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NOBODY KNOWS

本、漫画、映画を中心に日々読んだり観たりしたもので、ツボにはいったものの感想を書いていきたいと思います。

血脈

2011-08-14 22:06:20 | 小説
ずっと気になりつつもなかなか読む機会のなかったこの本。

大正にはじまり・昭和・平成まで続くある一族の実録的小説です。

作者は佐藤愛子。

父親は大正期の人気作家・佐藤紅緑
異母兄は詩人・サトウハチロー

とぱっと見華麗な文学一家のようですが、
内実はかなりすざまじい。

登場人物のほとんどが故人とはいえ
実名でここまで書くか・・・と。

時代的にかぶっていて、自分の一族を書いた小説としては
北杜夫の「楡家の人々」がありますが、
こちらは事実をモチーフとしつつも名前や家族構成を微妙に変えていて
フィクション部分が多いようです。
(こちらは書かれた時点で一族のほとんどが存命だったという事情もあると思いますが。)

この本、文庫本でも600ページ×3巻とかなりのボリュームなのですが、
読み始めると止まらない。

紅緑と正妻との間には4男1女
芸者さんとの間にも男の子一人(この子はのちに劇作家になります)
にもかかわらず、いい歳になってから自宅に居候していた女優に一方的に狂い、
半ば強制駆け落ち状態となり生まれたのが作者を含む1男2女(男子は早世)
正妻と離婚し、女優と入籍します。

ハチローは正妻の長男ですが、複雑な環境からか早くにグレてしまい、
10代で結婚するもうまくいかず、
運よく詩人として成功してからも女癖が悪く、
妻妾同居とか3回の結婚とか、中学生に手を出すとかもうむちゃくちゃ。
その生み出す詩の内容からは考えられない生活ぶりです。

ハチロー以外の紅緑の息子たちは、結局自力で生活できず、
その最期も戦死、原爆死、心中。

ハチローの息子たちもほとんど自活できず、
二人が野垂れ死に。
その子供たちもまた似たような定職につかない人生。

作者の愛子先生も、裕福に育ち、お嫁に行ったと思いきや2回の離婚。
(一人目は麻薬中毒、二人目は借金地獄。)
その姉も平凡な主婦だったはずなのに晩年にぷっつり。
(表面上はまともな人として人生を全うしますが)



もっと優雅な大河小説的なものと想像していましたが・・・
いい意味で裏切られました。

明るい材料などほとんどないはずなんですが
エネルギッシュな小説でした。

これが、作者の気合と筆力というものでしょうか。

読み切った後は清々しい気持ちになりました。









ミーナの行進

2011-01-01 23:04:55 | 小説
あけましておめでとうございます

今年もゆるゆるですが、楽しいものを見つけ、
または気に食わないものには文句たれたり、

思ったところを書いて残していければなあと思っています。

最近どうしても韓国ものについて書くことが多いのですが、
アメリカドラマもそれなりにチェックしているし、
本も結構読んでるんですよね。
でもなかなかブログに書きたいほどのものってなくって・・・


でも、今回は年末読んだ本が久々に面白かったのでご紹介。


小川洋子さんの「ミーナの行進」

舞台は1972年・ミュンヘンオリンピックの年
岡山在住の中学生の少女・朋子が、家の事情で1年間芦屋の伯母夫婦に預けられます。

そのお家は戦前に建てられた大きな洋館で、
ドイツ人の血をひくクォーターの従妹・ミーナが住んでいました。
彼女と朋子はすぐに仲良くなりますが、ミーナは喘息を抱えています。
この二人を中心とした家族の物語なのですが・・

物語そのものは、大きな事件があるわけでなく、
歩いて学校に行けず、車の排気ガスにも弱いためカバのポチ子に乗って学校に通うミーナ
家族を愛しているようでも、なかなか家に帰ってこないダンディーなハーフの伯父さん
誤植探しに命をかけるややアル中気味の伯母さん
いくつになっても肌の手入れを怠らないおしゃれなローザおばあさん
と若干個性的な、でも暖かい人たちに囲まれた古き良き芦屋での1年間の物語です。

そして、Y中学校、洋菓子屋A、ベーカリーのBなどは即効モデルが特定できるし、
打出図書館・芦屋川の山手商店街など
土地勘のある人間にとってはなかなかたまらない舞台設定となっています。

