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自燈明・法燈明の考察

法華経の示す事の考察④

 悟りについて考えを進めてきたが、ここで一旦法華経から離れてこの事について考えてみたい。

 久遠実成で示された悟りとは何か。私達が心の本質で悟りを既に得ているのであれば、私はそれは当然、心の内面にある事だと考えている。そうであれば「一つの宗教」の枠の中にだけ、それはあるのではなく、私達の日常生活の中にも見て取れる事ではないだろうか。そしてこの心の本質とは、やはり「死」という現象の周辺に見えるように思うのである。

 一つは精神医療の中の催眠療法と言われる中に興味深い話があったので、ここで紹介したい。

 それはアメリカのJ.L.ホイットン博士の著書「輪廻転生 驚くべき現代の神話」という本で紹介されている話であるが、この話を紹介する前に、J.L.ホイットンという人物について紹介したい。彼はカナダのトロント大学医学部の精神科主任教授を務める気鋭の神経生理学者で、精神分析が盛んなアメリカとその周辺にあって、「前世療法」という催眠を応用した心理療法を使い治療にあたっている。
 ホイットン博士は十四歳頃から催眠家の腕を発揮してきた。希望者を相手にパーティーの席などでこの技を使うことがあったが、その当時、相手を前世へ誘導しようと試みたことはまだなかった。だが二十代はじめのころ、博士は輪廻転生思想に次第に惹かれていき、催眠技法にさらに磨きをかけていき、トロント大学で医師の諸免許をかさねて取得した博士は、同大学の主任精神科医になったのである。
 無意識下の人間の心についてさらに理解を深めたホイットン博士は、トランス状態の被験者たちに精神的外傷の原因となった過去世の記憶を意識にのぼらせるよう指示した。その結果被験者たちは、めきめきと劇的な回復をとげたが、なぜそうなるのか、博士自身にも満足のいく説明は出来なかった。
 ホイッットン博士はこの前世療法を進めていく中で、一人ひとりの人生が次の人生にどの様につながっていくのか、追跡調査をするようになった。この頃の博士の興味は催眠の被験者を一連の過去世へと退行させることで、それにより輪廻転生を証明する事よりも、系統だった原則に基づくしっかりとした仮説を探っていたのである。
 この追跡調査を長時間にかけて辛抱強く続けていくうちに、ホイットン博士は何千年にも渡る前世の個人記録をどうまとめたら良いかわかってきた。博士が発見したのはカルマの必要性に応じて被験者は肉体に出たり入ったりし、たえずその関係は変化するものの、いつも同じ魂と関わり合っているという事だった。それぞれの人生がまったく脈絡の無い様に見えても、それはちゃんとした理由や意味があっての事だというのが明らかになってきた。つまり、ある人生での行動や態度が現在あるいは将来の人生に於ける環境や挑戦目標を決定するというのである。

 ある時、何時もの催眠による実験の際に被験者を誘導する言葉として「あなたが◯◯(過去の人格と思われる名前)になる前に戻って下さい」と言うと、被験者は何時もであれば前の人格の発音で始まる処、そうではなく表情をたえず変えながらも発音を中々せずにいた。そしてそこで語られたのは中間世、仏教で言えば中有と呼ぶが前の人生から次の人生の間、つまり「死後の世界」について語り始めたのである。本来なら「あなたが◯◯になる前の人格に戻って下さい」と指示すべき処を、誘導の言葉を間違えたことか、偶然にもこの状態に出会ったのであった。ホイットン博士はこの肉体から離れた意識がどうなるのかを研究するために、急遽あらたな実験をする事はせず、古代にも彷徨う魂に対応する手がかりがあるのではないかと探しに掛かり、そこで「チベットの死者の書」に行き着き、そこでそれがバルド(チベットで言う中州という意味)と呼ばれている状態であることを知った。また博士はそれ以外にも、紀元前六世紀頃に書かれたインドのウパニシャッドやギリシア哲学等の文献、また近年になり話題となった臨死体験学のレイモンド・ムーディ氏の研究論文などを調べて行くうちに、この死後から次の生までの事柄に深い関心が生じて来たため、改めて自分の研究を見直し検討する必要があると感じたのである。

