古事記・日本書紀・万葉集を読む(論文集)

ヤマトコトバについての学術情報リポジトリ 加藤良平

十巻本和名類聚抄 巻第七

2022年03月04日 | 和名類聚抄
和名類聚抄巻第七
和名類聚抄巻第七
 羽族部第十五 毛群部第十六 牛馬部第十七
 羽族部第十五 毛群部第十六 牛馬部第十七
羽族部第十五〈文選注云羽族謂鳥也〉
羽族部第十五〈文選注に羽族は鳥を謂ふなりと云ふ〉
 鳥名百 鳥體百一
 鳥名百 鳥体百一

鳥名百
鳥名百
鳥 尒雅注云二足而羽者曰禽〈音琴和名与鳥同〉一說飛曰鳥走曰獸惣謂之禽獸〈訓与獸同〉毛詩注云鳥之雌雄〈熊斯二音和名上乎度利下米度利〉不分別者以翼知之右掩㔫雄㔫掩右雌隂陽相下之義謂之也
鳥 爾雅注に云はく、二足にして羽ある者を禽〈音は琴、和名は鳥と同じ〉と曰ふといふ。一説に飛ふを鳥と曰ひ、走るを獣と曰ひ、惣べて之れを禽獣〈訓は獣と同じ〉と謂ふ。毛詩注に云はく、鳥の雌雄〈熊斯の二音、和名は上に乎度利(をとり)、下に米度利(めとり)〉は分ち別かざるは、翼を以て之れを知る、右の左を掩ふを雄、左の右を掩ふを雌、陰陽相下の義、之れを謂ふなりといふ。
鳳凰 尒雅云雄曰鳳雌曰凰〈俸皇二音〉毛䖝之長也
鳳凰 爾雅に云はく、雄を鳳と曰ひ雌を凰〈俸皇の二音〉と曰ひ、毛虫の長さなりといふ。
孔雀 𠔥名苑注云孔雀〈俗云音宮尺〉毛端圎一寸者謂之珠毛々文如畫此鳥或以音響相接或見雄則有子矣
孔雀 兼名苑注に云はく、孔雀〈俗に音は宮尺と云ふ〉は毛の端の円一寸なるは之れを珠毛と謂ひ、毛の文は画の如し、此の鳥は或に音響を以て相接し、或に雄を見れば則ち子有りといふ。
鸚鵡 山海経云青羽赤喙䏻言名曰鸚䳇〈櫻母二音〉郭璞注云今之鸚鵡〈音武〉脚指前後各两者也
鸚鵡 山海経に云はく、青き羽、赤き喙にして能く言(ものい)ふ、名けて鸚䳇〈桜母の二音〉と曰ふといふ。郭璞注に云はく、今の鸚鵡〈音は武〉は脚の指、前後に各、両(ふたまた)なる者なりといふ。
鶴 四声字苑云鶴〈何各反都流〉似鵠長喙高脚唐韻云䴇〈音零楊氏抄漢語抄云太豆〉䴇鳥鸖別名也
鶴 四声字苑に云はく、鶴〈何各反、都流(つる)〉は鵠に似て長き喙、高き脚なりといふ。唐韻に云はく、䴇〈音は零、楊氏抄漢語抄に太豆(たづ)と云ふ〉は䴇鳥、鸖の別名なりといふ。
鵰鷲 唐韵云鶚〈音凋和之〉鶚鳥別名也鶚〈音萼〉大鵰也山海経注云鷲〈音就〉小鵰也
鵰鷲 唐韻に云はく、鶚〈音は凋、和之(わし)〉は鶚鳥の別名なり、鶚〈音は咢〉は大鵰なりといふ。山海経注に云はく、鷲〈音は就〉は小鵰なりといふ。
角鷹 弁色立成云角鷹〈久万太加今案角者毛角之義也〉
角鷹 弁色立成に角鷹〈久万太加(くまたか)、今案ふるに角は毛角の義なり〉と云ふ。
鷙〈鴘字附〉 蒋魴切韻云鷙〈音四多賀〉鷹鷂惣名也日本紀私記云倶知〈兩字急讀屈百済俗号鷹曰倶知也〉唐韻云鴘〈方免反又府蹇反俗云賀閇流波𫟈〉鷹鷂二秊色也
鷙〈鴘字付〉 蒋魴切韻に云はく、鷙〈音は四、太賀(たか)〉は鷹鷂の惣名なりといふ。日本紀私記に倶知〈両字を急ぎ読みて屈、百済に俗に鷹を号けて倶知(くち)と曰ふなり〉と云ふ。唐韻に云はく、鴘〈方免反、又、府蹇反、俗に賀閉流波美(かへるはみ)と云ふ〉は鷹鷂の二年の色なりといふ。
鷹 廣雅云一歳名之黄鷹〈音膺和賀多加〉二歳名之撫〈加太加閇利〉三歳名之青鷹白鷹〈漢語抄云大鷹於保太加兄鷹㔟宇今案俗說雄鷹謂之光鷹雌鷹謂之火鷹也〉
鷹 広雅に云はく、一歳は之れを名けて黄鷹〈音は膺、和賀多加(わかたか)〉、二歳は之れを名けて撫鷹〈加太加閉利(かたかへり〉、三歳は之れを名けて青鷹、白鷹〈漢語抄に大鷹は於保太加(おほたか)、兄鷹は勢宇(せう)と云ふ。今案ふるに俗説に雄鷹は之れを光鷹と謂ひ、雌鷹は之れを火鷹と謂ふなり〉といふ。
鷂 𠔥名苑云鷣〈音滛〉一名鸇〈諸延反〉鷂也野王案鷂〈音遥又云漢語抄云波之太加兄鷂古䏻里〉似鷹而小也
鷂 兼名苑に云はく、鷣〈音は滛〉は一名に鸇〈諸延反〉、鷂なりといふ。野王案に、鷂〈音は遥、又は云はく、漢語抄に波之太加(はしたか)、兄鷂は古能里(このり)と云ふといふ〉は鷹に似て小さきなりとす。
鶙鵳〈鷸子附〉 廣雅云鶙鵳〈帝肩二音漢語抄云能𫝑〉鷸子〈鷸音聿豆布利〉皆鷂属也
鶙鵳〈鷸子付〉 広雅に云はく、鶙鵳〈帝肩の二音、漢語抄に能勢(のせ)と云ふ〉、鷸子〈鷸の音は聿、豆布利(つぶり)〉は皆、鷂の属なりといふ。
雀鷂 𠔥名苑云雀鷂〈漢語抄云湏々𫟈多加一云都𫟈〉善提雀者也唐韵云𪀚〈音戎漢語抄云雀𪀚悦哉〉雀𪀚小鷹也
雀鷂 兼名苑に云はく、雀鷂〈漢語抄に須々美多加(すずみたか)と云ひ、一に都美(つみ)と云ふ〉は善く雀を提ぐる者なりといふ。唐韻に云はく、𪀚〈音は戎、漢語抄に雀𪀚は悦哉と云ふ〉は雀𪀚にして小さき鷹なりといふ。
鶻 斐務齊切韻云鶻〈音骨波夜布佐〉鷹属也隼〈音笋和名同上〉鷙鳥也大名祝鳩
鶻 斐務齊切韻に云はく、鶻〈音は骨、波夜布佐(はやぶさ)〉は鷹の属なり、隼〈音は笋、和名は上に同じ〉は鷙鳥なり、大名(たいめい)に祝鳩といふ。
鴡鳩 尒雅集注云鴡鳩〈上七余反𫟈佐古〉鵰属也好在江𨕙山中𡖋食𩵋者也日本紀私記云覺賀鳥〈賀久加乃止利公望案髙橋氏文云水佐古〉
鴡鳩 爾雅集注に云はく、鴡鳩〈上は七余反、美佐古(みさご)〉は鵰の属なり、江辺、山中に在るを好み、亦、魚を食ふ者なりといふ。日本紀私記に覚賀鳥〈賀久加乃止利(かくかのとり)、公望案に高橋氏文に水佐古(みさご)と云ふ〉と云ふ。
山鷄 七巻食経云山鷄一名鵕䴊〈峻儀二音夜末止利今案鵕䴊種類各異見漢書注〉地理志云山鷄形如家鷄〈雄斑雌黒〉
山鶏 七巻食経に云はく、山鶏は一名に鵕䴊といふ〈峻儀の二音、夜末止利(やまどり)、今案ふるに鵕䴊の種類は各(おのおの)異なる、漢書注に見ゆ〉。地理志に云はく、山鶏の形は家鶏の如しといふ。〈雄は斑にして雌は黒し〉
木兎 尒雅注云木兎〈豆久〉似鴟而小兎頭毛角者也
木兎 爾雅注に云はく、木兎〈都久(つく)〉は鴟に似て小さく兎頭の毛角の者なりといふ。
鴟 本草云鴟一名鳶〈上音祗下音鈆字亦作𪀝度比〉尒雅云一名𪀝鵟〈音狂〉喜食䑕而大目者也
鴟 本草に云はく、鴟は一名に鳶といふ〈上の音は祗、下の音は鉛、字は亦、𪀝に作る、度比(とび)〉。爾雅に云はく、一名に𪀝鵟〈音は狂〉は喜びて鼠を食ひ目を大きくする者なりといふ。
梟 說文云梟〈古堯反布久呂布弁色立成云佐計食父母不孝鳥也尒雅注云鴟梟八別大小之名也〉鴟
梟 説文に云はく、梟〈古堯反、布久呂布(ふくろふ)、弁色立成に佐計(さけ)と云ふ。父母を食ふ不孝の鳥なり。爾雅注に鴟梟は大小を八別する名なりと云ふ〉は鴟といふ。
恠鴟 尒雅注云恠鴟〈与多賀〉晝伏夜行鳴以為恠者也
