新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 二の巻 冬歌5

 

 

 

 

 

題しらず        西行

津の国のなにはの春は夢なれやあしの枯葉に風わたるなり

下句めでたし。 √心あらん人にみせばや云々、とよめる春は、

夢なれやとなり。 ふるき抄に、二の句を、よの中の

事は、何のうへも、夢ぞとなりといへるは、かなはず。もし其

意ならば、春もといふべきをや。

さびしさにたへたる人の又もあれな廬をならべん冬の山里

或抄に、一ニの句を、富貴栄花に心をうごかさぬ人あれ

かしといへるなりといへるは、からごゝろなり。

            俊成卿

かつこほりかつはくだくる山川の岩間にむすぶあかつきのこゑ

山川の暁の聲とつゞく意也。山川の岩間とつゞくにはあらず。

            摂政

消かへり岩間にまよふ水のあわのしばし宿かる薄ごほり哉

すべて消かへりわきかへりしにかへりなどいふかへりは、其事

をつよくいへる詞なるを、此哥にては、消て又結ぶことによみ

玉へるいかゞ。 又やどかるといふ詞も、何のよせもなきこと也。

又水のこほりたらんに、沫のこほらざることいかゞ。但し薄

氷とあれば、こほらぬ所もある故に、沫もたつにや。 又山

川とも何ともなくて、たゞ岩間とのみいへるも、ことたらはぬ

こゝちす。

枕にも袖にもなみだつらゝゐてむすばぬ夢をとふ嵐かな

下句めでたし。詞もめでたし。 霞塵氷水草みさ

びなどは、平らかにおほふ物なればこそ、ゐるとはいへ、つらゝ

にゐてはいかゞ。 池の氷などを、つらゝとよめるも、皆わろし。

五十首歌奉りし時

水上やたえ/"\こほる岩間よりきよ瀧川にのこるしら波

初句や°もじわろし。此や°はの°といふ意と聞えたり。もし疑

ひのや°ならば、二の句にて切るゝ也。 岩間より残るといへる、

詞とゝのはず。よりの下に、流れきてなどいふことなくては、

たらざる也。又のこるといへることも、心得ず。其故は、水上とあ

れば、たえ/"\こほれるは、水上のことにこそあれ。川下は、

すべて氷ることなきなれば、白波はつねのごとく、なべて立

べければ、岩間よりのこるなどはいふべきにあらざれば也。もし

又結句までを、すべて水上のことゝして見れば、清瀧川にと

ある。に°もじおだやかならざるをや。

百首哥奉りし時

かたしきの袖のこほりもむすぼゝれとけてゐぬよの夢ぞみじかき

二の句、も°ゝじは、とけてねぬといふにあたれり。 夢ぞみ

じかきといふに、夜は長き意あり。 朝皃ノ巻に√とけて

ねぬねざめさびしき冬のよにむすぼゝれたる夢のみじかさ

 

 

※心あらん人に 後拾遺和歌集巻第一 春歌上
 正月ばかりに津の国に侍りける頃、
 人のもとに言ひつかはしける   能因法師
心あらむ人にみせはや津の国の難波わたりの春の景色を

 

※ とけてねぬ 源氏物語 朝顔帖 源氏
とけて寝ぬ寝覚め寂しき冬の夜に結ぼほれつる夢の短さ

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