(6)生産要素における投下物財の追加(不変資本導入)
上記の生産要素の一覧は、自然物を原材料にして物財を生産する想定に従っている。しかし生産物はもっぱら自然物だけではなく、市場の物財を原材料にする。つまり自然物と市場物は、生産物の有機的構成を成す。ただ内実として前者の自然物は投下労働力であり、後者の市場物は、物財生産のための投下物財である。それは原材料や道具や機械として現れる。自然物との対比で言うと、投下物財は非自然物であり、人工物である。人工物は生産物なので、自然物と同様に、もともと投下労働力を実体とする。しかし投下労働力が生きた労働力であるのに対し、投下物財は物態にある死んだ労働力である。その死んだ労働力は、ここでの生産工程の開始前に投下された労働力なので、投下物財も賦存物財として現れる。一方でこの賦存物財は、上記表が実現した余剰生産物である。それは生産工程の中で消費されるが、そのまま消滅しない。単純再生産を維持するなら、賦存物財も投下労働力も、生産工程の終わりに再び最初の姿に戻らなければいけない。ただしここでは、賦存物財に特定の物財を想定していない。そこで少なくとも物財生産量は、賦存物財量を含めた投下物財量を維持する必要がある。したがって物財生産数は、先のxでは不十分であり、賦存物財の分だけ増産する必要がある。そして実現すべき物財生産数が増大するなら、その分だけ物財生産の原材料も増量する必要がある。ここでは物財一つ当たりの生産に使う投下物財数をaとする。ただここでの投下物財数aは、上記表2で取得した純生産物である。したがってその最大値も、単純に純生産物量を物財量で按分した値r/xになる。上記表に追記する形で、一部を変えた生産要素の一覧表を示すと、次のようになる。なおここでは上記の減量した人間生活が安定した状態を想定し、その労働力の必要物財量をc-ではなく、cとして表現する。ただしそのcの内実の人間生活は、既に減量している。
[物財生産工程における生産要素3(不変資本導入)]
(7)生産規模拡大による純生産物の生成
上記表では投下物財を生産要素に加えても、純生産物量の内実は(x-cL)のまま変わらない。しかしこれではそもそも投下物財を生産要素に加える必要も無い。生産者が投下物財を使用するのは、明らかにその使用が「x>cL」の拡大再生産を実現することに従う。そして投下物財がこの拡大再生産を可能にするのは、端的に言うと、そもそも投下物財が完成品であることに従う。基本的に労働力だけで物財を生産する場合、その生産物は生産工程における損失を含む投下労働力の全体である。一方で生産物の一部にあらかじめ完成品を混ぜた同じ量の生産物は、その完成品の混入比率に応じて、生産工程における投下労働と損失が減少する。極端に言うと、もし最初から完成品を100%混ぜるのなら、生産工程における投下労働と損失もゼロになる。そしてその投下労働と損失の減少は、そのまま投下労働力を原資に変えて拡大再生産を実現する。もちろんこれは投下物財が拡大再生産を可能にする単純な説明であり、生産する該当物財の完成品を投下物財に使用する必要は無い。協業が生産集団の中に熟練工の技術共有を実現するなら、これと同じ効果が生じる。さらに熟練工の代わりに自動機械を投下しても、やはり同じ効果が生じる。その効果は、梃子や歯車の使用がもたらす省力化と変わらない。ただしその効果が出るためには、先の直接的な剰余価値搾取と違い、物財生産数の増加が必要である。この点で言うと、純生産物量の増大は、先の直接的な剰余価値搾取の方が単純明快である。しかしそれは、短期に純生産物を生成するだけである。むしろそれは、労働力全体の人間生活の持続を困難にする。やはり純生産物の生成は、cLに対するxの増大を目指す必要がある。ここでは労働力全体の人間生活の持続の必要が、長期に生産工程の入出力において弁の役割を果たし、拡大再生産への一方通行を結果する。一方でここで可能になる純生産物は、単なる余剰生産物である。この余剰生産物の消費者は、端的に言うと二極に分離可能である。一方の極では労働者が余剰生産物を消費し、他方の極では不労取得者が余剰生産物を消費する。