川越だより

妻と二人あちこちに出かけであった自然や人々のこと。日々の生活の中で嬉しかったこと・感じたこと。

私が聞いた北朝鮮の暮らし③《武器よさらば》 鈴木倫子

2011-01-16 08:37:04 | 韓国・北朝鮮

《武器よさらば》

朝鮮の子供たちはどんな玩具で遊んでたの? 櫂くんはどんな玩具が好き? 

「ぼくが好きなのは武器です。」

正確な、とてもお行儀のよい日本語できっぱりと、ドッキリするようなことを

言ってくれる。「武器なら何でも好きです」とは言うものの、どうやらデカ過ぎ

る(大砲とかミサイル)や小さ過ぎる(手榴弾とか)はお呼びじゃないみたい。

自分で手に持てるもの、ピストルよりライフルとかマシンガンが好いらしい。あ

たしが子供のころ、男の子があこがれるのはハリウッド製の西部劇に出てくる「

二挺拳銃」の早撃ちガンマンだったけど、櫂くんにとっては「兵隊さん」がヒー

ローなのかな。

秋祭りのお小遣いで、なんとしても「武器」を手に入れるんだ。お祭りの賑わ

いでもかき消すことができないほどの櫂くんの意気込みが伝わってくる。まいっ

たな、どうしよう。アタシ、「武器」は好きじゃないんだけど、でも櫂くん、自

分のお小遣いで買うんだし。うちの子、欲しがるのがフィギュアばかりだったか

ら、こういう悩みなかったけど、もし小銃とか買ってくれってせがまれてたら、

どうしてただろう。とかなんとかぐずぐず思い悩んでみたのだが、結局「いずれ

卒業するのだろうからな。大人の言うこと聞いてる間いくら封じ込めておけたっ

て、大きくなって自分の意思だけで買い物できるようになったとき、反動で武器

マニアのおっさんになっちゃうってこっともあるんだから。いい歳をして公園の

林の中でサバイバルごっこかなんかに打ち興じた挙句、そこら中にモデルガンの

プラスティックの玉を散らかして帰っちまうお馬鹿にならないように、いまの内

に咽喉もと一杯遊んどけばいい」と、いつもの「なんとかなるさモード」に入っ

てしまったアタシ。

 おばあちゃんが「わたくしは、武器がだいっ嫌いです」。櫂くんは「買っちま

ったらこっちのものよ」とばかりに、おばあちゃんの静かな怒りなんてどこ吹く

風。でもあたしが叱られてるんだよ、ほんとは。

 「なぜ、わたくしが武器を嫌いなのか」。櫂くんには聞こえないところで話し

てくれた。

 「わたくしは朝鮮にいた40年の間、公開処刑というものを何度も何度も見させ

られました。河原とか広場とか人が大勢入れるような場所で死刑が行われるんで

す。見せしめのために。銃殺刑です。殺されるのが一人だけのときもあれば複数

のときもある。今日それがあるとお触れが出ると、住民は見に行かなくてはなら

ない。もし出て行かなければ、あいつは反逆分子だ、危険分子だということにさ

れて、次には自分が処刑されたり収容所に送られたりする羽目になる。だからど

んなに嫌でも見に出て行かなくちゃならないんです。1人の人間に対して5~6人が

銃を構えるんです。パン、パンという銃の乾いた音。何発も打ち込まれて血を吹

いて倒れる。忘れられません。いまでもどうかすると夢に見てしまいます。武器

は、そうやって人を殺すためのものなんです。」

 深い深いトラウマの淵から紡ぎ出されるおばあちゃんのことば。怒りもせず、

責めもせず、なじりもせず、あざけりもせず、淡々と、そして諄々と語り続けて

くれた。

 あれからなんどもなんども、思い出すたびに自分の軽薄さ、いい加減さが恥ず

かしく、悔やまれて胸が痛くなる。ごめんなさい。ありがとう、アタシけっして

忘れません、あなたが話してくれたこと。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