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がんが光る蛍光造影画像技術ー見つけづらい腫瘍の位置情報を明確化、“切りすぎ”も防ぐ

2024-11-20 10:37:48 | がん闘病

       胃がんの周囲にICGを注射すると、このようにリンパ節への流れを観察できます。

 

 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。

テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で勤務する腫瘍外科医、生駒成彦医師のリポート

第6回は「がんを光らせる研究」です。

 

完全な切除・根治に向けて

今日は、ロボット手術に関連した次世代の手術補助技術の一つである、蛍光造影画像(蛍光ガイド下手術)についてお話しします。

 がんの手術の基本は、体の中に残存しているがん細胞を一つ残らず取り除くこと。

少しでもがん細胞を残してしまうと、それらはいずれまた増殖し、がんの再発に至ります。

一方で、周囲の健康な臓器を傷つけてしまったり、取りすぎてしまったりすると、合併症や機能不全の原因となります。

外科医はさまざまな技術と治療を駆使し、臓器の機能を最大限保ちながら、がんの安全で完全な切除・根治に向けて最善を尽くします。

 まずは「集学的治療」です。がんの診断の後、すぐに手術をするのではなく、抗がん剤や放射線治療を先行させ、がん腫瘍を小さくすることで、

手術を安全かつ、腫瘍を完全に取り切る“断端陰性切除”の可能性が上がることが、膵(すい)がんや胃がんの研究で発表されています。

 次に術前の画像診断(CT、MRI、PET検査など)をしっかりと検討し、最適な手術の作戦を練って準備します。

それでも時に膵臓や肝臓など解剖の複雑な臓器や、胃や大腸などのがんが表面に露出していないような場合に、

がん腫瘍の場所を正確に把握するのが困難な場合があります。

特に腹腔(ふくくう)鏡やロボットの手術では、外科医の経験に基づく“触ったら分かる”といった大切な情報が失われてしまうので、

手術中に内視鏡や超音波検査などを駆使して腫瘍の位置情報を補い、“断端陰性”の腫瘍切除を目指します。

そのような腫瘍の位置情報を、手術中にさらに明確にしてくれる技術の一つとして注目されているのが、蛍光造影画像技術です。

一般的使用はICG造影剤

 最先端ロボット手術機器「ダビンチ」には蛍光造影画像システム「Firefly(ホタル)」が搭載されていて、

術者の手元のワンクリックでon/offの切り替えが可能となっており、蛍光造影画像の有用性に拍車をかけています。

一般的に使われているのはインドシアニングリーン(ICG)という蛍光剤で、こちらを血管内に注入すれば、血行動態に従って血流のある腸管が、

時間がたてば肝臓から胆汁中へ排出され、胆管や胆のうが蛍光画像下で“光り”ます。胃カメラを使って胃がんの周囲にICGを注入すれば、

腫瘍の位置が光りますし、そちらからリンパ流に乗ってがんの転移の可能性の高いリンパ節を光らせることもできます。

 我々が開発しているのは、特定の分子をターゲットにする分子標的蛍光造影剤です。

膵臓がんの一種に、神経内分泌腫瘍というものがあります。通常の膵臓がんである膵管腺がんよりも進行の速度はゆっくりであることが一般的ですが、

発見が遅れれば肝臓やリンパ節への転移を起こします。Apple社の創業者、スティーブ・ジョブズさんが命を落としてしまった病気です。

神経内分泌腫瘍はそのほとんどが、SSTR2というホルモン受容体の一種が多く存在しているという特徴に着目し、

SSTR2をターゲットとした蛍光造影剤をテキサス大学の研究室と共同で開発しました。

ネズミでの実験ではこのように腫瘍を光らせることに成功し、現在はFDA(米食品医薬品局)の認証が下り次第、実際の患者さんでの臨床試験が始まる予定です。



ロボット手術画期的変容 

膵臓には内分泌と外分泌の機能があり、膵切除後には糖尿病や消化吸収不全による下痢・栄養失調のリスクが増加します。

腫瘍の位置を正確に見極め、正常な膵臓を取りすぎることなく腫瘍の完全切除をすることが、長期的な患者さんの健康のために大切です。

SSTR2蛍光造影剤が臨床で使えるようになれば、膵神経内分泌腫瘍におけるロボット手術のアプローチが画期的に変わり、

腫瘍が光る技術のおかげでより正確な手術が可能になるかもしれません。

がんの患者さんの治療効果をより良くするために、抗がん剤などの新薬開発だけでなく、ロボット手術にまつわる技術も進化を続けています。


 ◇生駒 成彦(いこま・なるひこ)2007年、慶大医学部卒。2011年に渡米し、米国ヒューストンのテキサス大医学部で外科研修。2015年からMDアンダーソンがんセンターで腫瘍外科研修を履修。2018年から同センターで膵・胃がんの手術を専門に、ロボット腫瘍外科プログラムディレクターとして勤務。世界的第一人者として、手術だけでなく革新的な臨床研究でも名高い。

