2022年  にっぽん復興へのシナリオ

日本が復興を遂げていく道筋を描いた近未来小説と、今日の様々な政治や社会問題についての私なりの考えや提案を順次掲載します。

三.アフター・ファイブ(1)

2012-01-29 13:08:41 | 小説
 6時を回り、外は暗くなっている。
 雪は相変わらず降り積もっており、窓には斑模様の白い塊が張り付いていた。一層冷え込んできたようだ。

 神部は「う~ん」と伸びをして、タブレットを三つ折りにして胸ポケットにしまい、帰り支度を始めた。

 「課長は、今日はジムの日でしたね」と、磯村が声をかけると「そうだな、だから今日は付き合えないぞ」と、酒を飲む真似をした。
 「私は、これから同期の連中と飲む約束になっています。雪見酒と洒落込みますよ」
 「おいおい、カミさんが身重だろ。早く帰ってやれよ。ところで、予定日は来月だったよな?」
 「来月の半ばです」
 「男?それとも女の子?」
 「そんなこと聞きませんよ。先生から『お伝えしましょうか?』と言われましたが、生まれた時の楽しみにします、と答えました」
 「今では、聞かない人がほとんどのようだな」
 「以前は子供の衣類などを揃えるために前もって聞いていたようですが、ネットで頼めば翌日には手に入るのですから、そんな必要はないですよね。第一、生まれてから男か女かシンボルをしっかり確認してやるのが、子供に対する礼儀っていうものでしょ」
 「礼儀かどうかは知らないけど、確かにその方が自然だよな。いずれにしても、今が大事な時だから、亭主はカミさんの傍にいてやるものだよ」
 「生まれたら育児勤務にさせていただきますので、それからゆっくり面倒見ますよ。その節はよろしくお願いします。それより、課長はメタボ退治を頑張ってください」

 育児勤務は在宅勤務の一種で、育児を優先させ無理のない範囲で在宅での仕事を行うことである。業務量が減った分は給与の一部がカットされるが、減収分は健保組合を通じて補てんがなされる。

 『磯村君の酒好きは治りそうもないな』と苦笑しながら、神部はオフィスを後にした。


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