亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

パラレルストーリー 柔道部危機③

2018-10-22 14:58:58 | 美月と亮 パラレルストーリー
「永峰がこっちに戻ってくるらしい。」

「懐かしい名前だね。」

永峰は体育教師で、女子柔道部のコーチ
でもあった。
姉妹校である名門
大田学館明盛高校に異例の赴任を果たし
二年半を必死に勤めてきたようだが
元々がそんなに有能な教師でもなく
生徒の質も格段に違う名門校では
指導が至らずほぼお荷物状態だった。
女子生徒を妬んでの巧妙な虐めなどを
懲りずに繰り返すようになり
校長も引き取らざるをえなくなった。

「まあ、うちにしてみても厄介払い
だったわけだから。よく二年半も
預かってくれたと思うよ。」

高崎校長はため息をついた。

「校長、今年は学年毎にかわいこちゃんが
いますよね。しかも一年生は二人も。」

亮は学年で指折りの美少女を愛人とする
校長の性癖を揶揄する。
それだけではなく、校長の寵愛に値する
美少女は永峰の格好のターゲットに
なるであろうという心配も含めての
進言でもある。

「あたしはもう関係ないけど
また好き放題やられちゃ困るね。」

美月は自分のされたことを思い起こし
彼女の抱えている闇の深さに身震いした。

「また戻ってきたら柔道部のコーチを
やらせろって言ってるらしいんだ。」

校長は他人事のように語る。

「校長、まだ直接面談してないんですか?」

「まあね。だって、ギリギリまで
会いたくないもん。いくら不感症だって
あの人事がペナルティだって
そろそろ分かっちゃってるでしょうよ。」

永峰は美月を高いところから
突き落とすような真似をした。
しかもそれを自分が救ったような演出をし
美談に仕立て上げたのだ。
それを暴き出したのが亮で、決定的瞬間を
目撃したのが当時二年生だった校長の愛人で
被害に遭った美月も校長のお気に入りで。
もう、校長は躊躇なく永峰を飛ばした。

それでも、証拠が何一つない。
唯一那摘の証言が証拠とならなくもないが
校長は可愛い愛人を巻き込みたくなかった。

「なんか心折れて自分から教師を
辞めてくれないかなあ。」

クビにできない辛さ。
校長は身悶えた。

校長室は相変わらず、窓から見える
箱庭が美しい。この四季折々の緑を
愛人たちと愛でるのが校長の楽しみだ。

「久し振りにお邪魔したけど、ここは
静かだし手入れは行き届いてるし
いつまでも眺めていたいよ。」

「美月ちゃんなら、いつでも歓迎するよ。」

窓に張りつくように庭を眺める美月の肩を
さりげなく抱いて引き寄せる校長の後ろを
取ってガオーと吠える亮。

「あは。チューチュートレインっぽい。」

美月は窓に映った自分達の姿に笑う。








「富士野先生に、折り入ってお話が
ありましてな。」

富士野先生は職員室の奥、一つだけ
違う向きで置かれている大きな机に
呼び出されていた。
田母神先生は生活指導部長に任命され
他の教師たちとも一線を画すように
なっている。まあ、元々相容れない
存在だけどね、と心の中で舌を出した。

「柔道部の成績不振は身に染みて
お分かりですよね。」

一昨年までの好成績が嘘のように
男子柔道部は弱体化した。
8年前、前任の加藤先生が退職してから
一人で男子柔道部を支えてきた。
良い生徒たちが揃っていたこともあったが
徐々に団体戦でも順位を上げ、個人戦で
メダルを貰うものも出てきた。
そこへ4年前に鳴り物入りで
柔道部に来たのが田母神先生だった。
日体大時代はかなりな選手だったようだが
コーチとしての手腕はメタクタだった。
役職も富士野先生より上で迎えられて
いたので、何一つ逆らえなかった。
一年生から育ててきた生徒は辛うじて
指導を続けられたが、それ以降に入ってきた
生徒たちはすべて、田母神の組んだ
スケジュールとプログラムで稽古を
してきたのだ。
それでも上級生がフォローしてきた
学年までは何とかモノになった。
それが、今の三年生。
権藤たちが三年の時の一年生だった
生徒たちである。
その三年生も人数が少なく、田母神先生が
積極的に自分の育てた二年生を早くから
レギュラーに押し上げていたので
団体戦は惨憺たるものだ。
そこで、田母神先生はあっさりと
現場を撤退した。すべてを富士野先生に
丸投げして管理者になったのである。

