新古今和歌集の部屋

源氏物語 湖月抄 手習 浮舟の看病続く

    目を見上也。又見開也
時々゙めみあげなどしつゝ、涙のつきせず
ながるゝを、あな心うや。いみじうかなしと思
ふ人のかはりに、仏のみちびき給へなど
思聞ゆるを、かひなくなり給はゞ中/\な
                前世の縁ありてこそかやうに見付
ることをやおもはん。さるべき契にてこそか
らめとなり
くみ奉らめ。なをいさゝか物の給へといひ
                  手習いの君の詞也
つゞくれど、からうじていき出でたりともあ
     不用いきてもようなしと也
やしきふようの人なり。人にみせで、よる
この河におとしいれ給てよと、いきのした
       尼君詞也
にいふ。まれ/\ものゝ給をうれしと思ふに、
あるいみじや。いかなればかくの給ぞ。いかにし
                               浮舟の也
てさる所にはおはしつるぞとゝへども、物も
 
頭注
あな心うやいみじうかな
しと思ふ人の
妹の尼のありしむす
めのかはりに見んと思へ
るなり。
中/\なる事をや思はん
浮舟のなくなりたら
ば弥思ひのまさらんと也
 
 
 
いはず成ぬ。身にもしきずなどやらん
とてみれど、こゝはとみゆる所なく、うつ
くしければ、あさましくかなしく、まことに人
の心まどはさんとて、出きたるかりの物にや
                          母の尼君
とうたがふ。二日ばかりこもりゐて、ふたり
と此女とを也
の人を祈りかぢするこゑたえず、あやし
               宇治也
きことを思さはぐ。其わたりの下゙すなど
の僧都につかうまつりける。かくておはしま
すなりとてとぶらひいでくるも、ものがた
                    下゙すの詞    むすめ
りなどしていふをきけば、故八宮の御女
 薫也
右大将殿゙のかよひ給しが、ことになやみ
給こともなくて、にはかにかくれ給へりと
 
 
頭注
人の心まどはさんとていで
きたるかりの物や
假色迷人猶若是
真色迷人應過此樂府
古塚
狐   細かりのものとは變化
の物かと也。
一日ばかりこもりゐて
宇治院にわたして
より二日ばかりにや。
 
 
 
故八宮の御むすめ
 浮舟の事をかたる
なり。
 


                          ざうじ
てさはぎ侍る。その御さうそうの雑事共゙
                  きのふ
つかうまつり侍るとて、昨日はえ參り侍
            僧都心
らざりしといふ。さやうの人のたましゐと
をに                          かく
鬼のとりもてきたるにやと思ふにも、かつ
みる/\也
みる/\あるものともおぼえず。あやうく
                内の人の詞也
おそろしとおぼす。人々゙よべみやられし火
は、しかこと/"\しきけしきもみえざりし
をといふ。ことさらことそぎて、いかめしう
も侍らざりしといふ。けがらひたる人とて、
立ながらをひ返しつ。大将゙殿は宮の御む
すめもち給へりしはうせ給て、年比゙になり
ぬる物を、たれをいふにかあらん。姫宮をを
頭注
御さうそう 浮舟の
葬送也。浮舟を送
し夜のこと也。うせ給ふ
てあくる日の夜さうそう
をしその明る日の詞也。
さやうの人のたましゐを
 此人を八宮の御むす
め浮舟のたましゐにや
と思ひよると也。
よべみやられし 車を
やりてけしきばかりせし
ことなればこと/"\し
くも見えざるべし。
葬送の日の事也云々。
きぬなど斗を燒け
ればにや。
 

時々、目見上げなどしつつ、涙の尽きせず流るるを、
「あな心憂や。いみじう悲しと思ふ人のかはりに、仏の導き給へな
ど思ひ聞こゆるを、甲斐無くなり給はば、中々なる事をや思はん。
さるべき契にてこそかく見奉らめ。猶、聊物宣へ」と言ひ続くれど、
辛うじて、
「生き出でたりとも、あやしき不用の人なり。人に見せで、夜この
河に落とし入れ給ひてよ」と、息の下に言ふ。
「稀々物宣ふを嬉しと思ふに、あるいみじや。如何なればかく宣ふ
ぞ。如何にして、さる所には御座しつるぞ」と問へども、物も言は
ずなりぬ。
「身にもし傷などやらん」とて見れど、ここはと見ゆる所なく、美
しければ、あさましく悲しく、真に人の心惑さんとて、出で来たる
仮の物にやと疑ふ。
二日ばかり籠り居て、二人の人を祈り加持する声絶えず、あやしき
事を思ひ騒ぐ。その辺りの下衆などの僧都に仕うまつりける。かく
て御座しますなりとて、訪(とぶ)らひ出で来るも、物語などして
言ふを聞けば、
「故八宮の御娘、右大将殿の通ひ給ひしが、殊に悩み給ふ事も無く
て、俄に隠れ給へりとて騒ぎ侍る。その御葬送の雑事ども仕うまつ
り侍るとて、昨日はえ參り侍らざりし」と言ふ。さやうの人の魂と
鬼の取りもて来たるにやと思ふにも、かつ見る見るある物とも覚え
ず。危うく恐ろしとおぼす。人々、
「夜べ見やられし火は、しかことごとしき景色けも見ざりしを」と
言ふ。
「殊更事そぎて、いかめしうも侍らざりし」と言ふ。穢らひたる人
とて、立ちながら追ひ返しつ。
「大将殿は、宮の御娘持ち給へりしは、失せ給ひて、年比になりぬ
る物を、誰を云ふにかあらん。姫宮を置
 
 
 
※假色迷人猶若是真色迷人應過此 樂府古塚狐
 白氏文集 古冢狐
古冢狐、妖且老 古き塚の狐、妖にして且つ老たり。
化爲婦人顏色好 化して婦人と為りて顏色好し。
頭變雲鬟面變妝 頭は雲鬟に変じ面は粧に変ず。
大尾曳作長紅裳 大なる尾は曳いて長き紅裳と作り、
徐徐行傍荒村路 徐徐に行きて荒村の路に傍ふ
日欲暮時人靜處 日の暮れんと欲するの時、人の静かなる処に
或歌或舞或悲啼 或は歌ひ或は舞ひ或は悲び啼く。
翠眉不擧花顏低 翠眉挙げずして花顏低れたり。
忽然一笑千萬態 忽然として一たび笑めば千万の態あり。
見者十人八九迷 見る者の十人に八九は迷ひぬ。
假色迷人猶若是 仮色人を迷はすこと猶是。
真色迷人應過此 真色人を迷はすこと応に此を過ぐ。
彼真此假俱迷人
人心惡假貴重真
狐假女妖害猶淺
一朝一夕迷人眼
女爲狐媚害即深
日長月增溺人心
何況
褒妲之色善蠱惑
能喪人家覆人國
君看爲害淺深間
豈將假色同真色
 
略語
※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄  九条禅閣植通
※河 河海抄  四辻左大臣善成
※細 細流抄  西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄  牡丹花肖柏
※和 和秘抄  一条禅閣兼良
※明 明星抄  西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺
 
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