時々、大人になってからの朋子の回想が入るので
読んでいる間、ミーナのその後が気になっていたのですが、

後味の悪い終わり方ではなかったのでそこも良かったです。

「ミーナの行進」というタイトルの意味も最後にわかります。




阪急電車

2010-08-16 23:18:21 | 小説
最近映画化が決まり、文庫化されたこの小説。
紀伊国屋を初めとする梅田界隈の本屋はもちろん、
阪神間では阪急沿線でないちょっとした本屋でも大量平積み状態です。

阪急といっても今津線というかなりマニアックな路線が舞台。
宝塚~西宮北口間で、繰り広げられる乗降客のオムニバスドラマです。
往復になっていて、復路は往路の数ヵ月後の設定になっています。
大体同じ人たちが出てきて、往路の「その後」が復路で描かれています。

今津線は宝塚駅から今津駅まで南北に走る路線ですが、
小説にもあるとおり、ターミナル駅の西宮北口で南北に分断されています。
小説の舞台となった北側は路面を走ることが多く、閑静な住宅地ですが、
南側は駅も線路も完全に高架になっていて、メインは商工業地です。

私は主に阪神線からの乗り換えで南側を使うことが多かったのですが、
宝塚行きの北側の路線にも乗る機会は多々ありました。

そんなわけで、直接沿線の人でなくとも私のような阪神間の出身なら
つい手に取ってしまうこの本。

図書館ではじまる恋や、学生の恋など恋愛の話が多いのですが、
一番秀逸と思ったのが婚約者を寝取られて
白いドレスで披露宴に乗り込んだOLの話でした。
なんでこんなに女の心理書くのがうまいんだ?
と思っていたら、
男性と思っていた著者の有川浩さんは女性でした。

この中に出てくる孫を連れたおばあさんがいい味を出しています。
往復ともに言動が筋が通っていて格好いいんですよ。
年取ったらあんなおばあさんになりたいなあと思いました。

話によっては結構ヘビーになりがちなところが、
いい感じで救いがあって
読後感がすっきりするところがとても良かったです。

西宮北口駅の南側の風景はここ数年の再開発でずいぶん変わりましたが、
宝塚行きの北側の方は、昔とそう変わらないように思います。

今でも良い意味でローカル色を失わないあの沿線に良く似合うお話だと思いました。


夜は短し歩けよ乙女

2010-08-01 23:35:36 | 小説
最近韓流ばかりかまけているようにもみえますが、
なにげに普通の本も読んでます。

最近立て続けに読んだのは森見登美彦さんの本です。

先日ちょっと遠出をすることになり、飛行機で読もうと
空港で「夜は短し歩けよ乙女」を買いました。

それが意外と面白く、続いて「四畳半神話体系」も買って読みました。

両方とも、モテない+不器用な大学生がもんもんとする話です。
主役は違いますが、サブキャラはかぶります。
それに非現実不思議ワールドが少し加わった
青春エンターテイメントです。


大学名は出ませんが、間違いなく京大が舞台です。
主人公はいわゆる「イカキョー」(いかにも京大)と分類される類の人です。

森見さんも京都大学のご出身だそうです。

同じ京都大学出身の万城目学さんが書いた
京大生が主人公の「鴨川ホルモー」と
出てくる登場人物のテイストというか、
底に流れる何かが共通しているような気がしました。

「鴨川ホルモー」と同じく、
京都になじみのある人はより楽しめると思います

この本を読んで、
自分の大学生活を思い出したのはもちろんですが、
かの大学出身のある友人を思い出しました。

彼は一方的に美女に一目ぼれをし、
アプローチを開始しました。
彼の行動はどう贔屓目に見ても、
ことごとく迂遠かつ的外れのものだったのですが・・

普通なら「ご縁がなかった」となりそうなところ
なぜかうまくいき、結婚まで持ち込みました。

「夜は・・」の主人公は自らの周囲や自己に起こる
ハッピーエンド的な結末を「ご都合主義だ!!」
と叫びますが、
現実の彼の話も運が良かったとしか言いようがなく、
「ご都合主義的な」展開でした。


神様のいたずらかどうかはともかく、
元々縁がある人達は、どう転んでも縁があるということなんでしょうね。

軽く読めますが、色んなことを思い出させてくれた2冊の本でした。




伊豆の踊子

2008-07-08 01:47:47 | 小説
  川端康成先生の名作、「伊豆の踊子」が今年集英社文庫で大変なことになっています。

 今年「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦先生が表紙を担当されたそうですが・・・・


 どうなんだ?これ


 あっ、一応言っておきますが、私はジョジョ結構好きですよ。「少年ジャンプ」初連載時から読んでるし。

 
 でも・・・・・・これはないんじゃないかと。


 だってこの「踊子」、「で、スタンドは?」と思わず突っ込まざるをえないでしょう?


