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JMのバレーボール観戦記

テレビのバレーボール解説では触れられない戦術面や選手個人の特徴について、「全員応援」の立場から語ります。

男子の世界標準バレーの先にあるもの 東レ

2013-03-25 02:17:13 | 用語解説
東レも、世界の強豪チームとは言えませんが、参考になるオリジナリティを持っています。

・ブロックスイッチ
それは、自チームサーブ時に長身スーパーエースのボヨビッチ選手を、相手スーパーエースの目の前に貼り付けるブロックスイッチです。相手スーパーエースはほとんどのローテで相手ライト側つまり自チームレフト側にいますから、スーパーエースながらボヨビッチ選手が前衛レフトでブロックに跳ぶシーンがかなり多くなり、トランジション時にはレフトから打つことになります。これだけなら、特段取り立てるほどの戦略ではないです。

・ブロックスイッチするフリをしてしない
これにはびっくりです。自チームサーブ時に、上記のブロックスイッチをするフリをし、サーブが打たれた瞬間にはブロックスイッチするように一歩歩きます。その動きを相手セッターに見せつけておいて、実際にはスーパーエースがライト側ブロックにまわります。このため、相手セッターはボヨビッチ選手が東レライト側にいるとは思わずに、自チームレフト側に上げてしまい、ブロックの餌食になるわけです。

・何が東レのオリジナルを可能にしたか?
これが可能なのは、ボヨビッチ選手がイタリアリーグやセルビア代表でレフト経験をしていたからです。そのため、ブロックスイッチをしても、ボヨビッチ選手が普通にレフトから打ってくれるのです。さらに、レフト対角が前衛ライトからきっちり打てるのも嬉しいところ。裏レフトは基本的には絶対にライトからは打たないポジションですから、裏レフトがライトからも打てるというのは大きいです。さらに、セッターの近藤茂選手も、こういったブロックスイッチ後の攻撃については、きちんと考えてトスを上げている印象。ボヨビッチ選手のダブルBなどのコンビも使っています。あとはトス自体がもう少し打ちやすい球質になれば完璧だと思います。

ブロックスイッチするのかどうか最後まで分からない、というのでは、相手セッターも困ります。この作戦はファイナルラウンドで絶対に命運を握りますし、サントリーと堺に対しては、場合によっては意表をつくフロントオーダーを使ってくる可能性も考えられます。ファイナルラウンドでも、前衛でのブロックスイッチ、するのかしないのか、相手セッターの気持ちになって是非ご注目ください。

男子の世界標準バレーの先にあるもの パナソニック

2013-03-24 10:18:53 | 用語解説
パナソニックは強豪チームでしょうか。世界的に見れば弱小チームでしょう。しかし、とんでもないシフトで、さらに若手も試しつつ、先日東レに勝ちました。

・スーパーエースが後衛でレフト役をし、レフトがバックライトに入る
自業自得負傷により、スーパーエースの清水邦広選手を欠いたパナソニックは、本職スーパーエースの山本隆弘選手ではなく、本職レフトの川村慎二選手をライト起用。前衛では守備免除にしつつ、後衛では川村慎二選手にサーブレシーブさせてバックセンターを打たせる、実質的レフト扱い。そして、レフトの福澤達哉選手とジョンパウロ選手が後衛でサーブレシーブ免除になり、サーブが打たれた瞬間にバックライトに走り、バックライトを打ちます。

これは、川村慎二選手のバックライトへの信頼がないから、という消極的解釈も可能ですが、積極的側面もあるのではないでしょうか。攻撃力がある福澤達哉選手とジョンパウロ選手のうち、前衛の選手はサーブレシーブしてレフトから打つ。後衛の選手は、レフトから一番離れたバックライトを守備免除で打つ。守備が安定している川村慎二選手が守備でも貢献する。さらに、福澤達哉選手とジョンパウロ選手と川村慎二選手が交代でサーブレシーブから抜けるため、誰か一人がサーブで集中放火されることがなくなります。その上、福澤達哉選手は他人のAパスをハイジャンプで高速で打つのが持ち味ですから、そういった局面で福澤達哉選手が調子を上げてくれます。