恠鴟 爾雅注に云はく、恠鴟〈与多賀(よたか)〉は昼に伏し夜に行き、鳴きては恠(あや)しと以為(おも)ふ者なりといふ。
烏 唐韻云烏〈哀都反加良湏〉孝鳥也尒雅云純黒而反哺者謂之烏〈哺音簿故反食在口也〉𠔥名苑云一名鵶〈音䃁字亦作鴉見唐韻〉
烏 唐韻に云はく、烏〈哀都反、加良須(からす)〉は孝鳥なりといふ。爾雅に云はく、純(すべ)て黒くし反哺する者は之れを烏〈哺の音は簿故反、食は口に在るなり〉と謂ふといふ。兼名苑に、一名に鵶〈音は䃁、字は亦、鴉に作る、唐韻に見ゆ〉と云ふ。
鳩 野王案曰鳩〈音丘夜末波止〉此鳥種類甚多鳩其惣名也
鳩 野王案に曰はく、鳩〈音は丘、夜末波止(やまばと)〉、此の鳥は種類、甚だ多く、鳩は其の惣名なりといふ。
鴿 本草云鴿〈古沓反与頜同伊閇波止〉頸短灰色
鴿 本草に云はく、鴿〈古沓反、頜と同じ、伊閉波止(いへばと)〉は頸短く灰色といふ。
鵤 崔禹食経云鵤〈胡岳反以加流賀〉㒵似鴿而白喙𠔥名苑云斑鳩〈日本紀私記云和名同上〉觜大尾短者也
鵤 崔禹食経に云はく、鵤〈胡岳反、以加流賀(いかるが)〉の貌は鴿に似て白き喙といふ。兼名苑に云はく、斑鳩〈日本紀私記に和名は上に同じと云ふ〉は觜大きく尾の短き者なりといふ。
鳹 陸詞曰鳹〈音黔又音琴漢語抄云比米〉白喙鳥也
鳹 陸詞に曰はく、鳹〈音は黔、又の音は琴、漢語抄に比米(ひめ)と云ふ〉は白き喙の鳥といふ。
鴲 孫愐曰鴲〈音脂漢語抄云之米〉小青雀也
鴲 孫愐に曰はく、鴲〈音は脂、漢語抄に之米(しめ)と云ふ〉は小き青雀なりといふ。
獦子鳥 楊氏漢語抄云獦子鳥〈俗云阿止利〉弁色立成云臈觜鳥〈和名同上一云胡雀今案本文未詳但或說云此鳥群𠃧如列卒之滿山林故名獦子鳥也〉
獦子鳥 楊氏漢語抄に獦子鳥と云ふ〈俗に阿止利(あとり)と云ふ〉。弁色立成に臈觜鳥と云ふ。〈和名は上に同じ、一に胡雀と云ふ。今案ずるに本文は未だ詳(つばひら)かならず。但し或説に此の鳥は列卒の山林に満つるが如く群れ飛ぶ故に獦子鳥と名くるなりと云ふ〉
鵯烏 崔禹食経云鵯〈音𤰞一音疋比衣止利〉㒵似烏而色蒼白也尒雅注云鸄〈音激〉一名鵯鶋〈疋居二音〉一名鸒𪆗〈譽斯二音〉飛而多群腹下白者江東呼為鵯烏
鵯烏 崔禹食経に云はく、鵯〈音は卑、一音に疋、比衣止利(ひえどり)〉の貌は烏に似て色は蒼白きなりといふ。爾雅注に云はく、鸄〈音は激〉は一名に鵯鶋〈疋居の二音〉、一名に鸒𪆗〈誉斯の二音〉は飛びて多く群れ、腹の下の白き者、江東に呼びて鵯烏と為といふ。
鵐鳥 唐韻云鵐〈音巫漢語抄云巫鳥之止々〉鳥名也
鵐鳥 唐韻に云はく、鵐〈音は巫、漢語抄に巫鳥は之止々(しとど)と云ふ〉は鳥の名なりといふ。
鶇鳥 唐韻云鶇〈音東漢語抄云鶇鳥都久𫟈見弁色立成云馬鳥〉鳥名也
鶇鳥 唐韻に云はく、鶇〈音は東、漢語抄に鶇鳥は都久美(つぐみ)と云ふ。弁色立成に見え馬鳥を云ふ〉は鳥の名なりといふ。
鵽鳥 陸詞曰鵽〈古活反多止利〉小鳥似雉也
鵽鳥 陸詞に曰はく、鵽〈古活反、多止利(たどり)〉は小鳥にして雉に似るなりといふ。
胡鷰 𠔥名苑注云鷰有胡越二種〈楊氏漢語抄云胡鷰子阿万止利〉
胡鷰 兼名苑注に云はく、鷰に胡、越の二種有りといふ。〈楊氏漢語抄に胡鷰子は阿万止利(あまどり)と云ふ〉
𪇆𪄻 四声字苑云𪇆𪄻〈獨舂二音漢語抄云獨舂鳥佐夜豆歧止利〉鳥黄色声似舂者相杵也
𪇆𪄻 四声字苑に云はく、𪇆𪄻〈独舂の二音、漢語抄に独舂鳥は佐夜豆岐止利(さやつきどり)と云ふ〉鳥は黄色にして、声は舂く者の相杵うつに似るなりといふ。
喚子鳥 万𦯧集云喚子鳥〈其讀与布古止利〉
喚子鳥 万葉集に喚子鳥〈其れを与布古止利(よぶこどり)と読む〉と云ふ。
稲屓鳥 同集云稲屓鳥〈其読伊𥘾於保㔟度利〉
稲負鳥 同集に稲負鳥〈其れを伊奈於保勢度利(いなおほせどり)と読む〉と云ふ。
鵙 𠔥名苑云鵙一名鷭〈上音覔下音煩漢語抄云伯勞毛受一云鵙〉伯勞也日本紀私記云百舌鳥
鶪 兼名苑に云はく、鶪は一名に鷭〈上の音は覔、下の音は煩、漢語抄に伯労は毛受(もず)と云ひ、一に鶪と云ふ〉、伯労なりといふ。日本紀私記に百舌鳥と云ふ。
斵木 尒雅集注云斵木一名鴷〈音列天良豆々歧〉好食樹中蠹者也
斵木 爾雅集注に云はく、斵木は一名に鴷〈音は列、天良豆々岐(てらつつき)〉、樹の中の蠹を好み食ふ者なりといふ。
布穀鳥 𠔥名苑云鸕𪆰一名鴶鵴〈盧葛吉菊四音布々止利〉布穀也
布穀鳥 兼名苑に云はく、鸕𪆰は一名に鴶鵴〈盧、葛、吉、菊の四音、布々止利(ふふどり)〉、布穀なりといふ。
鵼 唐韻云鵼〈音空漢語抄云沼江〉怪鳥也
鵼 唐韻に云はく、鵼〈音は空、漢語抄に沼江(ぬえ)と云ふ〉は怪しき鳥なりといふ。
鵂鶹 張蕐愽物志云鵂鶹鳥〈休留二音漢語抄云伊比止与〉人截手足爪棄地則入其家拾取之
鵂鶹 張華博物志に云はく、鵂鶹鳥〈休留の二音、漢語抄に伊比止与(いひどよ)と云ふ〉は人、手足の爪を截りて地に棄つれば則ち其の家に入りて之れを拾ひ取るといふ。
鵁鶄 唐韵云鵁鶄〈交青二音〉鳥名也弁色立成云鵁鶄〈伊微〉住海𨕙其鳴極喧者也
鵁鶄 唐韻に云はく、鵁鶄〈交青の二音〉は鳥名なりといふ。弁色立成に云はく、鵁鶄〈伊微(いひ)〉は海辺に住み、其の鳴くこと極めて喧しき者なりといふ。
鸎 陸詞曰鸎〈烏莖反漢語抄云春鳥子宇久比湏〉春鳥也
鸎 陸詞に曰はく、鸎〈烏茎反、漢語抄に春鳥子は宇久比須(うぐひす)と云ふ〉は春鳥なりといふ。
𪇖𪈜鳥 唐韵云𪇖𪈜〈藍縷二音保度々歧湏〉今之郭公也
𪇖𪈜鳥 唐韻に云はく、𪇖𪈜〈藍縷の二音、保度々岐須(ほととぎす)〉は今の郭公なりといふ。
雉 廣雅云雉〈音智上声之重歧々湏一云歧之〉野鷄也
雉 広雅に云はく、雉〈音は智、上声の重、岐々須(きぎす)、一に岐之(きじ)と云ふ〉は野鷄なりといふ。
鶉 淮南子云蝦蟇化為鶉〈市倫反宇豆良〉
鶉 淮南子に云はく、蝦蟇は化けて鶉〈市倫反、宇豆良(うづら)〉と為るといふ。
鸗 玉篇云鸗〈音籠漢語抄云之歧一云田鳥〉野鳥也
鸗 玉篇に云はく、鸗〈音は籠、漢語抄に之岐(しぎ)と云ひ、一に田鳥と云ふ〉は野鳥なりといふ。
雲雀 崔禹食経云雲雀似雀而大〈比波利〉楊氏漢語鈔云鶬鶊〈倉庚二音訓上同〉
雲雀 崔禹食経に云はく、雲雀は雀に似て大(とほしろ)しといふ〈比波利(ひばり〉。楊氏漢語抄に鶬鶊〈倉庚の二音、訓は上に同じ〉と云ふ。
鸅鸆鳥 唐韵云鸅鸆〈澤虞二音漢語抄云護田鳥於湏賣止利〉尒雅集注云鴋〈音紡〉一名澤虞即護田鳥也常在澤中見人輙鳴有似主守官故以名之
鸅鸆鳥 唐韻に、鸅鸆〈澤虞の二音、漢語抄に護田鳥、於須売止利(おすめどり)と云ふ〉と云ふ。爾雅集注に云はく、鴋〈音は紡〉は一名に沢虞、即ち護田鳥なり、常に沢中に在りて人を見ては輙ち鳴く、主守官に似たる有り、故に以て之れを名づくといふ。