改めて田母神先生は全てを富士野先生の
せいであると総括した。

「あなたの指導のお粗末さは、私が
ちゃんと上に報告しましたからね。
追って沙汰が下るでしょう。」

これで、終わりか。
もう出来ることはやりつくした。
今や、松木や山崎とも最低限の会話を持ち
指導も実を結びつつあったが
幕引きは唐突にやってくるものだ。

「でも。」

「でも、何でしょう?田母神先生。」

この狸親父何たくらんでやがる。
富士野先生は瞬時に頭を巡らせる。
まさか。あいつが。

「最終兵器がわが校に帰ってきます。
彼女なら、今の男子柔道部を救って
くれると思いますよ?」

察してはいるが、察していると思われる
ことすら嫌だ。富士野先生はとぼけて
田母神先生に訊き返す。

「最終、兵器ですか?」

「お忘れじゃないでしょう!永峰くんです
我が日体大の女傑、彼女なら男子の指導を
するにも申し分ない実力があります。」

本気で言ってんのかこのインポテンツが
勃たないだけならまだ無害だが、
役立たずのくせに無駄に権力握ってるから
たちが悪い。

なんて感想はおくびにも出さない。

「ですが、あのような少年たちの指導を
女性がされるのはどうでしょう。」

一応抵抗してみた。

「ですから、富士野先生には彼女が
気持ちよくコーチ出来るようにサポート
してあげて欲しいんですよ。」

もう耳が遠くなったか老いぼれが。

もちろん口には出さない。

「えー、と。サポートと仰いますと。」

やってられない。

富士野先生は絶望的な気持ちになっていた。









「相変わらず、うだつが上がらない方ね」

永峰は驚くほど堂々と誇らしげに
人を見下しながら戻ってきた。
亮は嫌な顔を隠さず、丁寧に挨拶する。

「明盛はいかがでしたか。」

さんざん評判は聞いていたが
あえて本人にぶつけてみた。

「行ってみて分かりました。
あちらは型にはまった指導で
生徒に当たって砕けるような
本気の先生がいらっしゃらない。
それは残念です。だから、私はまた
この大田学館に戻ってきたんです。」

「そうですか。」

突っ返されてきたくせに。
よくもまあここまで都合よく言い換えられる
ものだと亮は呆れ返ったが、おくびにも
出さずに頷いて見せる。

「また、女子柔道部に戻って
指導をされるんですか。」

女子柔道部は永峰の後任である
星先生のもと、結束固く団体戦でも
個人戦でもめきめきと頭角を表して
いるのだった。が。

「私の指導が実を結んで、今や
女子は押しも押されぬ強豪です。
私が憂いているのは、男子の方ですわ。」

いやいや。女子は星先生が纏め上げたんだよ
と突っ込みを入れる亮。勿論心の中で。

「日体大の常勝機関車と謳われた田母神
先輩が、男子柔道部建て直しの救世主と、
私に白羽の矢をお立て下さったのですわ。」

だんだん胸が悪くなってきた。
いい加減にしろモンゴリアンブスタンク
勿論口には出していないが、出したくて
堪らない亮だった。

「部活の顧問もなさらないで、日々
ルーティンで呑気にお暮らしの方には
わからない充実感ですわね。」

亮はにっこりと笑うと
頑張って下さいねと挨拶を残して別れた。

ってことは。あのモンゴリアンブスタンクを
押し付けられるのは富士野先生か。
亮は富士野先生を気の毒に思うと同時に
巻き込まれないように気を付けなくてはと
改めて気合いを入れる。
いつも、巻き込まれちゃうんだから。