※ 転載 :「スポニチ Sponichi Annex  2024年11月18日」 記事より


「がんとの共存」という新しい生存戦略

2024-10-04 16:22:28 | がん闘病

     がん研有明病院「がんと上手に付き合うためのヒント」より転用

新戦略=がんとの共存

がんの治癒判定の誤解


米国で使われなくなった「効果の疑わしい抗がん剤」の一部が日本では保険適用のまま

2024-08-27 16:53:26 | がん闘病

  PRESIDENT Onlin記事より転用

   ※ファリーダック(パナビノスタト)については2024年3月から販売が中止されました。

 

日本で用いられている抗がん剤の一部に、効果が疑わしいとして米国で承認撤回されたものが存在しているという研究結果が発表された。

米国臨床薬理学会の国際誌Clinical and Translational Science誌に掲載されている。

研究に携わったエバーハルト・カール大学テュービンゲン研究員の秤谷隼世さんは「がん治療においては『迅速承認制度』という特別な医薬品承認の枠組みがある。

日本には、この制度で承認された医薬品を撤退する仕組みがないことが問題だ」という――。

 

「迅速承認制度」という医薬品承認の枠組み

読者のみなさん、はじめまして。ドイツでRNA創薬研究に従事する秤谷隼世と申します。

突然ですが、日本で用いられている抗がん剤の一部に、効果が不十分ですでに米国で承認撤回されているものが存在していると聞いたら驚くのではないでしょうか。

今回紹介する研究は、アイルランド王立外科医学院、医療ガバナンス研究所、ルンド大学との共同研究で行われたものです。

その成果は、米国臨床薬理学会の国際誌Clinical and Translational Science誌に

” Continued cancer drug approvals in Japan and Europe after market withdrawal in the United States: A comparative study of accelerated approvals”という

論文名で掲載(2024年7月11日公開)されました。※ https://ascpt.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cts.13879

 

一般に、がん治療においては、科学的に頑健な有効性の指標である全生存期間(Overall Survival, OS)を用いて臨床試験で有効性を評価することが推奨されます。

しかし、全生存期間での評価には、疾患によっては複数年単位の評価が必要となります。

何年もかかる試験の結果を待っているようでは、重篤ながんを抱えている患者さんなど、救えるかもしれない命が手遅れになりかねません。

また、製薬企業はあえて強調しませんが、臨床試験のコストが嵩んでしまうという問題もあります。

そこで、日・米・欧の各国、地域では、通常の薬事承認とは別に「迅速承認制度」という特別な医薬品承認の枠組みが設けられています。

 

日本には「承認を受けた医薬品」が撤退できる仕組みがない

迅速承認制度が通常の薬事承認と異なる点は、エビデンスが十分に確立されていない状態でも、候補となる物質が医薬品として承認されることがあるということです。

米国で迅速承認を受けた医薬品は、製薬会社による市販後調査(確認試験)が義務付けられています。

確認試験の失敗や遅延を認めた場合は、米国食品医薬品局(FDA)はその医薬品を市場から撤回することができるようになっています。

実際近年、FDAは「効果の疑わしい抗がん剤」が市場に長々と引き留められているような現状を改善すべく、

迅速承認から市場撤退までの速度を速めているといった現状も私たちは以前、別の医学雑誌に報告しております(H. Hakariya et al., QJM, 2024)。

※ https://academic.oup.com/qjmed/advance-article-abstract/doi/10.1093/qjmed/hcae115/7691984?redirectedFrom=fulltext&login=false

欧州でも同様に撤回の仕組みが存在しますが、日本では、一度当局から承認を受けた医薬品が撤退できる仕組みは存在しません。

 

そこで私たちは、世界の医薬品市場の大部分を占める米国・日本・欧州に着目して、抗がん剤の迅速承認制度の承認・規制状況を比較しました。

具体的には、2023年4月30日時点で米国において撤退が報告されている抗がん剤23品目に注目し、

これらの日本・欧州での承認状況を各国・地域の規制当局が発表するデータベースや製薬会社による発表資料などに基づいて精査しました。

 

「効果の疑わしい抗がん剤」が日本や欧州では保険適用されたまま

その結果、23品目のうち15品目については、製薬会社が日本および/または欧州でも承認申請をしており、

さらに12品目については今も日本または欧州のいずれかで承認されている事実を明らかにしました。

日本の規制当局である医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)には、製薬会社から合計7品目の承認申請があり、