 名作の文庫版に有名漫画家による挿絵を使うことでで、若年層をねらうという作戦は昔からあったことですが、


 ちょっと今回は行き過ぎではないかと。

 
 荒木先生のファンの方は買われるのでしょうけど。



 ちなみに、わたしはわたせせいぞう先生の表紙による「門」(by夏目漱石:角川文庫)を所持しています。


 十年以上前の本ですが、当時「なんだかなあ」と思った記憶があります。
 


 しかし、今回改めて取り出してみてみると、まだましかなと少しだけ思いました(決して認めたわけではないです)



 


斜陽

2008-06-22 22:37:24 | 小説
 いわずと知れた太宰治の代表作です。久しぶりに読んでみました。

 戦後の没落貴族をモデルにした話で、「滅びの美学」などと評されているようですが、正直そんなに迫ってこなかった。

 昔(多分中学生ぐらい)もそんなに印象に残らなかった気がするのですが、この時は、まだ作品の世界が理解できなかったからだと思います。

 今回は、大人になった分作品の世界観みたいなものは伝わるのですが、共感できない・・そんな感じです。

  以前読んだことのある元華族のおばあさまの書かれた本では「この方はほんとうの華族をご存じない」「ばかばかしい」と切り捨てられていましたが、まあ私も印象としてはそちらに近いです。

 ひ弱な登場人物たちの中で、主人公の女性のみはいささかたくましくなってくるのですが、その思考過程が理解不能だし、どちらかといえば痛い、いや、かなり痛い人じゃないかと。現代人の目から見るとどうしてもそう思えるのですが・・・
 
 
 「人間失格」を読み直したときにも思ったんですけど、私も大人になって、もう太宰に心ふるえる程sensitiveではなくなったということでしょうか?

 まあそれでも別に残念だとは思いませんが(笑)

 20年位後に読んでみたら、また違った感想を持てる気がします。

 



 
  



 


 
 

RURIKO

2008-06-15 00:34:45 | 小説
本屋で平積みになってたこの小説。しかも結構売れている様子。

ハードカバーは場所をとるので、文庫になるのを待つことが多いのですが、
「満州帝国」だの、「甘粕正彦」だの、帯に出ている単語が非常に魅力的でつい買ってしまいました。(近現代史大好きなもので)

ここで、紹介文を引用します。

・・・昭和19年、満州の帝王・甘粕正彦を四歳の少女が魅了した。「彼女を女優にしてください」。のちに画家・中原淳一に見いだされ、少女は「浅丘ルリ子」としてデビューした。時は昭和30年代、銀幕にひしめく石原裕次郎、小林旭、美空ひばり、燦めくようなスターたち。少女から女性へ、めくるめく恋の日々が始まった。太陽照り映え、花咲きほこる銀幕の裏側、スターたちの舞台は終わらない!自分を生きた女優の半生、一大ロマン小説。
 

 期待していた満州の場面はそう長く続かないのですが、メインとなる戦後の映画全盛期の空気とか、熱気なんかは非常に良く描かれているなあと思いました。

 そして、出てくるスターは基本的に実名。

 浅丘ルリ子さんの許可は当然取っているのだろうけど、良く書かせたなあと・・

 浅丘ルリ子と小林旭が婚約寸前だったとはは知りませんでした。
 彼が美空ひばりと結婚していたのは知っていましたが。
 
 私たちの世代だとリアル小林旭は「トラクターのおじさん」なんですよね・・

 裕次郎は物心ついたときは既に「太陽にほえろ」の中年課長だったわけで・・

 浅丘ルリ子さんの若かりし頃は、表紙を見てびっくりです。
 
 確かにあれは周囲がほうっておくはずないわ・・・

 小説なので個々のエピソードや心理描写などは、虚構もあるだろうけど、石原裕次郎も美空ひばりも小林旭も、作品から受けるイメージは、今まで自分の中に構築していた人物像とそう大差ない感じでした。

 作者の林真理子さんはその時代への憧憬もこめているのか、どの人物もかなり好意的に書いている気がします。まあご存命の方が大半だし、故人でも近い遺族がまだいるわけだから、そのあたりの配慮はあるんでしょうね。

 前にも書きましたが、この人の本は現代よりは戦前もの、全く架空の小説より伝記など実際にいた人を書いたものの方が圧倒的におもしろいです。

 定価1500円分は十分堪能できました。

 