「皆、ちょっと話がある。集まってくれ。」

柔道場の活気が少しずつ静まる。

一年生がきびきびと駆け寄り
集合して整列する。
二年生もわざと怠そうにしながらも
一年生の後ろを取り巻くように
集まってどすりと腰を下ろす。

「なんすか、富士野先生。」

山崎が話を促す。

「来月、永峰先生が戻ってくる。
とはいえ、お前たちは誰も知らないな。」

「新しいコーチですか?」

松木は冷静に問い質す。
正直なところ、富士野先生のコーチングにも
理はあるし、手応えも感じ始めていたから
またやり方が変わるのも面倒だと思う。

「永峰先生は二年半前まで女子柔道部を
指導されていた、わが校の教員だ。」

「じゃあ、女子の方を……」

全員が頷く。

「そうだな。しかも永峰先生は女性だ。」

部員がざわめく。嬉しげな顔のものまで
いるのがたまらなく気の毒だった。
ゴツゴツのブスだぞ。心の中で詫びる。

「永峰先生は日体大時代、常に全国大会
ベスト8という安定した実力をお持ちの
指導者としても、、優れた方だ。」

富士野先生は自分で喋りながらも
言いようもない怒りが邪魔をして
口ごもってしまう。
指導力のなさは折り紙つきだし
ベスト8ってのも微妙な成績だ。

「じゃあ、富士野先生はお払い箱なのか?」

松木は歯に衣着せぬ物言いだ。
だが、その裏には惜しむ気持ちが滲む。

「んー。お払い箱、とも違うな。」

お払い箱の方がどんなに気が楽か。
かといって場を引っくり返して
出ていくのも躊躇われた。
限界ギリギリだが、何とか踏ん張らなくては。

「永峰先生は女性だ。やはり男子の
指導には壁も出来るだろう。そこを
俺がフォローする形になる。」

「じゃあ。富士野先生は辞めないで
いてくれるんすよね。」

山崎だ。
多分、女に指導されるのがよほど
嫌なのだろう。それとも美月に投げられた
トラウマだろうか。少し申し訳なく思った。

「正直、やりにくくて仕方がないから
辞めたい気持ちも強いかな。俺は元々
単なる社会科教諭だから。」

柔道部強化のために連れてこられた
田母神先生には敵わないし逆らえない。
結果がでなければ、責任はすべて
押し付けられるのだ。

「先生!俺たち、せっかく先生の
言う通りにして、技も少しずつ決まるようになってきて毎日頑張れています!
辞めるなんて言わないで下さい!」

一年生たちが懇願する。

「まあ、一年どももこう言ってることだし。
俺らもいきなり女に指導されるってのは
気まずいし。」

松木も素直な言い方ではないが
富士野先生を引き止める。
全員が頷くのを見ながら
ちょっぴり勇気をもらった
富士野先生であった。








「永峰って先生さ。どんな人なの?」

亮は早々に山崎と松木に捕まっていた。

「いや、俺は。仲良くもなかったし。」

妙な先入観を入れるのもどうかと
思ったし、それがあの女に知れたら
またどんなことをされるかと思うと
面倒で仕方がなかった。
ここは知らぬ存ぜぬで通したい。

「じゃあ、権藤さんは知ってるだろ?
あの人が三年生の時までは、女子の
方のコーチをやってたんだもんな!」

松木も自分がコーチングを受けるもんだから
必死である。まあ無能の容姿性格どちらも
チャンピオン級のブスだと教えてやりたいが
もしかして男子相手ならきちんと仕事を
するかもしれないじゃないか。希望的観測を
捻り出して微笑む亮。