 ここから先、ホイットン博士はこの中間世(バルト)」に関する調査を進め、その症例は数多く上る事になるが、そこで確認された症例をすべてここで紹介するには紙面が足りず難しい。これらの詳細は書籍を手に入れて見ていただきたいが、博士が被験者を通じて見てきた世界とは概ね次の様な世界であった。

 被験者は中間世に誘導されていくと、それは強烈な体験であるようで、皆が恐れ慄き顔をひきつらせ、その素晴らしさを表現しようとしてもただ唇を震わすばかりである。彼らは後に、その時の溢れんばかりの豊富なイメージや印象の解説を懸命に努力するが、ある被験者はこの様に語ったという。

「あんなに良い気分になったのは初めてです。この世のものとは思えない恍惚感。物凄く眩しい光。私はこの世界で持っているような身体ではなく、かわりに影のからだ、アストラル体があって、宙に浮いていました。地面も空もなく、境界の類はありません。何もかも見通せます。他にも人がいて、話をしなくても意思を通じ合うことができました。」

 ホイットン博士はこの様な状態を「超意識(メタコンシャスト)」と名付けたが、博士によればこの状態では存在の本質と同化し、自分のアイデンティティー感を放棄、その結果、一見すると矛盾するような事だが、実はこれまでになく自己というものをはっきり知るような状態だというのだ。そして被験者は間もなく「裁判官たち」に出会い、来世(次の生)の為の「カルマの台本」を書き始めると言う。カルマとは「業」の事を指すが、博士によれば多くの被験者の語る業とは、例えば業因業果論の様に過去世が泥棒であれば、次の生は貧乏人になるとか、また過去世に殺人を起こせば次の生で殺害されるという類のものでは無く、あくまでも自己の人格的なものを円満に向け成長させるための課題として、この中間世において自らが設計してこの世界に持ち生まれた事だと言うのである。つまり貧乏だろうが病気であろうが、例えそれが先天的な障害や家庭環境の問題であっても、自分自身が課題克服の為に設計して持ち生まれた事だというのである。
 そして次の生に生れ出る際、このカルマを設計した事や、それ以前の過去世の記憶は封印されてしまうと言うが、それも博士によれば過去世の記憶が次の生で大きなトラウマになったりする事もあるので、それを防ぐ意味があるのではないかと推測している。現に博士はこの過去世や中間世の調査で催眠により誘導する際、催眠から覚醒させる前に、この被験者が催眠状態で思い出した記憶を忘れさせる事をしているという。何故なら具体的に、例えば過去世で残虐な最期を遂げてしまった場合、その記憶を残してしまう事により、被験者が精神的に大きなダメージを受けてしまうケースがあったそうだ。

 以上、要約してJ.L.ホイットン博士の研究内容について「輪廻転生 驚くべき現代の神話」より抜粋しながら紹介をしてみたが、いかがだっただろうか。

 博士はこの中で死後に「超意識」という状態がある事を述べていたが、これについてはソギャル・リンポチェ氏の「チベットの生と死の書」の中にも、死にゆく人たちがその過程で「心の本質と出会う」という事で似たような書かれている。この心の本質ではおそらく自己の成り立ちや、生きてきた人生の意味、またこれから次の生へと移行する際の意味も熟知した智慧があると言う事だろう。チベット仏教では死に際してこの心の本質と出会うと言い、そこでそれと同化する事を解脱と捉えられている。
 この超意識や心の本質とは先の記事で天台大師智顗の語る「九識心王真如の都」に類似していると私は思えてならない。ここで見える事は、私達の心の奥底には、この様な本質が存在し、そこでは既に自分自身のこの世界での存在意義について理解をしていて、それは自身の枠にとらわれるものではないというのである。これは法華経如来寿量品にある「久遠実成の釈尊」にも通じるものではないだろうか。


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