翡翠色 オパール色 風の声

おひとりさまの人生 感じて 考えて 味わって(?)
草花とメダカに癒され生きています

魂の舞い降りる場所

2009-05-13 | 旅、風の声に誘われて
ゴールデンウィーク、皆様、いかがお過ごしだったでしょうか?

私は、具合が思わしくない叔母のお見舞いに、知り合いのNさんを連れて、
九州へと旅をしておりました。
ただ、「見舞いに来た」と言うと、叔母は自分の病気の重さを気に病むと思い、
同県内に暮らす母の幼なじみT子さん宅に遊びに行きがてら、病院に立ち寄った、という事にしました。

少し、背景をお話ししますと、入院中の叔母も、一緒に行ったNさんも、幼なじみT子さんも、
かつて、私の実家に、家族の如く生活をしていた事があり、皆、身内のような存在であります。

                 

思えば3年前の5月、母は癌の痛みと闘っておりました。
弱音を吐かない母が、唯一、心を許して甘えられたのではないかと思える人がT子さんでした。
彼女は、懐が広いというか、包容力に溢れた、よーく出来たお方です。

入院10日目には、余命宣告を受け、その後、九州からお見舞いに来て下さったT子さんに、
母は懇願したそうです。

    「あなたの家の庭に、木を植えて欲しい、花の咲く木を」と。

そして九州に戻ったT子さんは、庭の一番真ん中に辛夷(こぶし)の木を植えて下さったのでした。

 真ん中で手を広げているのが辛夷


その後、間もなく母は亡くなり、その1年半後の秋、私はT子さん宅を訪れ、
どうして母が、この地に木を植えて欲しい、と言ったのかが、判りました。

そこは、手入れされた庭の向こうに畑が広がり、その中に、ぽつりぽつりと鎮守の森があり、
それらを抱くように、里山のやわらかな稜線が続く・・・

それは、それは、気持ちのいい場所でありました。

母の故郷にほど近く、何より自分を一番忘れて欲しくないT子さんの所に、
自らの魂が舞い降りる場所を作っておきたかったのだと思いました。

早春には、白い花が咲いたそうです。

                 


今回、T子さん宅では、みごとに鉄線が満開。

遠くの家の鯉のぼりが時折空を泳ぎ、鳥達のさえずりは楽しげで、
入れ替わり立ち代わり、色々な種類の蝶がやってきては、「母の木」のまわりを舞っていました。

母が魂の拠り所にしたかった場所は、私にとっても魂を解放してくれる場所となりました。

 鉄線はこの上の方へも蔓を伸ばしていました





さて、滞在中、近所の観音様に連れて行ってあげると、T子さんが提案してくれました。
前回、秋に訪れた時、鎮守の森の神社でお神楽の奉納をしており、
それを目の当たりにした私が、いたく感激したのを覚えていてくれて、
きっと気に入るだろう・・という事でした。

  

畑の中に、こんもりと森が見え、小川を越えると、すうーっと静謐な空気感になりました。
ここは千手観音堂という所ですが、残念ながら、千手観音様は限られた御開帳の日にしか拝めません。

でも、八手観音様は、慈悲深いお顔で迎えてくれました。



観音様の背後の岩からは清水が湧き、地元の人がポリタンクを持って、汲みに来ていました。
何でも、ここの水でご飯を焚くと、お乳の出がよくなる、と言う「言われ」があるそうです。
もちろん、手を差し出し、飲んでみました。くせのない柔らかい清水。



そこ、ここ、写真を撮っていると、何やら、向こうの方でT子さんが、叫んでいます。
そして、脇に目をやると・・・

  どひゃ!!

