【法廷から】望まない妊娠で乳児を2度殺害 「お母さんにばらすぞ」と義父に追い込まれ
2018.3.7 13:00
産経新聞
13歳のときから義父による性的虐待を受け続け、産んだ赤ちゃんに手をかけるまで追い込まれた…。新潟地裁で2月27日に開かれた裁判員裁判の判決公判。殺人と死体遺棄の罪に問われた乳児の母で愛知県半田市の無職、中村一美被告(30)に懲役4年(求刑同6年)の実刑判決が言い渡された。裁判長は「体に気をつけて務めを果たし、2人の子供の供養をしてほしい」と声を掛けた。
2月21日、被告人質問が行われた同地裁。中村被告は黒のスーツの上下に髪を後ろで1つに束ね、うつむき加減で法廷に姿を現した。入廷の際、一瞬だけ天井に目をやってから唇をギュッとかみしめた。
■母の再婚…
中村被告は昭和62年生まれで、離婚した母親と一緒に新潟県糸魚川市に移り住んだ。母親は飲食店で働き、機嫌が悪いときは、「ガラスの大きい灰皿やコップを私に向かって投げた」(中村被告)。安らげる幸せな家庭ではなかった。
中村被告は幼い頃に児童養護施設に預けられたものの、7歳で施設を出て再び、母親と2人暮らしを始めた。その後、母親が義理の父となる中村栄志被告(67)=殺人と死体遺棄の罪で昨年4月に起訴=と再婚。母親の再婚について、法廷で一美被告は「本心では嫌だと思った。だけど、『いい』と答えるしかなかった」と振り返った。
13歳のときに義父から性的虐待を受け、その後も虐待は続いた。「こういう関係は普通じゃない」と思い、一美被告は虐待をやめるように訴えた。だが、義父の栄志被告は当時、こう言い放ったという。「このことをお母さんにばらすぞ。やっとつかんだお母さんの幸せを、お前はつぶすのか?」
義父は避妊具を使うことはほとんどなく、やがて一美被告は妊娠する。妊娠したと告げた際、栄志被告の反応は「おー、そうか」というものだった。出産が近づく一美被告に義父が投げかけた言葉も、信じがたいものだった。「(俺は)仕事があるから…。まあ頑張れよ」
平成15年5月上旬ごろ、義父との関係を母親に知られることを恐れた一美被告は、出産したばかりの赤ちゃんの首をビニールひもで絞めるなどして殺害した。一美被告は当時、15歳だった。
仕事から帰り、赤ちゃんを殺したと聞いた栄志被告は「殺したのか。まあ、仕方ないよな」とつぶやいたという。栄志被告は、殺された赤ちゃんの遺棄に関わったとされる。
■第2の殺害
赤ちゃんを殺害した後も一美被告は何度も妊娠し、中絶を繰り返した。栄志被告と娘の関係を知った母親は、徐々にアルコールに溺れていったという。
26年1月、一美被告は産婦人科を訪れ、妊娠していると告げられた。だが、中絶手術に支払うお金が手元になく、栄志被告にも費用の工面を断られてしまう。同年7月、出産した乳児を再び殺害した。「泣く前にやってしまえ」という栄志被告の言葉も、背中を押したという。乳児の遺体は2人でポリ袋に入れ、栄志被告が遺棄したとされる。
中絶費用の工面を、他の人になぜ頼まなかったのか-。検察側の問いに、一美被告は「私自身、諦めてしまった。赤ちゃんの命を軽はずみに扱ってしまった」。そうポツリと答えた。
その後、一美被告は会員制交流サイト(SNS)で知り合った愛知県の女性に家を出たいと相談し、28年2月に女性の自宅に身を寄せた。女性の子供たちと触れあううちに、良心の呵責(かしゃく)に耐えられなくなり、乳児を殺害したと女性に告白。そして警察に自首した。
■情状酌量されず
判決公判の日、やや伏し目がちに入廷した一美被告は口を固く結んで着席し、裁判官らが入廷すると深々と頭を下げた。山崎威裁判長は、懲役4年とする主文を読み上げた。情状酌量を促し、弁護側が求めた執行猶予は付かなかった。
一美被告は、性的虐待をやめるよう再び訴えた。しかし、栄志被告は「それはできない。お前は俺の中では(娘ではなく)女だから」と認めなかった。
量刑の理由について裁判長は、一美被告が2人目の乳児殺害時に成人していたことを指摘し、義父に性的虐待を受けてきたことや自首したことを考慮しても、「2件の殺人事件があるので実刑を選択するほかない」とした。
裁判長は、最初の殺害については、「心身ともに未熟な被告人が性交渉を拒むのは困難で、望まない妊娠に至ったいきさつに責任はない」と断定。「実母に恐怖や負い目を感じ、周囲に相談することが困難な状況で殺害に至ったいきさつや動機は十分に同情できる」とした。
しかし、2人目の殺害については、「被告人は当時すでに成人しており、手段を尽くして殺害を避けるべきだった」とした。
裁判長に「意味は分かりましたか」と問われると、一美被告は「はい」と小さく答え、静かに法廷を後にした。
今後、同じ罪に問われた義父の栄志被告の裁判が行われる。被告は法廷で、自らの行為をどう語るのだろうか-。
(新潟支局 太田泰)
※
思春期から虐待されつづけた女性が成人になったからといって、
「手段を尽くして殺害を避ける」ことができるものかと思う。
現にいま30歳で無職ということはまともに就学もさせてもらっていないかもしれない。
義父が性的関係をつづけるために、この女性がまともに世間とかかわることを阻んでいたとは考えられないか?
「中絶費用の工面を、他の人になぜ頼まなかったのか-」
世間知がなければ、警察や病院、NPOに駆け込むことも不可能だろう。
ましてや、自分と義父の関係をおぞましいものだと理解し苦しんでいる人が、
救済してくれるかもしれないとわかっていても、駆け込むことを躊躇するのが当たり前ではないか?
デートDVなどが発覚しにくく、ストーカー行為の阻止が困難極める理由の一端が、
「相談したくても、相談できない」ことにあるのだから。
性的虐待を長年にわたって鬼畜の所業を行ってきた無責任で手前勝手な義父こそ、懲役にするべきだろう。