「満足のいく生活」
矛盾をはらんだ次の状況について考えてみてください。
ある先進国において,90%以上の人は,たいへん幸せ,あるいはまあまあ幸せと感じています。
ところが,その国で最も広く使われている10種類の薬のうち3種類は,うつ病に対して処方される薬です。
その同じ国において,91%の人は自分の家族生活は満足のいくものであると考えています。
しかしその国では,結婚の半数近くが離婚に終わっています。
実のところ,世界人口のおよそ半分に当たる18か国の人を対象にした調査によれば,
「将来に対する悲観的な見方が世界の多くの地域に広がっているよう」です。
ですから,じゅうぶん満足のいく生活を送っていない人が多いということは明らかです。
あなたはどう思われますか。
「満足のいく生活 ― 単なる夢物語?」
1 先進国で,あらゆる高級品の備わった住宅を見れば,さぞかし快適で豊かな暮らしをしているように思えるでしょう。
でも,家の中に入ると,どんな様子でしょうか。ぎすぎすした,重苦しい雰囲気かもしれません。
十代の子どもたちは親に,「うん」とか,「べつに」とか,いかにも不機嫌そうに答えるだけです。母親は,父親に何とか注意を向けてほしいと気をもんでいます。
父親のほうは,ただ煩わされたくないと思っています。
この夫婦の年老いた親たちは,自分たちだけで別の場所に住んでおり,家族みんなとの団らんの時を心待ちにしていますが,
息子や娘の家族とは何か月も会っていません。他方,同じようなストレスを経験していても,自分たちの問題を解決することができ,
本当に幸せに暮らしている家族もあります。
これはなぜだと思われますか。
2 世界の別の場所に目を向け,発展途上国に住む一家族について考えてみましょう。7人家族全員が今にも壊れそうな小屋で暮らしています。
次の食事のための食料がいつ手に入るのかは分かりません。人間は飢えや貧困を世界から一掃できないでいる,という悲しい現実を思い起こさせます。
それでも,明るい気持ちで貧困に立ち向かっている家族も世界には少なくありません。
これはなぜでしょうか。
3 裕福な国にいても,経済的な問題は生じます。日本のある家族は,バブル経済の絶頂期に家を購入しました。
将来の増収を見込んで,大型のローンを組みました。
ところが,バブルがはじけると,ローンの返済ができなくなり,購入した時よりもずっと安い値段で家を手離さねばなりませんでした。
家族はもうその家に住んでいないのに,今も借金の返済を続けています。しかも,クレジットカードを使いすぎて支払いに苦労し,その家族の負担はさらに大きくなります。
父親は競馬にお金をつぎ込み,家族はますます借金の泥沼にはまっていきます。
しかし一方では,自分たちの生活を見直し,結果として幸福に暮らせるようになった家族も多くあります。
どのようにしたのか知りたいと思われますか。
4 どこに住んでいても,人間関係は悩みの種となることがあり,そのために生活は満たされないものとなりがちです。
職場では,陰口の的とされるかもしれず,成績を上げたためにねたまれて不当な非難を受けることもあります。
いつも接する人の高圧的な態度のため,いらだちを覚えることもあります。学校では,子どもたちはいじめに遭い,嫌がらせを受け,仲間はずれにされるかもしれません。
ひとり親の人であれば,その立場ゆえに他の人との関係で難しさを感じることもあるでしょう。
今日,そのような問題のすべてが,多くの人の生活にストレスを増し加えています。
5 ストレスの影響は知らぬ間に蓄積され,やがて予告もなく限界に達することがあります。
そのため,ストレスは忍び寄る殺し屋と呼ばれ,慢性的なストレスはじわじわと体を冒す毒とみなされてきました。
「今日,ストレスやそれに起因する病気は世界のほとんどの場所で,働く人々に強い影響を及ぼしている」と,ミネソタ大学のロバート・L・ベニンガ博士は述べています。
ストレスに関連した病気で米国経済には毎年2,000億㌦の損失が生じている,と言われています。
ストレスはアメリカの最新の輸出品とさえ呼ばれ,英語から来た“ストレス”という語は世界の主要な言語の多くで使われています。
ストレスを感じながら,予定していたことが終わらないと,自責の念に駆られるかもしれません。最近の調査によると,平均的な人で1日に2時間ほど自責の念を抱くということです。
それでも,ストレスにうまく対処し,充実した生活を送っている人たちもいます。
6 どうすれば,日々直面するそのような問題に対処し,満足のいく生活を送ることができるでしょうか。
ある人たちは,専門家の書いた自己啓発の本や各種の手引き書を参考にします。そのような本は信頼の置けるものでしょうか。
ベンジャミン・スポック博士が著わした育児書は42か国語に翻訳され,5,000万部近く発行されてきました。
同博士はかつて,「き然とした態度が取れないことは……今日のアメリカの親たちが抱える共通の問題である」と語りました。
また,そのおもな責任は自分を含め専門家にあると述べ,「何でも知っているというわたしたちの態度が,親たちの自信を失わせていることに気づかなかったし,
気づくのも遅すぎた」と認めました。
では,『今も将来も満足のいく生活を送るため安心して従うことができるのは,だれのアドバイスだろう』と思われることでしょう。