鼃鳥 崔禹食経云鼃鳥〈久比𥘾漢語抄云水鷄〉㒵似水鷄能食鼃故以名之
鼃鳥 崔禹食経に云はく、鼃鳥〈久比奈(くひな)、漢語抄に水鷄と云ふ〉の貌は水鷄に似て能く鼃を食ふ、故に以て之れを名づくといふ。
鷰鳥 尒雅集注云鷰〈烏見反豆波久良米〉白脰小烏也
鷰鳥 爾雅集注に云はく、鷰〈烏見反、豆波久良米(つばくらめ)〉は白き脰(うなじ)の小烏なりといふ。
雀〈連雀附〉 楊氏漢語抄云雀〈且略反湏々米〉連雀〈唐雀也弁色立成說同〉
雀〈連雀付〉 楊氏漢語抄に云はく、雀〈且略反、須々米(すずめ)〉、連雀〈唐雀なり、弁色立成の説に同じ〉といふ。
𪃹〓〔令冠に鳥〕 崔禹食経云𪃹〓〔令冠に鳥〕〈積霊二音字或作鶺鴒迩波久𥘾布利日本紀私記云止都歧乎之倍止利〉㒵似鷰而髙飛作声
𪃹〓〔令冠に鳥〕 崔禹食経に云はく、𪃹〓〔令冠に鳥〕〈積霊の二音、字は或に鶺鴒に作る、邇波久奈布利(にはくなぶり)、日本紀私記に止都岐乎之倍止利(とつぎをしへどり)と云ふ〉の貌は鷰に似て高く飛び声を作すといふ。
巧婦 𠔥名苑注云巧婦〈太久𫟈止利〉好割葦皮食中䖝故亦名蘆虎
巧婦 兼名苑注に云はく、巧婦〈太久美止利(たくみどり)〉は好く葦皮を割きて中の虫を食ふ、故に亦、蘆虎と名づくといふ。
鷦鷯 文選鷦鷯賦云鷦鷯〈焦遼二音佐々歧〉小鳥也生於蒿萊之間長於藩籬之下
鷦鷯 文選鷦鷯賦に云はく、鷦鷯〈焦遼の二音、佐々岐(さざき)〉は小鳥なり、蒿萊の間に生れ、藩籬の下(もと)に長(おとな)ぶといふ。
鷃 唐韻云鷃〈音晏加夜久歧〉萑鷃小鳥也
鷃 唐韻に云はく、鷃〈音は晏、加夜久岐(かやくき)〉は萑鷃、小鳥なりといふ。
鴻鴈 毛詩鴻鴈篇注云大曰鴻小曰鴈〈洪岸二音加利〉
鴻鴈 毛詩鴻鴈篇注に云はく、大きなるを鴻と曰ひ、小きなるを鴈と曰ふといふ。〈洪岸の二音、加利(かり)〉
鴨 尒雅集注云鴨〈音押〉野名曰鳬〈音扶〉家名曰鶩〈音木〉楊氏漢語抄云鳬鷖〈加毛下字音烏嵆反〉
鴨 爾雅集注に云はく、鴨〈音は押〉は野にゐるは名を鳬〈音は扶〉と曰ひ、家にゐるは名を鶩〈音は木〉と曰ふ。楊氏漢語抄に鳬鷖〈加毛(かも)、下の字の音は烏嵆反〉と云ふ。
鴛鴦 崔豹古今注云鴛鴦〈𡨚鸎二音乎之漢語抄云〓〔溪冠に鳥〕𪃠其音溪勅〉雌雄未嘗相離人得其一則一思而死故名匹鳥也
鴛鴦 崔豹古今注に云はく、鴛鴦〈𡨚鸎の二音、乎之(をし)、漢語抄に〓〔溪冠に鳥〕𪃠、其の音は渓勅と云ふ〉は雌雄、未だ嘗て相離れず、人の其の一を得ば、則ち一は思ひて死す、故に匹鳥と名づくなりといふ。
鸍 尒雅集注云鸍〈音弥一音施漢語抄云多加倍〉一名沈鳬㒵似鴨而小背上有文
鸍 爾雅集注に云はく、鸍〈音は弥、一音に施、漢語抄に多加倍(たかべ)と云ふ〉は一名に沈鳬、貌は鴨に似て小さく、背の上に文有りといふ。
鵝 𠔥名苑注云鵝〈音我〉形如雁人家㪽畜也
鵝 兼名苑注に云はく、鵝〈音は我〉の形は雁の如くして人家に畜はれるなりといふ。
鵠 野王案曰鵠〈胡篤反漢語抄云古布日本紀私記云久々比〉大鳥也
鵠 野王案に曰はく、鵠〈胡篤反、漢語抄に古布(こふ)と云ひ、日本紀私記に久々比(くぐひ)と云ふ〉は大鳥なりといふ。
鸛 本草云鸛〈音舘於保止利〉水鳥似鵠而巢樹者也
鸛 本草に云はく、鸛〈音は舘、於保止利(おほとり)〉は水鳥にして鵠に似て樹に巣(すく)ふ者なりといふ。
鷺 唐韵云𪅖〓〔鋤偏に鳥〕〈舂鋤二音〉白鷺也崔禹食経云鷺〈音路佐歧〉色純白其声似人呼者也
鷺 唐韻に云はく、𪅖〓〔鋤偏に鳥〕〈舂鋤の二音〉は白鷺なりといふ。崔禹食経に云はく、鷺〈音は路、佐岐(さぎ)〉の色は純て白くして其の声は人の呼ぶに似たる者なりといふ。
蒼鷺 崔禹食経云鷺又有一種相似而小色蒼黒並在水湖間〈漢語抄云蒼鷺𫟈止佐歧〉
蒼鷺 崔禹食経に云はく、鷺に又、一種有り、相似て小さく色の蒼黒く、並びに水湖の間に在りといふ。〈漢語抄に蒼鷺は美止佐岐(みとさぎ)と云ふ〉
鵲 本草云鵲〈且略反加佐々歧〉飛駮馬泥鵲腦名也
鵲 本草に云はく、鵲〈且略反、加佐々岐(かささぎ)〉の飛駮、馬泥は鵲の脳の名なりといふ。
鳭 玉篇云鳭〈音嘲都歧〉赤喙自呼之鳥也楊氏漢語抄云紅𩿷〈同上俗用鵇字今案㪽出未詳日本云桃花鳥〉
鳭 玉篇に云はく、鳭〈音は嘲、都岐(つき)〉は赤き喙にして自ら呼ぶ鳥なりといふ。楊氏漢語抄に紅𩿷と云ふ。〈上に同じ、俗に鵇の字を用ゐる。今案ふるに出づる所未だ詳かならず。日本に桃花鳥と云ふ〉
鸕鷀 弁色立成云大曰鸕鷀〈盧兹二音日本紀私記云志麻都止利〉小曰鵜鶘〈啼胡二音俗云宇〉尒雅注云鸕鷀水鳥也觜頭如鈎好食𩵋也
鸕鷀 弁色立成に云はく、大きなるを鸕鷀〈盧兹の二音、日本紀私記に志麻都止利(しまつとり)と云ふ〉と曰ひ、小さきなるを鵜鶘〈啼胡の二音、俗に宇(う)と云ふ〉と曰ふといふ。爾雅注に云はく、鸕鷀は水鳥なり、觜頭は鈎の如くして好く魚を食ふなりといふ。
𩿢 唐韵云𩿢〈他口反漢語抄云久呂止利〉黒色水鳥名也
𩿢 唐韻に云はく、𩿢〈他口反、漢語抄に久呂止利(くろどり)と云ふ〉は黒色の水鳥の名なりといふ。
魚虎 尒雅集注云鴗〈音立曽比見日本紀私記〉小鳥也色青翆而食魚江東呼為水狗𠔥名苑云𩵋虎
魚虎 爾雅集注に云はく、鴗〈音は立、曽比(そび)、日本紀私記に見ゆ〉は小鳥なり、色は青翠にして魚を食ひ、江東に呼びて水狗と為といふ。兼名苑に魚虎と云ふ。
鸊鶙 方言注云鸊鶙〈辟低二音弁色立色云迩保〉野鳬小而好沒水中也玉篇云鸊鶙其膏可以瑩刀劔
鸊鶙 方言注に云はく、鸊鶙〈辟低の二音、弁色立色に邇保(にほ)と云ふ〉は野鳬にして小さくして好く水中に没むなりといふ。玉篇に云はく、鸊鶙、其の膏を以て刀剣を瑩くべしといふ。
鷗 唐韵云鷗〈烏侯反加毛米〉水鳥也𠔥名苑云一名江鷰
鷗 唐韻に云はく、鷗〈烏侯反、加毛米(かもめ)〉は水鳥なりといふ。兼名苑に云はく、一名に江鷰といふ。
鶵 尒雅云鳥子生湏其母而食謂之鷇〈音雊一云音鴿〉鳥子生能噣食謂之雛〈音蒭字亦作𪀫訓並比𥘾〉
鶵 爾雅に云はく、鳥の子生れて須く其の母にして食ふべきは之れを鷇〈音は雊、一音に鴿と云ふ〉と謂ひ、鳥の子生れて能く食を噣(ついは)むは之れを雛〈音は蒭、字は亦、𪀫に作る、訓は並びに比奈(ひな)〉と謂ふといふ。
𡖉 陸詞曰𡖉〈音嬾加比古〉鳥胎也呂氏春秋云鷄𡖉多毈〈音段湏毛里〉野王案曰毈𡖉不孵也孵〈音孚俗云加閇流〉𡖉化也
卵 陸詞に曰はく、卵〈音は嬾、加比古(かひご)〉は鳥の胎なりといふ。呂氏春秋に云はく、鶏卵は多く毈〈音は段、須毛里(すもり)〉すといふ。野王案に曰はく、毈卵は孵らざるなり、孵〈音は孚、俗に加閉流(かへる)と云ふ〉は卵の化るといふ。

