あさねぼう

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京都大学名誉教授 中西輝政

2020-09-06 12:14:32 | 日記
ふるさと納税、カジノ推進、辺野古移設…本当は地方重視の「真逆」 菅義偉の評価は「星1.5」 から続く
 突然の安倍晋三首相辞任表明を受け、「ポスト安倍」レースが続いている。現在、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長が出馬表明しているが、コロナ禍、東京五輪、経済対策など課題が山積する中で、次期宰相には誰がふさわしいのか。

「文春オンライン」では、各界の識者に連続インタビューを行い、「ポスト安倍候補」を5点満点で採点してもらった。今回は、京都大学名誉教授で国際政治が専門の中西輝政氏に聞いた。

菅義偉 ★3.2 「歴史が指し示す“菅首相”の暗雲」
 菅さんは、安倍政権の政治運営を担った、自他ともに認めるまさにナンバー2の“番頭役”でした。しかも政治理念が鮮明な安倍さんと違い、実務や権力運営の方が得意。それが、突然の安倍首相辞任によって、安倍後継の有力候補になりました。
 戦後政治を振り返ると、これまでも菅さんのように政権を陰で支えていた人物が、政治状況が予想外に一変したために、いきなり首相に就任したケースがいくつかありました。
 たとえば、1974年に田中角栄首相が金権スキャンダルで急遽、辞任に追い込まれたときには、「クリーンさ」が評価されて白羽の矢が立った三木武夫首相(直前まで副総理)。1980年の大平正芳首相の急死をうけて発足した鈴木善幸内閣(同・党総務会長)もそうでした。さらにはリクルート事件が発覚後、1989年に竹下登首相の後を担った宇野宗佑首相(同・外務大臣)、2000年には小渕恵三首相の急病を受けて就任した森喜朗首相(同・党幹事長)も同様です。
 ところが、こうした将来の総理候補とは誰も見ていなかった“番頭出身者”の政権は、これまでのところ、結果として軒並み混乱や悲劇を生んでいます。
 三木内閣はロッキード事件の余波を鎮められず政界の大混乱を招きましたし、鈴木首相は日米同盟について「軍事同盟ではない」と発言したことなどで、日米関係が著しく悪化しました。宇野首相は女性問題でわずか69日しか在任せず、天安門事件や冷戦終焉という世界情勢の激動の中で、日本という国の進路に多大な悪影響を与えました。
 森政権も成立から終焉まで危うい「低空飛行」が続いたのは記憶に新しいところです。しかもその間、「加藤の乱」という自民党の大きな内紛も起きました。少なくとも、こうした歴史を紐解いてみると、「菅政権」の未来に不吉な影が射しているようにも見えます。
 こうしたことを離れて、具体的に菅さんの弱点をみても一抹の不安がなくはありません。たとえば外交面です。菅さんの「外交デビュー」は昨年5月のアメリカ外遊。それまで外交経験はほとんど皆無なのです。これほど外交経験の少ない人が有力な首相候補になるのは珍しい。
 激化し続ける米中関係に加えて、このコロナ禍と経済崩壊の危機。それ以外でも日本を取り巻く国際環境が激変している。早い話が、米大統領選でトランプが勝ってもバイデンが勝っても、国際情勢は大きく変化するはず。「それでも安倍路線の継承」とはいかない。その場合、菅さんの外交経験の不足は心配で、これは現時点でかなり大きなマイナス点です。