2023年4月30日時点でPMDAはその全てを承認していました。その適応の内訳は図表1に示すように種々の癌腫にわたっており、

古くに承認された順から、マイロターグ(ゲムツズマブオゾガマイシン)、イレッサ(ゲフィチニブ)、アバスチン(ベバシズマブ)、フルダラ(フルダラビンリン酸)、

イストダックス(ロミデプシン)、ファリーダック(パノビノスタット)、テセントリク(アテゾリズマブ)でした。

さらに、乳がんに対する治療薬である2例は、乳癌診療ガイドラインで推奨されてしまっている始末です。

テセントリク(アテゾリズマブ)については強く推奨・アバスチン(ベバシズマブ)が推奨という状況です(2022年版ガイドライン)。

 

一方、欧州の規制当局であるEuropean Medical Agency(以下、EMA)は13品目の申請を受け、12品目を受理し、1品目を拒否しました。

承認を一度受けた12品目のうち、2品目については撤退があったものの、残る10品目については2023年4月30日時点で承認が維持されていました。

 

長いものでは「11.5年」も市場に残っている

続いて私たちは、これら日本・欧州で承認が維持されていた医薬品が、どのくらいの間市場に出回り続けてしまっているのかを計算しました。

すなわち、米国市場からの撤退をスタートとして、各国・地域における「効果の疑わしい医薬品」の市場残存期間を算出しました。

すると驚くべきことに、1医薬品あたり欧州では0.2年から11.5年(中央値1.3年)、日本では1.1年から11.5年(中央値3.2年)という期間の範囲で、

これらの医薬品が市場に残り続けていることが明らかとなりました。

さらに、欧州で承認されたままとなっている10品目の市場残存期間を合計すると、26.8年であったのに対し、

日本では7品目しか承認されたままになっていないにもかかわらず、その市場残存期間の合計は、36.2年間でした。

これらの期間はさらに延長する可能性があります。

 

本来の医薬品承認よりも有効性の基準が「緩い」

さて、それではどうしてこのような事態が起こってしまったのでしょうか。

もともと迅速承認制度は、有効性の期待される医薬品候補を患者さんの元へ迅速に届けるべく、米国(1992~)・日本(2017~)・欧州(2006~)で確立されました。

このシステムは、ほとんど抗がん剤に対して適用されます。

そして本制度では、より短期間で有効性を評価するために、全奏効割合(Overall Response Rate, ORR)や無増悪生存期間(Progression Free Survival, PFS)といった

代用指標(代用エンドポイント)を用います。

その結果、医薬品の有効性が「推定」されれば承認を受け、その物質は保険適用の受けた医薬品となります。

有効性が「推定」されればいいということは、誤解を恐れずに言うと、本来の医薬品承認で求められる有効性よりも、その基準が「緩い」ということです。

 

肝心な「撤退の仕組み」が存在していない

そのためか、迅速承認制度で承認を受ける医薬品の多くは、

①臨床試験に組み込まれる患者さんの総数が少なかったり、②特定の患者集団での研究が不足していたり、

③単一非ランダム化試験に基づいた科学的な頑健性の弱いデータで承認を受けていたりと、科学的に検証が不十分な点が残ることが多くなります。

つまり、迅速承認の時点では、「臨床的な利益」が必ずしも証明されていないのに承認を受けてしまう欠点があり、これが問題となるのです。

むやみやたらに承認してしまうようでは、「効果の疑わしい医薬品」まで承認してしまい、

「国民医療費を無駄にしながら患者さんに全くベネフィットのない医薬品を投与する」といった状況が生じかねないので、安易に承認を与えてしまうことは危険です。

こうした状況が生じている時間を最小限にするためにも、米国では撤退の仕組みが存在します。

ところが日本の場合、「迅速に承認する」という入口の仕組みだけが導入されてしまっており、肝心な撤退の仕組みが存在しないのです。

 

抗がん剤の承認制度に求められる「国際的な規制の調和」

本研究で私たちは、「FDAによって迅速承認を受けたが、後に⽶国で撤回された抗がん剤」23品⽬について精査しました。

結果、それらの承認状況は国・地域によって異なっており、日本または欧州のいずれか(または両方)において、

一部の抗がん剤が承認されたままとなっている状況を明らかにしました。

この事実は、①撤退を受けて、米国のがん患者さんが有効であるはずの医薬品にアクセスできなくなってしまっているか、

②日本または欧州の患者さんが、臨床的なベネフィットのない医薬品を処方されてしまっているか、いずれかを示唆します。

米国の規制当局が、市販後の確認試験を執り行ったうえで撤退を判断していることを考えると、②のシナリオの方がより事実を反映していると考えられます。

こうした地域による差を解消するためにも、抗がん剤の承認制度については、国際的な規制の調和が必要とされるでしょう。

 