鳥體百一
鳥体百一
冠 野王案云〓〔溪冠に鳥〕𪃠頭上有毛冠〈冠讀佐賀文選羽毛射雉賦冠雙立謂之毛角耳〉鳥冠也尒雅注云木兎似鴟而毛角〈今案名同上但獨立謂之毛冠此间雙立謂之毛角耳〉
冠 野王案に云はく、〓〔溪冠に鳥〕𪃠の頭上に毛冠〈冠は佐賀(さか)と読む。文選羽毛射雉賦に冠の双つ立つは之れを毛角耳と謂ふ〉、鳥冠有りといふ。爾雅注に云はく、木兎は鴟に似て毛角ありといふ。〈今案ふるに名は上に同じ。但し独つ立つは之れを毛冠と謂ふ。此の間に双つ立つは之れを毛角耳と謂ふ〉
觜〈喙附〉 說文云觜〈音斯久知波之〉鳥喙也喙〈音衛久知佐歧良文選序鷹礪之是〉鳥口也
觜〈喙付〉 説文に云はく、觜〈音は斯、久知波之(くちばし)〉は鳥の喙なり、喙〈音は衛、久知佐岐良(くちさきら)、文選序に鷹の之れを礪ぐは是〉は鳥の口なりといふ。
毳 考声切韵云毳〈川芮反尒古介〉細弱毛也
毳 考声切韻に云はく、毳〈川芮反、爾古介(にこげ)〉は細く弱き毛なりといふ。
䙰𥛨 文選海賦云鳬雛䙰𥛨〈離徒二音師說布久介〉
䙰𥛨 文選海賦に云はく、鳬(かもめ)の雛、䙰𥛨〈離徒の二音、師説に布久介(ふくげ)〉にすといふ。
淋渗 同賦云鸖子淋渗〈林深二音師說都々介〉李善曰䙰𥛨淋渗皆毛羽始生㒵也
淋渗 同賦に云はく、鶴子は淋渗〈林深の二音、師説に都々介(つつげ)〉にささげなくといふ。李善に曰はく、䙰𥛨、淋渗は皆、毛羽の始めて生ゆる貌なりといふ。
羽 唐韵云羽〈音禹波〉鳥翅也
羽 唐韻に云はく、羽〈音は禹、波(は)〉は鳥の翅なりといふ。
翼 唐韵云翅〈施智反去声之輕豆波佐〉鳥翼也翼〈与軄反〉羽翼又助也翎〈音零和名並同上〉鳥羽
翼 唐韻に云はく、翅〈施智反、去声の軽、豆波佐(つばさ)〉は鳥の翼なり、翼〈与職反〉は羽翼、又、助くなり、翎〈音は零、和名は並びに上に同じ〉は鳥の羽といふ。
翮 尒雅集注云羽本曰翮〈下革反字亦作𦑜波祢〉一云羽根也
翮 爾雅集注に云はく、羽の本を翮〈下革反、字は亦、𦑜に作る、波禰(はね)〉と曰ひ、一に羽根と云ふなりといふ。
翈 唐韵云翈〈胡甲反与匣同加佐歧利〉翮上短羽也
翈 唐韻に云はく、翈〈胡甲反、匣と同じ、加佐岐利(かざきり)〉は翮の上の短き羽なりといふ。
倍羅縻 日本紀私記云倍羅縻〈師說鳥乃和歧乃之多乃介乎為倍羅縻也縻謂真實也言掖羽乃古止掩蔵之周也案奥區也今俗謂保呂羽訛也〉
倍羅縻 日本紀私記に倍羅縻〈師説に鳥乃和岐乃之多乃介(とりのわきのしたのけ)を倍羅縻と為るなり、縻は真実を謂ふなり、掖羽のごと掩ひ蔵し周らすなるを言ふ、案ふるに奥区なり、今、俗に保呂羽(ほろば)と謂ふは訛れるなり〉と云ふ。
翹 四声字苑云翹〈渠遥反今案俗云翡翆是〉鳥尾上長毛也
翹 四声字苑に云はく、翹〈渠遥反、今案ふるに俗に翡翠と云ふは是〉は鳥の尾の上の長き毛なりといふ。
尾 野王案云尾〈漠鬼反乎〉鳥獣尻長毛也
尾 野王案に云はく、尾〈漠鬼反、乎(を)〉は鳥獣の尻の長き毛なりといふ。
鞦 文選射雉賦云青鞦〈音秋師說乎布佐〉李善曰鞦夾尾之間也
鞦 文選射雉賦に青き鞦〈音は秋、師説に乎布佐(をぶさ)〉と云ふ。李善に曰はく、鞦は尾の間に夾むなりといふ。
臎 遊仙窟云雉臎〈音翆師說比多礼〉說文云臎〈今案如許慎說者俗㪽謂阿布良之利是也〉鳥尾肉也
臎 遊仙窟に雉臎〈音は翠、師説に比多礼(ひたれ)〉と云ふ。説文に云はく、臎〈今案ふるに許慎の説の如きは俗に所謂る阿布良之利(あぶらしり)、是なり〉は鳥の尾の肉なりといふ。
吭 唐韵云吭〈胡郎反又去声鳥乃布江〉鳥喉嚨也
吭 唐韻に云はく、吭〈胡郎反、又、去声、鳥乃布江(とりのふえ)〉は鳥の喉嚨なりといふ。
膍胵 本草云膍胵〈毗蚩二音鳥乃和多〉鳥胃也
膍胵 本草に云はく、膍胵〈毘蚩の二音、鳥乃和多(とりのわた)〉は鳥の胃なりといふ。
肫 唐韵云肫〈章倫反与春同漢語抄云无々歧〉鳥蔵也
肫 唐韻に云はく、肫〈章倫反、春と同じ、漢語抄に無々岐(むむき)と云ふ〉は鳥の蔵なりといふ。
膆 文選射雉賦注云膆〈音素師說毛乃波𫟈〉鳥受食𠙚也
膆 文選射雉賦注に云はく、膆〈音は素、師説に毛乃波美(ものはみ)〉は鳥の食(くひもの)を受くる処なりといふ。
𠷏 唐韵云𠷏〈音委又音毀曽々呂〉說文鷙鳥食已吐其皮毛如丸也
𠷏 唐韻に𠷏〈音は委、又の音は毀、曽々呂(そそろ)〉と云ふ。説文に鷙鳥は食ひ已りて其の皮毛を吐けば丸(まり)の如きなり。
鴨通 本草云鴨通〈加毛乃久曽〉鴨屎名也
鴨通 本草に云はく、鴨通〈加毛乃久曽(かものくそ)〉は鴨の屎の名なりといふ。
蜀水草 本草云蜀水華〈宇乃久曽〉鸕鷀矢名也
蜀水草 本草に云はく、蜀水華〈宇乃久曽(うのくそ)〉は鸕鷀の矢(くそ)の名なりといふ。
蹼 尒雅集注云蹼〈音卜𫟈豆加歧〉鳬鴈足指間有幕相連著者也
蹼 爾雅集注に云はく、蹼〈音は卜、美豆加岐(みづかき)〉は鳬鴈の足の指の間に幕有りて相連なり著く者なりといふ。
距 蒋魴切韻云距〈音巨訓阿古江〉鶏雉脛有歧也
距 蒋魴切韻に云はく、距〈音は巨、訓は阿古江(あごえ)〉は鶏雉の脛に岐有るなりといふ。
飛翥 唐韵云翥〈章恕字亦作䬡文選射雉賦云軒翥波布流俗云波都々〉𠃧擧也
飛翥 唐韻に云はく、翥〈章は恕、字は亦、䬡に作る。文選射雉賦に軒翥を波布流(はふる)と云ひ、俗に波都々(はつつ)と云ふ〉は飛び挙ぐるなりといふ。
啄 四声字苑云啄〈丁角反都伊波无又用噣字音闘〉鳥口取食也
啄 四声字苑に云はく、啄〈丁角反、都伊波無(ついばむ)、又、噣の字を用ゐる、音は闘〉は鳥の口、取り食ふなりといふ。
嚇 唐韵云鳴〈音名𥘾久〉鳥啼也囀〈音轉佐閇都流〉鳥吟也文選蕪城賦云寒鴟嚇鶵〈嚇音呼格反師說賀々𥘾久〉
嚇 唐韻に云はく、鳴〈音は名、奈久(なく)〉は鳥の啼くなり、囀〈音は転、佐閉都流(さへづる)〉は鳥の吟くなりといふ。文選蕪城賦に云はく、寒鴟のこひたるとり、嚇鶵とかかなくといふ。〈嚇の音は呼格反、師説に賀々奈久(かかなく)〉
㕞毛 四声字苑云㕞〈㪽劣反文選云㕞加以豆久路比湏漢語抄云阿布良比歧〉鳥理毛也
㕞毛 四声字苑に云はく、㕞〈所劣反、文選に㕞は加以豆久路比須(かいつくろひす)と云ひ、漢語抄に阿布良比岐(あぶらびき)と云ふ〉は鳥の毛を理むるなりといふ。
孳尾 尚書云鳥獣孳尾〈孳音疾置反与字同〉孔安國曰乳化曰孳交接曰尾〈鳥交接俗人云豆流比湏〉
孳尾 尚書に云はく、鳥獣は孳尾〈孳の音は疾置反、字と同じ〉すといふ。孔安国に曰はく、乳化を孳と曰ひ、交接を尾〈鳥の交接を俗人は豆流比須(つるびす)と云ふ〉と曰ふといふ。
巢 孫愐曰鳥巣在穴曰窠在樹曰巣〈音曹訓湏一云湏久布〉
巢 孫愐に曰はく、鳥の巣の穴に在るを窠と曰ひ、樹に在るを巣〈音は曹、訓は須(す)一に須久布(すくふ)と云ふ〉と曰ふといふ。
塒 毛詩曰雞栖于塒注曰鑿墻而棲曰塒〈音時訓止久良〉
塒 毛詩に曰はく、鶏は塒に栖むといふ。注に曰はく、墻を鑿ちて棲むを塒〈音は時、訓は止久良(とぐら)〉と曰ふといふ。
 
