3月16日の日本民話
生まれ変わった赤ちゃん
和歌山県の民話→ 和歌山県情報
むかしむかし、那賀郡田中村(→今の和歌山市)というところに、赤尾長者と呼ばれる長者がいました。
長者には長いあいだ子どもがいませんでしたが、ようやく玉の様な男の子が生まれました。
長者は子どもに万年も生きてくれる様にと願いを込めて、亀千代(かめちよ)と言う名前をつけると、子どもを毎日はかりにかけて、体重が少しずつ増えるのを楽しみにしていました。
ところがある日の事、長者が体重を測ろうとしたとたん、はかりのひもがぷっつりと切れて、亀干代は地面に頭をぶつけて死んでしまったのです。
長者夫婦は、一晩中泣き続けました。
そしてふと、死んだ子の手のひらに名前を書いておけば、生まれ変わったところがわかるという言い伝えを思い出したのです。
長者はさっそく筆をとると、亀干代の左の小さな手のひらに、
《赤尾長三郎の一子、亀干代》
と、書きつけ、
「いいか、亀干代。いつまでも待っているから、必ず生まれ変わって来いよ」
と、何度も言い聞かせてから、小さなお棺のふたを閉じました。
それから数年後のある日、小さな赤ちゃんをおぶった若い夫婦が、赤尾長者を訪ねて来ました。
長者夫婦がその赤ちゃんを見てみると、何と左の手のひらに《赤尾長三郎の一子、亀干代》と書きしるした文字が、はっきりと現われていたのです。
おどろく長者夫婦に、若夫婦が言いました。
「手のひらの文字を不思議に思い、お寺の和尚さんに相談したところ、『この子は、赤尾長者の子の生まれ変わり。この文字はどんなに洗っても決して消えないが、以前に生まれた家の井戸の水で洗えば消える』と、言われました。そこで、お水をいただきにまいりました」
長者夫婦は赤ちゃんを抱きしめると、涙を流して頼みました。
「一生のお願いや。この赤ちゃんを、わしらにくださらんか。お礼なら、なんぼでもしますから。何なら、この屋敷を差し上げても良い」
若夫婦は、長者夫婦の涙にもらい泣きしながらも、きっぱりと断りました。
「お気持ちはわかります。ですがこの子は、わたしたち夫婦の宝物なのです」
「・・・わかりました。もう一度我が子を抱けただけでも、本望です」
長者夫婦はあきらめると、若夫婦に井戸の水を差し出しました。
若夫婦がその水で赤ちゃんの手のひらを洗うと、文字はみるみる消えたということです。
おしまい
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