「臨床的な利益が証明されていない医薬品」が使われ続けている

では、日本の医師や当局はこうした事実をどのように受け止め、どのような対策をとっていくことができるでしょうか。

今回、⽇本では特に、「FDAによって迅速承認を受けたが、後に⽶国で撤回された抗がん剤」、すなわち効果の疑わしい抗がん剤が、

⻑期間にわたって承認維持されている傾向があり、さらに⼀度承認された適応が撤回されたといった事例はありませんでした。

この結果を少し悲観的に解釈すると、⽇本では、臨床的な利益が証明されていない医薬品が使⽤され続けていることになります(同様のことが欧州でも言えます)。

したがって、⽇本や欧州の規制当局には、臨床的な利益が不明な医薬品の再評価と撤回を検討する余地があると考えられるでしょう。

少なくとも、当局は国や地域によって異なる承認状況となっている根拠をより明確に説明する必要があります。

 

治療薬ガイドラインのアップデートも重要

また、現場の医師をはじめとした医療従事者は、日本で承認されている抗がん剤だからといって、安易に製薬会社のMRさんに勧められるまま処方するのではなく、

最新の国際的なエビデンスをきちんとアップデートしながら日常の診療に従事するといった姿勢が求められてくるのではないでしょうか。

もちろん、日常診療に忙殺されてこうした情報を逐次アップデートするのは医師にとって簡単ではないでしょう。

そこで、学会の出す治療薬ガイドラインも、最新の臨床試験の情報を常にアップデートした指針を示していくことが重要です。

 

末筆ですが、私自身は日々研究室の中で創薬研究に従事しています。承認を受けて市場に出回るのは、我々が一生をかけて見つけ出せるかどうかの新薬です。

患者さんたちのためにも、しっかりと臨床的なベネフィットを明らかにしたうえで、患者さんの利益になるようなお薬が届けられるような世の中であってほしいと願います。

著者:秤谷 隼世(はかりや・はやせ)

エバーハルト・カール大学テュービンゲン 研究員
1993年生まれ。慶應義塾大学薬学部を卒業。京都大学大学院医学系研究科にて博士号を取得。日本学術振興会 海外特別研究員を兼任。
核酸医薬・核酸化学・遺伝子工学・を専門としたRNA創薬研究に従事。
社会と医薬品の関係性について洞察を深めるため、任意団体 薬と社会健康科学研究所を創設・主催。研究・アドボカシー・講演・執筆などの活動を展開している。
 
※ PRESIDENT Onlin記事より転載

アルミノックス治療(光免疫療法)

2024-07-12 13:53:21 | がん闘病

 

  近赤外線を照射する臨床現場でのアルミノックス治療の様子。提供:楽天メディカル

 

頭頸部がん「アルミノックス治療(光免疫療法)」臨床現場で実際の治療にあたる医師にその効果を聞く

米国の国立衛生研究所(NIH)の日本人研究者、小林久隆氏によって開発されたアルミノックス治療(光免疫療法)は、

従来にはなかった全く新しいがん治療技術だ。

現状、治療対象は限定されているが、実際に臨床現場で頭頸部アルミノックス治療を行っている医師にその効果を聞いた。

 

アルミノックス治療とは

がんの治療法には大きく外科的な手術、抗がん剤、放射線、免疫療法などがあるが、いずれもがんだけでなく

健康な細胞や臓器にも悪影響をおよぼすなどの副作用が出ることが多い。

 

アルミノックス治療が、最初に学術誌に発表されたのは2011年のことだ。

すると、翌年にはオバマ米元大統領が一般教書演説で言及するなど、新たながん治療法として注目を集め始め、

健康な細胞をほとんど傷つけることなく、がん細胞だけを破壊することができる治療効果の高い治療法として期待されている。

アルミノックス治療では、特定の細胞に選択的に結合し、光に反応する薬剤の投与と、

特定の波長の光照射の組み合わせによって、がんの腫瘍細胞を選択的に死滅させる。

がん細胞の表面には、他の正常な細胞には少ない抗原(がん抗原タンパク質)があり、がん抗原と結合する抗体にIR700という光感受性物質をくっつけ、

それを点滴で患者へ静脈投与する。すると、抗体とIR700の結合体が、がん細胞に結合し、そこに光ファイバーで近赤外線を数分間、照射する。

光感受性物質が光に反応して結合している抗体の形を変え、それによってがん細胞の表面に物理的に穴を開ける。

こうした現象が、がん細胞の表面で無数に起き、がん細胞がみるみるうちに破壊されていくのだという。

 