もちろんその不労取得者は、労働者ではない。労働者が余剰生産物を消費する場合、価値単位cが増大する。しかし不労取得者が余剰生産物を消費する場合、価値単位cは増大しない。ここでの余剰生産物量は剰余生産物rとして現れる。単純に言うとそれは、不労取得者の生活資材である。しかしそのように余剰生産物が消費されれば、生産と消費の総計一致が実現する。それは既に「労働力全体の必要物財量cL=物財生産数x」の総計一致を、過去のものとする。簡単に言うとその新たな総計一致は、「労働力全体の必要物財量cL+不労取得者の生活資材r=物財生産数x」である。上記表で変更の加わる生産要素を示すと、次のようになる。なお余剰生産物rを加えた物財生産物数x、つまり(x+r)を下記でx+で表現している。
[物財生産工程における生産要素4(物財生産数の増大)]
(8)生産規模拡大における価値単位の増大
上記の生産規模拡大は、不労取得者が余剰生産物を消費する一方で、労働者が余剰生産物を消費するのも可能である。この場合の拡大再生産は、労働者の必要消費量増大により、その余剰生産物を消費する。当然ながら不労取得者の取得物財量の増大速度は、この場合に減速する。そして労働者の人間生活に余裕が生まれるほどに、価値単位cが増大する。ここでも余剰生産物量は、剰余生産物として現れる。しかし労働者が余剰生産物を消費するので、それは剰余生産物として表面化しない。そして労働者が余剰生産物を消費することにより、生産と消費の総計一致が実現する。その余剰生産物量をrとし、上記表で変更の加わる生産要素を示すと、次のようになる。なおここでも余剰生産物rを加えた物財生産物数x、つまり(x+r)を下記でx+で表現している。同様に一労働力あたりの余剰生産物rを加えた一労働力あたりの消費物財量c、つまり(c+r/L)を下記でc+で表現している。
[物財生産工程における生産要素5(価値単位増加)]
増大した労働力の必要物財量c+は、その増量値がそのまま人間生活の必要物財量だと扱われるなら、もうc+ではなく、ただのcである。そしてそれが正規の労働力の必要物財量cに転じると、x生産の必要物財量c+Lも正規のcLに転じる。一方で同じことは増大した物財数x+にも該当する。物財数x+は、そのまま労働力全体の必要物財量だと扱われるなら、もうx+ではなく、ただのxである。そしてそれが正規の物財量xに転じると、労働力全体の必要物財量x+も正規のxに転じる。どのみち物財生産数と労働力の必要物財量が同じ比率で増大するなら、純生産物量はその拡大再生産によって増減しない。もし純生産物ゼロの生産工程でこの拡大再生産が始まっても、拡大再生産後の純生産物はゼロである。或る定量の純生産物を得る生産工程でこの拡大再生産が始まっても、拡大再生産後に純生産物は増減しない。むしろ物財価値は減価するので、その純生産物価値が減価する。しかし生産と消費が足並みを揃えて増大するので、総計一致は崩れない。このことは逆に、物財生産数と労働力の必要物財量が同じ比率で減少するなら、総計一致が崩れないのを示す。ただしそれがもたらすのは、以前より物資の乏しい貧相な人間生活である。そして人間の物理的な肉体は、極度の必要消費量減少に耐えられない。やはりここでも期待されるのは、縮小均衡する単純再生産ではなく、拡大均衡する単純再生産である。
(9)生産規模拡大における価値単位の減少
上記表1に始まる単純再生産は、上記表2の剰余生産物搾取を通じて拡大再生産を通じて、上記表3のための生産工程の賦存物財を得る。それは死んだ労働力としての原材料や道具、さらには機械などの不変資本である。これらの物財は、物財生産を質と量の両方で安定させる。しかし労働者の貧困化と引き換えに手に入れる生産拡大は、労働者の生存限界を自らの限界にする。それゆえに生産要素にこの賦存物財を追加した拡大再生産は、それ以上の拡大を維持できずに単純再生産に立ち戻る。ただその一方で技術進歩は不変資本を通じて、物財生産の質と量を暫時増大させる。その増大は、一方で上記表4の不労取得者を増大させる拡大再生産、他方で上記表5の人間生活拡充を含む単純再生産を可能にする。