言語楼-B級「高等遊民」の戯言

日本語を中心に言葉の周辺を“ペンション族”が散策する。

青いバラ(06/07/07)

2006-07-07 20:39:48 | 日本語と外国語
 七夕に竹飾りは欠かせない。短冊に願い事を書いて庭に立てた青竹の枝に結ぶ。この行事には、牽牛星(彦星)と織女(姫)星が天の川を挟んで年に一度、7月7日の夜だけ会うというロマンティックな伝説が秘められている。木に竹を接ぐようだが、ロマンの香り高い花木と言えば薔薇(バラ)の花が一番だろう。だから文学に取り上げられるケースも数多い。

 たとえばシェークスピアの全作品に登場する植物およそ150種のうち断然多いのはバラだそうだ。「ロミオとジュリエット」では、恋する少女の切ない思いをバラに託してジュリエットが「ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」と、ロミオに偶然聞かれていることも知らずにバルコニーで愛を独白した後「名前なんてどうでもいいんじゃないの?バラと呼んでいるあの花を、別の名前で呼んでも同じように甘く香るでしょう」《注1》と恋心を訴え続ける有名な場面がある。この後段のセリフは現在ではもう少し簡略化され、「バラはどんな名で呼ぼうとかぐわしい」《注2》という諺になっている。


 バラは甘美な香りもさることながら、その華麗にして典雅な美しさから「花の女王」とも呼ばれる。愛、喜び、美、純潔、の象徴とされる。そのせいもあって、"rose"を含んだ英語の慣用句、熟語にはプラス・イメージのものが多い。"roses and sunshine" が「すばらしいもの」、"a bed of roses" は「安楽な生活」(バラの花びらを敷いた床、の意から)、"smell like a rose" は「なんら非難されるところがない、クリーンだ」といった具合だ。

 赤、ピンク、白、黄……。バラは花の色も多彩だが、「青いバラ」はなかった。そこから "a blue rose"「ありえないもの、できない相談」(研究社「リーダーズ英和辞典」)という熟語が生まれ、不可能の代名詞ともされてきた。
 
 ところが――バイオテクノロジーの遺伝子組み換え技術を駆使した品種改良が急速に進み、2004年6月にサントリーが「世界で初めて”青いバラ”の開発に成功した」と発表したのだ。商品化されて店頭に出回る日も間近い。

 そうなれば、"a blue rose" の「不可能」は意味を成さなくなってしまう。ともかく「青いバラ」の花言葉として、早くも「奇跡」や「神の祝福」が候補に挙がっているとか。
   

 《注1》  What's in a name? that which we call a rose
By any other name would smell as sweet;

《注2》  A rose by any other name would smell as sweet.