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その歴史があるからこそ

2021-07-11 11:09:05 | bookreview
エズラ・ヴォ―ゲル『日中関係史』

坂本龍馬的な立ち位置の本である。
日本では『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の著者として知られ、
中国では『鄧小平』の伝記作者として知られるアメリカの社会学者。
両国にとって恩人ともいえるヴォ―ゲル氏が生涯最後に手掛けた著作が
このChina and Japan:Facing History.

ヴォ―ゲル氏は、GDP世界一位のアメリカと二位の中国との関係が
世界で最も重要であるとすれば、世界で二番目に重要なのはおそらく、
中国とGDP世界第三位の日本との関係であると見ていた。
それは2010年代以降のアメリカの視点で見た場合のアジアの重要性でもあり、
世界から俯瞰した場合には太平洋が時代の中心になったということでもある。

日本と中国には遣隋使以降1500年の交流の歴史があり、それは
日本が中国に学ぶ時期が大半でありつつ日本が不服従を貫いた歴史でもある。
19世紀以降は日本の近代化とそれを礎にした大陸侵攻の歴史があり、
戦後の日本の経済成長を中国が学ぶ時期を経て、直近では
想像をはるかに上回るペースで経済規模が逆転して大差が開いた事実がある。

特にこの100年を両国が当事者として客観的に把握するのは実に難しい。
歴史には語る主体があり、主体は主観から自由にはなれず、
真実はいつも語りの向こうにぼんやりとしていて、絶対のものではない。
そこにこの著作の永遠の価値がある。両国をよく知るヴォ―ゲル氏の語りも
アメリカからの視点であるかもしれないが、そこには相互理解を促そうとする
個人の使命感、無償に近い愛情を感じる。

成り立ちと構造の違う2つの国家がどう付き合うのか、そこに答えはないが、
終章、アジアの未来に対して日中が何で協力できるのか、そこまで氏は
指し示してくれている。これまでの歴史の果てに、今の両国がある。
これまでの歴史があるからこそ、それを通過したアジアの未来ができていく。
協力できると言ってくれたヴォ―ゲル氏は世界の永遠の恩人だ。