冷血

2007-12-31 17:56:58 | 小説
 あれよあれよという間に大晦日になってしまいました。

 本当に年を取るごとに一年は早く過ぎていきますね。

 今年最後なので、明るい感想でもと思っていたのですが、ほぼ10年ぶりに読んでみたこの本の印象が強烈で、ほかの映画とか本とか吹き飛んでしまいました。

 発端は元々もっと明るい映画を借りて来たところ、フィリップ・シーモア・ホフマン主演の「カポーティ」の予告が入っていました。彼がこれでアカデミー主演男優賞を取ったのは知っていたので、見てみようかなと・・
 
 この映画は、「冷血」を書いたときのカポーティを描いているとの事なので、映画を見る前に読み直してみようかなと本棚の隅から引っ張り出してきました。
 
 トルーマン・カポーティは「ティファニーで朝食を」などで知られる、既に有名な小説家だったのですが、実際にアメリカ中西部の農村地帯で起こった一家惨殺事件を扱ったそれまでの作風と全く異なったこのドキュメンタリー・ノベルにより名声を決定づけます。

 しかし、あまりに渾身の一作であったためか、彼はこの作品以降生涯作品を完成させること無く世を去ります。このあたりの葛藤は映画に詳しく、まさに人生をかけた一作だったといえます。
 
 十数年前読んだ時は、ただただ暗く陰惨だったという印象しかなかったのですが、今読み直してみるとすごいです。

 事件の起こった地域の土地柄、被害にあった一家のそれぞれの人物像、捜査に当たる捜査官、捜査の進展、そして犯人二人の背景、二人の出会い、犯行、逃走、逮捕、収監、裁判、処刑・・・映像を見ているような詳細な描写で進行していきます。淡々と。それが却って怖い。
 
 この本の一つの山は、犯人の自白という形を取って強盗に入ってから一家惨殺にいたるまでのその心理描写が克明に描かれているところにあります。(映画によるとここはカポーティがもっとも拘っていた部分でもあります。)

 不謹慎な言い方になりますが、凶悪事件が起こるたびに報道などで「なぜ?」「動機は」などと話題になりますが、人が人を殺してしまう理由など、本当のところは本人以外にはわからず、もしかすると本人にもわからない事があるんじゃないかと思いました。

 最近新訳版が出て賛否両論の様ですが、私の持っている本は旧翻訳版なので、多少言葉が古いかなと思うところもまああります。ただ、1959年前後のアメリカ中西部という時代背景などを考えると古い言葉の方があっているような気がします。(新訳がどの程度変わっているか読んでいないので比較は出来ないのですが)

 ちなみに映画「カポーティ」ですが、完全にアメリカ人、しかも知識人向けな感じですね。おそらく普通の日本人(おそらくアメリカ人でも)には「冷血」を読んだ人か、またはカポーテイについて予備知識がある人でないと意味がわからない部分が多いのではないかと思います。本を読み直しておいて良かったと思いました。


 映画は「冷血」を読んだ人には是非お薦めします。でもレンタル屋には数少ないです。私がいった所ではミニシアター扱いでした。(私は自分で見つけることはできなくて、お店のお兄さんに聞いてみたらPCで在庫を確認した後、やっとこさという感じで探し出してきてくれました)

 

 新年一回目は明るい話で行きます(^^)皆様良いお年を。

スタイシッシュ・キッズ

2007-04-22 02:25:13 | 小説
 作家の鷺沢萠さんが亡くなられて3年がたちます。

 私は彼女の作品がとても好きだったので、亡くなられた時はとてもショックを受けました。
 彼女の小説やエッセイを読んでいると、とても感受性の強い人だということ、またおそらくそのビジュアルや若さに似合わず壮絶な人生を歩んでいたのだろうということがうかがい知れます。ただそれを昇華し、作品にする才能に彼女は恵まれていました。

 そんな鷺沢さんの作品の中で一番好きなのは「スタイリッシュ・キッズ」その名の通り、経済的に恵まれたおしゃれな大学生カップル、久志と理恵の出会いから別れまでの二年間の話です。

 舞台は1987年から89年。ちょうど、鷺沢さんと同年代で、冒頭に贈り名があるので、おそらくモデルがいると思われます。

 私よりは少し上の世代なのですが、近い世代なのでその時代の空気感やファッション、風俗などは似ているかなという気がします。携帯も無く、相手の自宅に電話をかけていた時代・・・
 特に私は東京で大学生活を過ごしていたので余計に懐かしく思えるのかも知れません。(このカップルみたいにおしゃれなクリスマスデートとかはなかったし彼氏も外車には乗っていなかったけど。)

