カウンターの中から客をのぞくといろんなことが見えてくる

日本人が日本食を知らないでいる。利口に見せない賢い人、利口に見せたい馬鹿な人。日本人が日本人らしく生きるための提言です。

それでも新しい出会いはある。新たな発見もある。

2012-10-27 | 人間観察
給料日直後の金曜日は、暇だ。

みんな名駅前や栄の繁華街に出ていくようだ。

みんなで騒いで、すぐに帰宅の電車などに乗れるせいもある。

あまり人付き合いのない独身者くらいしか客がないことが多い。

あとは自営の店主などだ。

それでも珍しく若い人たちが来た。

原発のメンテをする会社に勤めている若者だ。

「せっかくの金曜日に、行くあてもないのかい?」

僕は少しからかってみた。

彼らはまじめに答えてくれた。

「彼女もいないし、金もないんです。僕たちのような出張の多い仕事は、なかなか彼女を見つけるチャンスもないし、事故以来、仕事が極端に減ってしまって、給料だってどうなるかわからないんです。ここならお値打ちにおいしいものが食べられるし、何たって、歩いて来れるしね」

嬉しがらせてくれる。

そこに来たのが、33歳の独身女性。

イベントが近いので、土曜日も出勤で、今日も残業だったらしい。

彼女はお酒は飲まない。

車で通勤してるから。

「マスター、ワンピース選んでくれない?」

いつも趣味のいい服を着ているのに、何が不満なんだろう、と僕は感じた。

「私が選ぶと全部ブラウン系になっちゃうの。違う色を選びたいけど、似合ってるかどうか不安で、一緒に見てほしいの」

彼女にも悩みがあるんだ。

清楚でかわいい人なのに、そんなお洒落の悩みがあるのだ。

次に現れたのは、46歳独身のサラリーマン。

最近お父さんが入院し、その介護などで疲れきっている。

気分転換も兼ねるせいか、最近頻度が高い。

「会社もやすまないかんし、親も見ないかんもんなぁ。そやけど、親には口でいえへんほど助けてもろとるんやから、俺がやったらなあかんわなぁ」

疲れの見える顔に、やっとのことで笑みを見せているのが分かる。

僕も両親の最期を看取った。

心身ともに疲れていた。

彼もそうだ。

みんなにちゃらんぽらんに見られている男の、ひたむきさを見た。

いつものように客がいたら話せない。

いい日だった。

人の心と悩みが見えたいい日だった。

夜が明けたら、僕は土山に行こうと思っている。

久美子さんにも会いたいし、無農薬農家の人にも話がある。

帰りには畑によって、少しでも雑草を刈りたい。

明日も明後日も、いい日になればいい。

明日も明後日も、人の心に触れられればうれしい。

月末の原稿を書く用意を持って、僕は仮眠を取ろうと思う。

いい日が続くことを祈りながら。

コメントを投稿