「けやぐの道草横丁」

身のまわりの自然と工芸、街あるきと川柳や歌への視点
「けやぐ」とは、友だち、仲間、親友といった意味あいの津軽ことばです

#15.蝉坊動物録 - 梅にテントウムシ -

2013年06月12日 | 動物
 ゴールデン・ウィーク中の街あるきで異なものと出会いました。場所は、「#8.梅に蓑虫」で取材した木とまったく同じ梅の木。ぶら下がっているミノムシからほんの30cm右側の枝。びっしりと青紫色の同じ形の虫が群棲しています。後側にはちょうど一ヶ月ほど前には満開のピンクの花だったウメが、青い果実となって顔を並べています。いつもながら自然の造形というもの、なんと美しいことでしょうか。

 早速調べてみると、これはアカホシテントウという天道虫の仲間の幼虫。ウメやクリやクヌギにつくカイガラムシを捕食する益虫です。成虫で越冬し、真冬にカイガラムシが発生するとどこからともなく集まってきて、カイガラムシを食べ、交尾して産卵します。もちろん「天道虫の産婆」がくるわけではありません。2カ月ほどで孵化し、幼虫もカイガラムシを食べて成長します。画像の状態は蛹になる直前のころと思われます。5月の末には羽化してどこへともなく巣立っていくということです。右下の枝の表面にある白っぽい斑点はカイガラムシの卵殻の痕跡と思われます。一本のさほど大きくもない梅の木の樹上で、ウメ本体はもちろん、テントウムシ、カイガラムシ、オオミノガの「生活環(せいかつかん/Life cycle/Biological life cycle)」が展開されているのです。


 
 成虫の画像(資料)を観ると、岩谷堂箪笥(岩手)の伝統技法「木地呂塗/きじろぬり」のように、半透明の漆の深みのある塗装の底に赤い星が静かに沈んでいるように見えます。これが半球体となって樹皮にポツポツとへばりついているので、梅の木の幹に発生する樹脂の擬態ではないかともいわれているようです。蛹はクリの実のように黒いイガイガ状態となり、羽化した直後は全身黄色で、日光にあたると黒ずんでいくそうです。

 肉食系のテントウムシは益虫とされますが、草食系のニジュウヤホシテントウ(てんとうむしだまし)などは、ジャガイモなどナス科の作物を食べる害虫とされます。また、7300種以上の種類のあるカイガラムシの仲間は害虫ばかりではなく、日本ではその分泌物がイボタロウムシのようにろうそくの原料や工芸品のワックスの役割(いぼたろう)に利用されるものや、中南米や南スペインなどではコチニールカイガラムシのように貴重な染料としてなどなど、いわゆる「資源生物」として利用されてきたものもあるということです。人間と虫との関係にはもともと深い関係があるのです。虫を見かけただけでキャー!という方もいますが、虫の方は人を見るともっともっとキャー!キャー!といっているのかも知れません。

 よし、このままいくと5月の末にはアカホシテントウの成虫の群れも撮影できるぞ、と大いに期待していました。が、5月の中旬に通りかかると、なんと残念なことに、天道虫も蓑虫も一掃されてしまっているではありませんか!梅の木の所有者であるこのお宅の方が、虫のあまりの大量なことを発見して、おそらく高圧洗浄機の水圧で蓑虫ちゃんもろとも吹き飛ばしてまったようです・・・。

 テントウムシは、樹や実に食害を与えて成長・増殖するカイガラムシの天敵であるので、なかには果樹の安心・安全な「生物農薬」として飼育されるものもあり、名古屋大学では食後どこかへ飛んでいかないよう、翅の成長をおさえた定住型のテントウムシも開発されているようです。21世紀の今日、生態・天敵・共生・益虫・害虫など、いわゆる動植物界の「生活環」については、子供たちに義務教育においてていねいに興味深く教えていく必要があると思います。

 もしかすると、梅の木の下で立ち止まり、撮影していくやからに気分を害されたのかとも思うと、成虫になることなく旅立った虫たちにお詫びのしようもありません。ちなみに天道虫とは、鉄腕アトムの最期のように、太陽に向かって飛んで行く姿に由来するとか。アカホシテントウくんたち、オオミノガちゃん、なにとぞ天球の星となって、人間のこれからを見守っていてくだされと祈るばかりです。


一寸の虫還暦の胸を打つ  蝉坊



▲▲ 画像DATA;
アカホシテントウ/Chilocorus rubidus の幼虫。
コウチュウ目テントウムシ科。
大きいもので体長15mmほど。

▲ 画像DATA;
アカホシテントウの成虫。


《 関連ブログ 》
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