それが実現するのは、一方における不労取得者の資本主義的利益の増大であり、他方における貧困化した労働者の人間生活の改善である。しかし労働者の人間生活は、不労取得者の致富欲の前で常に貧困を強いられる。それゆえに労働者の人間生活が改善するごとに、上記表4の人間生活の収奪と上記表5の物財生産の増大が同時に進行する。この二つの表の生産要素の合体は、次のように純生産物量の増大に拍車をかける。なお上記表4との比較で見ると、労働力全体の必要物財量が同じxであるのに、上記表4よりも純生産物量が増量する。この増量は、下記表6が上記表5における労働力全体の必要物財量x+の減量を受けることに従う。つまり下記の必要物財量c±の内実は、c-である。
[物財生産工程における生産要素6(労働力の必要物財量cの減少、および物財生産数の増大)]
物財の生産工程における拡大再生産の実現は、一方で不労取得者を生み育てて増大させ、他方で減少した価値単位cを増大して復旧する。これらの拡大再生産を可能にするのは、労働力の特異な能力である。それは自らの人間生活より多くの人間生活を生産する能力である。その労働力の能力は、技術進歩に伴ってさらに強固となり、拡大再生産をさらに容易にする。その富の増大は、不労取得者が奪い取った人間生活をそれなりに労働者の元に返す。しかし労働力全体の必要物財量は、相変わらず物財全体の生産数より少ない。その少なさは、一方で不労取得者の増大に従い、他方で不労取得者における富裕の増大に従う。この剰余生産物搾取は、労働者の必要物財量を一人分の人間生活のままに押し留め、さらにその一端に極度の貧困を集積させる。その歪みは貧困の一方に獣以下の悪鬼を生み、貧困の他方に歪みを正す正義の主体を生む。共産主義の想定ではその歪みを正す主体は、不労取得者の中から生まれない。彼らは不労取得で生計を立てるので、歪みを根本的に解決する主体に適さない。すなわち正義の主体は、労働者の中から生まれる。ただし今のところ、その歪みを根本的に正した成功例は無い。その失敗理由は、簡単に言えば革命主体における民主主義の不在である。民主主義は、それが目的にする公正を実現するための絶対的に必要な手段である。しかもそれは単なる手段ではない。民主主義は、それ自身が自ら目的にする公正である。したがって民主主義は、手段と目的が不可分の同一体になっている。
(2023/12/03)
続く⇒第四章(3)生産拡大における生産要素の遷移 前の記事⇒第四章(1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
数理労働価値
序論:労働価値論の原理
(1)生体における供給と消費
(2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
(3)供給と消費の一般式
(4)分業と階級分離
1章 基本モデル
(1)消費財生産モデル
(2)生産と消費の不均衡
(3)消費財増大の価値に対する一時的影響
(4)価値単位としての労働力
(5)商業
(6)統括労働
(7)剰余価値
(8)消費財生産数変化の実数値モデル
(9)上記表の式変形の注記
2章 資本蓄積
(1)生産財転換モデル
(2)拡大再生産
(3)不変資本を媒介にした可変資本減資
(4)不変資本を媒介にした可変資本増強
(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
(6)独占財の価値法則
(7)生産財転換の実数値モデル
(8)生産財転換の実数値モデル2
3章 金融資本
(1)金融資本と利子
(2)差額略取の実体化
(3)労働力商品の資源化
(4)価格構成における剰余価値の変動
(5)(C+V)と(C+V+M)
(6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
4章 生産要素表
(1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
(2)不変資本導入と生産規模拡大
(3)生産拡大における生産要素の遷移