アルミノックス治療では、2020年9月に使用薬剤(アキャルックス点滴静注250ミリグラム)の製造販売とレーザー光照射装置による

頭頸部がんへの治療法が承認され、2021年1月から耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域で保険診療が始まっている。

また、2023年11月からは歯科口腔外科領域でも治療が開始された。

先日、都内で頭頸部アルミノックス治療の提供開始3周年を記念した講演会が開かれた。国内外から300人以上の臨床医や研究者が集まり、

同治療法の成果について発表が相次いだ。

 

頭頸部がんの限定した治療が対象

では、実際の臨床現場で、頭頸部アルミノックス治療はどのような効果があるのだろうか。

広島大学大学院医学系科学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科の上田勉氏に話をうかがった。

 

──上田先生が最初にアルミノックス治療について知ったのはいつでしたか。

上田「小林久隆先生が2019年11月26日に、広島大学でご講演されたんです。

そのとき、初めて知りましたが、それまでは全く知りませんでした」

──小林先生のご講演を聴いてどのように思われましたか。

上田「光を組み合わせるアイディアは確かに理にかなっていますし、これはいい治療法だなと思いました。

ただ、その頃はまだ臨床試験の段階でしたから、うちの大学でもできるようになったらぜひやってみたいと思いました」

──いつ頃から治療を始められましたか。

上田「うちは日本で最初に手を上げた20施設に入っています。2021年から始めました」

──実際に治療を始めてみてどうでしたか。

上田「始めた頃には全国からたくさんのお問い合わせがありました。現状の頭頸部アルミノックス治療は、頭頸部がんで切除ができない局所進行性、

または局所再発の場合に限って使用が認められています。

手術で完全切除ができず、標準治療として放射線治療などをすでに受けている患者さんが対象になります。

頭頸部がんでは肺へ遠隔転移することがありますが、遠隔転移があり、全身療法が必要な患者さんには原則使えません」

──頭頸部がんに限定されているというわけですね。

上田「頭頸部がんは、口、鼻、副鼻腔、咽頭・喉頭、唾液腺、甲状腺など、首(鎖骨)から上で、脳と眼を除く臓器に発生するがんです。

現在、この治療のターゲットは、あくまで頭頸部がんであり、頭頸部の局所にできた切除不能ながん、あるいは頭頸部に再発したがんが治療対象になります」

──頭頸部がんのステージ(病期)は関係ありますか。

上田「がんのステージというのは診断がついた最初の評価で、がんが進行してステージが上がるわけではありません。

頭頸部アルミノックス治療は、どのステージの頭頸部がんでも切除不能の局所、あるいは頭頸部に再発したがんで治療対象になります」

──頭頸部に再発した場合、すぐにアルミノックス治療を受けられるんでしょうか。

上田「再発した場合、普通は切除手術ができないかを検討します。切除できない場合は薬物療法を試してみます。

化学療法や免疫チェックポイント阻害剤、分子標的薬など、いろんな治療法がありますから、それらを単独あるいは組み合わせて試してみて、

それでもダメな場合、頭頸部アルミノックス治療を始めます」

──再発してもすぐに受けられるわけではないということでしょうか。

上田「頭頸部で切除手術をした場合、大切な部位を取ってしまい、たとえ治療できても患者さんのQOLを下げてしまう危険性があります。

なので、できるだけ切除手術で広い範囲の部位を取ってしまいたくはありません。

ただ、先ほど言ったように、現状では、標準治療を差し置いてはできません」

 