もちろん、川村慎二選手は本職レフトですから、S1も大丈夫です。

このシフトで若手も使いながら東レに勝ったわけですから、ライトしか打てずサーブレシーブもできないスーパーエースという存在意義に疑問符が投げかけたのではないでしょうか。ファイナルラウンドでのパナソニックの繰り出すバレーに要注目です。いわゆるトリプルレフトといった形は、以前全日本でも見られ、それがあまり上手く行かなかったので、なかなか評価されないのが残念です。

・何がパナソニックのオリジナルを可能にしたか?
これは、川村慎二選手の前衛のライト攻撃と、福澤達哉選手とジョンパウロ選手のバックライトの攻撃力によって成り立っています。やはり特筆すべきは、福澤達哉選手とジョンパウロ選手のバックライトでしょう。ジョンパウロ選手は高いのでなんとでもなりますが、福澤達哉選手のバックライトがこんなに上手とは驚きです。

男子の世界標準バレーの先にあるもの マチェラータ

2013-03-22 19:33:01 | 用語解説
マチェラータは、イタリアの強豪チームです。JTのイゴール選手は、移籍前にはマチェラータでスーパーエースをしていました。イゴール選手の穴を埋めたのは、本来レフトのザイツェフ選手。逆立った髪型が目立つ彼です。このザイツェフ選手の転向によって、マチェラータは世界標準バレーからさらに発展させた後衛システムを作りました。

・スーパーエースのサーブレシーブ参加
前記事でも、ロシア男子のミハイロフ選手が、代表でもクラブチームでもライト側の2ローテでサーブレシーブに参加することをご紹介しました。これを、ザイツェフ選手は後衛の全ローテで行い、4枚レシーブをします。もちろん、S4でザイツェフ選手が後衛ライトの時には、そのままザイツェフ選手はバックライトに入ります。S3からは、ザイツェフ選手は中央付近でサーブレシーブし、そのままレフトの選手のようにバックセンターに入ります。その時、ザイツェフ選手の一人右にいる裏レフトの選手が、サーブレシーブに参加したまま、バックライトに入ります。つまり、後衛でレフトとライトが両方サーブレシーブし、その役割が逆転するのです。

よく考えてみれば、バックオーダーは、前衛の左右が入れ替わるピンチローテが少ない代わりに、後衛では2ローテも左右が逆転するのです。そのため、スーパーエースをサーブレシーブ免除にしてサーブが打たれた瞬間にバックライトにダッシュさせるのが一般的です。それに対し、マチェラータではザイツェフ選手のレフト経験を活かして、後衛での左右が入れ替わった状態をデフォルト化しているわけで、これによって前衛2枚のピンチローテを4枚レシーブでしのげます。

バックアタックを常用するバレーを現代バレーとするなら、後衛では左右が入れ替わった状態を放置するバレーは時代遅れです。マチェラータがこの課題に取り組んでいることが、これからの男子バレーの発展に寄与するのではないかと思っています。来シーズンのマチェラータがどういったシフトを組んでくるのか、わくわくしますね。

・何がマチェラータのオリジナルを可能にしたか?
これは、本来レフトのザイツェフ選手がスーパーエースをこなせたことに尽きるのではないでしょうか。セッターのトス配分を見ても、ザイツェフ選手はスーパーエースとしてかなりの信頼を得ているようです。前記事のロシア男子と同じく、男子の世界標準バレーの先には、脱分業化があるのかも知れません。

男子の世界標準バレーの先にあるもの ロシア男子

2013-03-21 13:21:13 | 用語解説
まずは、ロンドンの金メダルチームのロシア男子を取り上げます。

・スーパーエースがサーブレシーブ
ロシア男子不動(ではなかったが)のスーパーエース、ミハイロフ選手は、なんとサーブレシーブに参加します。参加するのは、ミハイロフ選手が前衛ライトと後衛ライトとなるS5とS4ローテが主です。レシーブフォーメーションは、以下のようになります。