毛群部第十六〈文選注云毛群謂獣〉
毛群部第十六〈文選注に云はく、毛群を獣と謂ふといふ〉
 獣名百二 獣體百三
 獣名百二 獣体百三

獣名百二
獣名百二
獣 尒雅注云四足而毛曰獣〈音狩介毛乃〉野王案六畜〈音宙一音救介多毛乃〉牛馬羊犬鷄豕也說文云牝〈音臏米介毛能〉畜毋也牡〈音母乎介毛乃〉畜父也
獣 爾雅注に云はく、四足にして毛あるを獣〈音は狩、介毛乃(けもの)〉と曰ふといふ。野王案に、六畜〈音は宙、一音に救、介多毛乃(けだもの)〉は牛、馬、羊、犬、鶏、豕なりとす。説文に云はく、牝〈音は臏、米介毛能(めけもの)〉は畜母なり、牡〈音は母、乎介毛乃(をけもの)〉は畜父なりといふ。
師子 𠔥名苑云師子一名狻猊〈酸蜺二音〉𥠇天子傳云狻猊日行五百里以虎豹為粮
師子 兼名苑に云はく、師子は一名に狻猊〈酸蜺の二音〉といふ。穆天子伝に云はく、狻猊は日に五百里行きて以て虎豹を粮と為といふ。 
象 四声字苑云𤉢〈祥兩反上声之重字亦作象歧佐〉獣名似水牛大耳長鼻眼細牙長者也
象 四声字苑に云はく、𤉢〈祥両反、上声の重、字は亦、象に作る、岐佐(きさ)〉は獣の名、水牛に似て大き耳、長き鼻、眼細く、牙長き者なりといふ。
犀〈雌犀附〉 尒雅集注云犀〈音西此间音在〉形似水牛猪頭大腹有三角一在頂上一在額上一在鼻上脚有三蹄黒色本草云雌犀一名兕犀〈楊玄操曰兕音似〉
犀〈雌犀付〉 爾雅集注に云はく、犀〈音は西、此の間に音は在〉の形は水牛に似て猪の頭、大き腹、三つの角有り、一は頂の上に在り、一は額の上に在り、一は鼻の上に在り、脚に三つの蹄有り、黒き色といふ。本草に云はく、雌犀は一名に兕犀といふ〈楊玄操に兕の音は似と曰ふ〉。
麒麟 瑞應圖云麒麟〈其隣二音又作騏驎〉仁獣也牡曰〓〔其偏に鹿〕牝曰𫜏也
麒麟 瑞応図に云はく、麒麟〈其隣の二音、亦、騏驎に作る〉は仁獣なり、牡を〓〔其偏に鹿〕と曰ひ、牝を𫜏と曰ふなりといふ。
猩々 尒雅注云猩々〈音星此間云象章〉能言獣也孫愐曰獣身人面好飲酒者也
猩々 爾雅注に云はく、猩々〈音は星、此の間に象章と云ふ〉は能く言(ものい)ふ獣なりといふ。孫愐に曰はく、獣身にして人面、好みて酒を飲む者なりといふ。
虎 說文云虎〈乎古反止良〉山獣之君也
虎 説文に云はく、虎〈乎古反、止良(とら)〉は山獣の君なりといふ。
豹 說文云豹〈補教反日本紀私記云𥘾賀豆可𫟈〉似虎而圎文者也
豹 説文に云はく、豹〈補教反、日本紀私記に奈賀豆可美(なかつかみ)と云ふ〉は虎に似て円き文の者なりといふ。
熊 陸詞切韵云熊〈音雄久万〉獣之似羆而小也
熊 陸詞切韻に云はく、熊〈音は雄、久万(くま)〉は獣の羆に似て小さきなりといふ。
犲狼〈獥附〉 𠔥名苑云狼一名犲〈音才〉說文云狼〈音郎於保加𫟈〉似犬而鋭頭白頰者也尒雅云獥〈音叫〉狼子也
犲狼〈獥付〉 兼名苑に云はく、狼は一名に犲〈音は才〉といふ。説文に云はく、狼〈音は郎、於保加美(おほかみ)〉は犬に似て鋭き頭、白き頬の者なりといふ。爾雅に云はく、獥〈音は叫〉は狼の子なりといふ。
猫 野王案猫〈音苗祢古麻〉似虎而小䏻捕䑕為粮
猫 野王案に、猫〈音は苗、禰古麻(ねこま)〉は虎に似て小さく、能く鼠を捕りて粮と為といふ。
葦鹿 本朝式云葦鹿皮〈阿之賀見于陸奥出羽交昜雜物中矣本文未詳〉
葦鹿 本朝式に葦鹿皮と云ふ。〈阿之賀(あしか)、陸奥、出羽の交易雑物の中に見ゆ。本文は未だ詳かならず〉
獨犴 唐韵云犴〈俄寒反又音岸今案和名未詳但本朝式云葦鹿皮獨犴皮云々犴音如蕳此名㪽出亦未詳〉胡地野犬名也
獨犴 唐韻に云はく、犴〈俄寒反、又、音は岸。今案ふるに和名は未だ詳かならず。但し本朝式に葦鹿皮は独犴皮云々、犴の音は蕳の如しと云ふ。此の名の出づる所、亦、未だ詳かならず〉は胡地の野犬の名なりといふ。
水豹 文選西亰賦云搤水豹〈阿㔫良之〉
水豹 文選西京賦に云はく、水豹〈阿左良之(あざらし)〉を搤(くび)るといふ。
獺 𠔥名苑云獺〈音脫乎曽〉水獣恒居水中食𩵋為粮者也唐韵云獱〈音頻〉獺之別名也
獺 兼名苑に云はく、獺〈音は脱、乎曽(をそ)〉は水獣、恒に水中に居り魚を食ひて粮と為る者なりといふ。唐韻に云はく、獱〈音は頻〉は獺の別名なりといふ。
麋 四声字苑云麋〈音眉漢語抄云於保之可〉似鹿而大毛不斑以冬至解角者也
麋 四声字苑に云はく、麋〈音は眉、漢語抄に於保之可(おほじか)と云ふ〉は鹿に似て大きく毛は斑ならず、冬至を以て角を解く者なりといふ。
鹿 陸詞切韵云鹿〈音禄賀〉斑獣也尒雅集注云牡鹿曰麚〈音家日本紀私記云牡鹿佐乎之加〉牝鹿曰麀〈音憂米賀〉其子曰麑〈音迷字亦作麛加吴〉
鹿 陸詞切韻に云はく、鹿〈音は禄、賀(か)〉は斑の獣なりといふ。爾雅集注に云はく、牡鹿を麚〈音は家、日本紀私記に牡鹿を佐乎之加(さをしか)と云ふ〉と曰ひ、牝鹿を麀〈音は憂、米賀(めか)〉と曰ひ、其の子を麑〈音は迷、字は亦、麛に作る、加呉(かこ)〉と曰ふといふ。
麞 唐韵云麏〈居筠反字亦作麕〉鹿属也本草音義云麞〈音章〉一名麕〈久之加〉
麞 唐韻に云はく、麏〈居筠反、字は亦、麕に作る〉は鹿の属なりといふ。本草音義に云はく、麞〈音は章〉は一名に麕といふ。〈久之加(くじか)〉
麢羊 尒雅注云麢羊〈力丁反字亦作𦏪和名加万之師〉大於羊而大角
麢羊 爾雅注に云はく、麢羊〈力丁反、字は亦、𦏪に作る、和名は加万之師(かましし)〉は羊より大きく、大き角あるといふ。
玃 抱朴子云猨壽五百歳則變為玃〈音攫漢語抄云夜末古〉
玃 抱朴子に云はく、猨は寿、五百歳にして則ち変りて玃〈音は攫、漢語抄に夜末古(やまこ)と云ふ〉と為るといふ。
猱㹶 文選注云猱㹶〈上乃交反下音𨓍漢語抄云麻多〉猨属也
猱㹶 文選注に云はく、猱㹶〈上は乃交反、下の音は庭、漢語抄に麻多(また)と云ふ〉は猨の属なりといふ。
猨 風土記云猨〈音園字亦作猿佐流〉善屓子乘危而投至倒而還者也𠔥名苑云一名猕猴〈弥侯二音〉文選云猿狖〈音犮〉唐韵云猴猻〈音孫漢語抄云猢猻猴猻〉
猨 風土記に云はく、猨〈音は園、字は亦、猿に作る、佐流(さる)〉は善く子を負ひ、危きに乗りて投ぐるに至り倒れては還る者なりといふ。兼名苑に一名は獼猴〈弥侯の二音〉と云ふ。文選に猿狖〈音は友〉と云ふ。唐韻に猴猻〈音は孫、漢語抄に猢猻は猴猻と云ふ〉と云ふ。
狐 考声切韵云狐〈音胡歧豆祢〉獣名射干也関中呼為野干語訛也孫愐曰狐䏻為妖怪至百歳化為女者也
狐 考声切韻に云はく、狐〈音は胡、岐豆禰(きつね)〉は獣の名、射干なり、関中に呼びて野干と為るは語の訛れるなりといふ。孫愐に曰はく、狐は能く妖怪と為り、百歳に至りて化けて女と為る者なりといふ。
狢 說文云狢〈音鸖漢語抄云无之𥘾〉似狐而善睡者也
狢 説文に云はく、狢〈音は鶴、漢語抄に無之奈(むじな)と云ふ〉は狐に似て善く睡る者なりといふ。
野猪 本草云野猪〈久佐為𥘾歧〉
野猪 本草に野猪〈久佐為奈岐(くさゐなぎ)〉と云ふ。
狸 𠔥名苑注云狸〈音𨤲多奴歧〉摶鳥為粮者也
狸 兼名苑注に云はく、狸〈音は𨤲、多奴岐(たぬき)〉は鳥を摶(あつ)めて粮と為る者なりといふ。
猯 唐韵云猯〈音端又音旦𫟈〉似豕而肥者也本草云一名獾㹠〈歓屯二音〉
猯 唐韻に云はく、猯〈音は端、又の音は旦、美(み)〉は豕に似て肥ゆる者なりといふ。本草に一名は獾㹠〈歓屯の二音〉と云ふ。
兎 四声字苑云兎〈音度宇佐歧〉似小犬而長耳缺脣者也
兎 四声字苑に云はく、兎〈音は度、宇佐岐(うさぎ)〉は小犬に似て長き耳、脣を欠く者なりといふ。
貂 同苑云貂〈音凋天〉似䑕黄色〈皮堪作裘〉
貂 同苑に云はく、貂〈音は凋、天(て)〉は鼠に似て黄色なりといふ。〈皮は裘を作るに堪ふ〉
黒貂 唐韵云貂有黄黒貂出東北夷〈黒貂布流歧〉
黒貂 唐韻に云はく、貂に黄、黒貂有り、東北夷に出づといふ。〈黒貂は布流岐(ふるき)〉
䑕 四声字苑云䑕〈昌与反祢湏𫟈〉穴居小獣種類多者也
鼠 四声字苑に云はく、鼠〈昌与反、禰須美(ねずみ)〉は穴に居る小さき獣、種類の多き者なりといふ。
火䑕 神異記云火䑕〈比祢湏𫟈〉取其毛織為布若汙以火焼之更令清潔矣
火鼠 神異記に云はく、火鼠〈比禰須美(ひねずみ)〉は其の毛を取りて織りて布を為る、若し汚るれば火を以て之れを焼き、更び清潔なら令むといふ。
鼷䑕 說文云鼷䑕〈音奚阿末久知祢湏𫟈〉小䑕也食人及鳥獣雖至盡不痛今謂之甘口䑕
鼷鼠 説文に云はく、鼷鼠〈音は奚、阿末久知禰須美(あまくちねずみ)〉は小鼠なり、人及び鳥獣を食ひ、尽きるに至ると雖も痛まずといふ。今、之れを甘口鼠と謂ふ。
鼱鼩 文選注云鼱鼩〈精劬二音漢語抄云䏻良祢〉小䑕也
鼱鼩 文選注に云はく、鼱鼩〈精劬の二音、漢語抄に能良禰(のらね)と云ふ〉は小鼠なりといふ。
𪕭𪖂 玉篇云𪕭𪖂〈藹離二音豆良祢古〉小䑕相銜而行也
𪕭𪖂 玉篇に云はく、𪕭𪖂〈藹離の二音、豆良禰古(つらねこ)〉は小鼠の相銜みて行くなりといふ。
鼯䑕 本草云鼺䑕〈上音力水反又音力追反〉一名鼯鼠〈上音吾毛𫟈俗云无佐々比〉𠔥名苑注云狀如猨而肉翼似蝙蝠䏻従髙而下不䏻下而上常食火煙声如小兒者也
鼯鼠 本草に云はく、鼺鼠〈上の音は力水反、又の音は力追反〉は一名に鼯鼠〈上の音は吾、毛美(もみ)、俗に無佐々比(むささび)と云ふ〉といふ。兼名苑注に云はく、状は猨の如くして肉の翼、蝙蝠に似て能く高きより下り、下にありて上ること能はず、常に火煙を食ひ声は小児(わくご)の如き者なりといふ。
鼬䑕 尒雅集注云鼬䑕〈上音酉〉狀如䑕赤黄而大尾䏻食䑕今江東呼為鼪〈音性以太知漢語抄云䑕狼〉
鼬鼠 爾雅集注に云はく、鼬鼠〈上の音は酉〉の状は鼠の如くして赤黄にして大きなる尾、能く鼠を食ふといふ。今、江東に呼びて鼪〈音は性、以太知(いたち)、漢語抄に鼠狼と云ふ〉と為といふ。
鼴䑕 本草云鼴䑕〈上音偃〉一名鼢䑕〈上扶粉反上声之重字亦作𪖅宇古路毛知〉通俗文云糞䑕一名𤣘〈音冥〉兼名苑注云恒在圡中行若見三光即死
鼴鼠 本草に云はく、鼴鼠〈上の音は偃〉は一名に鼢鼠〈上は扶粉反、上声の重、字は亦、𪖅に作る、宇古路毛知(うごろもち)〉といふ。通俗文に云はく、糞鼠は一名に𤣘〈音は冥〉といふ。兼名苑注に云はく、恒に土中に在りて行く、若し三光を見ば即ち死ぬといふ。
猪〈猪子附〉 尒雅集注云猪〈徴居反〉一名彘〈音弟井〉𠔥名苑云一名豕〈音子〉方言注云豚〈徒昆反字亦作㹠〉豕子也
猪〈猪子付〉 爾雅集注に云はく、猪〈徴居反〉は一名に彘〈音は弟、井(ゐ)〉といふ。兼名苑に一名は豕〈音は子〉と云ふ。方言注に云はく、豚〈徒昆反、字は亦、㹠に作る〉は豕子なりといふ。
羊〈羊子附〉 𠔥名苑云羝〈音低〉一名䍽〈音歴匕都之〉羊也羔〈音髙〉一名羜〈音宁〉羊子也
羊〈羊子付〉 兼名苑に云はく、羝〈音は低〉は一名に䍽〈音は歴、比都之(ひつじ)〉は羊なり、羔〈音は高〉、一名に羜〈音は宁〉は羊の子なりといふ。
犬〈犬子附〉 𠔥名苑云犬一名尨〈莫江反〉尒雅集注云㺃〈音苟恵沼又与犬同〉犬子也
犬〈犬子付〉 兼名苑に云はく、犬は一名に尨〈莫江反〉といふ。爾雅集注に云はく、㺃〈音は苟、恵沼(ゑぬ)、又、犬と同じ〉は犬の子なりといふ。
𤡠 唐韵云𤡠〈奴刀反无久介以沼〉深毛犬也
㺜 唐韻に云はく、㺜〈奴刀反、無久介以沼(むくげいぬ)〉は深き毛の犬なりといふ。

