絶対的幸福と相対的幸福(あんしん&安全) 全ての人間は尊厳を持っており、敬意と尊敬に値いします。

安全とはリスクが受容できるレベルより低いこと。
安心とは、リスクの存在を忘れることができている心理状態。

インタビュー 終戦75年に寄せて-「尊厳」に基づく関係を築く、それが平和を創造する力に-ドナ・ヒックス博士

2020年08月25日 08時47分36秒 | SGI ・平和

〈インタビュー 終戦75年に寄せて〉

「尊厳」に基づく関係を築く それが平和を創造する力に

米ハーバード大学・ウェザーヘッド国際問題研究所 ドナ・ヒックス博士

尾崎洋二 コメント:「人間の尊厳をベースに置けることを政治家やリーダーたる人の最低基本的条件にして欲しい」と心から思いました。それには私たち庶民が確固たる人間哲学で、政治家やリーダーを選んでいく活動を、拡大し続けていくしかないかと思います。

Q1――博士は長年、国際紛争解決の現場に身を置いてこられました。「尊厳」を研究のテーマにするに至った経緯を教えてください。

A1

ハーバード大学・ウェザーヘッド国際問題研究所の一員として、約20年間、パレスチナ問題やスリランカの内戦など、世界中の紛争解決に携わりました。対立する共同体間に、和解のための対話を促進するのが、私たちの任務でした。交渉は、組織の幹部の出席のもと、行われるのが常でした。質の高い教育を受け、平和のために献身することを惜しまない人たちです。それでもなお、彼らには、和解へと踏み出せない理由があったのです。 

 交渉のテーブルの上を飛び交うのは、政治的論議ばかりでした。しかし私は心理学者として、テーブルの“下”を流れるもう一つの会話に耳を傾けました。それは、いらだちや怒りのぶつかり合いでした。言葉には表れなくても、非常に強い力を帯びた感情の流れです。このことは、どの紛争地域にも共通していました。私は政治的論議ではなく、この“第2の会話”こそが対話の焦点になるべきだと考えるようになりました。 

 思索を重ねていたある日、悟りのように、私の頭に「尊厳」という言葉が浮かびました。問題の本質は、人間が人間らしく扱われない尊厳の毀損にあるのであり、これこそが、紛争を解決する上でのミッシングリンク(欠けているもの)だと気付いたのです。和解協定の文書自体がどれほどよく整っていても、当事者たちは、自分が“大した存在ではない”と扱われていることへの感情的な抵抗から、署名することができずにいたのです。 

Q2――尊厳とは、どう定義されるものでしょうか。

A2

全ての人が、生まれながらにして持つ人間としての価値――それが尊厳です。生まれたばかりの赤ん坊を前にすれば、誰もが一様にその生命の尊さを認めるように、尊厳は、人間に等しく備わっています。しかしその尊厳を侵害されると、人は相手に対して否定的な態度で反応し、結果として争いが生じます。 

 尊厳をテーマに研究を開始した私は、南アメリカのある紛争地域で検証を行いました。“自らが虐げられた経験を、分かち合いたい人はいますか?”。私の問いに、その場にいた全ての人の手が挙がり、それぞれが経験を語りました。人は自分の尊厳が損なわれた経験を、直接言葉にして、他者に認められることを望みます。そうして自分の価値を認めてもらえた時、同じように、相手の価値を認められるようになるのです。研究を通して、これは国際政治に限ったことではなく、家庭や職場、友人との関係にも通ずる、人間としての根源の問題であることが分かってきました。Q3――著書『Dignity』(邦訳は『Dignity(ディグニティ)』幻冬舎刊)では、人生や人間関係の中で尊厳が果たす役割について明かされています。

A3

私たちは、気付かぬうちに他者の尊厳を侵害していることがあります。故意にそうしているのではなく、どんな行為が相手を傷つけるのかを、理解していないのです。一方で私たちは、相手の価値を認めることで、その人を幸せにすることもできます。しかし多くの場合、その力を持っていることを自覚していません。そうした尊厳の役割を、誰もが理解できるよう開発したのが「尊厳モデル」です。著作では、尊厳が尊重されるための「10の要素」(※)や、反対に、尊厳の侵害につながりかねない要因を紹介しています。

 これは夫婦間や子どもとの関係のほか、職場や地域社会にも応用できるものです。例えば、誰かが人間関係に悩んでいる時、その人がどのような形で尊厳を侵害されたのかを理解できれば、関係性を修復する助けとなります。これまで国際紛争の現場や企業でのワークショップで、尊厳モデルを実践してきましたが、ほとんどの人が、尊厳という言葉すら使っていない現実を目の当たりにしました。私はこの尊厳に対する理解の欠如こそが、人間の苦しみを生み出す根源であると考えています。その無知を克服する鍵が教育です。