「権のことはお前が追い出したじゃん。
今さら話を聞くんだ?」

「や。まあ。そうだけど。権藤さんの
コーチングは的を射てて上手かった。
あれは頭に血が昇って悪いこと言ったと
思ってるよ。」

「美月が山崎を投げ飛ばしたりして
パニックだったもんな?」

「もうそれはいいからさ!」

山崎が話を戻す。

「先生、権藤さんと会わせてもらえないか。
頼む!連絡つけてくれよ!」

亮は悩んだが、まあ権藤と会わせるだけなら
実害はないかと思った。
まず本人に非礼を詫びることを条件に
連絡をつける約束をした。

「でも、俺があいつと直接やり取り
してるわけじゃない。うちのに話して
連絡してもらうから、時間をくれ。」

「うち、の?」

「ああ。美月。権とは仲良いから。」

そう聞くと松木はニヤニヤしながら
亮の二の腕をつつく。

「気をつけないと権藤さんの方に
行っちゃうぞ、彼女。」

「ほざけ!ガキに負けるか!」

童貞にからかわれて
ムキになる自分をちょっと情けなく
思った亮であった。

「彼女さんにも、会いたいな。」

山崎がポツリと言った。

「なんで?!」

またムキになる亮。

「や。なんか。いい気分になる。」

「うん。彼女にコーチングされるなら
いいな。張り切るな。うんうん。」

亮は山崎と松木の頭をしたたか殴り倒した。




権藤は二人に会うのを断ってきた。

「権を悪く思わないで。」

またあのファミレスで、亮と美月
その向かいに松木と山崎が座る。
今日はドリンクバーだけを頼んだ四人。

「あたしは永峰先生には体育を教わって
いたから、その印象を話すね。」

亮は心配そうに美月を見る。

「女の先生の中には、可愛い子に
意地悪したり、明らかに当たりがキツイ
先生っているんだけど。そのタイプ。」

「キモッ。」

まず山崎が拒否反応。

「確かに運動能力は高いと思う。
でも、自分より出来る子にも
当たりはキツイ。」

「ワガママかっ!」

松木も放り出した。

「プライドを満足させる相性のいい
生徒とは普通にやってたかな。
でも体育の授業を見てるだけでも
教え方下手なのは分かる。」

「それ。最悪じゃないすか!」

山崎が突っ伏する。

「権が話すのを躊躇ったのは、その頃の
女子柔道部のことをよく知ってるから。
悪評を漏らしたりしたら女子の方に
類が及ぶかもしれないからね。」

「もう、卒業してるじゃないすか。」

「日体大行った子もいるからさ。」

松木と山崎は、話を聞くうち自分達が
どうしようもなく面倒なものに対峙せざる
を得ない状況にあることを認識していく。

「大人は子供に対して皆そうだけど
負けを認めない、非を認めない、マウント
取れないとキレる。実力以上のプライドを
持ってるから気を付けてね。」

松木と山崎はげんなりしている。

「誰か代表であいつをテゴメにでも
すればいいんじゃねえか?」

亮は面倒になってキツイ冗談をかます。

「いやだよ、そんな性格ブス。なあ。」

「俺たちにも、選ぶ権利あるよな。」

松木も山崎も、美月をチラチラ見ながら
頬を赤らめる。

「まあ、あたしが今言ったことは
だいぶ主観も入ってるから。
割り引いて考えてね。」

「彼女さんも、なんか嫌がらせ
されたんすか。」

山崎は探り探りと言った風に
やんわりと訊いてくる。

「や、まあ。でもちょっとしたこと。」

山崎も松木も、なんとも言えない顔で
頷いた。きっと色々飲み込めて
きたのだろう。

「何しろプライドを傷つけないように。
これ、将来会社の上司とかの扱いに
通じるかも。うまく流してね。」

美月は最後を軽口で締めたが
亮はそんな器用なやつらじゃないぞと
心配の種しか出てこなかった。

















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