千手観音様に、言われちゃ、気をつけないわけにいきませんよね。
慌てて、足元を見回し、水場から離れたのでした。

また、来よう、何度でも来よう、「母の木」に会いに・・・そう思いながら、T子さん宅を後に、
また叔母の病院に向かったのでした。


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11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
コメント、いつも、ありがとうこざいます (翠のお返事)
2009-05-19 16:17:44
 くーちゃん、こんにちは。

まだ小さな辛夷の木に咲いた花は、はかなげで、
華奢だった母のようだったと、T子さんが言っていました。
なぜ辛夷を選んだのかはわからないのですが、
きっとそれすらも母の思いが、T子さんを通じて、苗木を選ばせたのだと思えてなりません。


 Rurikoさん、こんにちは。

お母様の事、Rurikoさんの心中、お察しいたします。
代わってあげられない母の苦しさや恐怖心、
せめて自分にできる事はなんだろうかという事ばかりを考え、病院に日参していました。

生前、母が望郷の思いを口にした事はなかったのですが、
改めて考えると、いつも、遥かな故郷の楽しい思い出を
胸に秘めていたのだと思いました。
いつも潔くドライな母でしたが、娘の知らない面が沢山あった事、亡くなってから知った次第です。


 スズさん、こんにちは。

鉄線の西洋種はクレマチスという名で、その方が一般的かも知れませんね。
まさに鉄線のように蔓がのびるんですよ。
水盤に浮かべるように生けると、とても素敵です。

トトロに出てきそうな場所・・そうかも知れませんね。
ちなみにトイレは、トトロ並でした。
久々に出会い、ちよっと緊張しました。


 るちぃるさん、こんにちは。

母の仕事の関係で、私には「育ての母」のような存在の人が沢山いまして、
なにかと気にかけて頂いて、有り難い限りです。
皆、70代ですが、この人達が居なくなったら、どれほど寂しいだろうと考えると、
時にたまらなくなります。

また逢えるかどうか判らない叔母を見舞う切ない旅でしたが、
T子さん宅に滞在して、心を緩めて、随分リフレッシュできました。
旅は、やはりいいです。


 げっくん、こんにちは。

自然の中にいると、自分がどんな存在なのか、気付かせてくれるように思います。

このT子さん宅からの眺めは、どこにでもありそうな田園風景なのですが、
これまで出合った事がない、不思議な感動を覚える場所なんです。
私以外にも、皆そう言うので、何かいい「気」があるのではないかとか、思ったりします。
多分、人間の営みが自然の中にとけ込んでいる感じが、
心の底に眠っている何かを呼び覚ますのではないでしょうか。

えーっと、飛行機の上から、手を振ったけど、見えた?


 やくさん、こんにちは。

日々の生活の中で、ふと呼吸する事を忘れているような気がするんですよね。
気付くと、息を詰めていて。

この時、実は寒くて、T子さんのキルティングの半纏を借りており、
温泉にゆであがる程、浸かってあったまりました。
いいですよ、九州。食べ物もおいしいし!


 原村さん、こんにちは。

40過ぎて、やっと先々の人生を見つめるようになってきました。
親は、死をもって、子供に最後の教育をすると言いますが、
生前は、まったく教育熱心ではなかったのに、今頃、あれこれ教えられています。


 soraさん、こんにちは。

こういう場所にお住まいの伯母さまがいる事、それはいいですね。
都会育ちのヤワな考えですが、田舎暮らしに憧れています。
DASH村、好きで時々みますが、自然が豊かだと、人間の知恵でいろんなことができるのだと、
いつも感心して見ています。


 pekoさん、こんにちは。

母は、少しばかり傍若無人なところがあった人なので、賑やかし的な友人は沢山いても、
自分を無条件に好いてくれて、また素の自分をさらけ出せる友人は、
T子さん位しかいなかったのではないかと、思わないでもありません。
でも、そんな友人と巡りあえた母は、幸せだったと思います。

余命という言葉がちらつく方への御見舞は難しいですね。
母の時を思うと、どうでもいい話で、ひと時でも病気の事から、
気を紛らわしてあげる、というのがいいような気がしています。


 radgeneさん、こんにちは。

花の咲く木を植えて欲しいという話を聞いたのは、
母の葬儀の時のT子さんの弔辞ででした。
あまりいい表現ではありませんが、母は自己顕示がとても強かったので、
亡き後も、みんなに覚えていて欲しかったのは、間違いないと思っています。
でも、きっと、誰もがそう思う事ですよね。

木の生長は、植えた時との対比で、時の流れを感じさせてくれますね。
すくすくと伸びて欲しいという、弟さんへの願いが込められた木なのでしようね。

辛夷の花の気迫・・・大きさもあるし、花弁が上に向かうからかしら?
次にT子さんに会ったら、辛夷を選んだ理由を聞いてみようと思っています。
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私を忘れないで (radgene)
2009-05-15 19:00:34
魂が時たま降りてくるとしたら、やっぱり自分の愛する場所に降りたいものです。
そこに、自分の木と、自分が好きな人がいれば尚良し。
お母様、よくよく考えられましたね。
しかも、木を見る人がいる限り、自分は忘れられる事がない。

実家にも、白い辛夷の木があります。
弟の記念植樹です。
どんどん大きくなってしまうので、年老いた両親の変わりに、
時々弟がやってきて、枝を落とします。

辛夷って、桜などと比べると気迫を感じる木なのですが…
T子さんは何故辛夷にしたのかしら?