次第に広げられつつある適用範囲

──光免疫療法が最後の手段ということになりますか。

上田「放射線は1回しかできませんから、一度使ったらもう次は使えません。

お薬での治療は、先ほど述べた通り、何種類もあるのでそれを使っていきますが、効かなくなったら変えていくとだんだん手数が減っていきます。

最終的には治療法がなくなってしまい、今後は緩和治療を中心にという話になっていました。頭頸部アルミノックス治療は、こ

の緩和治療の前に入ってきたというわけで、どんな治療法もなかった患者さんにとってはまさに希望の光のような存在なのかもしれません」

──アルミノックス治療は、魔法の杖ではないということでしょうか。

上田「私自身の実感としては、アルミノックス治療の効果はかなりあると思っています。

しかし、対象群と比較して治療効果はどれくらいというような医学的な研究は倫理的にもできないでしょう。

なので今後、実臨床の現場で少しずつ治療の成果を積み上げていくことが重要と考えています。

ただ、これまで全国で知見が蓄積されてきたことから、頭頸部アルミノックス治療の適用を少しずつ広げる方向へ向かっているのも事実です」

──適用を広げる方向というのはどういう意味でしょうか。

上田「対象となる患者さんは多くはないと思いますが、頭頸部がんの患者さんのQOLを重視した上でのケースです。

例えば、舌がんで口の中がもう腫瘍でいっぱいになるくらい大きくなって切除手術もできず、

長くかかる化学療法では患者さんのQOLに大きなダメージがおよぶ場合、化学療法の前にアルミノックス治療をやってもいいのでは、

というような適用の拡大もあり得るのではないかということです」

 

治療実績とその効果

──これまで何例くらい頭頸部アルミノックス治療の実績がありますか。

上田「うちではこれまで14例です(2024年4月現在)。頭頸部がんの種類としては、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、舌がん、副鼻腔がんなどです。

これらのがんに対して、手術などした後再発し、それらに対してさらに手術や化学療法をした後再発された患者さんです」

──14例の内訳はどのようになりますか。

上田「男性が10例、女性4例です。CR(Complete response、完全寛解)7症例、PR(Partial response、部分寛解)3症例、

SD(Stable disease、安定)2例、PD(Progressive Disease、進行)2例です」

──この治療の効果をどのように評価されますか。

上田「アルミノックス治療をすれば、がんの腫瘍は確かに小さくなります。消えてしまう患者さんもいます。

当科の傾向としては、小さながんは消えやすく、大きながんは小さくはなるが消えるまではいかないようです」

──かなり劇的な効果があるというわけですね。

上田「もちろん、中には、期待する結果にならなかった患者さんもいらっしゃいます。ただ、頭頸部アルミノックス治療をすることで、

生存期間を延ばすことはできているのだと思います。

逆に、腫瘍が小さくなったり、消失することによる弊害もあって、例えば頬に腫瘍がある場合、光免疫療法で腫瘍がなくなると頬にぽっかり穴が開いてしまい、

患者さんのQOLを下げてしまうわけです。この治療を始めた当初は一気にやってしまおうという考え方でしたけれど、

4回までアルミノックス治療を繰り返せますから、一気にやって腫瘍のサイズが小さくなったり消失したりしてQOLを下げないように、

1回ずつ様子をみながら段階的に治療をし、頬の肉がなくならないようにやるといったことも始めています」

──4回しかできないんですか。

上田「頭頸部アルミノックス治療の今の適用ですと4回までです。

3回やって腫瘍がなくなったので、残りの1回を取っておいて治療を中断している患者さんもいらっしゃいます。

ただ、5回目以上についていくつかの施設で臨床試験をやっていまして、広島大学もその一つです。ですから、臨床試験の結果、効果があるとわかり、

何か新たな有害事象がなければ、5回目以上の治療についても今後、可能になっていくと思います。

また、何回でもできるということになれば、他の治療法と組み合わせながら、少しずつアルミノックス治療をやっていくというように治療戦略も変わっていくでしょう」

 

痛み、浮腫などの副作用が

──副作用などについてはどうでしょうか。

上田「治療中や治療後、治療当日と翌日に痛みをうったえる患者さんが多いです。

全身麻酔をかけて治療するんですが、麻酔をかけていても身体は痛みに反応しますから血圧が上がったりします。

光に反応して腫瘍がなくなっていく段階で、こうした痛みが出るのだと思います」

──痛みというのはわかりにくい訴えですよね。

上田「あまりに痛いので、もうやりたくないという患者さんもいます。

ただ今では局所鎮痛剤の投与など、痛みをあまり感じないように工夫もしています」

──痛み以外の副作用はどうでしょうか。

上田「治療部位にもよりますが、喉頭や咽頭に浮腫を生じ、気道をふさいでしまうことがよくあります。

そのため、あらかじめ呼吸ができるように気管切開をすることもあります。

頭頸部アルミノックス治療による治療が始まって3年ほどが経ち、治療戦略、副作用対策などが次第にはっきりしてきたと思います」

──光感受性物質による影響はどうでしょうか。

上田「最初の頃は、光曝露対策をしっかりやらなければということで、患者さんに常時、光が当たらないように細心の注意を払っていましたが、

今ではそこまでしなくてもいいことがわかってきました。

光に対する感受性テストをして、それで大丈夫なら退院となるのですが、入院中でも室内で読書する程度の明るさなら全く問題ありません。

ただし、屋外で紫外線を浴びたり、室内でも赤外線ストーブにあたるなどは危険です」

──上田先生のところでは、頭頸部がんの患者さんはどのような方が多いんですか。

上田「男女比でいうと男性が多いです。喫煙と飲酒の影響だと思います。年代は50代から80代までが多いです。

また最近になって、ヒトパピローマウイルスの感染による中咽頭がんの患者さんが増えています。HPVワクチンは男性も女性もうったほうがいいと思います」

 