獣體百三
獣体百三
牙 山海経云象牙大者長一丈
牙 山海経に云はく、象牙の大なる者は長さ一丈といふ。
角〈觘附〉 野王案角〈古岳反豆䏻〉獣頭上出骨也有枝曰觡〈居額反〉无枝曰角唐韵云觘〈初教反去声之軽沼多波太又用皽字音旨善反上声〉角上浪也
角〈觘付〉 野王案に、角〈古岳反、豆能(つの)〉は獣の頭上に出づる骨なり、枝有るを觡〈居額反〉と曰ひ、枝無きを角と曰ふといふ。唐韻に云はく、觘〈初教反、去声の軽、沼多波太(ぬたはだ)、又、皽の字を用ゐる、音は旨善反、上声〉は角の上の浪なりといふ。
䚡 說文云䚡〈先來反本草云牛角䚡古豆乃〉角中骨也
䚡 説文に云はく、䚡〈先来反、本草に牛角䚡は古豆乃(こづの)と云ふ〉は角の中の骨なりといふ。
奴角 本草云奴角一名食角〈犀乃波𥘾都䏻〉犀鼻上角之名也
奴角 本草に云はく、奴角は一名に食角〈犀乃波奈都能(さいのはなづの)〉、犀の鼻の上の角の名なりといふ。
鹿茸 雜要决云鹿茸〈賀乃豆乃〉鹿角初生也
鹿茸 雑要决に云はく、鹿茸〈賀乃豆乃(かのつの)〉は鹿の角の初めて生えしなりといふ。
熊白 本草云熊脂一名熊白〈久万乃阿布良〉熊背上膏
熊白 本草に云はく、熊脂は一名に熊白〈久万乃阿布良(くまのあぶら)〉、熊の背の上の膏なりといふ。
蹯 唐韻云蹯〈音繁〉熊掌也
蹯 唐韻に云はく、蹯〈音は繁〉は熊の掌なりといふ。
猨嗛 尒雅注云猨嗛〈菅簟反佐流保々〉猿頰内蔵食處也
猨嗛 爾雅注に云はく、猨嗛〈菅簟反、佐流保々(さるぼほ)〉は猿の頬の内に食を蔵むる処なりといふ。
豚𡖉 本草云豚𡖉一名豚㒹〈為乃布久利〉
豚卵 本草に云はく、豚卵は一名に豚顛といふ。〈為乃布久利(ゐのふぐり)〉
氄毛 尚書云中冬鳥獣氄毛〈上音如勇反布由介〉孔安国曰鳥獣皆生細毛自温也
氄毛 尚書に云はく、中冬に鳥獣は氄毛〈上の音は如勇反、布由介(ふゆげ)〉おふといふ。孔安国に曰はく、鳥獣は皆、細き毛を生ひ自ら温るなりといふ。
蹄 毛詩注云蹢〈音滴〉蹄也蒼頡篇云蹄〈音啼比都米又筌蹄之蹄見畋獦具〉畜足下也
蹄 毛詩注に云はく、蹢〈音は滴〉は蹄なりといふ。蒼頡篇に云はく、蹄〈音は啼、比都米(ひづめ)、又、筌蹄の蹄は畋猟具に見ゆ〉は畜の足の下なりといふ。
齝 尒雅集注云獣呑蒭噬反出而嚼牛曰齝〈音台唐韵有笞詩二音字亦作𪗪〉羊曰齛〈音泄〉麋𪊍曰齸〈音益已上三字迩介加无今案俗人謂麋𪊍屎為味氣是〉
齝 爾雅集注に云はく、獣は蒭を呑み反り出るを噬みて嚼(かみくだ)くを牛に齝〈音は台、唐韻に笞詩の二音有り、字は亦、𪗪に作る〉と曰ひ、羊に齛〈音は泄〉と曰ひ、麋𪊍に齸〈音は益、已上の三字は邇介加無(にげかむ)、今案ふるに俗人の麋𪊍の屎を謂ひて味気と為るは是〉と曰ふといふ。
犬吣 唐韵云吣〈七鴆反以奴乃太米比〉犬吐也
犬吣 唐韻に云はく、吣〈七鴆反、以奴乃太米比(いぬのためひ)〉は犬の吐くなりといふ。
嘷 玉篇云嘷〈胡刀反与豪同〉虎狼声也唐韵云吼〈呼后反字亦作吽呴〉牛鳴也吠〈符廢反已上三字訓並保由〉犬之鳴声也
嘷 玉篇に云はく、嘷〈胡刀反、豪と同じ〉は虎、狼の声なりといふ。唐韻に云はく、吼〈呼后反、字は亦、吽、呴に作る〉は牛の鳴くなり、吠〈符廃反、已上の三字の訓は並びに保由(ほゆ)〉は犬の鳴声なりといふ。
觝 說文云觝〈丁礼反漢語抄云豆歧之良比〉以角觸物也
觝 説文に云はく、觝〈丁礼反、漢語抄に豆岐之良比(つきしらひ)と云ふ〉は角を以て物に触るるなりといふ。
齀 說文云齀〈五忽反宇世流〉以鼻動物也
鼿 説文に云はく、鼿〈五忽反、宇世流(うせる)〉は鼻を以て物を動かすなりといふ。
遊牝 礼記云遊牝于野〈遊牝此间云由比日本紀私記云豆流比〉唐厩牧令云諸牧馬毎年三月遊牝
遊牝 礼記に云はく、野に遊牝〈遊牝は此の間に由比(ゆひ)と云ふ。日本紀私記に豆流比(つるび)と云ふ〉すといふ。唐厩牧令に云はく、諸の牧の馬、年毎に三月に遊牝せよといふ。
生益 春秋說題辞云馬十二月而生淮南子云犬三月而生豕四月而生猨五月而生鹿六月而生虎七月而生
生益 春秋説題辞に云はく、馬は十二月にして生るといふ。淮南子に云はく、犬は三月にして生れ、豕は四月にして生れ、猨は五月にして生れ、鹿は六月にして生れ、虎は七月にして生るといふ。