 そして、理恵の言う台詞「あたし、本当に年齢取りたくない・・」
これはまさに私が大学時代に心の底で思っていたことです。単に老けたくないというのではなく、完全な大人になるのが怖いというか・・まあそれはいつまでも無責任でいたいという甘えに過ぎないのですが・・当時、いつまでもぬくぬくしていたいと思っていたのは事実です。
 まあ就職活動で厳しい現実に直面して、そんな考えはいつのまにかいつどこかに行ってしまいましたが・・。ただ、このあたりで、自立したいという気持ちは自然に出てきた気がします。

 
 結局理恵は格好よかった自分たちの思い出を守るために「大人になり始めた」久志と別れることを決意するわけですが、このあたりはちょっとわかるような、でもやっぱりわからない・・・
 思い出は思い出で大事にするべきだけど、それに拘泥するのは年寄りになってからで充分。20代や30代でそんなことを言ってるとろくな生き方ができないと思うのですが。今の私はそう思います。

 でも、私が当時、久志みたいな子と付き合ってたら絶対別れなかったな。


 

 東京がらみで学生時代を思い出す小説といえばもう一つ「冷静と情熱のあいだ」。
 辻仁成と江国香織のダブル小説。映画にもなりましたね。竹之内豊主演で。

 この小説を読んで、30前の私は30才の誕生日に何か誰かと約束しておけばよかったと死ぬほど後悔しました・・30才の誕生日直前期って、年そのものははそんなに気にならなかったけど、その時分、あらゆることで非常に微妙な日々を過ごしていたもので。フィレンツェとまではいかなくても、そういうイベントがあればもっと何かを突き抜けたのにと・・・馬鹿ですね。

 

 

 

手紙

2006-11-21 00:22:45 | 小説
 電車で読む本を探していた時に、本屋さんでこの本が大量に平積みされていました。ちょうど映画化されてるんですね。東野圭吾さんの本は機会があれば読んでみたかったので買ってみました。
 
 いや、もう一気に読み上げました。
 
 しかし・・重い・・読後感爽やかというわけにはいきませんでした。犯罪加害者の家族という重いテーマなので当然なんですが。

 弟を大学に行かせたいがために強盗殺人を犯した兄、前に進もうと努力しながらも、兄の存在に人生を翻弄される弟。そして定期的に送られてくる兄からの手紙が人生の節目節目に弟につきまとう。また手紙の内容の他愛なさが弟の怒りを倍増させるわけです。

 今では、犯罪の被害者の人権については少しずつ考えられるようになりました。でも、加害者の家族も二次被害の犠牲者となりうること、これも忘れられがちな現実なんですよね。

 それで思い出したのは十数年前の幼女連続殺人事件で、父親は職を失い、兄弟の縁談は破談になり、一家は長年住んでいた土地から出ていかざるを得なくなったという話でした。

 犯罪者は被害者の人生を狂わせるだけでなく、自らの家族や周囲の人の人生も狂わせてしまいます。
 確かに、事件の性質によっては親はそのような子供を社会に送り出した責任は多少なりともあるかもしれないし、また配偶者であったら選択の責任がないこともないかもしれない。
だけど、兄弟や子供なんかにとっては、降って沸いた災難以外の何物でもないし、大多数の親や配偶者にとってもそうだと思う。

 普通の人だったらそんなこと百も承知で、加害者の家族を差別なんかしてはいけないと思っている。だけどかえって気をつかって逆差別になってしまう。そしてできることなら関わりたくないと願う。

 多分私もそうなるだろうなと思います。

「犯罪者は自分の罪がそういう状況を引き起こしたことも含めて、一生償わなければならない。」
「だから犯罪者が犯罪を起こそうと思わないように君たちは差別されなければならない。」という主人公の勤める会社の社長の言葉は冷たいとも思うのだけど妙に納得しました。(でもこの社長は主人公に現実的かつある意味愛情のこもったアドバイスをする物語の中のキーマンとなります。)

 
 世の中には表があれば裏もあり、光があれば必ず影もあるわけで、そのあたりどう折り合いをつけていくかは本当に難しい。人を傷つけないために建前を通すしかない場合もあるんだけど、かえって逆に相手を傷つける結果になったりとか。だからって本音ばかりじゃ身も蓋もない場合だってるし。。
そんなこんなで色々な事をこの本で改めて考えさせれました。