから家族が困らないように・・・という願いと、もどかしさとが淑子を混乱させたのでしょう。
おそらく私も、最後の時間は家族で過ごすことを選ぶと思います。
特別な思い出なんかはいらない。
毎日普通に、笑ったり、ケンカしたり、昼寝したり、食事したり・・・
そんな時間の延長のままで消えていけたら幸せだと思います。
息子に卵を買いに行かせたあたりからはずっと切なくて、胸が苦しくなりました。
鈴井監督の演出というのは、見ているその時だけでなく、見終わってからも後々まで感情が後を引きます。
そして、最後の一瞬に打ったメールも、結局家族のためで・・・
このシリーズのドラマは、主人公が最後には死んでしまうということがわかっているので、ロスタイムからの逆転はありません。
それだけに、ドラマの途中がごく普通の日常であればあるほどラストが切なく、だからこそ前回までの記者や刑事に比べて、主婦であるという普通さが余計に切なかったのかもしれません。
そんなわけで。
今回は監督が鈴井さん、スーパーの店長にモリ、解説に顕さんと、CUEの面々が大活躍でした。
それに加えて、私としては登場人物の友近さんと松澤さんが、二人とも松山出身のタレントさんだということも嬉しかったです。
長くなりましたが、このへんで。