隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

家族が飛ぶ?時空を越えて~ナイロン100℃『ナイス・エイジ」より

2006年12月17日 23時14分38秒 | ライブリポート(演劇など)
12月14日(木) 18:30~22:00 at 世田谷パブリックシアター
ナイロン100℃『ナイス・エイジ』

■恥ずかしいけど、告白
 最初に告白しなくちゃいけないことがある。
 学生の頃から芝居は好きだったし、それなりに選んで観てきたつもりだけど、実はケラリーノ・サンドロヴィッチなる劇作家・演出家をずっと「イタリア人?」とか単純に思っていました。あちこちで名前を見るし、結構人気もありそうだし、演劇人が「ケラさん」と呼んでいるのを耳にしたこともある。それでも、親日家のイタリア人(イタリアに決めたのには根拠はないんだけど。響き?)なんだなあとそれくらい。
 ナイロン100℃なる演劇集団は知っていたけどたまたま芝居を観る機会がなくて、今回は「アジアの女」(よかったらこちらをどうぞ)のときに配布されたパンフに「峯村リエ」の名前を見つけ、「アジアの女」での存在感が気にかかって、それでチケットを手に入れよう…と。そんな経緯。
 たまたま追加チケットで最前列のシートを手に入れ、プロローグのテレビのリハシーンでのめりはりの利いたセリフとテンポの心地よさを感じた瞬間、「あ、これは翻訳劇ではないじゃん。ケラさんはイタリア人ではないじゃん」とすべてがクリアになり、同時に、これは絶対におもしろい芝居!とわかってしまったのです(笑)。もうね、私にはいつもマジメな印象のある志賀廣太郎さんをいじくりまくるアナウンサーと、池谷のぶえ扮する、「普通の主婦になりきって」、時間移動者(要するに、ほかの時代に移動して歴史を改ざんする可能性のある人)を本来の時代に戻す使命を担っている組織員(ややこしいけど、こう説明するしかない)の掛け合いが見事で、意味のない単語を組み合わせたセリフのスピード感がおもしろくて、どんどん引き込まれました。
 …というわけで、長いことケラさんをイタリア人だと決めつけていた私の無知を最初に告白しておきます(恥)。

■キーワードは「8月12日」?
 2000年8月12日の今、そこを軸にして、1945年(昭和20)、1964年(昭和39)、1986年(昭和61)のそれぞれの8月12日、そして未来の2023年が舞台になる。
 廻家の構成は父親時雄、母親澄代、娘春江、息子時次の4人だが、実は1986年の日航機墜落事故で亡くなった姉娘がいる。廻家はもともとは裕福な家だったが、今は悲惨な暮らしを強いられ、家族はバラバラ、母親は娘を失ったショックでかアルコール依存症気味。そんな無味乾燥な一家の現在の姿でストーリーは始まっていく。ひょんなことから時代を行き来することになった4人。
 1945年8月12日といえば、広島・長崎にすでに原爆が投下され、敗戦も間近という状況、1964年夏といえば東京オリンピックが2カ月後、この国が勢いを保っていた時代かもしれない。そして1986年8月12日は日航機が御巣鷹山に墜落し多くの被害者が出た日。
 それぞれの時代の4通りの8月12日が私たちの前に行ったり来たりする。そして、そこにまさしく生きていた廻家の人々とその周囲の人々が、時代の空気や彩りを生き生きと見せてくれる、伝えてくれる。

