甘裸哲学

哲学をするのに特別な知識は必要ありません。このブログはあなたの固定観念を破壊して、自由自在に考える力を育みます。

第三章【無能の能】

2013-02-08 23:15:37 | 自作小説
 僕は走って最初の部屋まで戻った。
 玄関の外は真っ暗、教壇のあった部屋もどうせ真っ暗。
 僕にはもう女の後を追いかける道しか残されてないはずだ。うん、絶対にそうだ。
 僕は反対側の通路へと足を進めた。ゆっくりと歩きながら息を整える。どうも興奮状態が収まらない。まあ、仕方ないか。
 通路に沿って歩いていくと階段にたどり着いた。上にも下にも行けそうだ。途中にいくらかドアがあったがどうせ大したものはないだろうから無視してきた。
 僕は階段を下に降りる。......あれ、暗いぞ。ああ、僕が馬鹿だった。階段を引き返し、二階へと登っていく。
 僕は二階をがむしゃらに歩き回った。怪物の死体が所々に転がっている。確かに臭いけど、そんなことは気にならなかった。
 二階を探索した結果、この施設について色々と分かったことがある。
 まず、この施設にはトイレがない。これは狂っているとしか思えないが、どうも費用が足りなかったらしい。
 また、あの怪物の多くは、それを生み出した甘裸自身の手で殺されたようだ。そしてそれを殺すのに使われた銃は、どうやら在日米軍からもらってきたらしい。甘裸が何者なのかは分からないが、そんなことができるんだからきっとヤバイ奴に違いない。にしてもこんなカルト宗教団体が平和な日本で危険な武器を隠し持っていたなんて恐ろしい話だ。しかし皮肉なことに、そのおかげで僕は弾薬も手に入れ、こうやって安心して探索を続けることができるんだ......。
 僕は一階に戻って無視してきた部屋を探索してまわった。案の定、階段のすぐ近くの部屋で懐中電灯が見つかった。急がばまわれ......か。もしかしたらこれで家に帰れるのかもしれないが、ここまで来てしまった以上、この施設を踏破したいと思う気持ちが強まってしまい、なかなかそういうわけにもいかなくなっていた。それに急がばまわれなんだろう? 帰るのは施設を全部見てまわってからでも遅くはないはずだ。地下に行きたい。僕は自分の欲求に従った。
 懐中電灯を片手に暗い道を進んでいく。本当に静かだ。耳が聞こえない人はいつもこんな感じなのだろうか......。
 歩いているとふいに何かが腕に触れた。びっくりして懐中電灯を向けるとそこにはあの怪物がいた。僕はとっさに銃を構えて撃つ。
 怪物は音もなく崩れ去った。油断していた。まだ生き残りがいるということを完全に忘れていた。ところであの女はどこに行ったんだろう? こいつらを無視して先に進んだのだろうか? 
 そんなことを考えているうちにまた何かが腕に触れた。僕は不意を突かれて地面に銃を落としてしまった。あの怪物に違いない。僕はポケットに入れていた血まみれのナイフを慌てて突き立てる。胸にナイフが刺さり、怪物は音もなく転がる。転がるときすら音がしないというのはとても不自然だが、そんなことを考えてる余裕はないだろう。
 僕は急いで銃を拾い、死体からナイフを抜き取る。......おっと、今気づいたのだがこいつは女だったようだ。顔は皆醜く、男女の判別には役に立たない。胸があるから女だと判断した。ああ、こいつらにも性別があるということを完全に忘れていた。今まで殺してきた奴らは全部男、あるいは貧乳だったのだろうか。それに、もしかすると、今殺した奴はニューハーフだったのかもしれない。ややこしいなあ。もう性別なんてどうでもいいじゃないか。うん、そんなもの関係ないはずだ。彼らは醜く平等になったんだ。
 それにしても、あの怪物に対しては全く性欲がわかなかった。女は顔が悪くても身体が良ければ愛せるものだと思っていた。僕が間違っていた。こんな怪物と交わる気には到底なれない。致命的な弱点があったらおしまいなんだな。僕はその場を後にした。
 懐中電灯を素早く動かしながら探索を続ける。いつどこから奴らが現れるか分からない。動きは遅いが奴らは音を立てずに近づいてくる。向こうは暗闇に目が慣れている状態で懐中電灯の光が目に入るのだから、当然こちらの存在に気づくはずだ。しかし、人間のように眩しく感じたりはしないようだ。奴らの目は劣化している。奴らの目に懐中電灯の光を当てても全く怯みもしないのは、きっとそのせいだろう。劣っていることがプラスに働くことの悪い例だ。不愉快極まりない。おかげでさっきから冷や汗が止まらなし、息も荒い。
 俺は探索を途中で投げ出して来た道を引き返した。二階の、怪物の死体などが一切落ちていない綺麗な部屋で休むことにした。ソファーに横になり、仮眠を取る。


 

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