言語楼-B級「高等遊民」の戯言

日本語を中心に言葉の周辺を“ペンション族”が散策する。

「青信号」の本当の色は?(06/09/15)

2006-09-15 23:27:56 | 言語の変化
  道路の信号機の「青信号」の色は、本当は青ではなく緑なのだ、という俗説がある。確かに緑色に見えるような気がするが、場所によっては周りの条件が違うせいかやはり青色のようにも見える。真実はどうなのか?

  警察の広報や百科事典などの資料にあたってみると、妙な言い方だが、実はどちらも正しいと言えば正しいのだ。一体どういうことか。法令上の定義、製造法の違いや言語文化の側面がからみあっている点もあるのでまず、法令上の問題から説明すると――
  世界で初めて電灯式信号機が設置されたのは1918年(大正7年)、ニューヨークの5番街だった。その時の色は、赤、黄、緑。日本初の信号機は、1930年(昭和5年)東京・日比谷の交差点に設けられたが、米国から輸入されたものなので、色も当然、赤、黄、緑だった。法令上も、「進んでよい」を示す信号の色は「緑」と定められたそうだ。

  しかし、赤、黄、とくれば3原色の“3点セット”から言っても「青」と続くのが自然だ。この常識から民間レベルでは「青信号」、「青色信号」という呼び方が広がり、新聞などでも使われるようになった。1947年(昭和22年)には法令上も「青」と改められた。とは言え、実際に「緑」の信号機がなくなったわけではない。警視庁のホームページによると、1973年(昭和48年)以降に製造された信号機は、呼び名通りの「青」になっているというが、日本では、色弱者に配慮してCIE(国際照明委員会)の世界標準規格の緑の範囲内でなるべく青に見えるような色度を採用している。また、信号機のメーカーによっても青が強かったり、青緑になったりと多少のバラツキがあるようだ《注》。ちなみに英語では、青信号をCIEの規格通り“green light”という。

  こうした一種のねじれが生じるのは、日本語の「青」という語がもともと「緑」との区別があいまいで、時には同一に扱われてきたからだ。藍色と近いのは言うまでもない《前回の「藍より青く」(06/08/30)を参照》。現代日本語では基本的な意味は「青い空」、「青い海原」など英語でいう“blue”系統の色の総称として使われるが、本来はきわめて幅広い語義を持つ。

  「目に青葉」とか「青々とした田んぼ」、「青竹」、「青蛙」の「青」は、実際には「緑」だ。一方で「緑なす黒髪」、「緑の黒髪」という具合に「緑」は、つやのある美しい「黒」髪を形容するのにも使われる。

   強引に三段論法風にまとめると、
[ ①青=緑  ②緑≒黒  ③∴青≒黒 ]ということになる。だから、「(青みがかった)黒」という意味の「青毛の馬」なる表現が生まれ、さらには単に「あお」だけで毛の色が黒い馬を示すようにもなったわけだ。いい加減な用法に見えかねないが、それなりの筋が通っていることは日本語の歴史をたどってみれば合点がいくはずだ。その説明は次回に試みてみよう。


《注》信号機の豆知識(http://www14.cds.ne.jp/~signal/sig_all_q4.htm)