皆無斎残日録

徒然なるままに、日々のよしなし事を・・・・・

江藤淳氏の著書

2021年10月04日 08時37分57秒 | 思想・哲学
かなり以前に読んだ本ですが・・・・・、
江藤淳氏の著書「忘れた事忘れさせられた事」の中で、北方領土に対する日本人の意識の問題点について正鵠を射、日本人としてしっかり理解して記憶に留めておかねばならないと思う一節が有るので紹介しておきます。
ポツダム宣言は無条件降伏ではないという事は、この一節以前の文中で、法学者の見解などを例に挙げ解き明かしてくれています。

「・・・・。現在私どもは、ソ連の北方領土占拠がはなはだ不当であるとしてその返還を要求していますが、その論拠も実はこの第八項にある。
なぜならソ連は、一九四五年七月二十六日のポツダム宣言における宣言署名の段階においてはこの宣言の署名国に加わっていませんけれども、八月八日深夜、対日宣戦布告と同時にポツダム宣言に加入する意思を表明して、署名国に加入いたしました。
それはとりもなおさずポツダム宣言によって拘束せられる立場になったということであってカイロ宣言が領土拡張を求めないという連合国側の意思を表明している以上、そしてソビエト連邦社会主義共和国が連合国側に加わって、対日戦に参戦しポツダム宣言の署名国となった以上、ソ連は当然カイロ宣言の条項に拘束されぬわけにはいきません。
にもかかわらずソ連はあたかも日本国が無条件降伏したかの如く北方領土を軍事占領しつづけている。だからこそわれわれはこれを不当だといっているのです。
ポツダム宣言は三十三年前の夏の夜話ではありません。サンフランシスコ平和条約に調印しなかったソ連に対しては、今も生きているのです。
一方でソ連に北方領土の返還を迫りながら、他方ポツダム宣言によって日本が無条件降伏したというような、精神分裂症のようなことを言う人間がいるとすれば、その人間はよほどどうかしているといわねばなりません。今日の日本人の意識は、どうやらこの点について、はなはだ遺憾ながら病的な自己分裂を露呈しているように思われます。・・・・・・」

これは昭和五十四年の著作ですが平成七年に文庫本が出ています。多くの日本人が誤った教育を受け、未だにここで指摘された意識から脱しきれていないように思われます。否もっと混迷した意識の迷路にはまり込んでいるように思われます。
全文を読んでいただきたいものです。当該著作中に紹介されている富桝周太郎氏の『「太平洋戦争史」論』が巻末に掲載されています。

時として、己の迷妄を破り、蒙昧を啓き、心を揺さぶられる本に出会う事があります。


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