S5
C ①l ④R
S ②L ③c

S4
S C ①l
②L ③c ④R

この2ローテでは、ミハイロフ選手が他の選手と入れ替わる必要がありません。入れ替わらないなら、スーパーエースも、ずしりと構えてサーブレシーブに参加すればいい、という考え方です。やろうと思えば、S1でも可能ではないかと思います。

この形は、ロシア男子の代表チームだけではなく、ミハイロフ選手所属のゼニト・カザンでも取り入れられています。

・土壇場でポジションチェンジ
これには驚き、岡山シーガルズか!と思ってしまいました。なんと、ロンドンの金メダルマッチで2セットを失ったロシア男子は、こんなポジションチェンジをしたのです。

ムセルスキー選手:センター→スーパーエース
ミハイロフ選手:スーパーエース→表レフト

そして、ムセルスキー選手が好き放題に右から打ち込み、ミハイロフ選手は全ローテでサーブレシーブに参加。S1では、表レフトに入っているミハイロフ選手が本来のライトから打ち込む形になるので、問題なし。ほとんどバックセンターは使わず、ブラジルに勝って金メダルです。よく、センターやレフトの表裏をセット間に変えることはありますが、これほど大胆なポジションチェンジで世界最高峰の試合を征したのには驚きです。

・何がロシア男子のオリジナルを可能にしたか?
それは、ズバリ言って、選手が複数ポジションを経験していることです。サーブレシーブに参加したり表レフトもこなしてしまうスーパーエースのミハイロフ選手、実は1年間レフトを経験していました。スーパーエースとしてもライトから打てるムセルスキー選手、彼にもスーパーエースの経験があります。このように、選手が複数ポジションをこなして、枠にとらわれない起用が可能だったことが、ロシア男子の金メダルの原動力となりました。

男子の世界標準バレーは時代遅れ!

2013-03-21 00:18:27 | 用語解説
挑戦的な記事タイトルですが、是非最後までお読みください。

男子の世界標準バレーは、日本から見れば最先端のバレーに見えます。全日本男子は、特に山本隆弘選手の全日本復帰後からは、世界標準バレーを目指したチーム作りが行われています。左利きにこだわったスーパーエース山本隆弘選手や清水邦広選手の選出、サイドへのトスが速い宇佐美大輔選手の選出、身長は無くても速いトスが打てる越川優選手や福澤達哉選手の選出など、メンバーも世界標準バレーを意識した登録になっています。そんな中、北京では、旧世代バレーにフラッと回帰したりしましたが、北京後はまた世界標準バレーにシフト。しかし、追いかけても追いかけても追い付かず、強豪との差が広がるばかりで、ロンドンの出場権を逃しました。

では、その強豪は一体どんなバレーをしているのでしょうか?実は、強豪チームにとっては、既に世界標準バレーは目標ではなく出発点。いかに世界標準バレーを土台として、各チームのオリジナリティを出すかが勝負の分かれ目になっています。例えばスーパーエースのサーブレシーブ参加。例えばスーパーエースとレフトの後衛でのポジションチェンジ。例えば遅いクイック。例えばセンターからのバッククイックとライトからのパイプ。それにCクイックやDクイック。さらにブロードもどきまで。これは、全て世界の強豪チームが取り入れ、得点源にしているプレーです。

世界標準バレーとは相容れない単語が並びましたね。ブロードなんて、女子とタイ男子だけと思っていたら大間違い。強豪が似たことをやっているのです。では、次回記事からは強豪チームを1つずつ取り上げ、それぞれのチームがどんな驚きのバレーを展開しているかを明らかにしていきます。強豪と言えるかは別として、日本のトップチームについても取り上げますので、お楽しみに。

この連載の中に、全日本男子復活のヒントが隠されているはずです。