■どれもが「ナイス・エイジ」?~生きている登場人物
 その人々がそれぞれにとにかく魅力的。敗戦間近の廻家では、時雄(まだ生まれていない)の母親(妖艶な立石涼子)が明るくて、でもどこか退廃ムードも漂わせつつ、魅力的に時代を泳いでいる。2000年からやってきた時雄が自分が生まれる前の母親に会い、名乗らないままで母親に対峙し、母とダンスをし、その肩に顔をうずめる。ジャズが流れるそのシーンは観ているものを感傷的にするかもしれない。
 1964年は時雄が高校生。彼が将来にわたっていろんな意味で関わりをもつことになる芸人と、そして友人たちとの「青春」が描かれる。今と変わらぬ若者たちの若さゆえの?かわいい暴走がやはり生き生きと繰り広げられる。
 嘘ばかりついてそのことを謝る機会も与えられないままで姉が逝ってしまったことをずっと悔いていたであろう春江にとって、また娘を飛行機に乗せてしまったことを後悔している母親にとって、1986年は特別の年だ。だから二人はこの時代に来たことで、姉を、娘を飛行機に乗せまいと必死に駆け回る。ギャグが派手に交わされようと、その二人の思いはせつない。もちろん飛行機は飛び立ってしまうのだが。
 「ナイス・エイジ」はいつのこと? どの時代を言うの? という疑問。最初はやっぱり現在がいちばんということなのかな、と思ったけれど、きっとそうではないのだろう。それぞれの時代の登場人物をちゃんと血の通った人間として描いていることから、それぞれの時代がそれぞれの意味で、きっと「ナイス・エイジ」だったということなんだろう。
 たとえその時代を知らなくてもちゃんと息吹を感じたし、知っている時代は胸の奥にストンと落ちてきたし。それが笑いだけではない深さを教えてくれました。

■シワ、増えたぞっ!
 笑いのツボがはまりまくったのです。困るくらい、最前列で笑い転げました。
 セリフもアクションも気持ちいいくらいにはじけて、でもセンスがよくて、これがナイロン100℃の売りなんでしょうか。ケラさんの本の真骨頂なんでしょうか。
 初体験なので比較はできないけれど、疾走感と、それぞれの時代を映し出すセリフの妙味に惹かれた。舞台装置の展開もリズムがあって、3時間半があっという間だったような。
 今でも思い出し笑いをしてしまう場面やセリフがいろいろあるけど、あえて物語の進行に関係ない笑いを1つだけ。
 カーナビギャクはさまぁ~ずのコントでも大好きなんだけど、見事なやつをここで見ました(笑)。
 「80センチ(笑)先を右折してください」
 「100メートル先を右往左往してください」
 「左折をすると…、ガソリンスタンドが…見える?」
 加えて、カーナビの画面は子どもの絵、そのうえ蜷川幸雄の似顔絵入りでした。うーん、これではおもしろさは伝わらないだろう(私の力不足)。

■大倉孝二に再会です
 役者の口跡がすべてOKでした。これって私には珍しい(生意気を覚悟で)。
 池谷のぶえさん、舞台の女優さんでプロフィールに体重、スリーサイズが紹介されているのって珍しいと思うのですが。ってことは、体重85キロはおいしいってこと? 声よし、オーラあり、次またどこで出会えるか、ほんとうに楽しみです!
 峯村リエさん。ぶっきらぼうに投げるようなセリフの言い回しが気持ちいい。
 そして最後に大倉孝二さん。彼に最初に注目したのは実は一昨年のNHK大河ドラマ「新撰組!」(これ、大好きでした)。勘定方・河合耆三郎。武士の対面やら都合に弄ばれたかのような最期の切腹は哀れで情けなくて、それが強烈な印象で心に焼きついている。
 今回の大倉さんの圧倒的な個性、枠にはまらない動き、普通じゃない(笑)反応…、そのすべてが輝いていました。来年の舞台が今から待たれます。

 飛び交うギャグ、走る役者、いつのまにか見えてきそうなメッセージ。そういうものがすべて観客のところに異なる形で投げられて、私たちはそれを、きっと勝手に咀嚼していいのだろう。なんとなく、そういう自由をもらえる舞台でした。
 手を加えられた過去を抹殺するために、記憶を消されていく2000年の人間たち、地球人たち。記憶を消されて新たな人生を新たな家族を生き直すしかないのか。それって、ひょっとすると、今の社会に対する警鐘? それは考えすぎかな?

 廻家の「廻る」、そして「時雄」「時次」という名前。
 「時は廻る」-私たちは結局、時代は変わっても廻る時の中で、グルグル同じように生かされているのかも。同じようなステキなことも、同じような恐ろしいことも、繰り返す可能性のある、賢くて愚かな生き物ってことなんだな。

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