返信する
Unknown (peko)
2009-05-15 07:01:48
お母様、心を許せる方がそばにいらしてよかったですね。
T子さんのお庭、素晴らしい景色☆
お母様もこの景色を毎日眺めてられるのかな。
これからもずっとお母様の木を見守り、そして見守られていかれるのね
叔母さまも翠さんたちに会えて嬉しかったことでしょう。
叔母さまの気持ちを考えて、ついでに寄ったことにする翠さんの気遣い
私も見習おう! 
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じ~ん。 (sora)
2009-05-14 22:48:21
いいお話ですね。
じ~んと来ちゃいました。
スタレビの♪木蓮の涙、思い出しました。

風景もすてき!私の伯母夫婦の家の近くの様子に似ています。
“DASH村”みたいな山村に住んでるんですよ。
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鎮魂 (原村)
2009-05-14 22:29:29
こんばんは、翠さん。

今回も、読んで魂と言うか心が揺り動かされました。
心に染み渡る文章でした。

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ええ話や・・・ (やく)
2009-05-14 18:50:57
九州の温かい空気と日差しが写真から伝わってきます。
本当に、ふう~っと息を吐きましたよ。

行きたくなったなあ、久し振りに。
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いつの間にか (げっくん)
2009-05-14 11:53:35
バタバタと仕事して町中に住んでいると
こうして自然に癒されますよね。
自然の中で緑や小川や風に囲まれて
人間なんてなんて小さいんだろう…。
生命って何だろう…。
と考えたりします。

大切な人の家の庭に自分の木を植える。
素敵な繋がりだと思いました。
木の幹に耳を当てて木の声を聞きました?
懐かしい声が聞こえるかもしれませんよ♪

・・・・・・

GWに九州と言う事は
ウチらの上空を飛んだんですかね?
グランドの私が見えましたか?w
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魂の拠り所。。 (るちぃる)
2009-05-14 11:06:43
何とも穏やかな良いお話で、
久々に心が洗われた様な気持ちになりました。。

日本の何処かに、魂の拠り所となる場所がある。。
忙しい日々の中にでも、心はすぐにでもそこへ飛んで行けそうですね。
お母様と、翠さん、身内の様に生活をされていた皆さんと、
ご縁、絆が強いんですね。。素敵だなぁ。

叔母さまのお見舞いもありましたが、
翠さんの心にとっても、素晴らしいゴールデンウィークでしたね。

以上、同族の仲間入りを果たしました、るちぃるでした(笑)
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Unknown (スズ)
2009-05-14 09:30:01
ステキな風景とお話にすっと引き込まれました。

私も先日「鉄線」という花の名前と存在を初めて知りました。気をつけて見てると結構あちこちに咲いているんですね。

なんだかトトロでも出てきそうな場所ですね~

朝から気持ちよく仕事ができそうです(笑)
返信する
Ruriko (母の木)
2009-05-14 09:18:05
母の木・・
いいですね~
ちょっぴり遠い所がなんとも言えなく・・

観音様もひんやり漂う空気の中で温かさが感じられるようです。

私の実母も癌と戦って数年になりますが、
学ぶ事がとても大きい気がします。

又・・遊びに来ますね~
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Unknown (くーちゃん)
2009-05-13 23:45:53
なんてステキなお話しでしょう。
心がジ~ンとしてきました。
こぶしの花をTさんの家のお庭に植える、その意味を知ると心がウルッってなりました。
こぶしの木はお母様のメッセージがつまった木ですね。
満開の花が咲いた木を見ながらお母さまの話しをしてるTさんや翠さんの姿を見てきっと満足していることでしょうね。
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