隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

『橋を渡ったら泣け』

2007年03月25日 15時22分47秒 | ライブリポート(演劇など)
★『橋を渡ったら泣け』 in シアターコクーン(3月21日 19:00開演)
作・土田英生、演出・生瀬勝久
出演・大倉孝二・奥菜恵・八嶋智人・小松和重・鈴木浩介・岩佐真悠子・六角精児・戸田恵子


■極限状態で生きる集団
 ある日突然、世界規模の大災害が起こり、大地震もあって、日本列島は(たぶん)大半が海に沈む。ここはかろうじて海の上に顔をだす信州・乗鞍岳のピーク付近。
 『橋を渡ったら泣け』はそんな極限状態の中で始まる。
 だんだんに明らかになるのだが、そこで暮らす7人は実はもっとおおぜいの人々の中で生き残った人たち。舞台が始まる前に、すでに過酷なサバイバルがあって、偶然(と言ってもいい?)どうにか生き残った人たちなのだ。
 その中でリーダーとなった人物は(きっといわゆる「普通のオタク」なんだろうけど)いつのまにか独裁者のように振る舞い、それを受け入れがたく思っているメンバーも出てきている。
 そこに新たに現れたのが、諏訪湖の遊覧船「スワちゃん」を操縦してきた佐田山。彼の柔軟で穏やかな人柄はジワジワと影響力を及ぼすようになり、さまざまな事件ののちに新しいリーダーとなる。
 リーダーとなった佐田山は元リーダーとは違う経緯をたどりながらも、結局は独裁者の魅力に抗しがたかったのか、ひそかに他を圧するようになる。
 集団がスムーズに共同生活を続けるには、たしかにリーダーは必要だろう、規律も大事だろう。でもそれがどこまで力をもっていいのか、もつべきなのか、それをテーマに下、わかりやすい芝居だった(かも?)。

■怖さはあまり伝わってこなかったけど
 怖いのは、別にヒトラーがいるわけではないということ。「…だっち」と語尾につける元リーダーは、普通の世界ではただの「アニメオタク」。リーダー佐田山は周囲に気配りを忘れない常識人。それでも、統率していかなければ、という善意の使命感がいつしか形を変えて、仲間を牛耳ったり裁いたりするようになる。
 ただ、その怖さが伝わってきたかというと、正直、そうでもないかな。普通の人が狂気に走る怖さはあまり感じなかった。たぶん、そこが肝心なんだろうけど。
 でも、ちょっと理屈を言ったり、たとえ話をする人に向かって、「あれ、また、なんか難しいこと言って。ちっともわからないですよ」と話していた人物が、結局は最後までスタンスを崩さずに、疑問に感じたことには素直に「おかしくないですか? おかしいでしょ?」と問いかけられる人だったということ、それが印象的だった。
 人のほんとうの賢さは、誰がなんと言おうと自分の頭で考え感じたことで物事を判断することなんだろう。それをわかって生きていくことの難しさなんだろうね(あれ、これがこの舞台の感想でいいのか??)。
 コミカルな味も、人間のもつ怖さや愚かさも、私にはちょっと中途半端だったかな。
 これは原作の問題だけど、ラストがちょっと中途半端だったかな、私には。悲劇的な結末かな、と思いきや、ブラジルからの漂流者たちとも仲良く暮らしているという7人。これまでのテーマはどうしちゃったのかな、なんでそんなにうまくいってしまったの?という疑問。
 そこへ、遠くに船が見えてくる。「あれ、スワちゃんじゃない?」と。独裁者と化した自分を恥じ、恐れて去っていった佐田山が帰ってくる? みんな無邪気に船に向かって手を振る。
 それはうれしい再会を予感させるハッピーエンドなんだろうけど、ひょっとして「独裁者」の再登場なの?なんて深読みしちゃったり(でも、それほどの説得力もないし)。
 そこが最大の不満だったかな?

■それぞれに個性的な役者たち…です
 役者では、大好きな大倉孝二の飄々とした感じ、よかったです。でもナイロン100℃の『ナイス・エイジ』(よかったら、こちらをどうぞ)の壊れっぷりが記憶にありすぎて、ちょっと消化不良(笑)(あんまり印象に残りすぎると、役者としては不本意かも。すみません)。
 戸田恵子はさすが、舞台を締めてくれる。存在感というとあやふやな感想だけど。声がすばらしい。
 奥菜恵はかわいかったけど、でも舞台の発声としてはどうなんだろう。最近舞台もそこそここなしているみたいだけど、今回はちょっと鼻に抜ける、というか、抜けきらないというか(どっちなんだ!)、それが気になって、単語が伝わってこないところもあったので。
 テレビドラマ『相棒』で、で、杉下右京・亀山薫のひそかな協力者である鑑識官を演じる(なんか、印象的なんです)六角精児さんの元リーダーは、ちょっと不気味ではありました。


 『橋を渡ったら泣け』の「橋」は、ここにたどり着いたときに小さな橋を渡って、そこに仲良く暮らす7人を見て感激した、という佐田山のセリフに出てくるのですが。
 この「橋」は何かの象徴なのかなあ。
 舞台にはその「橋」があるんだけど(2階席だったのでよく見える)、あまりにも地味なちゃちな橋なので、これが~?なんて思ってしまいました(笑)。

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