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月と蛇と縄文人

2015-02-25 10:53:42 | 書評:日本人と日本文化
◆『月と蛇と縄文人―シンボリズムとレトリックで読み解く神話的世界観

刊行されて間もない新鮮な論考。著者・大島直行氏は考古学者であるが、物質的・技術的研究しかしない従来の考古学の枠を飛び出して、縄文人の精神性に迫ろうとする。彼が取り入れた手法は、ユング心理学の「普遍的無意識と原型(グレートマザー)」、宗教学の「イメージとシンボル」、そして修辞学の「レトリック」などである。これら人文科学の成果を取り入れながら「神話的思考に基づく縄文世界」に分け入る試みが本書である。

著者はドイツ人の日本学者ナウマンにならって縄文人の象徴の中核に月があるという。縄文人にとって、満ち欠けを繰り返す月は幾多の死を超えてよみがえる再生の象徴であり、畏敬の対象だった。さらに脱皮を重ねる蛇も、土偶の身ごもる女性も「死と再生」の象徴であった。身ごもりが月からもたらされる「水」(精液)によることを世界中の神話が伝えている。日本の土偶にも「月の水」が涙や鼻水やよだれとして表現されているという。著者は、こうしたシンボリズムをさらに広げて、縄文土器や竪穴式住居やストーンサークルなど多くの遺物の特徴は、縄文人が「不死」「再生」への願いを表現したものとして説明できる主張する。

縄文人の円形の住居や墓、ストーンサークル、さらに貝塚も子宮のシンボライズであった。子宮は、縄文人にとっても、自分が生まれた場所であり、死から甦る再生の場所でもあった。また子宮をもつ女性の生理は、月の運行周期と同じであり、その月もまた「死と再生」を象徴していた。母なる子宮を象徴とする「死と再生」は、ユングのいうグレートマザーという元型と深く結びついており、それは人類の古層の記憶、普遍的無意識につらなるという。

縄文の遺物を、月・蛇・子宮などのシンボリズムで読み解く試みは従来の考古学にとってはかなり挑戦的だろう。しかしこれもまたこれまでなされてきた解釈のうちの一つであり、飛び抜けて説得力があるとは思えなかった。私にとっては、縄文文化を母性原理との関連でとらえるうえで、大いに参考になったのは確かだが。ひとつだけ気になるのは、縄文人の信仰を「死と再生」の観点だけからとらえるのは一面的ではないかということ。縄文人が豊かな恵みをもたらす母なる大地によって生かされ、それに感謝したという信仰の側面を無視することはできないのではないかということだ。


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