牛馬部第十七
牛馬部第十七
 牛馬類百四 牛馬毛百五 牛馬體百六 牛馬病百七
 牛馬類百四 牛馬毛百五 牛馬体百六 牛馬病百七

牛馬類百四
牛馬類百四
牛〈犢附〉 四声字苑云牛〈語丘反宇之〉土畜也尒雅注云犢〈音讀古宇之〉牛子也
牛〈犢付〉 四声字苑に云はく、牛〈語丘反、宇之(うし)〉は土畜なりといふ。爾雅注に云はく、犢〈音は読、古宇之(こうし)〉は牛の子なりといふ。
特牛〈犅〉 弁色立成云特牛〈俗語云古止比〉頭大牛也
特牛〈犅〉 弁色立成に云はく、特牛〈俗語に古止比(ことひ)と云ふ〉は頭の大きな牛なりといふ。
乳牛 唐厩牧令云乳牛犢十頭給丁一人牧飼〈乳牛者牝牛有子之名也知宇之〉
乳牛 唐厩牧令に云はく、乳牛に犢十頭、丁一人を給ひ牧に飼へ。〈乳牛は牝の牛の子有るの名なり。知宇之(ちうし)〉
水牛 文選上林賦注云沈牛〈今案又一名潛牛也見南越志〉即水牛也能沈沒於水中者也唐韵云牨〈水牛也音同〉
水牛 文選上林賦注に云はく、沈牛〈今案ふるに、又、一名に潜牛なり、南越志に見ゆ〉は即ち水牛なり、能く水の中に沈没(しず)む者なりといふ。唐韻に牨〈水牛なり、音は同じ〉と云ふ。
馬〈駒字附〉 四声字苑云馬〈麻之上声无万〉南方火畜也尒雅注云牝馬一名騲馬〈上音草米万〉牡馬一名䭸馬〈上音父乎末〉王仁煦曰駒〈音倶古万〉馬子也
馬〈駒字付〉 四声字苑に云はく、馬〈麻の上声、無万(むま)〉は南の方の火畜なりといふ。爾雅注に云はく、牝馬は一名に騲馬〈上の音は草、米万(めま)〉、牡馬は一名に䭸馬〈上の音は父、乎末(をま)〉といふ。王仁煦に曰はく、駒〈音は倶、古万(こま)〉は馬の子なりといふ。
駿馬 𥠇天子傳云駿馬〈上音俊漢語抄云止歧宇万日本紀私記云湏久礼多流宇末〉馬之美稱也
駿馬 穆天子伝に云はく、駿馬〈上の音は俊、漢語抄に止岐宇万(ときうま)と云ふ。日本紀私記に須久礼多流宇末(すぐれたるうま)と云ふ〉は馬の美(よみす)る称(みな)なりといふ。
駑馬〈駄附〉 唐韵云駘〈音䑓〉駑馬也野王案曰駑〈音奴漢語抄云於曽歧馬〉馬之㝡下也郭知玄曰駄〈唐佐反〉屓物者也
駑馬〈駄付〉 唐韻に云はく、駘〈音は台〉は駑馬なりといふ。野王案に曰はく、駑〈音は奴、漢語抄に於曽岐馬(おそきむま)と云ふ〉は馬の最も下なりといふ。郭知玄に曰はく、駄〈唐佐反〉は物を負ふ者なりといふ。
駻馬 孫愐曰駻〈音旱今案此間云波祢无末〉突𢙣馬也
駻馬 孫愐に曰はく、駻〈音は旱、今案ふるに此の間に波禰無末(はねむま)と云ふ〉は突(にはか)に悪しかる馬なりといふ。
驢騾 說文云驢〈力居反与閭同宇佐歧无末〉似馬長耳騾〈音螺〉驢父馬毋㪽生也
驢騾 説文に云はく、驢〈力居反、閭と同じ、宇佐岐無末(うさぎむま)〉は馬に似て長き耳なり、騾〈音は螺〉は驢の父、馬の母の生む所なりといふ。
駱駞 本草云駱駞〈洛陁二音良久太乃宇末〉周書云𩧐駝〈駝即駞字也𩧐音卓字亦作駞即駱駞也〉有肉鞍能屓重致遠者也
駱駞 本草に駱駞〈洛陁の二音、良久太乃宇末(らくだのうま)〉と云ふ。周書に云はく、𩧐駝〈駝は即ち駞の字なり、𩧐の音は卓、字は亦、駞に作る、即ち駱駞なり〉は肉の鞍有りて能く重きを負ひて遠くへ致す者なりといふ。

牛馬毛百五
牛馬毛百五
黄牛 冝都記云黄牛灘有人牽黄牛〈弁色立成云阿米宇之〉
黄牛 宜都記に云はく、黄牛灘に人有り、黄牛〈弁色立成に阿米宇之(あめうじ)と云ふ〉を牽くといふ。
烏牛 弁色立成云烏牛〈漢語抄云麻伊〉黒牛也
烏牛 弁色立成に云はく、烏牛〈漢語抄は麻伊(まい)と云ふ〉は黒牛なりといふ。
𤘾牛 唐韵云𤘾〈普耕反今案此間云保之末多良〉牛色駮如星也
𤘾牛 唐韻に云はく、𤘾〈普耕反、今案ふるに此の間に保之末多良(ほしまだら)と云ふ〉は牛の色の駮(ぶち)なること星の如きなりといふ。
𩣭馬 說文云𩣭〈音聡漢語抄云𩣭青馬也黄𩣭馬葦花毛馬也日本紀私記云𩣭馬𫟈多良乎乃宇末〉青白雜毛馬也
驄馬 説文に云はく、驄〈音は聡、漢語抄に驄は青馬なり、黄驄馬は葦花毛の馬なりと云ふ。日本紀私記に驄馬は美多良乎乃宇末(みだらをのうま)と云ふ〉は青白雑る毛の馬なりといふ。
桃花馬 弁色立成云桃花馬〈葦花毛馬紅色者也〉
桃花馬 弁色立成に桃花馬〈葦花毛の馬の紅色の者なり〉と云ふ。
青驪馬 唐韵云𩢺〈火玄反漢語抄云䥫𩣭馬久呂𫟈止利乃无万〉青驪馬今之䥫𩣭馬也
青驪馬 唐韻に云はく、駽〈火玄反、漢語抄に鉄驄馬は久呂美止利乃無万(くろみどりのむま)と云ふ〉は青驪馬、今の鉄驄馬なりといふ。
連䥫𩣭 尒雅注云色有深浅斑駮謂之連䥫𩣭〈漢語抄云連䥫𩣭𧆞毛馬也一云駼馬駼音余又云薄漢馬今案俗云連銭葦毛是〉
連鉄驄 爾雅注に云はく、色に深き浅き斑駮有るは之れを連鉄驄と謂ふといふ。〈漢語抄に連鉄驄は虎毛馬なりと云ふ。一に駼馬の駼の音は余と云ひ、又、薄漢馬と云ふ。今案ふるに俗に連銭葦毛と云ふは是〉
驃馬〈赤驃附〉 說文云驃〈毗召反漢語抄云驃馬白麾馬也赤驃馬赤麻毛也黄馬同上〉黄白馬也
驃馬〈赤驃付〉 説文に云はく、驃〈毘召反、漢語抄に驃馬は白麾の馬なり、赤驃馬は赤き麻毛なり、黄馬も上に同じと云ふ〉は黄白き馬なりといふ。
騧馬 尒雅注云騧〈音花漢語抄云騧馬麾馬也〉浅黄色馬也
騧馬 爾雅注に云はく、騧〈音は花、漢語抄に騧馬は麾馬なりと云ふ〉は浅黄色の馬なりといふ。
騮馬〈紫馬附〉 毛詩注云騮〈音留漢語抄云騮馬麾也烏騮黒麾也黄騮赤栗毛也紫騮黒栗毛也〉赤身黒𩮊馬也
騮馬〈紫馬付〉 毛詩注に云はく、騮〈音は留、漢語抄に騮馬は麾なり、烏騮は黒麾なり、黄騮は赤栗毛なり、紫騮は黒栗毛なりと云ふ〉は赤身に黒き鬣の馬なりといふ。
騟馬 唐韵云騟〈羊朱反弁色立成云紫馬栗毛馬也〉紫馬也
騟馬 唐韻に云はく、騟〈羊朱反、弁色立成に紫馬は栗毛馬なりと云ふ〉は紫馬なりといふ。
驪馬 毛詩注云驪〈音離漢語抄云驪馬黒毛馬也〉純黒馬也
驪馬 毛詩注に云はく、驪〈音は離、漢語抄に驪馬は黒毛馬なりと云ふ〉は純て黒き馬なりといふ。
騅 同注云騅〈音錐漢語抄云騅馬䑕毛馬也〉蒼白雜毛馬也尒雅注云菼騅〈今案菼者蘆初生也吐敢反俗云葦毛是〉青白如菼色也
騅 同注に云はく、騅〈音は錐、漢語抄に騅馬は鼠毛馬なりと云ふ〉は蒼白く毛の雑る馬なりといふ。爾雅注に云はく、菼騅〈今案ふるに菼は蘆の初めに生ゆるなり、吐敢反、俗に葦毛と云ふは是〉は青白く菼の色の如きなりといふ。
赭白馬 毛詩注云騢〈音遐漢語抄云赭白馬鵇毛也赭黄馬赤鵇毛也今案鵇字未詳〉彤白雜毛馬也尒雅注云騢今之赭白馬也
赭白馬 毛詩注に云はく、騢〈音は遐、漢語抄に赭白馬は鵇毛なり、赭黄馬は赤鵇毛なりと云ふ。今案ふるに鵇の字は未だ詳かならず〉は彤白して毛の雑る馬なりといふ。爾雅注に云はく、騢は今の赭白馬なりといふ。
駱馬 毛詩注云駱〈音落漢語抄云駱馬川原毛沙駱馬黒川原毛馬也〉白馬黒髦之馬也
駱馬 毛詩注に云はく、駱〈音は落、漢語抄に駱馬は川原毛、沙駱馬は黒川原毛の馬なりと云ふ〉は白馬にして黒き髦の馬なりといふ。
騂馬〈赤驊附〉 唐韵云騂〈音征漢語抄云驊赤毛也赤驊山鳥赤毛馬也驊音蕐〉馬赤也
騂馬〈赤驊付〉 唐韻に云はく、騂〈音は征、漢語抄に驊は赤毛なり、赤驊山鳥は赤毛馬なりと云ふ、驊の音は華〉は馬の赤きなりといふ。
戴星馬 尒雅注云白㒹一名的䫙俗呼為戴星馬〈和名宇比多非能无末〉
戴星馬 爾雅注に云はく、白顛は一名に的顙、俗に呼びて戴星馬〈和名は宇比多非能無末(うびたひのうま)〉と為といふ。
落星馬 楊氏漢語抄云落星馬〈保之都歧乃宇末〉
落星馬 楊氏漢語抄に落星馬〈保之都岐乃宇末(ほしづきのうま)〉と云ふ。
駺馬 唐韵云駺〈音狼漢語抄云乎之路乃无麻〉馬尾白也
駺馬 唐韻に云はく、駺〈音は狼、漢語抄に乎之路乃無麻(をじろのむま)〉は馬の尾の白きなりといふ。
駮馬 說文云駮〈補卓反駮馬俗人云布知无万〉不純色馬也
駮馬 説文に云はく、駮〈補卓反、駮馬は俗人に布知無万(ぶちむま)と云ふ〉は純からざる色の馬なりといふ。
驓馬 尒雅注云四骹皆白曰驓〈音曽俗云阿之布知〉骹謂膝以下也四蹢皆白曰騚〈音前〉蹢蹄也俗呼為踏雪馬
驓馬 爾雅注に云はく、四骹の皆白きを驓〈音は曽、俗に阿之布知(あしぶち)と云ふ〉と曰ひ、骹は膝以下を謂ふなり、四蹢の皆白きを騚〈音は前〉と曰ひ、蹢は蹄なりといふ。俗に呼びて踏雪馬と為。

