◆朝日新聞(8月22日付)オピニオン&フォーラム欄より、東京都立松沢病院院長の斎藤正彦さんへのインタビュー記事がありましたので、
その内容について紹介します。今号は前号の続きです。
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6.病院が変われば、精神科医療を取り巻く課題は解決するか>>>
・最大の気がかりは地域福祉の劣化だ。患者を退院させようと思っても地域は抵抗勢力になって助けてくれないことが多い。松沢病院を退院できない高齢患者の8割は行き場がないからだ。彼らが持っているお金でケアを受けながら暮らせる場所がない。
福祉は、底辺の人を税金で支えようという情熱を失ってしまったと思う。
・精神障害者は偏見に満ち満ちた社会で暮らしている。患者と市民が一緒に過ごす機会を作って互いの理解を深めるために、10月に病院の敷地で初めて地元住民と共催でお祭りを計画した。
・理想の医療を追求する松沢病院は赤字続きであり、経営改善は緊急の課題だ。一方でどれほど経営を改善しても、民間病院ではやらない、公立病院として必要とされる医療をやろうと思えば赤字は必然だ。
・松沢病院で一番赤字が多いのは、外科や内科の病気もある身体合併症病棟で、次は治療困難な患者がいる慢性病棟だ。「長期入院はけしからん」とかあるが、社会復帰が容易でない重度な精神疾患もある。
・精神医療の目的は、精神に障害があっても、普通に生活できるようにすることだ。
多額の税金によって運営される公立病院は、採算にとらわれずに、必要とされる医療を提供するだけでなく、民間医療機関を支援し、精神医療を取り巻く環境全体を向上させなければならない。出来るだけ多くのニーズに応えるためにも、納税者が納得してくれる経営効率の達成は前提条件だ。
7.国の精神医療改革のあり方を思う>>>
・一般病院に比べて診療報酬が低いため、積極的に治療し早期退院させようとすると稼働率が下がる。何もせず満床を維持する方が経営は楽だ。やる気のある病院ほど経営が苦しくなる。
・厚生労働省は良い病院をつぶさないでほしい。目指すべき医療を考えた政策ビジョンを持ち、実現の為の診療報酬のあり方を考えていただきたい。
・精神医療行政に大きな発言権を持つ団体は、民間病院を中心とした日本精神科病院協会だけだ。昨年、日本公的病院精神科協会を作ったので、公的精神医療の立場からも意見と政策形成にも関与していきたい。
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■以下はこの記事を見て感じたことです。
◯斎藤院長の精神医療に対する公立病院としての先導的な役割と病院・行政・福祉・地域を意識して取組んでおられる姿に感銘し、今後更に期待したいと思います。
◯松沢病院の入院患者は、任意で入院される患者より、強制的な入院患者が多いそうです。公立病院であるがゆえかも知れませんが、その中で身体拘束を減らす取組みをし、現実に実績を上げているということに着目します。インタビューでもありましたが、医師・看護師の皆さんと患者の皆さんの「人としての関係つくり」が決め手なんですね。
◯次に精神科病院の「精神科特例」の話が前号「3.日本の精神科医療」にありました。
日本の医療の差別を是正する必要があります。これからは、入院患者を減らし、入院病床を減らし、病院で働く人達が地域に出て、地域の中で精神疾患のある人達に関わっていくことが求められています。これらの実現の為には政策・システムなどの制度設計が必要です。そして、「精神科特例」という医療の中の差別の是正も欠かせないことを再度訴えたいと思います。
<精神科特例とは>
①1958年、厚生省は局長通達で医療法(一般病院)では認めていない「職員が少なくてもよい」という「精神科特例」を暫定的に設けた。
②この特例を受けて精神科病床は1958年から急増する事となる。同時にこの暫定措置が年次と共に標準化してきた。
ここに精神科医療の質の低下と言う問題がある。
③精神科病院の収入は、その9割前後を入院料収入が占めている。この収入の基礎となっている患者一人一日当たりの入院料単価(日当点)
が一般病院の3分の一と超定額である。
④この背景には、病院に払われる入院料は、基本的に職員数に比例して設定されている為職員数等のとおり収入も3分の一となる。
全ては精神科特例が問題!
⑤入院している患者数では最多だが医療費は数%と安上がりの医療である。
◯この記事をみて、昨年「ぎょうされん」が製作した「夜明け前」という映画を思い出しました。この映画は日本の精神医学の先駆者である「呉 秀三」先生の精神医療に対する取組みを描いたもので、この中でも松沢病院の院長が身体拘束について述べておられました。
呉先生の意思を連綿として受継いでいるわけです。
「夜明け前」の記事はブログNo110~111をご覧ください。
以上で「身体拘束なき精神科へ(新聞記事から)」を終わります。