石破茂 ★3.8 「米中対立下での舵取りに不安」
 森友・加計学園問題でも安倍首相に対し追及の姿勢をとり、これまでの総裁選でも安倍首相と争うなど、石破さんは党内では長らく「反主流」派という立場を続けてきました。これまでの戦後日本政治では、長期政権が終わるときには、こうした「反主流」を貫いた人が新しい首相に就任しており、それが自民党の活力源にもなってきました。
 1954年には、長期間、アメリカ中心の外交を続けてきた吉田茂首相にかわり、その間「反・吉田」を貫いてきた鳩山一郎首相が誕生し、日ソ共同宣言を批准してソ連と国交回復を成し遂げました。1972年には、7年8ヵ月にわたる長期政権を維持し、中国と距離を置く政策をとっていた佐藤栄作首相がやめた後には、田中角栄内閣が誕生して日中国交正常化が実現しました。
「主流」派が栄華を極めている間に、「反主流」派の立場を保ち続けるのは容易なことではありません。石破さんだけでなく、とくに安倍時代、干され続けた19人の石破派の政治家たちはみな厳しい立場にあっても節操を曲げず、石破さんの元を離れることはありませんでした。農林水産大臣を務めた齋藤健さんのように、一時は入閣し安倍さんに「一本釣り」されそうになったときも、政治家としての筋を通し、そのポストを取り上げられてもなお石破さんを支え続けてきた人もいます。「党内に味方が少ない」といわれることも多い石破さんですが、損得を離れてしっかり支えてくれる仲間がいるというのは、今の日本では特筆すべきことです。
 石破さんには見捨てられた地方や弱い立場の人間に対して目を向けようとする姿勢があると思います。石破さんが防衛大臣だった2008年、海上自衛隊所属のイージス艦が漁船と衝突し、乗員2名が行方不明になる事故が起こりました。石破さんはこの事件の被害者の家に何度も足繁く通い、お詫びをし続けた。そこには大臣という立場を超えて人として「情」を大切にする姿勢が見られ、東京一極集中型の日本を変えようという、彼の「地方創生」の政策論にもつながってきます。
 ただし、石破さんの欠点は地方創生以外にあまり具体的政策が出てこないこと。「内需拡大」という政策でもそうですし、外交・安保の観点でも、米中対立が進む国際関係において、はっきりとした姿勢を打ち出せていない。これだけ中国が暴走を続ける中で、いまだに「安保はアメリカだけど、経済は中国」という等距離外交に近い中立的な政策をとろうとしているように見えるのは、危ういことです。

岸田文雄 ★2.5 「土壇場で身内を裏切った過去は消えない」
 安倍首相に推され「ポスト安倍」候補と目されてきた岸田さんですが、いまや安倍さんや盟友である麻生太郎さんも「菅氏支持」にまわり、岸田さんは裏切られた格好です。コロナ禍の特別定額給付金の金額や支給対象をめぐって右往左往した非力なイメージがあだになって、国民からの支持も広がりません。ただ、ここまでうまくいかない裏には、私は1年前に岸田さんがとったある行動が大きく影響していると思います。
 昨年7月の参議院選挙、岸田さんの地元である広島選挙区は定員2人でしたが、すでにそのうち1議席は野党の指定席でした。ところが官邸の意向で「自民党の2議席独占を狙え」となって2人の候補を擁立しました。すなわち防災担当大臣などを歴任し、自民党広島県連の推す大ベテランの現職・溝手顕正氏と、安倍さんや菅さんと距離の近かった河井案里氏です。
 溝手氏は岸田派の最高顧問でしたから、岸田さんは当然溝手氏を推さなければいけない立場です。しかし岸田氏は安倍総理からの禅譲による「ポスト安倍」を期待していましたから、総理の意中の人である河井氏をむげに扱うことも出来なかった。
 結局、岸田さんは河井氏の選挙カーの上で応援マイクを握ってしまいました。溝手氏陣営は「2位でも構いません!」と街頭で悲壮に訴えましたが、最終的に河井氏が当選し、現職だった溝手氏は議席を失いました。岸田さんのこの、身内への「裏切り」は、政治家としては超えてはいけない一線でした。
 思えば、安倍さんたちにいいように「使われた」挙げ句、土壇場でハシゴも外された岸田さんは、かわいそうではありますが、やはり昨年のあの応援マイクを手にとった瞬間に政治家としての限界を露呈していたのです。
 もっといえば、岸田さんが安倍さんにいいように使われたのは去年の選挙だけではありません。2015年の「日韓慰安婦合意」を実現するなど、外務大臣も4年以上経験した岸田さんですが、あの慰安婦合意もアメリカのオバマ大統領と安倍さんが作った道筋をなぞっただけ。在任の4年間、岸田さんが外相とはいえ、その間は「地球儀を俯瞰する外交」を掲げる安倍さんが自ら実質的な外交全般を担い、それに従うばかりの岸田さんは重要な場には出ることができませんでした。実際のところ、岸田さんに「外交経験がある」とは言えないと思います。