※尊厳が尊重されるための10の要素

 ①アイデンティティーを受け入れる

 ②仲間に迎え入れる

 ③安心できる場をつくる

 ④存在を認める

 ⑤価値を認める

 ⑥公正に扱う

 ⑦善意に解釈する

 ⑧理解しようと努める

 ⑨自立を後押しする

 ⑩言動に責任を持つ

Q4――著書『Dignity(尊厳)』では、人間の2種類の本能について述べられています。

A4

人間には、安全と生存を確保するための、「自衛本能」と「自己拡張本能(世話と友情)」という二つの本能があります。身に危険を察知した時、自衛本能は、自分に危害を加えようとする対象から離れるよう促します。一方で自己拡張本能は、相手と友好的な関係を構築することを通して、安全と安心を感じるよう促します。自衛本能は一瞬のうちに働きます。相手と距離を取るよう指示することもあれば、脅威を取り除くために“戦う”よう警告を発する場合もあります。大切なのは、私たちにはそうした強力な感情が秘められていると理解することです。そして同時に、私たちには、感情をコントロールする方法もあると知ることです。暴力的な衝動に身を任せるのか、美しく実りある人間関係を広げるのか――私たちには、その選択肢が与えられているのです。

人類の未来を決するのは 私たちの献身と実践

Q5――2度の世界大戦や広島、長崎への原爆投下は、人間の尊厳を踏みにじる蛮行の極みです。創価学会の平和運動は戦時中に端を発し、初代会長・牧口常三郎先生は軍国主義に抵抗して投獄され、獄死しました。生命の尊厳に殉じた仏法者であり、身近な郷土観察から世界へと視野を広げることを訴えた、地理学者でもありました。

A5

広島と長崎を襲った出来事は、人類史の最大の悲劇であり、核兵器の使用は、断じてあってはならない行為でした。日本に多くの友人がいる一人として、深い哀悼の意を表します。私が理解する限り、仏法は、人間の生命深くに備わる価値を引き出す方途を、最も分かりやすい形で説いています。祈りや思索を通して仏の生命を引き出す喜びは、高価な家や車を得るといった快楽とは、次元が異なるものです。単なる理念ではなく実践の教えであることもまた、仏法の素晴らしい点です。 

 牧口初代会長の生き方を伺い、私は、命を危険にさらしてまでも、尊厳を守り抜いた人物の模範を見る思いがします。それは生命の尊厳という、自らの信条を強くたもつがゆえの行動であったと察します。また牧口会長は、地理学者として自然環境に精通していたのでしょう。人間と自然の間に隔たりはなく、私たちが自然そのものなのだと、世界を正しく捉えておられます。教育者であり、精神的なリーダーでもあった牧口会長が開いた道に、今、池田大作SGI会長をはじめとする無数の人々が連なっていることに、私は深い感銘を覚えます。

Q6――万人の尊厳が輝く社会を目指す上では、多くの困難があります。しかし博士は、“人類は試練を乗り越えられる”との確信を語られています。

A6

私が希望を失わないのは、これまで、文化も世代も宗教も異なる世界中の人たちと協働する中で、彼らに起こる劇的な変化を、この目で見てきたからです。尊厳をもって接することが、自分にも相手にも、どれほどの影響を及ぼすか。そのことを理解した時、彼らは周囲に対する振る舞いを変えました。そしてそれによって、互いの価値を認め合う空間が育まれていったのです。

 尊厳を伴う行為とは、具体的に、相手に目を向け、耳を傾け、ありのまま受け入れることなどを指します。実際には、それほど難しいことではないかもしれません。しかし、それらを社会の基盤にしていくために、私たちは日常的に意識し、繰り返し実践する必要があります。全ては、私たちの選択と献身、そして日々の実践に帰着するのです。尊厳について学び、語り合うことは、人類を、さらなる共通の高みへと導きます。その高みに立った時、私たちは、自分にも、他人にも、この世界にも、より大きな価値を見いだせるようになるのです。自分と他者、そして世界との間に、尊厳に基づく関係性を築いていく。これこそが、人類の苦しみを取り除き、争い傷つけ合う悲劇を防ぎ、平和な世界を築く力となると信じます。

 Donna Hicks アメリカ・ハーバード大学のウェザーヘッド国際問題研究所所属。世界各地の紛争、対立の現場に立ち会った後、人間の尊厳が果たす役割について研究を重ね、その分野の第一人者に。2011年に発刊された『Dignity』は世界的な注目を浴び、邦訳『Dignity(ディグニティ)』(幻冬舎)が本年2月に出版された。

聖教新聞8月25日2020年

 

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