牛馬體百六
牛馬体百六
牛角 本草云牛角䚡〈先來反古都能角䓁已見上文〉
牛角 本草に牛角䚡〈先来反、古都能(こづの)。角等は已に上文に見ゆ〉と云ふ。
耳筒 李緒相馬経云耳筒又云耳管
耳筒 李緒相馬経に耳筒と云ひ、又、耳管と云ふ。
𩮊 唐韵云鬐〈音耆今案鬐𩮊俗云宇𥘾加𫟈又𩵋之鬐𩮊見𩵋體知之〉馬項上長毛也文選云軍馬弭髦而仰秣〈髦音毛訓師說髦多知賀𫟈𩮊之稱也〉
鬣 唐韻に云はく、鬐〈音は耆、今案ふるに、鬐、鬣は俗に宇奈加美(うなかみ)と云ふ。又、魚の鬐、鬣は魚体に見え之れを知る〉は馬の項の上の長き毛なりといふ。文選に云はく、軍馬は髦を弭(なびか)せて仰ぎ秣(まぐさく)ふといふ〈髦の音は毛、訓は師説に髦は多知賀美(たちがみ)、鬣の称なり〉。
鼻梁 弁色立成云鼻梁〈俗云波𥘾𫟈祢〉
鼻梁 弁色立成に鼻梁〈俗に波奈美禰(はなみね)と云ふ〉と云ふ。
食槽 李緒相馬経云食槽欲寛〈食槽馬乃歧保祢〉
食槽 李緒相馬経に云はく、食槽を寛くせむと欲(す)といふ。〈食槽は馬乃岐保禰(むまのきぼね)〉
逥毛 尒雅注云逥毛一云旋毛〈都无之〉
廻毛 爾雅注に云はく、廻毛は一に旋毛〈都無之(つむじ)〉と云ふといふ。
排鞍肉 李緒相馬経云排鞍肉欲成々猶平也〈俗云久良於歧止古路〉
排鞍肉 李緒相馬経に云はく、鞍肉を排(はら)ひて成(たひらかにせ)むと欲、成は猶、平らなるがごとしといふ。〈俗に久良於岐止古路(くらおきどころ)〉
脊梁 弁色立成云脊梁〈都賀俗云世𫟈祢〉
脊梁 弁色立成に脊梁〈都賀(つか)、俗に世美禰(せみね)と云ふ〉と云ふ。
𣴎鐙肉 李緒相馬経云𣴎鐙肉欲垂〈俗云阿布弥湏利〉
承鐙肉 李緒相馬経に云はく、承鐙肉を垂れむと欲といふ。〈俗に阿布彌須利(あぶみすり)と云ふ〉
三封 同経云三封欲齊如一
三封 同経に云はく、三封は斉しく一に如かんむと欲といふ。
汗溝 同経云汗溝欲深〈俗人云阿㔟𫟈蘓〉
汗溝 同経に云はく、汗溝を深くせむと欲といふ。〈俗人は阿勢美蘇(あせみぞ)と云ふ〉
歴草 弁色立成云歴草〈曽保歧俗云曽布歧〉
歴草 弁色立成に歴草〈曽保岐(そほき)、俗に曽布岐(そふき)と云ふ〉と云ふ。
尾株 李緒相馬経云尾株欲麁々猶大也弁色立成云尾柱一云尾根〈俗人云乎保祢〉
尾株 李緒相馬経に云はく、尾株は麁(おほひな)らむと欲、麁は猶、大のごときなりといふ。弁色立成に云はく、尾柱は一に尾根と云ふといふ。〈俗人は乎保禰(をぼね)と云ふ〉
烏頭 同経云烏頭欲舉〈弁色立成云曲肘俗云久波由歧〉
烏頭 同経に云はく、烏頭を挙げむと欲といふ。〈弁色立成に曲肘と云ひ、俗に久波由岐(くはゆき)と云ふ〉
夜眼 弁色立成云夜眼〈与米漢語抄說同〉
夜眼 弁色立成に夜眼〈与米(よめ)、漢語抄に説同じ〉と云ふ。
蹄〈護杵附〉 玉篇云蹄〈徒奚反訓比都米弁色立成云護杵和名同上〉牛馬蹄也
蹄〈護杵付〉 玉篇に云はく、蹄〈徒奚反、訓は比都米(ひづめ)。弁色立成に護杵と云ひ、和名は上に同じ〉は牛馬の蹄なりといふ。
陰脉 伯樂相馬経云陰脉〈俗云麻良佐夜〉
陰脈 伯楽相馬経に陰脈〈俗に麻良佐夜(まらざや)と云ふ〉と云ふ。
糞門 同経云糞門〈今案謂馬𡱰也𡱰音禿見形體部〉李緒相馬経曰糞欲八方
糞門 同経に糞門〈今案ふるに馬の㞘(しり)を謂ふなり、㞘の音は禿、形体部に見ゆ〉と云ふ。李緒相馬経に曰はく、糞は八方(やもにま)らさむと欲といふ。
嘶〈䮸附〉 玉篇云嘶〈音西訓以波由俗云以𥘾々久〉馬鳴也唐韵云䮸〈音渥俗云布久利豆歧〉馬腹下声也
嘶〈䮸付〉 玉篇に云はく、嘶〈音は西、訓は以波由(いばゆ)、俗に以奈々久(いななく)と云ふ〉は馬の鳴くなりといふ。唐韻に云はく、䮸〈音は渥、俗に布久利豆岐(ふぐりづき)と云ふ〉は馬の腹の下、声するなりといふ。

牛馬病百七
牛馬病百七
螉䗥 說文云螉䗥〈翁從二音久比〉在牛馬皮中䖝也
螉䗥 説文に云はく、螉䗥〈翁従の二音、久比(くひ)〉は牛や馬の皮の中に在る虫なりといふ。
蹄漏 四声字苑云㾜〈古叶反与頰同俗云豆万以利〉牛蹄漏病也
蹄漏 四声字苑に云はく、㾜〈古叶反、頬と同じ、俗に豆万以利(つまいり)と云ふ〉は牛の蹄の漏る病なりといふ。
脊瘡 陶隠居云塩有九種柔塩療馬脊瘡〈俗云多胡〉
脊瘡 陶隠居に云はく、塩に九種有り、柔塩は馬の脊の瘡〈俗に多胡(たこ)と云ふ〉を療すといふ。
腹瘇 伯樂相馬経曰馬腹瘇〈今案瘇即腫字也俗人云多知波礼〉無病𥄂立腹下腫是也遣人騎行則汗出即差
腹瘇 伯楽相馬経に曰はく、馬腹瘇〈今案ふるに瘇は即ち腫の字なり、俗人は多知波礼(たちはれ)と云ふ〉は病無く、直立して腹の下の腫るるは是なり、人をして騎り行か遣(し)むれば則ち汗出でて即ち差(い)ゆといふ。
脚病 伯樂相馬経曰脚病〈俗云知阿𥘾歧〉馬有此病則咳𠲿衣毛焦折前足重不能行
脚病 伯楽相馬経に曰はく、脚病〈俗に知阿奈岐(ちあなぎ)と云ふ〉、馬に此の病有るときは則ち咳嗽し、毛の焦げるを衣するときは前足を折り重ねて行くこと能はずといふ。
腹轉病 同経曰腹轉病〈俗云波良夜无〉馬有此病則廽顧聞腹又有腹結病馬有此病則卧起腹痮出汗
腹転病 同経に曰はく、腹転病〈俗に波良夜無(はらやむ)と云ふ〉は馬に此の病有るときは則ち廻顧し腹に聞(おときこ)ゆ、又、腹結病有り、馬に此の病有るときは則ち臥しては起き、腹痮(ふく)れ汗を出づといふ。
騺 唐韵云騺〈陟利反与致同俗人云騺多利〉馬脚屈重也
騺 唐韻に云はく、騺〈陟利反、致と同じ、俗人に騺を多利(たり)と云ふ〉は馬の脚、屈り重ぬるなりといふ。
斃 四声字苑云斃〈毗祭反訓多布流〉死也
斃 四声字苑に云はく、斃〈毘祭反、訓は多布流(たふる)〉は死ぬなりといふ。

和名類聚抄巻第七
和名類聚抄巻第七

更新履歴:2022年2月2日公開、3月3日訂正。⇒凡例
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狩谷棭斎・箋注倭名類聚抄(国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3438479/91)

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