河野太郎 ★4.5 「ブルーインパルスに見たリーダーシップ」
 河野さんと言えば今年6月、イージス・アショアの配備断念を決断したときの姿が印象に残っている人も多いでしょう。もちろん、ミサイル防衛の代替案が決まっていない中での配備断念は、外交と安全保障の政策面で考えれば決して高評価の判断とはいえません。しかし、安倍首相自らが推進してきたイージス・アショアを、あえて押し返した政治家としての「胆力」には目を見張るものがあります。
 また、今年の5月末、コロナ第一波の混乱の中、医療従事者に感謝と敬意を表して国民こぞって「連帯」の姿勢を見せようと、防衛大臣として航空自衛隊のブルーインパルスの出動を決断したことも印象的でした。日本では賛否両論ありましたが、国民の統合を重視する欧米では当然の決断です。コロナ対策をめぐって分断が続く日本の社会状況下で、河野氏がリーダーシップを発揮したことは大事なことだったと思います。
 こうしたリーダーシップだけでなく、政治家としての経験も豊富。首相にも果断に意見しながら、大臣として外交と安全保障の両方の経験を重ね、流暢な英語で国際社会にも多くのコネクションをもっている。私が会った欧米の外交専門家からも高く評価されています。
 気がかりなのは、時には独りよがりにもなりかねない、その群れない性格。足の引っ張り合いが横行する典型的な「日本社会」である自民党では、敵を作りやすいタイプです。
 ただ、その河野さんらしさを犠牲にしては意味がないのですが、今回の総裁選では所属派閥の領袖、麻生さんが「菅さん支持」を表明したことで、河野さんは出馬を見送ってしまいました。かつての小泉純一郎首相のように「親分」の言うことを聞かず、勝ち目のない状況でも総裁選に出続ける姿勢こそ、従来の河野さんのキャラクターだったはず。ここで派閥の論理で動いてしまったことは、彼にとってむしろ大きなマイナスになるのでは、と思います。
 コロナ禍の対応のみならず、経済の大幅な悪化、そして暴走する中国と激化する米中対立……。日本はまさに非常事態にありますから、胆力もあり、外交と安全保障の経験もある河野さんは、最前線で活躍しなければならない政治家の1人。次の総裁の任期は1年ですから、その次のチャンスに真価を発揮できるかが問われることになります。

「河野首相・進次郎官房長官」くらいの若返りが必要
 今回の総裁選では、主要派閥の重鎮が推す菅さんが優勢だと伝えられています。「平時」の首相を決めるのであれば、これまでのように自民党の長老たちが党内の都合や力関係で決めても、「所詮、そうだろうな」と思うだけでしたが、今回は少し心配です。
 いま日本は歴史的な「有事」に襲われています。このようなときに平時の感覚で、年齢を重ねた候補者の中から首相を決めるべきではありません。

 立候補を表明している菅さん、石破さん、岸田さんは、いずれも還暦を過ぎています。安倍首相は持病の再発というある種の「体力問題」で辞任に至ったわけですから、まず何よりもこの非常事態の激務にも耐えうる体力と若さを持ち合わせた人が国を引っ張らないといけません。
フランスのマクロン大統領のように、世界を見れば若いリーダーたちが数多く活躍しているのです。もちろん、若ければよいということではありません。たとえば、世論調査で人気のあった小泉進次郎さんは、環境大臣就任後、国際会議の記者会見ではっきりとものが言えず立ち往生して、国際的にも国内的にも株を落としました。しかし、いまはそこから立ち直り、環境大臣として経済産業省を説き伏せて、石炭燃料問題に道筋をつけました。その後は、地球環境問題についても思い切った発言が出来るようになりました。体力以外にも、こうした「伸びしろ」が、今回出馬表明している3人には見当たらないのです。
 コロナ禍が突きつけた安倍政権の限界は、自民党の「長老支配による政治」の限界でもあります。日本を取り巻く厳しい国際情勢に対応し、他国と互角に渡り合っていくためには、河野さんや進次郞さんといった若い政治家が先頭に立つべきなのです。それこそ「河野太郎首相・小泉進次郎官房長官」くらいの人事で国を動かしてもらいたいと思っています。

(中西 輝政/Webオリジナル(特集班))

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