新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 賢木 野宮 蔵書

十よ人ばかり、みずいじんこと/\しき

すがたならで、いたう忍び給へれど、

ことにひきつくろひ給へる御ようい、

いとめでたく見え給へば、御ともなる

すきものども、所からさへ身にしみ
        源
て思へり。御心にもなどていまゝで、

たちならさゞりつらんと、すぎぬる

かたくやしうおぼさる。物はかなげ

なるこしばを、おほがきにて、いたやど

もあたり/\いとかりそめなめり。く

ろ木"のとりゐどもは、さすがにかう/\

しく、見えわたされて、わづらはしき

気色なるに、かんづかさのものども

こゝかしこにうちしはぶきて、をの

がどちものいひたるけはひなども、

ほかにはさまがはりてみゆ。ひたきや

かすかにひかりて、ひとげすくなく

しめ/"\として、こゝにものおもはし

き人の、月日をへだて給へらんほどを

おぼしやるに、いといみじう哀に心

ぐるし。北のたいのさるべき所にたちか

くれ給ひて、御せうそこ聞え給に、あそ

びはみなやめて、心にくきけはひあま

た聞ゆ。なにくれの人つての御せう
           御息所
そこばかりにて、みづからはたいめん

し給べきさまにもあらねば、いと物
         源氏
しとおぼして、かやうのありきも、

いまはつきなき程になりにて侍を、

おぼししらば、かうしめのほかには

もてなし給はで、いぶせう侍事をも

あきらめ侍よしがなと、まめやかに聞

え給へば、人々"げにいとかたはらいたう、

たちわづらはせ給に、いとおしなどあつ
          御息所心
かひ聞ゆれば、いさやこゝの人めもみぐ

るしう。かのおぼさんこともわか/\

しう。いでゐんが今さらにつゝましき

ことおぼすに、いとものうけれど、

なさけなうもてなさんにも、たけ

からねば、とかう打なげきやすらひ

て、ゐさりいで給へる御けはひいと心
     源
にくし。こなたはすのこばかりのゆる
                      地
されは侍やとて、のぼりゐ給へり。はな

やかにさし出たるゆふつく夜に、うち

うるまひ給へるさまにほひ、にるもの
         源
なくめでたし。月ごろのつもりを

つき/"\しう聞え給はんも、まばゆ

きほどに成にければ、さか木をいさゝ

かおりてもたまへりけるを、さし入て

 


十余人ばかり、御随身、ことことしき姿ならで、いたう忍び給へ

れど、ことにひきつくろひ給へる御用意、いとめでたく見え給へ

ば、御供なる好き者ども、所からさへ、身にしみて思へり。御心

にも、などて今まで、たちならさざりつらんと、過ぎぬる方、悔

しうおぼさる。物はかなげなる小柴を、大垣にて、板屋どもあた

りあたり、いと仮初めなめり。黒木の鳥居どもは、さすがに神々

しく見えわたされて、煩はしき気色なるに、神司の者ども、こ

こかしこにうちしはぶきて、己がどち、ものいひたる気配なども、

他には様変はりて見ゆ。火焼(ひたき)屋、微かに光りて、人気

少なく、しめじめとして、ここに物思はしき人の、月日を隔て給

へらんほどをおぼしやるに、いといみじう哀に心。

北の対のさるべき所に立ち隠れ給ひて、御消息聞え給ふに、遊び

は皆止めて、心にくき気配あまた聞こゆ。何くれの人づての御消

息ばかりにて、自らは対面し給ふべき樣にもあらねば、いと物し

とおぼして、「か樣のありきも、今はつきなき程になりにて侍る

を、おぼし知らば、かう注連の他には、もてなし給らはで、いぶ

せう侍る事をも、あきらめ侍よしがな」と、まめやかに聞こえ給

へば、人々、「げにいと片腹いたう、立ち患らはせ給ふに、いと

おし」など、あつかひ聞こゆれば、いさや、ここの人目も見苦し

う。かのおぼさんことも若々しう。出でゐんが今更に、慎ましき

事おぼすに、いと物憂けれど、情けなうもてなさんにも、たけか

らねば、とかう打歎き、やすらひて、ゐざり出で給へる御気配、

いと心にくし。「こなたは、簀子ばかりの許されは侍りや」とて、

上りゐ給へり。はなやかに差し出たる夕月夜に、うちうるまひ

へる樣、匂ひ、似る物なくめでたし。月ごろのつもりをつきづき

しう聞こえ給はんも、眩きほどに成りにければ、さか木を、いさ

さか折りて、持給へりけるを、差し入れて

 

宇治市源氏物語ミュージアム

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