臨床の現場で頭頸部がんの治療にアルミアルミノックス治療を使ってきた上田氏は、その高い治療効果についてこう実感を持って話してくれた。

使われ始めて3年ほどが経ち、次第に効果的な治療法が模索され、副作用対策などが講じられてきたことでアルミノックス治療の可能性が広がりつつある。

 現在、全国の多くの医療機関で、頭頸部アルミノックス治療による治療が受けられるようになってきている。

そして、この治療法に対する期待の高まりとともに、治療できる医療機関は増えていくだろう。

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上田勉(うえだ・つとむ)

1994年、広島大学医学部医学科卒業後、広島大学病院耳鼻咽喉科から国立呉病院耳鼻咽喉科を経て、

広島大学大学院医学系研究科博士課程外科系専攻へ進み、2003年に修了。

2010年に広島大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科助教から同講師、2018年より同准教授。

また、2018年に英国のUniversity of Birminghamへ留学。医学博士。

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※ Yahooニュース・エキスパート 2024年7月12日  配信記事より記事より記事より記事より転載

著者:石田雅彦(科学ジャーナリスト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「腫瘍マーカー」の目的を正しく理解できていますか?

2024-06-27 16:08:56 | がん闘病

     がん情報サービス HPより転用

 

世の中にはがんに関するさまざまな情報があふれていますが、中には、患者の負担になる間違った情報も少なくありません。

例えば「簡単な血液検査でがんの早期発見ができる」とうたわれることがある「腫瘍マーカー検査」もその1つ。

そこにはどんな重大な誤解があるのでしょうか? 

正しい医療情報をわかりやすく発信する医師として注目を集める山本健人さん。

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がんがあっても異常値が出ないという大きな欠点

がんに関わる検査の中で、「腫瘍マーカー」ほど、その目的を誤解している人が多いものはないと思います。

私が外来診療をしていてよく患者さんから言われるのが、「がんかどうかを調べてほしいので腫瘍マーカーを検査してください」というセリフです。

患者さんの発想は、「腫瘍マーカーが高いとがんの可能性がある。低ければがんではないと考えて安心できる」というものでしょう。

しかし、残念ながら腫瘍マーカーを「がん早期発見のためのツール」として使うことは、一般的には不可能です。

ここであらためて、「腫瘍マーカーとは何か」ということに関して簡単に解説します。

腫瘍マーカーは、がんから分泌される、あるいはがんがあるときに周囲の組織などから分泌される物質のことです。

こうした物質は血流に乗って全身を巡っているため、血液検査でその値(濃度)を調べることができます。

現時点で、腫瘍マーカーは50種類以上あります。がんがあれば、この値が高くなることがある。これは事実です。

ところが、腫瘍マーカーには大きな欠点があります。

1つは、たとえがんが体内にあっても、初期の段階で腫瘍マーカーの数字が異常値になることはほとんどない、ということです。

 

一方で、がんが原因でその数値が上昇しているのであれば、それは「それなりに進行したがんが体内にあること」を意味します。

「早期発見」には使えない、ということです。

それどころか、進行したがんがある場合ですら、腫瘍マーカーが上昇しないケースは多々あります。

これは、「偽陰性」と呼ばれるケースです。

 

腫瘍マーカーとしてよく用いられる「CA19-9」という検査項目があります。

この陽性率(異常値となる割合)を見ると、胆道がんや胃がん、大腸がんではとくに、病期(ステージ)が低い方が(早期である方が)陽性率が低く、

も進行したステージ4であったとしても、陽性率は60~80%程度。

つまり、10人に2~4人は、進行したがんがあっても腫瘍マーカーは基準範囲にとどまることがわかります。

乳がんの各種の腫瘍マーカーの陽性率についても、同じような結果が出ています(「臨床検査のガイドライン2005/2006」日本臨床検査医学会より)。

つまり、血液検査で腫瘍マーカーを測定して基準範囲に入っていたとしても、がんではないとは言い切れない以上、まったくもって安心できないのです。

早期発見に役立たないだけでなく、進行していてもなお発見が難しいのであれば、やはり「がんかどうかを調べるツール」としては不十分です。

 

