たゆとう小舟の・・・☆

近所の美しい場所、日本の美しい場所をいっぱい見て歩きたい♪

幻の花。

2011年07月07日 | 日々!
幻の花  石垣りん

   庭に
   今年の菊が咲いた。

   子供のとき、
   季節は目の前に
   ひとつしか展開しなかつた。

   今は見える
   去年の菊。
   おととしの菊。
   十年前の菊。

   遠くから
   まぼろしの花たちがあらわれ
   今年の花を
   連れ去ろうとしているのが見える。
   ああこの菊も!

   そうして別れる
   私もまた何かの手にひかれて。

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  言葉なき歌  中原中也

   あれはとほいい処にあるのだけれど
   おれは此処で待つてゐなくてはならない
   此処は空気もかすかで蒼く
   葱の根のやうに仄かに淡い

   決して急いではならない
   此処で十分待つてゐなければならない
   処女(むすめ)の眼のやうに遙かを見遣つてはならない
   たしかに此処で待つてゐればよい

   それにしてもあれはとほいい彼方で夕陽にけぶつてゐた
   号笛の音のやうに太くて繊弱だつた
   けれどもその方へ駆け出してはならない
   たしかに此処で待つてゐなければならない

   さうすればそのうち喘ぎも平静に復し
   たしかにあすこまでゆけるに違ひない
   しかしあれは煙突の煙のやうに
   とほくとほく いつまでも茜の空にたなびいてゐた


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