がんがなくても異常値が出ることのデメリット

もちろん、ここまで読んで、「腫瘍マーカーが正常ならともかく、もし異常値が出て進行したがんが見つかるなら、

早期発見でなかったとしても、それだけで意味はある」と思った方がいるかもしれません。

残念ながら、腫瘍マーカーにはもう1つの大きな欠点があります。

 

「偽陽性」という問題です。

腫瘍マーカーは、がんに関連して血液中に流出する物質ですが、「がんであるときにしか産生されない物質」ではありません。

がん以外の病気でも上昇することは多々あります。がんではないのに検査の結果が「陽性」になってしまう、ということです。

例えば、前述の「CA19-9」は、胆のう炎や膵炎、肺の病気など、がん以外の多数の病気で上昇することがあります。

同様に、消化器がんや、肺がん、乳がんなどで上昇することがある「CEA」も、肝臓や膵臓の良性の病気で上昇することがあります。

またCEAは、喫煙者であるというだけで高い値を示すことも多い腫瘍マーカーです。(福田一郎ほか「人間ドック受診者のCEA値に及ぼす喫煙の影響」)

 

実際私たちも、「腫瘍マーカー高値」という検診の結果を持って患者さんが病院にやってこられ、

精密検査をして「何も異常が見つからない」という事態を数え切れないほど経験しています。

「腫瘍マーカー」という言葉でありながら、「がんだけで上昇する項目ではない」という点に注意が必要なのです。

偽陽性の場合、患者さんは本来必要がなかったはずの精密検査を受け、その検査費用と度重なる通院の手間、

体への負担、検査のリスクを負うことになります。

 

また、「腫瘍マーカーが高かったのに、精密検査では結局何も異常が見つからない」という結果を手にしても

なお、「本当に自分はがんではないのか?」という不安感がぬぐえないまま病院を後にする方はたくさんいます。

これが患者さんにとって日々の生活を脅かす、大きな心理的負担となってしまうこともあります。

中には、前立腺がんの「PSA」のように早期の段階で上昇するものもありますが、検診において使用すべきかどうか、

という点においてはまだ議論の余地があり、市区町村の対策型検診への導入は推奨されていません(独自に実施している自治体はあります)。

以上のことから、腫瘍マーカーを検診で測定することで私たちが幸せになれる可能性は低い、と私は考えます。

少なくとも、腫瘍マーカーを検診で測定したい、と考える方は、ここに挙げた多数のデメリットを、検診を受ける前に十分に理解しておく必要があるでしょう。

 

役に立つケースはごく限定的

では、そもそも腫瘍マーカーは、一体どういう目的で使用されているのでしょうか?

これはがんの種類によってさまざまですが、大きく分けると、「進行・再発がんに対する治療効果の判定」「がんの術後再発の発見」の2つがあります。

手術で切除ができないレベルまで進行したがんや、術後に再発したがんに対して抗がん剤治療(化学療法)などを行うと、

当初上がっていた腫瘍マーカーの値が下がってきます。この変化を見ることで、抗がん剤の効果を推測することができます。

これが、「治療効果の判定」です。

抗がん剤を使用しても腫瘍マーカーの数値が上がり続けるなら、「抗がん剤の効果が薄れているのではないか」と予想することができます。

逆に低い値のままなら、「抗がん剤の効果が維持できているのではないか」と考えることができます。

もちろん、こうした治療効果の判定をする場合でも、身体診察やCT、MRI、PET等の画像検査を併用する必要があります。

腫瘍マーカーの変化は「1つの目安」にすぎない、ということに注意が必要です。

 

また、がんの種類によっては、術後再発の発見に使用することも可能です。

例えば胃がんや大腸がんは、術後再発の検索を目的として、腫瘍マーカーの「CEA」と「CA19-9」を、

3カ月に1回といった比較的高頻度で測定することが推奨されています。

 

大腸がんの術後、定期的に血液検査で腫瘍マーカーを測定し、基準範囲を外れて上昇していれば、再発を疑って精密検査を行う、といったことが可能です(

もちろん偽陽性、すなわち精密検査を行っても再発が確認されないケースもあります)。

一方、乳がんは、術後に定期的に腫瘍マーカーを測定することの意義に関して議論の余地があり、必ずしも推奨されてはいません。

腫瘍マーカーは、がんの種類によっても、患者さんの病状によっても、その扱いがまったく異なるということです。

数値が上昇していたときの解釈にも、専門的な知識が必要です。

いずれにしても、腫瘍マーカーは、専門家の指示に従って「必要なシチュエーションでのみ測定すべきもの」と考えておくのがよいでしょう。

 

※『東洋経済 ONLINE 』記事より転載

  

出典:『医者が教える 正しい病院のかかり方』(山本健人 著 / 幻冬舎新書)